青空に乾杯♪


☆★ <<第60話>> で、出た〜〜!!! ★☆


 「きゃあ〜っ!」
魔窟ももうずいぶん奥へと進んでいた。その一角で彼らは巨大なデーモンと戦っていた。もうどのくらいその戦闘は続いていただろう。デーモンの巣窟かと思われるほど次から次ぎに新手が出てきていた。
そんなとき、中でも一段と巨大なデーモンがミルフィアをその片腕を掴んで高く持ち上げた。
目の前でデーモンの巨大な口が開く。その大きく鋭い歯と唾液をしたたらせ、自分を包み込み、飲み込もうとする真っ赤な舌が顔に近づいてくる。
「ああっ・・・・」
思わずミルフィアはもうダメかと目を固く瞑る。
「くっそーーー!」
「お嬢ちゃん!」
「ミルフィアー!」
「じ、嬢ちゃん!」
群がってくる魔物があまりにも多かった。いつの間にかミルフィアの傍から離れてしまっていたことを後悔しつつ、彼らはミルフィアを失うかもしれないという恐怖と焦りの中、必死になって戦っていた。
「フィー!!・・・・」
身体を見つける事ができなかった事に対するわびなのか、ミルフィーへの助けを求める叫びなのか・・・おそらくその両方だったのだろう、ミルフィアはデーモンの手が、ぐっと自分をその口へ近づけるのを感じ、ミルフィーを呼ぶ叫びを残して気を失った。



−ズバ!−
それとほぼ同時だった。
−ズン!−
ミルフィアを掴んでいた腕は、一刀両断、物の見事に切り落とされていた。
「え?」
「な?」
何か光のようなものがものすごいスピードで走ったような気がしたレオンとレイミアスは目を見張る。
「ぐぎゃあああああ!」
腕を寸断された痛みで、デーモンはますます凶暴化する。
「悪い、そりゃ痛いよな。」
−ズバ!!−
そう呟きながらデーモンにとどめを刺した人影は、間違いなくミルフィーだった。
「で、出た・・・・?」
「ミ、ミルフィー?・・・・」
「な〜にぼさっとしてんだよ?まったくおちおち寝てもいられないだろ?」
形成一転、レオンもレイミアスも、元気満タン、余裕綽々のミルフィーのその笑顔で、すでに尽きたと思われた力が戻る。
「じゃー、さっさと寝れるようにしてやろうじゃないか?」
売り言葉に買い言葉、いつものレオンの憎まれ口がでる。
「言うだけなら簡単ってもんさ。」
剣を振るい、次々とデーモンを倒しながらミルフィーが叫ぶ。
「なにを言ってやがる!これが言うだけだってのか?」
デーモンも一呑みしそうなほど巨大なサラマンダーが1匹また1匹とレオンの横で増殖しつつあった。
「ったく・・・出し惜しみしやがって!」
その様子を見、ほっとしたような表情を見せながら、ミルフィーの姿はふっとその場から消えた。
「あ!お、おい!」
焦ったものの、今は目の前のデーモンを倒す方が先決。レオンは気力をしぼってサラマンダーをデーモンに向けて放った。



「み、見えたよな?」
「え、ええ・・・確かにミルフィーでしたよね。」
必死の思いでデーモンを一掃した彼らは、ミルフィアを気遣いながら一息ついていた。
「出てきたんだよな・・・ってことは、幽霊か?」
「あ、あはは・・そ、そうなるんでしょうね。ぼくの村でも多分そうだったんだろうし。本人は幽霊と言われるのを嫌がってましたけど。」
「そ、そうだよな・・・・・」
思わずまだ気づいていないミルフィアの胸にかかっているペンダントを見る。

「う・・うん・・・」
「ミルフィア!」
「ミルフィア、大丈夫ですか?」
「え、ええ・・・・・」
ゆっくりと答えながらミルフィアは周囲を見渡した。そして、デーモンの死骸の中に自分を掴んだであろう腕を見つける。
「あ・・・わたし・・・・・」
そしてそのときのことを思い出す。
「ごめんなさい、わたしまた足を引っ張ってしまったみたいで。」
「気にすんなって、みんな無事なんだからさ。」
「レオン・・・レイム・・・。」
2人と目を合わせ、ミルフィアは少し弱よわしく微笑むと急にはっとしたように今一度周囲を見回す。
「カルロスは?」
最初見渡したとき、自分を掴んでいた腕の切り口から、それは剣で切られたものだと判断したミルフィアの心に、思わず悪い予感が走る。自分の代わりにもしかしてカルロスがデーモンに殺されたのではないか?と。思わずカルロスの姿を探す。
「俺ならここだぜ、お嬢ちゃん。」
危険が残ってないか周囲を確かめていたカルロスが、デーモンの死骸の影から姿を現す。
「カルロス・・・」
「お嬢ちゃんこそ大丈夫だったか?・・すまん、守ると言っておきながらあんな目に合わせてしまって。」
自分を見てほっとした表情をするミルフィアに、カルロスはつい嬉しくなる。
「ううん。あの場合仕方ないし、わたしこそ・・・。」
「気にするな。お嬢ちゃんが無事ならそれでいい。」
「カルロス。」
いかにも嬉しそうな笑顔のカルロス。その後ろから、老婆が水筒を持って近づいてくる。
「嬢ちゃん、のど渇いたぢゃろ?ほれ。」
「あ、ありがとう、おばーさん。」


「しかしすごかったな、あの技は。」
「ん?」
2人のところへ歩み寄るとカルロスは真剣な眼差しで話かける。
「『真空切り』とでも言うのか?あんな魔法見たことないぞ。」
カルロスは感心したようにレオンを見た。
「は?」
「ん?違うのか?じゃー、あんたか?そういえば、光が走ったように感じたが・・・」
ひょっとしたらあの光は聖龍の?そう思ったカルロスはレイミアスに視線を移す。
「・・・ってことは〜・・・」
そんなカルロスに背をむけ、レイミアスとレオンはこそこそと話す。
「奴には見えなかったってことか?」
「そうですね。そうとしか思えませんね。」
「じゃー、レイム、お前そういうことにしとけよ。」
「え?ぼ、ぼくがですか?・・・・は、はい。じゃー・・・」
気は引けたが、あまり間をあけてもいけない。レオンとレイミアスは目で合図しあった。
「え、え〜っとですね〜・・・」
再びカルロスの方を向き、改めて答えようとしたレイミアスと、同じように向きをかえたレオンは、目に入った光景に唖然とする。

あろうことか、デーモンの腕を一刀両断して命がけで自分を助けてくれたのはカルロスと信じてしまったミルフィアといいムードになっていた。
「ありがとう、カルロス。わたし、いつも助けられてばかりで・・・。」
「お嬢ちゃん・・・」
ようやく思いが通じたのか?とカルロスは心もその表情も嬉しさで一杯だった。
「言っただろ?お嬢ちゃんのためならどこへでも、どこまでもついて行くと。他の誰のためでもない、・・・オレは、お嬢ちゃんだけの騎士なんだぜ。」
「カルロス・・・・」
「・・・お嬢ちゃん。」


見つめ合う2人を見てレオンは思わず向きを変え、つぶやいた。
「知〜らねーっと。」
「あ、あの・・いいんでしょうか?」
同じく心配なレイミアスがレオンに呟く。
「ん?知るかよ、そんなこと!」
「でも・・・」
ミルフィアの胸のペンダントを横目でちらっと見てレオンは吐いた。
「・・ったくミルフィーのやつ、2人の間を取り持つようなことしやがって・・・このことを知ったらあいつ自分で自分を殺しかねんぞ。・・・って、もう死んでるか・・・。」
自分の言ったその言葉に、レオンは思わず苦笑する。
「まったく・・・ぼくたちの苦労もしらないで・・・・」
さすがのレイミアスもため息をつく。
「ふぉっふぉっふぉ・・・そう言いなさんな。おそらくあれが精一杯ぢゃったんぢゃろう。実体化するには相当な精神力が必要となるぢゃろうからの。」
しゃがみこんでなにやらぼそぼそ言い合っているレオンとレイミアスのところにきて、老婆は笑った。
「おばば・・ってことは、おばばは見えたのか?」
2人とも驚いて老婆を見つめる。
「ああ、わしは霊体でも見えるがの。・・・ぢゃが、それも数日だけぢゃった。ぢゃからもうこの世にはいないものぢゃと思っておったんぢゃ。」
「おばば・・・・」
いかにも歳を重ねてきたというふてぶてしささえ感じられる老婆の顔。その顔を嬉しそうにくしゃくしゃにして老婆は言葉を続けた。
「多分、カルロスには見られたくないんで、見えないのかもしれんの。」
「そんなんありか?」
「あるかもしれん。」
ふぉっふぉっふぉ!あはははは!と思わず笑った彼らは、不意にミルフィアに声をかけられて思わずどきっとする。
「な〜に?」
「あ・・い、いや、別に。」

ミルフィアはミルフィアで、無意識のうちにカルロスと見つめ合ってしまっていたことに動揺していた。それに気づき、恥ずかしさを隠すために少し不自然かとも思われたが、慌てて3人のところへ移動したわけだが、勿論、カルロスはそれも自分のほうへ心が向きはじめているからだと一人納得・・・しつつ、せっかくのチャンスをまたしても逃した感もあり、多少がっかりもしていた。
(シャイだからな、お嬢ちゃんは。でも、まー・・・そう遠くもないだろう?)と自分を慰めたとか、なかったとか。<え?慰めじゃなくて確信?あ、あの〜・・カルロスさん・・・・・

それはともかく、ミルフィアがカルロスから離れたのはいいとして、これはこれでまた困ったぞ、とレオンは思案する。ミルフィーのことを果たして話してしまってもいいものかどうか、判断に躊躇する。
「ぼ、ぼくちょっと術を失敗しちゃって・・それで・・・」
機転をきかし、レイミアスが頭をかきながら慌てて答える。
「レイムが?」
「そうそう、結構どじなとこ多くってさー、こいつ。」
ナイス!とレイミアスに目で合図をおくってレオンが言葉を繋ぐ。
「よかった。わたしだけじゃなかったのね。」
ほっとしたようなミルフィアの笑みに、3人もほっとする。
「失敗はお互いさまだから、気にしなくていいんだって。」



「しかし・・・カルロスとのキューピッドなんかするなよな!」
再び戦闘に入り、レオンは、余裕で応戦しながら呟いていた。
(今度はミルフィアの前にも姿見せろよな!でないとどうなってもオレは知らね〜ぞ!)
夢の中で散々追いかけられたことを思い出し、レオンはミルフィーに悪態をついていた。

 



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