青空に乾杯♪


☆★ <<第59話>> 幽体を極める! ★☆



 「戦士様っ!戦士様ったら、起きてちょうだい!・・・・起きなさいってば〜!」
夜だけの世界、幽霊魔導師と初めて出会った湖の畔で、ミルフィーは座って居眠りしていた。
「ん?ああ・・・なんだ夢か・・・・・」
いい夢だったのに、幸せな、とても幸せな・・・ちょっとばかり問題もあったけどな・・・などと思いつつ、ミルフィーはすっと立ち上がり、すたすたと歩き始める。
「ああ〜〜ん・・待ってっ!戦士様〜。どこへ行くの〜?」
「どこへ?って・・帰るんだよ、フィアのところに。」
「だから〜・・・」
「あんたの『だから〜』はもう聞き飽きたよ。こんなところにいるよりフィアの傍にいた方がどれだけいいか?」
「あら?」
くすっと笑い幽霊魔導師は続ける。
「傍にいたって何にもできないんじゃ、どうしようもないって言ったのはどなたでしたかしら?」
「う・・・・だ、だからだなー、こんなところであんたとぼんやりしてるくらいなら、一緒にいた方がまだましだって言ってるんだよ。」
「あっらー・・・銀の宝玉の中に閉じこめられてるだけでいいの?何もできないのに?」
「う・・・」
「もし、手強い魔物や、それから・・・なんと言ったかしら〜・・そうそう、カルロスだったわよね〜。いいの〜?襲われるのを見てるだけでなんにもできなくても?」
「そ、それは・・・・」
思わず脳裏にその様子がうかび、ミルフィーはぎくっとする。
「助けを求め、あなたの名前を呼ぶミルフィアさんの声・・・でも、あなたはどうしようもない・・・彼女はあなたの目の前で・・・・ああ、なんという悲劇・・・これ以上の悲劇はないわ〜・・・・。」
「おい!」
ついに怒り爆発!ぐいっと幽霊魔導師の胸元をつかんで、・・・といきたかったのだが、、そうしたくてもすかっと突き抜けてしまう。危うく転びそうになったところをなんとか踏みとどまって、振り返りざま彼女を睨みつけるミルフィー。
「だからそれを阻止できるようにあたしが手ほどきしてあげるって言ってるでしょ?」
幽霊魔導師は、そんなミルフィーを楽しんでいるかのように余裕たっぷりに微笑む。
「これのどこが『手ほどき』なんだよ?え?」
「だから、集中力の修行なのよ。」
「そう言われて、確かにオレはついてきたよ。だけど、もう何時間も座ったままじゃないか?これのどこが・・・・」
文句を言うミルフィーの鼻をつん!とつつく動作をすると、幽霊魔導師は続けた。
「眠ってしまった戦士様がいけないのよ。あたしはきちんと指示したわよ。『自分の実体、生きていた時の身体を細部までイメージすること』って。」
「それでどうなるってんだよ?イメージったって、オレ、鏡なんてよく見たことないし。そう細部までできるわけないだろ?」
「あら、ある程度でいいのよ。そこに戦士様の希望が入ってても。だから、ミルフィアさんの身体でなくって、戦士様が成長したらこうだっただろうな、とかでもいいのよ。」
「で?それはそれでいいとして、それからどうなるんだ?」
「だからあたしみたいに実体化するのよ。みんなから見えるように。そうすればミルフィアさんを守ることができるわ。すぐ傍で。」
「だから、これのどこが?」
怒りもさることながら、ミルフィーは焦っていた。今のままでは何もできない。ミルフィアが危険な道を選んだというのに。守ることもできない自分自身が悔やまれてしかたなかった。



箱さんからいただきました。
いつもありがとうございます。m(_ _)m

「ふう〜・・・・仕方ないわね〜。もう少し戦士様と2人っきりで過ごしていたかったんだけど〜・・・・」
「なんだよ、それ?まさか嘘でした・・なんてこと?」
うわずった声のミルフィアの怒りの表情の中には悲しみがあった。幽霊魔導師はその表情に、思わずそれまでの余裕をなくした。
「ううん・・・違うわ。嘘なんて言ってないわ。あたしのように戦士様も実体化できるようにって。」
「じゃー、さっさと教えてくれ!のんびりしてる場合じゃないんだ!こうしてる間にもフィアは・・・・」
あの魔窟内で自分の身体を探している。あのよどんだ瘴気が籠もった洞窟を。そう思うとミルフィーはたまならかった。
そんなミルフィーの気持ちがわかる幽霊魔導師は、寝てしまったのは誰よ?と思いながらも、それを口にすることは避けた。
「・・・じゃー、湖の真ん中へ行って。」
「行ってどうなるんだ?」
「とにかく・・・・」
ミルフィアの真剣さに幽霊魔導師は、これ以上引き延ばすこともできないと、からかって楽しむのはやめることにした。
「そこで、精神を集中してイメージしてね。」
「今までと変わらないだろ?」
大きくため息をつくと幽霊魔導師は真剣な表情で付け加えた。
「・・・・・・実体化が成功すれば、身体は沈むわ。おぼれないように気をつけなさい。二度は死なないけど、おぼれる苦しさはあるのよ。」
「は?」
「だから〜・・・・幽体じゃ沈まないのよ。沈んだら実体化成功ってわけ。確実に他人から姿は見えるはずよ。で、そうしたら、第二段階として物を掴めるようにするの。剣を握らなくちゃいけないでしょ?そうするには、それ相応な集中力が必要なの。それもものすご〜く!だから、ぼんやりと幽霊してちゃだめなのよ!わかった?」
思わず幽霊魔導師のその勢いにのけぞるミルフィー。
「そ、そうなのか?」
よくわからなかった。が、確かに何かを掴もうにも霊体である今の身体は突き抜けてしまう。それを掴めるようになる?他人から見えるようにも?
「あ・・・だけど・・・・」
自分が死んでいることはみんなが知っていること。今更出れば怖がってしまうのではないか、ちょうど自分が幽霊が恐いのと同じように。そう思い、少し明るさを帯びたミルフィーの表情は再びかげる。
「その為にも霊体として姿を現すんじゃなく、実体化するということなの。・・でも、ミルフィアさんなら戦士様を見て喜びはしても、絶対恐がりはしないと思うわ。」
「そ、そうか?」
ミルフィーのその問いに、笑顔で応えると幽霊魔導師は、ミルフィーに手を差し出した。それはミルフィーと違って透けてはいない。
「早くあたしのこの手が握れるように♪」
「そうしたら合格か?」
そう言いながら、差し出したミルフィーの手は、当然のごとく彼女の手を突き抜け、空を掴んだ。
「がんばりましょ、戦士様♪」
「ああ。」
本当にそんなことができるのか。いや、目の前の幽霊魔導師は現にそうやって自分たちの目の前に現れたし、戦闘にさえ加勢してくれた。彼女に出来たのなら自分でもできるはずだ。そうすればミルフィアをすぐ傍で守ってやることが出来る。
実体化している幽霊魔導師の手を見つめたミルフィーの瞳には、希望の光が射していた。



そして・・・水面での精神統一訓練が始まった。
が、なかなか沈まない。実体化できず、焦りだけがミルフィーを覆う。
「戦士様の気持ちもわかるけど、焦りの方が強くて精神統一がいまいちなのよね〜。なにかいい手はないかしら?」
手助けしたくてもそこまではできない。幽霊魔導師も焦りを感じながらそんなミルフィーをじっと見つめていた。



「苦労しとるようじゃの?」
「ん?」
不意に声をかけられ、ミルフィーは瞑っていた目をあける。
ミルフィーの前にはあの夢幻館の主、夢魔であるラサ・リーパオがブラックユニコーンの姿で立っていた。
「な・・・リーパオ?」
ミルフィーは驚いて目を丸くする。まさか今のこの状態がリーパオの操る夢だったのか?という考えが走る。
「残念ながらこれは現実じゃ。」
そんなミルフィーの考えが分かったのか、リーパオは悲しげに応えた。
「そ、そうなのか?」
「そうじゃ。」
「で、なんの用なんだ?オレ今忙しいんだけどな。」
「それはわかっておる。じゃからわしがここへ来たんじゃ。」
「あんたがどう関係あるんだ?」
「ブルルルル・・」
リーパオは背に乗るようにとミルフィーに今一歩近づいた。
「悪いけど今そんな段じゃないんだ。オレは少しでも早く・・」
「実体化したいのじゃろ?」
ミルフィーの言葉をリーパオが取って言う。
「知ってるならいいだろ?じゃーな。」
再び目を瞑り、精神統一に入ろうとするミルフィーに、リーパオはヒヒヒンと笑って続けた。
「念による実体化はそう簡単にできるものではない。それより、今は一歩下がって武器を持つことを目指したらどうじゃ?」
「武器?だけどそれも・・」
ミルフィーはその言葉で目をあける。
「そうじゃ。実体化すればそれもできる。じゃがこっちの方法の方が身に付く可能性は高い。実体化を目指すのはそれからでもできる。」
「そんなのあるのか?」
「ああ・・・・ちょっとしんどいが・・」
「しんどいなんてどおってことないさ。自分が今どの程度なのかぜんぜん訳も分からないでこうしてるよりいいだろ?とにかくオレは一刻も早くフィアを守れるようになりたいんだ。」
「そうじゃろな。じゃ早速行くとするか?」
「ああ。でも乗れるのか?」
そういえば幽体だったから乗れないはずだ、とミルフィーは気付く。
「大丈夫じゃ。ここは夢の中。精神世界じゃ。わしとなら触れることは可能じゃ。」
「は?・・・じゃ、オレってまた寝てしまったのか?」
「いや、わしが引き寄せたんじゃ。」
「そ、そうか・・・・」
思わず幽霊魔導師があきれかえっているのではないかと思ったミルフィーは、それを聞いて一応ほっとする。
「ほれ、急ぐんじゃろ?」
「ああ。」
ミルフィーはひょいとリーパオの背に乗った。
「しっかり掴まっておるんじゃぞ。」
「わかってる。」
馬具はない。ミルフィーはリーパオの首に手を回し、しっかりとしがみついた。
「ヒヒヒヒヒ〜〜ン!」
大きく嘶くと、リーパオは空を駆け始めた。



「さ〜て着いた。ここじゃ。」
上空からは、一面砂利で覆われた平地と見えたそこは、降り立ってみると石ではなく、剣の残骸だとわかった。大小はあるが、全て刃物や剣の柄などだと判断できた。
「なんだ、これ?」
リーパオから下り、実体化してたら痛くて立っていられないだろうな、と足の下に広がる刃で覆われた地面を見ながらミルフィーは聞く。
短く折れたもの、刃こぼれしてさび付いたもの、短剣から長剣・・・ありとあらゆる剣の類がそこにあった。
「まるで剣の墓場みたいだな。」
思わず呟いたミルフィーに、リーパオはにやっとする。
「そうじゃ。」
「え?ホントにそうなのか?」
「ああ。ということでじゃ、お前さんはここで剣を探すのじゃ。」
「剣をって・・・だけど満足なのは1つもないぞ。みんな折れてるというか、破片といった方がいいみたいなのばかりじゃないか?」
「そうじゃ。ここは剣の墓場。剣として使えなくなったものの墓場じゃ。お前さんはここで1本の剣を作り上げるのじゃ。」
「作り上げるって・・・オレ鍛冶の経験も知識もないぞ。それにそれらしき道具も見あたらないし・・・」
周囲を見渡しながらミルフィーは応える。
「ふぉっふぉっふぉ、そういうことではない。よいか、まず剣の柄を探すのじゃ。精神統一してお前さんの剣を探すのじゃぞ。」
「オレのって・・・どうやって?」
「呼びかけるのじゃ。応えてくれたものがお前さんの剣じゃ。で、そうしたらそれに合う刃を探すのじゃ。おそらくばらばらじゃろう。一片ずつ合わせていくのじゃ。」
「一片ずつ合わせていくって・・・まるでパズルみたいだな。」
「そう言われればそうじゃの。」
ぶひひひひん!と面白そうに目を細めてリーパオは笑った。
「組みあわせるには、手の実体化が必要じゃ。手だけに精神を集中してみるんじゃな。」
「な、なるほど・・・・。」
「1本の剣の形になったら、聖龍の光で剣として蘇らせるのじゃ。」
「聖龍の光?」
「そうじゃ。今お前さんの借宿となっておる銀龍の涙から引き出すんじゃ。」
「引き出すって・・・どうやって?」
「それも精神統一じゃ。」
「その言葉でなんでも片付けてやしないか?」
「ふぉっふぉっふぉ・・じゃが本当のことじゃ。」
「ふ〜・・・オレにできるんだろうか・・・・」
「そんな気弱なことでは、お前さんに肩入れした銀龍が嘆くぞ。」
「え?銀龍?」
「そうじゃ。わざわざわしの夢の中にやってきて頼んでいったのじゃ。気むずかし屋の銀龍が。」
「そうだったんだ・・・銀龍が・・・・」
「がんばるんじゃぞ。」
ヒヒヒン!と嘶いてリーパオは空中に浮かび上がる。
「あ!どうすれば戻れるんだ?」
「剣が出来上がったら迎えにきてやろう。」
「・・・・出来なかったら?」
思わず不安がミルフィーの口から出た。
「ここにある剣の中には、人間に敵意をいだいているものもおる。1秒でも早く自分の剣となるべくものを見つけ、組みあわせるんじゃな。でないとお前さんの魂そのものが悪意と憎悪を持つ彼らによってずたずたに切り裂かれるじゃろう。」
「って・・・・・」
リーパオの言葉を聞き、ミルフィーは顔面蒼白となる。
「そ、そんな・・・・」
「いちかばちかじゃ。それに魔窟の奥の悪霊には、聖龍の光を放つ剣が必要となってくる。」
「それじゃ・・・フィアたちは?」
こうしている間にも魔窟を進んでいるミルフィアたちの無事が案じられ、ミルフィーはぎくっとする。攻撃が効かないとあってはどうしようもない。待つのは『死』のみ。
「そうじゃ。どんな名剣であろうと、人間の手で鍛えただけのものなど彼らには効かぬ。聖光剣でなくてはの。勿論他の魔物に対しても効果はばつぐんじゃ。」
「わかった・・・・」
ぐっと両の手を握りしめ、ミルフィーは決意した。何がなんでも剣を見つけだしてみせる。作り上げてみせる!と。
そんなミルフィーの真剣な瞳に満足してうなずくと、リーパオは高く舞い上がった。


「さ〜てと・・・・まずは精神統一!」
どっかとそこに座ると(多少は浮いているが)ミルフィーは目を固く瞑り、精神を統一させ、周囲に気を飛ばした。
「応えてくれ、オレの剣!・・・頼む!」
祈るような気持ちと共に。

 



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