青空に乾杯♪


☆★ <<第58話>> 跳んでエピローグ? ★☆


 「お嬢ちゃん、これでようやくオレの事も真剣に考えてもらえるかな?」
ミルフィーの身体を無事に取り戻し、村へ帰った一行はようやく落ち着いた日々を過ごし始めていた。
老婆の家の庭にある大木の下。木陰のベンチで休んでいるミルフィアにカルロスが声をかける。
「カルロス・・」
すっと隣に座るカルロスをミルフィアは見つめる。
いつものやさしげなカルロスのその笑みの中には、真剣な眼差しがあった。
「・・・・・」
どう答えたらいいのかわからない。ミルフィアは困っていた。そんなミルフィアに、カルロスは自分に都合良く解釈して行動に移す。
「お嬢ちゃん。」
そっとミルフィアの肩に手をかけ、次の行動に移ろうとしたときだった・・
「う・・・」
カルロスの目の前には鋭い剣先が光っていた。
その剣を追って見ていくと、その先にはもちろん鬼のような表情のミルフィーが立っていた。
「な、なんだ坊やか、・・・もう大丈夫なのか?」
「うるさい!坊や呼ばわりは止めろと言っただろ?・・まったく、誰かさんのおかげでのんびり休んでもいられないぜ!」
そこを離れろ!とばかり、きつい視線で睨む。
「おいおい、それはちょっと無粋ってもんじゃないのか?いくら弟・・・い、いや兄だったか・・・兄でも妹の恋の邪魔をするというのはあまりよくないんじゃないか?知ってるか?『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ!』というんだぜ。」
ミルフィアにちょっかいかけていることと、『坊や』と呼ばれたこと、そして、今の言葉でミルフィーの怒りは頂点に達した。
「うるせーーーー!」
「フィー!待って、フィー、落ち着いてちょうだい!」
剣をふりかざし、今にもカルロスに斬りかかろうとするミルフィーをミルフィアは必死で止めていた。



魔窟の奥のそのまた奥の奥、そこでようやく見つけだし、取り戻すことの出来たミルフィーの身体は、さらわれた時のままだった。
老婆とレイミアスの術でその肉体を清め、精神を戻す。
全ては万事解決、ハッピーエンドだったが、その肉体は幼かった。
ミルフィアと並べば当然のごとく兄妹ではなく姉弟であり、鍛える前の状態の身体は、また鍛え直さなければならなかった。もっともミルフィアの身体を鍛えたことを思えば、それはずっと鍛えやすかった。が、肉体年齢はそうもいかない。身長や体格はそれなりの年月を必要とする。たとえレオンが『成長期だから、すぐ追いつくさ。』となぐさめても、いらだちは募るばかりだった。
ともかく、そんなミルフィーをミルフィアはめちゃくちゃ可愛がった。時にはドレスを着させたりもして。ミルフィア自身がその位の歳の時に体験できなかったこと、そんな心の空虚を埋めてやれるのなら、とミルフィーはそれには我慢したが、レイミアスにまで、『こんな弟がほしかったんです。』とか言われてすっかり子供扱いされたりもし、ミルフィーは全くもって面白くなかったのである。
とくに、坊や呼ばわりは。しかもそれがカルロスに、とくればなおさら・・・。



−ガラガラガラ−
そんな時家の前から荷馬車が近づいてくる。
「あ!ちょうどよかった、ミルフィア!村まで買い出しに行くんですが、一緒にいきません?」
乗っていたのはレイミアスだった。
「ん?」
怒っていたミルフィー、少しおどけた表情をしつつも余裕たっぷりでそんなミルフィーを見ていたカルロス、そして抱きかかえるようにしてミルフィーを止めていたミルフィアも不意の登場者に気を取られる。

「あ、はい。」
そして、助け船とばかりに、にこっとして荷馬車へと駆け寄っていくミルフィアに、ミルフィーもカルロスも唖然とする。

「な、なんだよ、レイム。フィアだけってどういうことだよ?」
少し間があった後、ミルフィーが口をとがらせて文句を言う。
「だって、食料なども買うんですよ、作る人が選んだ方がいいでしょう?」
「なに?フィア・・・お前料理できるのか?お前が?」
驚いてミルフィアを見つめるミルフィー。それはそうだった、お嬢様育ちのミルフィアは家事など一切やったことはなかったのだから。
「気付かなかった?今までの食事も作ってたのよ。おばーさんにいろいろ教えてもらって。」
ふふふと軽く笑ってミルフィアは答える。
「すみません。じゃー、ミルフィア、お借りしていきます。それにこれ2人乗りですので。」
「おい、ち、ちょっと・・・・レイム・・・・・い、いや、おまえたちいつの間に?」
いつの間にそんなに仲良くなったんだ?というミルフィーの最後のセリフまで聞かず、荷馬車は道を下っていった。
「・・・・・・・」
「・・・・今日の所はやられたぜ。」
肩をすくめその場を去ろうとするカルロスをミルフィーは止めた。
「カルロス、1本つけてくれ。」
「さっき気絶するまでやったとこだぜ。無理はしない方が・・」
すっとカルロスの鼻先に剣をむけるとミルフィーは睨んだ。
「腕だけでも元に戻したいんだ。1日でも、1分でも早く。」
「・・・ほいほい。」
ミルフィーの気持ちも分からないでもない。ため息をつくと、カルロスはミルフィーの剣の稽古につきあうことにした。
(いずれ兄弟になるんだから、つきあっておいて損はない・・・か。)
カルロスのそんな思惑を知れば、ミルフィーの方から断るのではないかとも思われたが・・・。



「ははははは!」
くたくたになるまで稽古に没頭し、森で休んでいたミルフィーのところへ様子を見に来たレオンは、その不満を聞いて大笑いする。
「なにがおかしいんだよ?」
「ホントにお前って心配性なんだなー。あはは。気持ちはわからないでもないが。」
「悪かったな・・・」
「まー、でもさ、考えてもみろよ。」
「何を?」
「だから、もしカルロスだと、いつどこの迷宮で死んじまうかわかんねーけど、その点レイムならいいんじゃないか?」
「どういいんだよ?」
ふくれっつらをして聞き続けるミルフィー。
「平和な村の司祭夫人、平凡だが穏やかな生活。いいんじゃないか?レイムならきっと大切にしてくれるだろうし。幸せそうなミルフィアの微笑みが目に浮かぶな〜。」
「・・・そういえばそうかもしれないな・・・・・って、おい!フィアとレイムってもうそんなとこまで?」
レオンの言葉に一度は頷いたミルフィーだが、次に目を丸くしてレオンにつかみかかった。
「おい・・落ち着けって・・だから、たとえばの話だよ。たとえばの!」
「本当だな?」
レオンの胸ぐらを掴んだままミルフィーはきつい視線をくっつけるようにして聞く。
「本当だって、誓ってもいい。」
「よし・・・・」
ようやくミルフィーはレオンから離れる。
「ったく・・・ますますシスコンに磨きがかかったんじゃないか?」
「何か言ったか?」
「い、いや、別に。」
そうは言ってもまだ機嫌悪そうなミルフィーに、レオンは付け加えた。
「レイムもミルフィアも、多分気の合う友達感覚だろ?歳も近いし、そうだな、ミルフィーに対するのと同じ感覚なんじゃないかと思うぜ。」
「そうなのかなー?」
「そう。お前をめぐっての弟扱いの時みたいに・・気があってるというか・・・いや妹扱いだっけか?」
ぷっくくくくく・・・・とドレスを着せられたミルフィーを思い出し、思わずレオンは笑う。
「おい・・・・」
「わ、悪い・・だけど、かわいかったもんな。オレだってつい抱き上げて頬ずりしようかと思っちまったくらいだからな〜・・・・・」
「レオン!」
「中身がお前だってわかってるからしないけどな。」
「くっそ〜〜〜!!!!身体を成長させる術ってないのか?」
地団駄踏んで悔しがるミルフィー。
「贅沢言うなって。だれでも若返りたいと思ってるのに、できないんだから。」
「だけど・・・・これじゃフィアを守るどころか・・・・・」
「そうだったな、ミルフィアにでさえかなわないもんな。」
「う・・・・・」
思わずミルフィーは一度だけだがミルフィアと剣を交えたときのことを思い出し、口篭もる。
「・・・確かに肉体は鍛えたけど、フィアがあんなに順応するとは思わなかった。」
「そりゃーな、なんとしてもお前を助けたい、その一心で頑張ったもんな。あのお嬢様が。」
「それは感謝してる。してるけど・・・・」
ミルフィアにでさえ歯が立たない。それは複雑な思いだった。
「気にするな。一時期の事だって。剣の腕はぐんぐん上達してきているんだろ?」
「一応な。」
「じゃーいいじゃないか。それに。」
ガラガラガラと荷馬車の音が聞こえてきた。レオンはその荷馬車にレイミアスとミルフィアを認めると、ミルフィーに目で帰ってきたぞ、と合図する。
「どんな奴を好きになろうと、お前に対しての気持ちは変わりゃーしねーって。ミルフィアにとっては、ただ一人の大切な兄貴なんだからさ。」
「・・・・・・」
レオンとミルフィーの姿を見つけ、大きく手を振るレイミアスとミルフィア。
「そうだな。」
そう呟くと、ミルフィーも笑顔で手を振って応えた。


「ただいま〜。フィーの大好物、いっぱい買って来たのよ!」
満面の笑顔でそう言いながら飛びついてきたミルフィアを、ミルフィーはしっかりと抱き止めた。 (・・・が実際にはその逆に見える・・・。それは、ミルフィーには口が裂けても言ってはいけない事実。)


雄大な青空の中に気持ちよさそうに浮かぶ太陽が、そんな2人を、幸せをかみしめている姉弟、もとい!兄妹を、祝福するかのように暖かい微笑を贈っていた。

 



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