☆★ <<第57話>> サラマンダー・パパ ★☆


 「で、レオンは?」
「オレか?オレはそう大したことないな。」
「でも、あれはどうしたんです?」
興味津々、目を輝かせて聞くレイミアスにレオンは何なのかと思案する。
「あれ?」
「サラマンダーの術ですよ。前は使えなかったでしょう?」
「ああ・・あれか・・・・・。」
「やっぱりリーシャンが関係してるんですか?」
「ああ、まーな。りろの森でいろいろあってな。」
にこっと笑ったレオンは、その時のことに想いを馳せていた。



 「そなたがレオンという人間なのですね。」

紫檀さんから頂きました。ありがとうございます。m(__)m


りろの森に入ったはいいが、妖精の住んでいる場所も、どうやったら会えるのかも分からないレオンは、森中、大声をだして回っていた。
そしてようやく逢えた1人の妖精。彼女に必死になってそのペンダントを見せてリーシャンの話をするのに、全く聞こうとはせず、ついには姿を消してしまった。
ということで、レオンは強硬手段を取ることにした。
それは、あろうことか、出てこないとりろの森を燃やし尽くすぞ、という脅迫。
しかもそれでもうんともすんとも応えがなかったため、本当に燃やし始めたというから、たまったものではない。
自分たちの力で人間のおこした火などあっというまに消火できる。そう思いそれを念じた妖精たちは、消えないとわかると焦り始めた。1人が2人、2人が3人、そして10人・・20人、最後は女王までも念じても火は消えない。
ついに女王の決断により、一斉に飛び出してレオンを捕獲したというわけである。
そして、蜘蛛の糸でぐるぐる巻き状態のレオンは、今妖精の女王の前に引き出されていた。

レオンは必死になってリーシャンの事を女王に話した。自分はどうなってもいい、リーシャンを蘇らせてくれ、と。
そんな真摯なレオンに、女王も心を動かされ、一つの条件を出してリーシャンを救うことを約束した。
「ただし、蘇るといっても、彼女は新しい生を得るのです。記憶は白紙状態。自分のことも勿論あなたのことも覚えていないでしょう。それでも、彼女の為に条件をのむと?」
「ああ、それでリーシャンが生き返るのなら文句は言わねー。彼女が妖精として幸せな生涯を過ごせれるんなら、オレはそれでいい。」
「そうですか、では。」
レオンの瞳に一片の迷いもないと知った女王はリーシャンの蘇生を約束をした。
そして、その条件を申し渡すというより、恐るおそる話を始めた。
「実は・・・あの炎を放ったあなたでしたら、もしかしたらできるのでは?と思ったのですが・・。」
「な、なんだ?急に?」
がんじがらめになっていた蜘蛛の糸も綺麗に取り除かれ、所々火の粉で焦げていた衣服も着替させてもらったレオンは、その態度に戸惑う。
「あの子の父親は、サラマンダー、しかも王族なのです。」
「は?よ、妖精なのに?」
「そうです。」
「それで・・・ここからの追放処分を根に持って・・・・・」
「は?」
「レオン、あなたを見込んでお願いするのです。どうかサラマンダーに頼んできてください。ここに作ったサラマンダーの池を他へ移動させるように、と。」
「サラマンダーの池?」
「そうです、サラマンダーの生誕地となる硫黄の池です。」
「は、はー・・・」
「このままだと森はその熱で枯れてしまいます。お願いです、レオン!」
「しかし、どこへ行ったら逢えるんだ?」
聞いてもらえそうだと女王は安堵の色をその顔に浮かべる。
「まず、サラマンダーの池へ行き、生まれたばかりのサラマンダーを捕獲するのです。」
「へ?ほ、捕獲?サラマンダーを?」
「ええ、そうです。で、なつかせればサラマンダーの国へ連れていってくれると思うのです。」
「『思うのです』って・・・・・」
「彼らは生まれて1週間はそこで暮らします。そしてどこかへ飛び立っていくのです。ですから、多分サラマンダーの国へ行くのだろうと・・・。」
「・・・・・」
命令からすでに懇願する態度になっていた女王に、レオンはため息をつく。
「なんにしろやらなきゃリーシャンは生き返らないんだろ?」
「そうです。」
「『そうです』って・・・・まー、いいや。」
勝手なその態度に怒れもしたが、その根本を考えるとやっぱり自分にある。そう思ったレオンは引き受けることにした。



「う・・・こ、これは・・・・」
サラマンダーの池の近くまで案内してもらったレオンは、近づくにつれ増してくる熱さと硫黄臭にむせながら歩いていた。
そして、問題の地へとやってきた。そこは周囲をぐるっと囲まれた火山口のような感じだった。
確かに火山ではない。が、そのぼこぼこと踊り立つ硫黄からはものすごい熱気と鼻が曲がりそうなほどの臭気を放っていた。
「で、どうしろってんだ?」
ぼりぼりと頭をかいてレオン思案する。
「サラマンダーって奴がいつ生まれるってんだ?」
その熱さと臭いに我慢することおよそ2、3時間、「ちょっとサウナってのは気もちがいいんだ。だけど、オレはこれ以上やせても・・・」などと硫黄池の淵を回りながら、ぶつぶつと文句をいっているレオンは、池の中心からひときわ大きく膨らんだ硫黄の玉がゆっくりと浮上しているのに気づく。
「げ・・あんなの空中で爆ぜたらやばいぜ・・・。」
思わずレオンは後ずさりする。
そうしているうちに、それは風船のようにどんどんどんどん膨らんでくる。
「ま、待てって・・・そんなに大きくなるなよ・・・。」
真っ青になったレオンは逃げることも忘れて、見入っていた。
が、なぜか爆発しない。許容量はすでに超えていると思われるのに。
爆発したくてしょうがないのだが、今ひとつ圧力が足らない、もしくは必要以上に外皮(皮と言えるのなら)が丈夫すぎた・・・・そんな感じで、レオンの目には、なにやら中でもがいているような風にも見えた。
「うーーん・・・・・・どうすりゃいいのかな〜?」
しばし考えながらじっと見ていたレオンは、はっとあることに気づき、実行してみることにした。
「熱が足らないんだよな、多分。だから〜・・・・・・」
ふんむ!と気合を入れて火球を作り上げた。
「もし中にサラマンダーの赤ん坊がいるとしたら・・・・・」
火球を自分の手の内で成長させている間にも、中にいると思われる影はもがいている。
「オレの球がきくかどうかわからねーけどな・・・・」
「うおーーーーーー!」
その球を頭上高くあげ、気力を振り絞って大きくする。
「まだまだだ・・・・・くお〜〜〜〜〜!!!!」
努力と気力の結果、それは直径3mほどの火球に成長していた。
「ち、ちと・・・力を使いすぎちまった・・・・・」
せっかくここまでにした火球・・・目的のために使わずしてどうする?息切れした呼吸を整えながら、レオンは、ふらつく足に活を入れて硫黄の玉に投げつけるべくねらいを定めた。
「よ〜し・・行っくぞ〜〜〜!!!」
勢いをつけて投げたつもりだった・・・・が、ただでさえ熱いのに全精神力を集中して火球を作ったため、レオンの全身からは滝のように汗が放出されていた。ということで、大きくなりすぎたことと、汗まみれの手の・・・火球は、投げられる前にレオンの手からツルンとすべった。結果、まるでボールが弾むように崖の出っ張りにぼんぼんと当たりながら、硫黄の池の中にぼっちゃん!と落ちた。
「あ・・・・・・あ〜あ・・・・・・」
2回とはあんなものを作る元気は全くなかった。
へたへたとその場に座り込むレオン。
「ごめんな、助けてやろうと思ったんだが・・・・力不足で・・・・」
レオンはため息とともに、玉の中の影にあやまっていた。
と、レオンの放った火球がぼこっと池から浮き出てくる。
「へ?」
硫黄に拒絶されたのかなんなのか、とにかく消滅は免れたらしいその火球はゆっくりと上昇していった。その上空にはさきほどから割れたくても割れない硫黄の玉がある。
「お・・・・お?お?お?」
そして硫黄の玉はまるで好物を食べてでもいるかのように、生き生きとして火球を吸収していった。
微動だもせずじっとその様子を見つめつづけるレオン。
「お?おお?」
−カーっ!−
真っ赤な光、そして炎が周囲に飛びちった。
「あ・・あっちっちっちっち!」
衣服のあちこちに火の粉がついたレオンは、たまらずそこから逃げ出した。
「うわっち、うわっちっちっち〜〜!」
森の中、レオンは水を求めて走っていた。

「おお〜っ!い、池発見!」
ようやく見つけた小さな池。そこへレオンはダイブする。
−サッパーーン!−
「ぷっは〜〜〜・・・た、助かったぜ。」
少しの間水中で水の冷たさにその身を任せてから、水面に顔をだしてほっとしたレオンの目に真っ赤なものが写る。ちょうどレオンの拳大の大きさの燃えるボールが浮遊しているといったところ。
「な、なんだ?人魂にしては・・・赤いなんておかしいよな?」
そう思っていると、それは少しずつ変化をしていった。
「みぎゃ〜?」
「へ?」
くびを傾げてレオンを見つめるつぶらな目。それは全身が火の龍の姿となった。
「も、もしかして・・・・サラマンダーの・・・赤ん坊?」
「ぷぎゃ♪」
ぱたぱたぱたと嬉しそうにその小さな羽をはばたき、サラマンダーの赤ん坊は、レオンを見つめる。
「お、おい・・・・これって、もしかして?」
(オレが助けようとしたのが分かったんで、ついて来たのか?それとも、これが初めて見た動くものを親と思うってやつか?・・・だ、だけど、こんなに簡単に事が運んじまっていいのか?)
そうは思ったが、苦労するよりしないほうがいいに決まっている。レオンは素直にその幸運に感謝することにした。
「おい、お前、オレなんかの後ついてきちまっていいのか?」
「ぷぎゃ♪」
ちびサラマンダーは嬉しそうに答えた。
「お前、オレの言葉がわかるのか?」
「ぷぎゃぉ♪」
「おお〜〜〜!」
レオンは感動していた。が、ふと思い出す。
「それはいいが、問題はリーシャンの父親だというサラマンダーだよな・・・・。」
不思議とそのちびサラマンダーを手のひらに乗せても少しも熱くない。手のひらで嬉しそうにパタパタしているちびを見ながら、レオンはその巨大化した姿を思い浮かべ、思わずぞっとしていた。
(そいつが父親なら、オレって、もしかして、い、いや、もしかしなくても、・・・娘の仇?)
「んなのオレの言うことなんか聞いてくれるわけねーじゃねーかあ?」
思わずレオンは大声で叫んでいた。
・・・そして、小声で呟く。
「門前払いで済めばいい方。悪くて・・いや、普通でいって・・・名を名乗ったが最後、その場で・・・おこげ?・・・・・」
えらいことを引き受けてしまった・・・レオンは後悔しようにも後悔しようが無いという窮地に立たされていた。
「ど、どうしたらいいんだ?」
「ぴぎゃ〜」
そんなレオンの焦りなどわかるはずがない。お腹のすいたちびサラマンダーは、必死でレオンに食べ物をねだっていた。
その食べ物が火球だということに気づくのに、それから多少時間を要した。



「で、そんなこんなでサラマンダー召還なんて術が使えるようになったってわけさ。」
「ち、ちょっと、レオン、話を飛ばさないでくださいよ。」
面白くなってきたところだったのに、とレイミアスは文句を言う。
「お前だって以下省略で、すっ飛ばしたじゃねーか?」
「あ・・・・そ、そうでした。あはははは。」
「ったく・・・」
「そういえばずいぶん時間がたってますね。」
「眠いと言いながらレイムが聞くからいけないんだぞ。」
「あ、あはは・・・確かに。」
頭をかいて恥じるレイミアス。
「だけど、探検に支障がでちゃいけないからな、そろそろ休むとしようぜ。」
「そうですね。もっと聞きたいけど、続きはまた次の機会にでも。」
「ああ。」
そして、2人ともごろりと横になった。面白い夢が見られそうだと期待しながら。


そして・・・・・
「おい、いつまで寝てるんだ?」
カルロスの言葉に2人はがばっと飛び起きる。
「2人とも大丈夫?・・はい、干し肉とパン。それからスープ。」
ミルフィアが差し出した食料を、半分寝ぼけながら2人は口にほおばった。


「大丈夫か?力の使いすぎか?」
カルロスは、ミルフィアの傍にはやはり自分がついていないとだめだ、と再認識していた。

 


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