青空に乾杯♪


☆★ <<第55話>> 共同防衛作戦 ★☆


 「しかし・・・お若いのにお2人ともなかなかの腕ぢゃの。」
中層部の中ほど、5人は休憩をとっていた。
「ああ、そうだな、なんといってもオレたちは、こと魔物との戦闘なら、もう一生分くらいは経験してるもんな。」
レオンが笑いながら、が、自信を持っていう。
それは決してうぬぼれではない。夢の中での戦い、異世界での冒険、それは確かにそう言えた。
「あ!そうだ!ミルフィア、これ。」
思い出したようにレイミアスは自分の首から銀の首飾りを外してミルフィアに渡す。
「これ?」
その先には小指ほどだったが小さな銀色に輝く半透明な宝石がついていた。
「うん。銀龍の涙の残りなんだけど。」
「銀龍の涙?」
「そう、こんなに小さくなっちゃったけど、もともとはミルフィーがもらったものだし、邪を払うから、ぼくが持ってるよりミルフィアが持ってた方がいいと思うんだ。」
「あ、うん。ありがとう。」
にこっと笑いミルフィアはそれを自分の首にかける。
「おい・・・・」
怒ったような顔で自分を睨むレオンにびくっとするレイミアス。
「な、なんですか、レオン?」
「いい度胸だな、レイム?」
「いい度胸って・・な、なんなんですか?」
「だから・・・」
ミルフィアにプレゼントなんかして出し抜きやがって!とレオンの目は文句を言っていた。
「あ!もしかして、レオン妬いてる?」
「レイム・・・おまえな〜、村を救ったからっていい気になるんじゃねーよ!」
「そ、そんな、レオン・・・・ぼくそんなつもりじゃないですよ。・・・ち、ちょっと、レオン・・・な、なにふるんでふゅかぁ〜〜・・・ち、ちょっろ〜〜〜・・・」
ぎゅぅ〜っとその両頬をレオンに伸ばされミルフィーに助けを求めるレイミアス。
「レオン・・・」
驚いて止めるミルフィアにレオンはしぶしぶ手を放す。
「ちっ・・・」
「ぷっ・・くくくっ・・・・あはははは・・・」
レオンが放した後、両頬が真っ赤になったレイミアスの顔を見て、思わずミルフィアは笑ってしまう。
「笑うことないでしょう、ミルフィア・・・・」
まだ痛む両頬を手で抑えながらレイミアスは口を尖らせる。
「ご、ごめんなさい・・・だけど・・・・ふふふ・・・・あはははは・・」
「まったく・・・」
文句をいいながら、レイミアスも分かっていた。それがミルフィアの緊張をほぐすため、ともすれば切れそうなほどピンと張り詰めた彼女の精神の糸を緩ませるためだと。
「まったく、こんなになるまで引っ張らなくても・・。」
(悪い。)
レオンの目はそうレイミアスに語っていた。
「そうだ!面白い顔といえば、ミルフィーが女だと分かったときのレオンの顔も面白かったですよ。こう・・鳩が豆鉄砲を・・・とと・・」
そのときの様子を思い出したレイミアスは、今の返礼にその時の事を話し始めた。が、レオンの殺気を感じ、慌ててミルフィアの横に避難する。
「おい、それって卑怯だぞ!」
「じゃー、怒らないって約束してくれます?」
「・・・ったく・・・」
「あはははは・・・」
そんな2人に多少戸惑いながらも、ミルフィアは心から笑っていた。そしてミルフィアは2人からミルフィーの事をいろいろ話してもらった。
最初のうちは、ミルフィーのことを話していいのかどうか迷ったが、大丈夫だから、と語るミルフィアの目を見て、レオンもレイミアスも決心した。
そこには、ミルフィアの知らないミルフィーの顔があり、面白おかしく話す2人の話し方も効を奏し、ミルフィアは目を輝かせ、楽しく耳を傾けていた。



話の途中、レオンがふと気付いてレイミアスに聞く。
「それはそうと、村はもういいのか?」
「あ、うん。銀龍の涙で村の人たちはすっかり元通りになったし、後は、行く途中偶然再会したぼくの友人があれこれ世話をするからいいって、言ってくれたんです。だから急いで戻って来たんですよ。」
「ふ〜ん・・・」
「レオン・・は・・・どうだったんです?」
少し聞き難そうにしてレイミアスが言った言葉に、レオンは明るく笑って答えた。
「あ・・まーな。記憶は失っちまうみたいだけど、息は吹き返した。」
「吹き返したって?」
話の内容がわからず、呟くようにして聞いたミルフィアにレイミアスは笑顔で答える。
「レオンの恋人の妖精です。」
「恋人?」
「そう、話せばこれも長くなるんですけど・・・でも・・」
『記憶を失う』ということが気になり、レイミアスはレオンを気遣って口を濁らす。
「いろいろあってな。でも、まー、いいんじゃねーか?まだ意識は回復してないが、もう大丈夫なんだし。」
「レオン・・・」
「おいおい、そんな哀れんだような目で見るなよ、レイム。リーシャンが元気になって、んでもって、もしも記憶が戻り、本人が望めばオレのところへ来ることを許可するって、妖精の女王様も言ってくれたんだ。」
「妖精の女王様ですか?」
「そうだ。だからオレは今度こそ忘れないで待っていてやるのさ。あ!だから、ミルフィア、オレに惚れてもだめだからな。」
「え?・・・・そうなの?」
「『え?』って・・・ま、まさか?」
悲しそうな表情で言ったミルフィアに、思わずどきっとしてレオンはどもる。
「ふふっ、冗談です。」
「ふ〜・・・助かった。ミルフィアを泣かしたなんてことになったら、ミルフィーに殺されちまうからな。」
「でも少し残念だと思いませんでした?」
「そりゃーな・・・って、おい、レイム!」
思わず焦り、レイミアスを軽く睨む。
「あはは。」
「なんにしろ、ことミルフィアのことになるとものすごい勢いでしたからね、ミルフィーは。」
「そんなに?」
「それだけあんたが大事なんだろ?」
「・・・・」
ミルフィーのことを思い出したのか急に黙ったミルフィアに気づき、レオンは慌てて言葉を続けた。
「だからお前も自重するんだぞ?」
「え?」
レオンに指摘され、思わずどきっとするレイミアス。
「そ、そんなこと・・ぼく・・・」
慌てて否定しながらながらちらっと見たミルフィアの目が沈んでいるように見え、レイミアスはまたしても慌てて付け加える。
「あ!決してミルフィアがかわいくないとか魅力がないとかじゃなくて・・・どっちかというと、とってもかわいいと思うし・・・・っと・・え、え〜っとですね〜・・・」
「ほらほら、危ねーぞ。」
「あ・・だから、ほら、そうじゃなくって・・・・あ〜もう!どう言ったらいいんですか?」
ますますレイミアスは言葉に困る。
ははははは!と大きく笑うとレオンが真剣な表情で言った。
「そうだな、ミルフィー代行としては、お前よりあいつの方が気になるな。」
「え?あいつって・・・カルロス?」
話題の中心が自分でなく他に代わったことに胸をなで下ろすレイミアス。
「そうだ。戦闘中もぴったりくっついていやがるし。まー、確かに腕は認めるが・・・」
気に入らない、レオンの目はそう語っていた。
「カルロスはわたしが頼んだの。」
「頼んだって・・・まさかミルフィア?」
レオンはすでに完全にミルフィーの境地に達していた。
「あ、い、いえ違います。そんなんじゃないです。そんなんじゃ・・・」
レオンが何を言いたいのか悟ったミルフィアは、赤くなって慌てて否定する。
「確かにカルロスは腕も立つし、頼りになります。でも、お二人のように一緒にいるとほっとするというわけには・・」
「ほっとする?オレたちといると?」
「え、ええ、まるでフィーもそこにいるみたいな気がして、わたし・・」
事実、ミルフィアには、2人の間に笑っているミルフィーが見える気がしていた。
「そっか・・よ〜し!」
ミルフィアの言葉に嬉しそうに微笑んだレオンは拳をぐっと握る。
「レオン?」
そんなレオンをレイミアスが不思議そうに見る。
「決まってるだろ?ミルフィアに気があるってんなら別だが、そうでないなら遠慮はいらねー。」
「何を?」
「ったく相変わらず鈍いな、レイム。だから、ミルフィーが戻るまで奴には指一本触らせないってことだよ!」
「あ・・・そ、そうですね、そうですよね。うん。」
「当然お前もだからな。」
「え?・・・あ、あはははは・・。」
きょとんした目でミルフィアに見つめられ、焦ったレイミアスはひたすら笑いでごまかしていた。



「複雑な気分ぢゃろーの。」
老婆は、少し離れたところで賑やかに話し込んでいる3人を見つめていたカルロスに話しかけた。
「・・・・・ガキだな・・・・」
面白くないといった表情で、カルロスは笑い合っている3人から目をそむける。
ミルフィアの笑顔は自分自身が必ず取り戻してやる、そう思っていたカルロスは、今、目の前で楽しそうに笑っているミルフィアに安堵を覚えた。が、よかったと喜んでいる自分と共に、それが他の男によるものだということに、自分自身に対しての憤りとショックをも感じていた。
(確かにあの2人が一緒なら心強い。これなら魔の洞窟もなんとかなるかもしれん。・・が・・・。)
「サラマンダー使いと、聖龍の法力の持ち主・・・か。」
小さく呟いたカルロスは、無意識にぐっと腰の剣を握りしめていた。
が、すぐ立ち直るのがこの御仁の最大の長所でもある。
「だが、まー、お嬢ちゃんの恋心に火をつけるのは、やっぱりオレしかいないだろうな。」
レオンとレイミアスが共同防衛作戦をたてているとは思ってもいないカルロスは勝手に確信する。
「さ〜てね。油断してると足元救われるぞい。」
ふぉっふぉっふぉっと意地の悪い笑みを浮かべる老婆に、カルロスは思わず舌打ちした。



「んじゃー、そろそろ行くか?」
レオンがレイミアスとミルフィアに笑顔で言う。
「そうですね。」
「はい。」
「魔窟も近い。気を引き締めて行くぞ。」
出発する気配を感じ、ミルフィアに歩み寄ってきたカルロスが言う。
「はい。」


そこに行けば、確実にミルフィーの身体があるという保証はない。が、彼らは進む、そこに何が待ち受けていようと、自分の信念を貫くために。
「フィー、待っていてね。必ず見つけるから。」
ミルフィアは剣をぐっと握りしめて決意を新たにしていた。

 



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】