青空に乾杯♪


☆★ <<第54話>> 始めましての再会 ★☆


 その夜から1週間後、ミルフィアはカルロスと老婆とともに聖魔の塔の大扉の前に立っていた。
−ギギギギギーーー・・・−
ゆっくりと開いていく扉。ミルフィアは緊張して見つめていた。
「さて、行こうかの?」
老婆が小さく呟く。
「ああ。」
短く返事をするとカルロスは、緊張し、こわばった表情をしているミルフィアの肩にそっと手をかけると、大丈夫だ、と微笑む。
最初自分がくどいていたのが男のミルフィーだと聞き、確かに、その時は、オレとしたことが・・・と、一時ショックで落ち込んだカルロスだが、そこは持ち前のアグレッシブさで切り替える。ミルフィアが中にいたから惹かれたんだ、と。そして、カルロスは決心していた。何があろうとミルフィアを守り、兄であるミルフィーの身体をみつけてみせる!と。たとえどんな危険な場所であろうと。

そのミルフィアの状態はあまり改善されていなかった。が、どうあっても行くというミルフィアと、カルロスも同行するということで、老婆はしぶしぶ承知した。「乗りかかった舟ぢゃ、わしも行こう。」


大扉を開け入っていこうとした時、突然、異常なまでの魔力を感じ、3人は身構えた。
−シュオーーーー・・・ごごごごぉ〜〜〜−
大扉の横、燭台の上にあったランプの炎が躍り上がりながら突如大きく燃えさかる。それは瞬く間に天上まであるサラマンダーの姿となった。
「む!」
3人は攻撃を予想して構える。
その力を尋常のものではないと感じた老婆とカルロスは、ミルフィアを守るように立つ。
まだ大扉の前だというのに、なぜこんな強力な魔物が現れるのだ?と思いながら。
−しゅおん−
が、緊張して身構えた3人の期待を裏切り、サラマンダーは人影を残して消えた。
「ん?」
「ん?」
くるっと振り向き目が合ったその人影と老婆が呟く。
「ああ・・・近くに人がいたのか。驚かせて悪かったな。魔物じゃないから心配しないでくれ。」
「驚かない方がおかしいというものぢゃろ?」
「あはは・・悪い、悪い。」
文句を言った老婆に、頭をかきながら謝る人物、それは紛れもなくレオンだった。
「ぢゃが、お前さん、たいしたもんちゃの。サラマンダーを召還できる、しかも転移に使えるとは。」
サラマンダー召還魔法は、普通では到底身につけることが出来ない魔法とされていた。そして、単なる攻撃目的でもサラマンダーの召還はよほどの魔力でないと不可能であるのに、ましてや転移の為となるとそれこそサラマンダーを意のままに操る強力な意思、もしくは、相互の意思の疎通が必要となってくる。
「あ、ああ・・・ちょっと身に付けるチャンスがあったもんでな。」
あはははは、と照れ笑いするレオンは、老婆とカルロスの後ろにいるミルフィアに気付く。
「・・・って、あ・・あれ?なんだミルフィー、まだこんなところでちんたらしていやがったのか?なにやってんだ?オレにえらそうなこと言いやがったくせに!」
「ほ?」
「何?」
唖然としている2人の横をすっと通り過ぎ、レオンはミルフィアの前に立つ。
「着いた早々会えるとは思わなかったが、よかったぜ、運がいいな。」
そう言って肩をだこうとするレオンをミルフィアは無意識に1歩下がって避ける。
「おい・・・なんだよ、そりゃ?・・もしかして新しい仲間ができたってんで、前の仲間はお払い箱ってか?」
ついいつもの調子で憎まれ口をたたくレオン。が、心では決してそうは思っていない。レオンもまたミルフィーがそんな人間ではないことをよく知っている。
が、冗談にしても様子がおかしい。レオンはぐっと近づいてミルフィアの鼻先で囁いた。
「まさか・・・ミルフィア・・?」
「あの・・・もしかしたら、レオン・・・さん?」
不安げに曇ったレオンの表情が驚きのそれになった。
「お、覚えてるのか?」
まさか実際に覚えているとは思っていなかった夢の中での出会い。レオンは目を大きくしてミルフィアを見つめていた。
「はっきりとじゃないけれど、でも、覚えてます、わたし。フィーのお友達で、気落ちしていたわたしにいろいろ話して励ましてくれた・・・」
「ミルフィア・・」
思わずミルフィアを肩に手をかけ、抱きしめようとしたレオンをカルロスの手が止めた。
「何者だ?」
「何だよ?あんたこそ何者なんだ?」
自分の肩をぐっと持ったカルロスの手を振り払うと、レオンはぐいっとにらみ返す。
「あ・・あの・・・・」
そんな2人の様子にミルフィアはあたふたする。
「よしなされ、2人とも。嬢ちゃんが困っておるぢゃろ?」
「む・・・」
「ふん!」
「とにかく、ここではなんぢゃ。ちと向こうで話でも。」
バタンと大扉を閉めると、老婆は横に広がる通路をあごで指した。



「するってーと、ミルフィーは?」
通路の片隅でレオンとミルフィアは適当な瓦礫に腰をかけて話していた。
その質問にミルフィアは悲しげな視線をレオンに向ける。
「で・・・・勿論レイムにも・・まだ・・・・?」
返事の代わりに弱々しくミルフィアは頷く。誘魂の術の間でのレイムの記憶は全くなかった。
「そっか・・・・。」
夢の中ではまるっきりのお嬢様だった。そのミルフィアがミルフィーを助けたい一心で戦うことを覚えた。レオンはそのいじらしさに感動するとともに、心配にもなってきていた。
もっともミルフィーとの約束があるし、たとえそうでなくても協力するつもりだったレオンはミルフィアに協力することを即決心していた。
そして、ミルフィアもまた夢の中であり、全部はっきりと覚えているわけではないが、しばらく一緒だった記憶のあるレオンに、ミルフィーの友人であるレオンに安堵感を覚えていた。


少し距離をおいて、あれこれ話しているそんな2人にカルロスは面白くなかった。が、邪魔をするのも大人気ない。いらだちながらも老婆とともに休憩をとっていた。苦虫を噛み潰したような目でレオンを睨みつつ。
「ふぉっふぉっふぉ・・・ライバル登場か・・・心配かの?」
「少し黙っててくれないか。今はおばばの冗談でさえ頭にきそうだ。」
そんなカルロスを面白そうに見ていた老婆が軽い気持ちで言った言葉に、カルロスはつい敏感に反応していた。
(こりゃまた面白くなりそうぢゃ・・・)
老婆は心の中で呟くとミルフィアとレオンに視線を移した。



そして、いよいよ迷宮の探索が始まった。ともかく中層部を目指して、魔物と戦いながら4人は進んだ。
そしてもう少しで中層部に入ると思われる地点。そこで4人は次々と襲い掛かってくる強力な魔物に少し手を焼いていた。
「どっから出てくるんだか・・・・ったく・・・うざってーなー!」
もうずいぶん休憩も取らずに戦いつづけていた。レオンはミルフィアの表情に疲れが表れてきたことに焦りを覚えていた。それはすぐ傍でミルフィアを守るように剣を振るっているカルロスも同じだった。1匹でも多く自分の方に引きつけること、ミルフィアの負担を軽くすることのみ考えながらカルロスは戦っていた。
「しかたねー・・・一丁行くか。まだちょっとこれをするには回復しきってねーんだが。」
そう呟きながら精神を集中する。
「ミルフィア、カルロス、頭下げろ!」
その声に反応して、反射的にさっとミルフィアは頭を下げた。
「よ〜し、食い尽くしちまえ〜〜〜!!!」
叫んだレオンの両手から、真っ赤なサラマンダーが飛び出す。それは瞬く間に通路いっぱいの大きさとなった。
−ぐごお〜〜〜〜〜〜!!−
「くっ!あの馬鹿っ!」
レオンの方を振り向いたカルロスの目に写ったのは、2人とも飲み込むかと思われるほどの大きさの火球。思わず呟きながら、ミルフィアをかばう。
老婆も間に合いそうもなかったが、慌てて防御魔法を彼らの周りに張ろうと呪文を唱える。
が、巨大なサラマンダーは2人の直前で数十ものそれに分裂し、当然のように彼らを避けると魔物へ直進していった。
−ぐわあああ・・・−
あっという間に魔物の群れは火に巻かれ消滅していく。
「レオン。」
肩で息をしながらミルフィアがレオンを振り向く。
「ははは・・」
ミルフィアの表情にお礼の意味を感じると、レオンは思わず照れ笑いする。
「・・・っと」
魔力を使いすぎたため、ふっと眩暈がレオンを襲った。
「レオン!」
慌ててミルフィアが駆け寄ろうとした時だった。
−ほわ〜〜〜〜〜〜−
周囲が淡い光で覆われたような感じがし、4人はそれまでの怪我が、疲れが嘘のように回復していくのを感じた。心がほっとするような暖かさを感じながら。
「相変わらず無茶するんだから、レオンは。もう少し力の残量を考えてから術を使ったらどうなんです?」
「ん?」
声をした方向をみる4人。
「レイム!」
その声の主を認め、その名を叫ぶレオン。
「レイム?」
思わずミルフィアはどきっとする。
「なんだ、レイム、お前、村は?」
「もう大丈夫です。」
「本当か?」
「嘘をついても仕方ないでしょう。」
そして、ミルフィアがじっと自分を見つめていることに気づいて視線を彼女に移す。
「あ!」
「あ、レイム・・実はな・・」
ミルフィアに駆け寄ろうとするレイミアスに事情を簡単に説明しようとしたレオンは、逆に耳元でそっと呟いたレイミアスの言葉に驚く。
「なにっ〜〜〜?!うぐっ・・」
その驚きのあまり大声をだしてしまったレオンの口を慌ててレイミアスはふさぐ。
「嘘・・・・じゃーねーよな?」
少し落ち着いてからレオンはレイミアスに小声で聞く。
「嘘でした、で、すませれることじゃないでしょう?」
「そ、そだな。」
レイミアスが嘘をつくような人物でないということはレオンにはよく分かっていた。が・・・・
「だけど・・・・」
「こんなところでゆっくり話すわけにもいきませんよね。また休むときにでも。」
にっこりとレイミアスはレオンに笑顔を投げかけた。
「そうだな。あ!」
じっと2人を見つめているミルフィアに気づいたレオンは、レイミアスのことを簡単に説明する。
そして、怪訝そうな顔をして見つめているカルロスと老婆にレイミアスは丁寧にお辞儀をする。
「あ、どうも初めまして。ぼく、ミルフィーやレオンとついこの間まで一緒に行動してた僧のレイミアスと言います。みんなからはレイムと呼ばれてます。」
「あ・・ああ、よろしく。オレはカルロス。で、こっちはおばば。」
「はい。よろしくお願いします。」
にこっとさわやかな笑顔を投げかけるレイミアスに、カルロスも老婆も少なからず驚いた。こんな少年が?と。今の回復魔法が上級のものであればあるほど、この歳若い少年から放たれたものだとは信じられなかった。

が、先に進むと同時に再び戦闘に入り、2人は今一度驚きと共に納得した。確かに彼らが一緒に探検していただろうということとその実力を。
それは、レオンとレイミアスの見事なまでのコンビネーションとその長けた術。
ミルフィアの剣を援護しレオンの放つ火炎が飛ぶ。その2人をまた援護するかのように回復魔法をかけつつアンデッドを次々と昇華させていくレイミアス。浄化ではなく昇華。浄化は強制的にロストさせるもの、それに対して、昇華は、まずその心を善に目覚めさせ、邪悪を払ってからそのものの意思で昇天させる。その違いは大きく、故に身に付けることは至難の業とされていた。しかも瞬間的に昇華させている。そのことに老婆は目を見張った。若かりし頃、老婆が目指して得られなかったもの・・・聖龍の法力が彼と共にそこにあった。一見気弱そうなまだ年若いその少年僧に。
「そうか・・・あの少年僧の純な心・・・純粋に全てを慈しむ心があるからこそ身につけることができたんぢゃな・・・。」
汚れきったわしでは到底無理とういものぢゃ、そう思いながら老婆は悟った。そしてレイミアスの力を正直に認めた。


「いいぞ、ミルフィア、そこ!右!・・・そいつは右の太ももが急所だ!」
それまでの経験で得た知識をミルフィアに教えながら、レオンとレイミアスは、ミルフィアを守って進むことに全力を尽くしていた。
もちろん、カルロスもミルフィアにぴったりと寄り添っているということは、言うまでもない。2人と競うように。
で、老婆は・・・・後ろを見つつ彼らの最後を進んでいた。

「ん?だれぢゃい?わしが役にたっとらんとか思った奴は?よいかの、わしは後方からの攻撃にそなえとるんぢゃ。若いモンは前しか見とらんからの〜。ふぉっふぉっふぉ。」

 



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