青空に乾杯♪


☆★ <<第51話>> ミルフィアの決意 ★☆


 「はー・・はー・・・・・」
老婆の家から少し離れた森の中、肩で荒く息をするミルフィアの姿があった。その手にはしっかりと剣が握られていた。ミルフィーの形見となった剣が。
−ヒュン!−
突然、ミルフィアめがけて矢が1本飛んでくる。それをほんの少しの間を置いてミルフィアが軽くかわすと、矢は大木に突き刺さった。
−ザスッ!−
「えっと・・・・」
ガサガサと矢につけられた紙を広げ、それを読む。
『そろそろお昼ご飯にするから帰っておいで。』
「オッケー、おばば。」
にこっと笑うとミルフィアは家へと向かった。

 

箱さんからいただきました。
ありがとうございました。m(__)m

 

ミルフィアが目覚めて2月半が過ぎていた。ほぼ2週間はただぼんやりと過ごしていたミルフィアだった。が、その間おそらくずっと考えていたのだろう。老婆やミルフィーが考えていたこととは全く反対のことをミルフィアは決意していた。
それは、とりもなおさずミルフィーの身体を探すこと、それだった。
勿論ミルフィーとの約束もある。老婆は断固反対した。が、ミルフィアは頑として首を縦に振らなかった。何があってもたとえどのような結果となったとしても後悔はしない。できる限りのことはしたい、もう二度と後悔しないように。自分が自分であるために。胸を張って生きていくために。そう言い切ったミルフィアの目に迷いは全くなく、老婆はしぶしぶだったが、それを許した。
(この強情さは兄貴そっくりぢゃて。)老婆はため息をついて根負けしたのだった。

そして翌日から鍛錬の日々が始まった。
肉体は、なるほどミルフィーが必死になって鍛えただけはある。カルロスがその腕を認めるだけはある。2週間のブランクもさほど感じさせないタフさと敏捷性をもっていた。が、その肉体を動かす精神は・・・・・まるっきりお嬢様だった。・・・・その固い決意とは裏腹に。

見事なまでの反射神経で攻撃は避けることができても、自分から攻撃するとなるとそうはいかない。それは身体の操縦者が動かすものだから。
それでも必死になってミルフィアは鍛錬に没頭した。ミルフィーが耐えたのならわたしにもできるはず、そう自分に言い聞かせ、必死で戦うすべを覚えていった。
最初は戦うことの基本を、次に森での訓練。そして、最後は老婆のイリュージョンの魔法による訓練へと入ってきていた。

イリュージョンとはいえ、現実と思えるほどの完璧さを持つ老婆の術。初めてそれに挑戦した時のミルフィアは、老婆が諦めろというほどの状態だった。
強烈な敵意を、そして悪意を自分に向けながら襲い掛かってくる魔物。そして、自分の一振りが彼らを傷つけ、血が、脳漿が、内臓が飛び散る。彼らの体臭と血臭、そして見るも無残な亡骸。たとえ魔物だといえ、ミルフィアには耐えられず、思わず戦闘中だという事も忘れミルフィアは目をそむけてしまった。
「今お前さんは死んだ。」
その時老婆が言った言葉はそれだった。

それから3日ほど、ミルフィアは落ち込んでいた。が、決意は変わらなかった。変わらなかったが、震えてどうしてもイリュージョンの訓練には入れないでいた。
その結果、一歩戻り、ミルフィアは森での訓練に没頭していた。イリュージョンの訓練の時の幻影と戦いながら。それをしっかりと受け止めれる自分を探しながら。



「よう!お嬢ちゃん!」
「カ、カルロス?」
家へ戻ったミルフィアをその先の庭で待っていたのは、カルロスだった。
「元気だったか?」
微笑みながら近づいてくるカルロスに、無意識のうちに後ずさりするミルフィア。
「おいおい・・それはないだろ?お嬢ちゃん・・・・まったく相変わらずなんだからな。」
苦笑いするとカルロスはミルフィアをその手で捕まえるべく大またに近づく。
「お嬢ちゃんに会えなかったこの2月半・・・オレがどんな思いでいたか・・・・どんなに心配だったか・・・・」
ミルフィアとして気づいたとき、その日以来カルロスはミルフィアに逢わせてもらえなかった。



その日・・・・
「よー、お嬢ちゃん、ようやくお目覚めかな?」
散々泣きじゃくったあと再び眠りにつき、そして次に目覚めたとき、カルロスが部屋に入ってきた。
「ん?どうした?・・・・まだ気分がすぐれないのか?・・・」
(だれなの?私を知ってる?・・・ううん、フィーを?)
ミルフィアはじっとそんなカルロスを見ていた。
「どうした?オレの眠り姫。・・・ん?」
傍らにより、手をミルフィアのあごに添えるとその顔を自分のほうへ向ける。
いつもの彼女にならここで冷たく突っぱねられる。いや、その前にこんな無用心に自分を近づけさせない。きつい視線と全身から警戒を放つはずだった。
どうしたんだ?そう思いつつカルロスはそのままでじっとミルフィアを見つめた。
気のせいか以前の彼女より少女らしさが増しているように感じた。どこがどうというわけではないが、そこはかとなく雰囲気が違う、そんな感じを受け、カルロスは一瞬戸惑った。
が、すぐ気を取り直す。そう感じるのはおそらくオレがこの少女にまた一段と惚れたんだろう、そう思って。
「お嬢ちゃん、・・・もしかしてようやくオレを認めてくれたのか?」
「あ、あの・・・・」
「ん?」
徐々に赤く染まっていくミルフィアの顔を見、カルロスは勝手に確信して、未だじっとしているミルフィアの唇に自分の唇を近づけた。
「きゃあ!」
どん!とカルロスをはねつけ、ベッドの上でその身をくっつけるように壁にはりつくミルフィア。
「お、おい・・・お嬢ちゃん・・・・」
意外な反応だった。あそこまでいってこんなに見事に拒絶されたことはなかった。
それに、その反応はいつもの彼女のものではない。
「大丈夫か、お嬢ちゃん?」
まだ熱でもあっておかしいのか?と、ミルフィアの額に手をあてようと手を伸ばす。
「寄らないで!」
その声も多少高いようにも聞こえ、そして口調もいつもと違っていたが、その拒絶する様は、いつもの通りだった。いや、むしろいつもより冷たい感じもした。
「ホントにどうしたんだ、お嬢ちゃん?」
術中のことは全く覚えてはおらず、また、まさか中身(心)が代わっているとも思わないカルロスはますます心配になる。
「これこれ、カルロス。まだ本調子でない嬢ちゃんをからかうんぢゃない!」
そんな時老婆が入ってきた。
「おばーさん。」
安堵した表情で自分を見つめるミルフィアに老婆は笑顔を送る。
「ほれ、あんたは外!」
「お、おい・・おばば、オレはからかってるつもりなんじゃ・・・」
ぱこん!と持っていた杖で叩かれたカルロスは言い訳をする。
「本気ぢゃから困るんぢゃ。」
「ん?なんだ、おばば?」
老婆の呟きは小さすぎてカルロスにもミルフィアにも聞こえなかった。
「いいから!今は席を外しておくれ!」
いつになく強い口調の老婆に、カルロスは普通ではないことを感じ、それ以上意見もせず部屋の外へと出て行った。


それ以来、家の周囲に対カルロスの結界でも張りめぐらせたのか、カルロスは1歩たりとも老婆の家に入れなかった。行こうと思って近づいているつもりが、いつの間にか村へもどっていたりした。
それは、単にカルロスから守るためではない。今後のミルフィアの行動が決まっていない今、ミルフィアが別人だとばれてはまずいかもしれないという懸念があったからだった。
そして、ミルフィアがミルフィーの身体の探索を決意したときから、同人物に思えるように 戦闘の訓練と共に、態度や言葉遣いなどの修正もし始めていた。もちろん、老婆が知りうる限りのそれまでのミルフィーの経験も話した。もっともカルロスのことは名前のみで、あとのことは伏せておいた。老婆の探検仲間であり、ミルフィーとは迷宮で出会ったとだけしか。
(好きになるかならないか、下手に先入観があるより、白紙からの方がいいぢゃろ。)老婆はそう考えていた。



「いつになったら花のような笑みをオレに投げかけてくれるんだろうな?」
久しぶりに会えた嬉しさで、できることなら抱きしめたい衝動にかられていたカルロスだが、そこはぐっと我慢し、今はミルフィアの目の前に、すぐ傍にいることに満足することにした。
「当分無理だな。」
老婆の指導の成果、ミルフィアはミルフィーらしいぞんざいな言葉でカルロスに返す。
「当分?・・ということはそのうちには、ということか?」
「え?」
カルロスから意外な言葉が返り、思わず自分の口調が出ると同時に、驚きの目でミルフィアはカルロスを見つめる。
「いつまででも待つとは言ったが・・・・今回のようなことがあると考えてしまって、オレも自信がなくなりそうだ。」
すっと頬に手をすべらす。
「それに・・・久しぶりに見るお嬢ちゃんは、まるで蕾から花へと開花していく大輪のバラのようで・・・」
「あ、あの・・・・」
こういう場合どうしたらいいのか、ミルフィアは困惑していた。ここまでは老婆も教えてくれなかった。
それに頬にあてられたカルロスの手、頬に感じるその温かみからは、嫌悪感は微塵も感じられない。それよりもなつかしいような、心落ち着く暖かさを感じ、ミルフィアは戸惑っていた。
「・・・できるならその宝石のような瞳にはいつもオレだけを映していてほしい・・・・・お嬢ちゃん・・・」
−ぱっこーーーん!−
いきなり背後から頭を殴られ振り返るカルロス。
「お、おい、おばば・・・・」
そこには杖を持った老婆がカルロスを睨んでいた。
「お前さんを呼んだのは口説かせる為ぢゃないよ!」
「呼んだ?」
せっかくのチャンスを逃し、不機嫌な顔をしているカルロスとは反対に、ミルフィアはほっとして老婆に視線を移す。
「そうぢゃ。一緒にイリュージョンの訓練をしてもらうためにの〜。」
「カルロスと?」
「そうぢゃ。まずは、普通に手合わせして、それからイリュージョンに入る。」
「イリュージョンに・・・」
自信はなかった。また気が動転するのでは、呆然となってしまうのでは、とミルフィアは心が重くなる。
「事情はおばばから聞いた。オレがついてるから大船に乗ったつもりいて大丈夫だぜ、お嬢ちゃん。なに、感覚なんてすぐ元に戻るさ。要はきっかけなんだろう。な、おばば?」
「ああ、そうぢゃ。」
瘴気に覆われたショックの余韻とカルロスには話してあった。
そして、このハードルをクリアしないことにはミルフィーの身体を探しに行くことはできない。
聖魔の塔に入ることは到底無理だった。
「ともかく、食事にしよう。お前さんも一緒に食べるぢゃろ?」
「もちろん。」

やさしげな笑顔を自分に向けるカルロスを、ミルフィアは複雑な思いで見ていた。果たして信用していいのか悪いのか。悪い人ではなさそうだが、どうも気を許せない、そんな感じを受けていた。

 



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