青空に乾杯♪


☆★ <<第48話>> 鏡の中のミルフィア ★☆


 

 「大丈夫か?」
再び目覚めたミルフィーの目に飛び込んできたのはやはりと言おうか、カルロスの笑顔だった。
「あ・・ああ・・・・・ご、ごめん・・・・。」
疑ってしまったことと迷惑をかけてしまったことに対して、小声ではあったがミルフィーは謝り、その意味を解したカルロスはふっと微笑む。
「気にしてないさ。それよりもお嬢ちゃんが無事でよかったぜ。」
「っと・・・」
ふと自分の右手がカルロスの両手に包まれていることに気づき、ミルフィーは慌てて手を引き、カルロスはそんなミルフィーに少し残念そうな悲しみを帯びた笑顔を見せる。
「あ・・あの・・・・・・」
そのカルロスを見て、ミルフィーは自分が何かとても悪いことをしたような罪悪感を感じた。
が、この場合そうするしかないし、言い訳しようにも言葉がみつからない。
「どうした?お嬢ちゃんらしくない・・まだ回復しきってないのか?」
ははは、と軽く笑い、まだ横になっているミルフィーにその顔を近づけ、そっと手を頬にあてる。そしてすっとその手をうなじへと滑らせる。
「な、何するんだよ?」
確かに身体がまだ重かった。が、そんなこと言ってる場合ではない。ミルフィーは勢いよく上体を起こした。
「はははははっ!それだけ元気があれば心配ないな。」
「な、なんだよ・・・ったく・・・からかうのもいい加減にしろよな?」
「ん?オレがいつからかった?・・・オレはいつでも本気だぜ、お嬢ちゃん。」
すっとベッドの端に腰を下ろすとカルロスはミルフィーと向かい合う格好となった。しかも目の前であり、身長の差でまるでミルフィーを包み込むような感じに。
(やば・・)
ミルフィーの頭の中で警鐘が鳴っていた。
「そうだな・・少しは悪いと思ってくれているのなら、じっと我慢していたナイトにお姫様直々の褒美がもらいたいもんだな。」
(な、なに〜〜〜?!)
ミルフィーの顔色は一気に真っ青になる。
(き、危機はこれからってか?・・・そ、そんな・・・じょーだんじゃないぞ!)
急いで身体を動かそうとするミルフィー。が、シーツの上にカルロスが座っていて自由がきかない。
(なんで男のオレがこんな思いをしなくちゃいけないんだ?)
他に抵抗手段も考えられない。なんとかしようと思えば思うほど焦りだけでなんともならない。
「く・・・はっはっは!」
そんなミルフィーを見て、いきなりカルロスは笑い始めると、すっと立ち上がった。
「まったく・・・退屈しないな。ホントにお嬢ちゃんのような子は初めてだよ。」
「な、なんだよ?」
「いや、そこがまた気に入ってるのさ。お嬢ちゃん。」
カルロスが立ち上がり、ミルフィーがほっと油断したその瞬間だった。
その意表をつき、カルロスは素早くミルフィーの顔を上げさせると軽くキスをする。軽いキスではあったが、唇が触れ合ったことは確かだった。
「このくらいのご褒美ならいいだろ?」
あまりにも瞬間的なハプニングで驚いて声もでないミルフィーに、カルロスはにこやかにウインクした。

−ガチャリ−
ドアが開き、先ほどの老婆が入ってくる。
「おや?もしかしたらお邪魔ぢゃったかの?」
「さ〜て、どっちなのか?」
カルロスは老婆にとぼけた笑いを投げる。
カルロスにとっては邪魔だが、ミルフィーにとっては助け船。
「今回ばかりは色男も苦労してるとみえるのー。」
「そうだな・・・惚れ薬の調合でも頼もうかと考えてるところだ。」
「わしはいつでも引き受けるぞい。」
「じゃーそうするか?」
「じ、冗談じゃないっ!」
黙って2人の会話を聞いていたミルフィーが慌てて叫ぶ。
「ふぉっふぉっふぉ。冗談に決まっておる。」
「そ、そうなのか?」
「当たり前ぢゃ。薬に頼るなんて事は、色男の名にかけてやらんぢゃろ?の〜、カルロス?」
「まーな。薬などに頼らなくても、いずれオレの虜になるさ。な、お嬢ちゃん♪」
「な・・なるわけねーだろ?」
「そうか?」
再び近寄ると、すっとミルフィーの頬に手を添える。
「そうだよ!」
ミルフィーは、ぱん!とその手を払いのけカルロスをにらみつける。
「ふぉっふぉっふぉ・・2人ともそのくらいにしておきなされ。さてと、もうすっかりいいようぢゃの?この服を着なされ。」
「これ?」
老婆が差し出した服は、ミルフィーが着ていたものではなかった。
「こ、これ?」
それは清楚なものだったが、明らかに女用のドレス。しかもパステルピンク。
「オレのじゃないぞ、こんな服。」
ぶすっとして老婆にドレスを差し出す。
「必要なんぢゃよ、誘魂の際に。」
耳元で小さく囁いた老婆にミルフィーはびくっとする。
「なんでだよ?」
「それはお前さんの方が分かってるぢゃないのかの?お前さんの中にいるのは女性ぢゃろ?」
「あ・・・・・」
「おいおい、何2人でこそこそ言い合ってんだ?」
そんな2人にそのことを知らないカルロスは怪訝そうに言う。
「いいから、お前さんはちょっと外へ出ておってくれ。嬢ちゃんが着替えられないぢゃろ?」
「なんか・・気になるんだが・・・仕方ないか、ここは出ているとしよう。これ以上お嬢ちゃんに睨まれたくはないからな。」
パタン、カルロスはミルフィーに笑顔を残すと部屋から出ていった。


「で、よかったら少し話しておくれでないかい?」
「は?」
「ぢゃから、お前さんと中にいる女性とカルロスの前世とは何があったのか。」
「・・・・術に必要なのか?」
「0よりあった方が成功率は高くなる。」
服を身につけながらミルフィーは考えていた。
一癖も二癖もありそうな老婆ではあるが、人はよさそうだった。悪人にはみえない。
「それはいいけど・・・・」
ミルフィーは話すことを決心した。
「いいけど、どうもこうドレスってのは落ち着かないな。」
女物を着たのは、あの忌まわしい夜が明けた翌日、寝ていた自分が身につけていたミルフィアのパジャマ以来だった。
「なかなかお似合いぢゃぞ。」
ほっほっほと老婆は笑みを見せる。
「ほら、こっちに来てごらん。」
部屋の片隅に小さめの姿見があった。老婆はミルフィーにおいでおいでをするとその前にあるイスに座らせた。
「・・・と・・・・・・」
男物の服か鎧姿の自分し見ていないミルフィーは、ドレス姿の自分を見るのは初めてだった。だいたい鏡を覗いてみるなんてことはしたこともなかった。その恥ずかしさと違和感を感じながら鏡の中の自分を見た。
そんなミルフィーをにこにこして見ながら、老婆はやさしくその髪を整える。
「赤いリボンがよく似合いそうぢゃ。」
無造作に後ろでしばっていた髪をとき、老婆の手によって整えられていく。目を覆っていた前髪は上に上げられ赤いリボンで束ねられる。やわらかそうな髪が両頬と肩にふわっとかかる。

 

箱さんからいただいた鏡の中のミルフィアです。
いつもありがとうございます。(^-^v

 

「フィア・・・・」
鏡に映っているのは、ミルフィーではなく、まぎれもなくミルフィアだった。
ミルフィーは思わず我を忘れて鏡の中の少女を見つめる。
「カルロスの目は確かぢゃったってことぢゃな。」
ふぉっふぉっふぉっと笑いながら老婆が言った。
「何をとち狂ったか色気もなんもない、しかも女の自覚がからっきしのようなまだまだガキに本気になりおって、と思っておったが・・・・。」
ミルフィーはそんな老婆の声を遠くに聴きながら、鏡に見入っていた。数年前見た時よりぐっと女らしく成長したミルフィアを。
「仕上げにルージュを軽くひいて・・・頬は・・・紅はいらんほどぢゃな。ほんのりピンクでこのままでいい感じぢゃわい。」
「あ・・あの、おばーさん・・・っと・・」
ふと、今の中身は自分だったことに気づき、なんとも居心地悪くなったミルフィーは、ここまでする必要があるのか?と感じ老婆に聞くことにした。が、そういえばまだ老婆の名前も知らなかったことにも気づく。
「ふぉっふぉっ・・おばばでいいわい。名前なんぞどこかに置き忘れてきたわい。」
「じゃー、おばば・・その、つまりその誘魂の術ってのはここまでする必要があるのか?」
「ふむ・・・そのカッコぢゃと、その物言いにはすっごく違和感があるの〜。ふぉっふぉっふぉっ。」
「おばば!」
「悪い、悪い。ちゃかして良いことぢゃなかったの。まー、その、なんぢゃ・・・」
「なんだ?」
「それは単なるわしの趣味ぢゃ。」
「って、おばば!」
−ガタン!−
思わずイスを蹴るようにして立ち上がるミルフィー。
「すまん・・・あんたを見てたら、つい、むか〜し亡くなった孫娘を思いだしての〜・・・」
「あ・・・・」
どうにも今の自分の姿では落ち着かない。せめて化粧と髪だけは元に戻してもらおうと思ったミルフィーだが、老婆のその沈んだ面もちと言葉で口に出せなかった。
「まー、ここへお座り。かわいい顔をもっとよくばばに見せてくれないか?」
「・・・・・・・」
ミルフィーは黙ったまま、老婆のすぐ前、窓際のイスに座った。
「うんうん・・・かわいいの〜。あんたは磨けばもっともっと綺麗になる子ぢゃよ。魔の迷宮になぞ行かせたくはないの〜。」
「オレは・・・」
「分かっておる。よほどの訳ぢゃろ。話しておくれ、このばばに。」
「あ・・ああ・・・・・・」


 そしてミルフィーはかいつまんでだが、老婆に忌まわしい出来事と自分が男であり、今のこの身体は妹のものだということを話した。妹を目覚めさせるため、そして自分の身体と魔導師レイムを見つけるために魔の迷宮に来たことも。
「そうか・・・・・ぢゃが、男ぢゃとは思わんかったわい、ふぉっふぉっふぉっ。どうりで落ちないはずぢゃ。実はの、やっこさんが落とせなかったのはあんたが初めてなんぢゃ。このことを知れば開いた口がふさがらぬってやつかもしれんわい、ふぉっふぉっふぉっふぉっ!」
「・・・わかったら着替えてもいいだろ?どうもこの格好は・・・」
「ふぉっふぉっふぉっ、落ち着かないかの?よ〜っく似合っておるんぢゃが。」
「おばば・・・」
にこやかに相手をする老婆を、ミルフィーは恨めしげに見つめる。
「まー、もう少し我慢しておくれ。誘魂の術が済むまでの辛抱ぢゃ。」
「ふ〜・・・]
返事の代わりにため息をつくミルフィーを見て、老婆は満足げに頷いた。
「さて、やっこさんがお待ちかねぢゃ。さっそく始めるとしようかの?」
「カルロスにも事情を?」
「いや、下手に話して過去・・といっても前世ぢゃが、とらわれないほうがいいぢゃろ。」
「それもそうだな。」
「いやがおうにも引きずってはおるが・・・。」


果たして術が成功するのか、そしてそれが今後どのように影響するのか、不安な面持ちでミルフィーは上機嫌の老婆を見ていた。

 



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