青空に乾杯♪


☆★ <<第47話>> 想いは紡ぐ・・・ ★☆


 −ガチャリ−
部屋のドアが開き、ミルフィーはカルロスが性懲りもなくまた入ってきたのかと思い、ぎっと戸口の方を睨んだ。
「気分はどうぢゃの?」
「ん?」
入ってきたのは白髪の人のよさそうな老婆。
「薬湯を持ってきたでの。一気にお飲みなされ。」
「おばーさんは?」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな、同業者ぢゃよ。迷宮を探検するお仲間。」
「同業者?」
「そうぢゃ。ここのところカルロスと行動をともにしておる。」
「あいつと?」
「ああ・・・そうちゃよ。腕は立つし、それに男前だしの。」
ふぉっふぉっふぉっと笑う老婆をミルフィーは思わずきつく睨んでしまった。
「なんぢゃ。かわいい顔がだいなしぢゃぞ。」
「あ・・す、すみません・・・つい・・・・」
この老婆は関係ないのに、カルロスという言葉に反応して、無意識のうちでも睨んでしまったことをミルフィーは恥じた。
「ふぉっふぉっふぉ・・・・おおかたカルロスにからかわれでもしたんぢゃろ?」
その睨みが何を意味していたのか、瞬時に悟った老婆は大笑いする。
「からかわれた?」
「そうぢゃ。」
ミルフィーの言葉への返事はせず、老婆は薬湯を飲むように目で示す。
「あ・・・じゃー、いただきます。」
「うんうん、素直ないい子じゃ。」
一瞬その臭いにむっとそながらも、それでもぐいっと飲むミルフィーを老婆は満足げに見つめた。
「うぐ・・・」
「吐きだすんじゃないぞ。お前さんの体内に入った瘴気を消す薬湯ぢゃからの。」
「瘴気を?」
必死で吐き気を我慢しながらミルフィーは聞く。
「そうぢゃ。わしが最初お前さんを見たときは、全身瘴気に染まっておったからの。」
「もしかしておばーさんが助けてくれたんですか?」
「まー、そうちゃのー。瘴気を払ったのはわしちゃが、助けたのは、カルロスになるんぢゃろ。」
思わず『カルロス』という言葉に反応してミルフィーはびくっとする。
「ふぉっふぉっふぉ・・・さっきも言いかけたんぢゃが・・」
「?」
「お前さんの心配するようなことはないから、安心おし。」
「は?」
「ふぉっふぉっふぉ・・・ぢゃから、カルロスにからかわれたと言うたぢゃろ?だ〜いじょうぶぢゃて。お前さんの服を脱がせたのはわしぢゃし、迷宮であんたを肩に背負ったカルロスに出会った時も、そんな気配は感じれらなかったからの。」
「あ・・・え?そ、そうなんだ?」
その一言で完全に信用できたわけではなかった。だが、老婆が嘘をついているようでもない。ミルフィーはほっとして胸をなでおろした。
「カルロスとは数年前から一緒に迷宮を探索しておる。奴の性分は分かっておるつもりぢゃ。女に対してサービス精神旺盛で、来る者拒まずで手も早いが、気を失っている女に手を出すような輩ではない。もっともお前さんの状態じゃそんな段ぢゃないことも奴ならわかってたはずぢゃ。」
「そんな段じゃないって?」
「ああ・・・瘴気に毒され心身ともに硬直状態ぢゃったでな、必死になって闇と戦っていたといったところぢゃろう。ぢゃが・・・・」
「ぢゃが?」
「あんなカルロスも初めて見たわい。左肩にお前さんを抱え、右手に剣を持ち、まるで鬼神のごとく魔物を倒し突き進んでおった。あんな真剣な表情、初めてみたわい。」
「そ、そうなんですか?」
「どうやらカルロスもそろそろ年貢の納め時らしいわい。お前さんのことは本気とわしは見た。ふぉっふぉっふぉ。若いことはいいことちゃのー。」
「だ、だけど・・・・」
オレは男だ、とミルフィーは続けるところだった。それを老婆の言葉がさえぎった。
「糸が見える、銀の糸が・・・・前世からの思いがお前さんの中に繋がっているのが・・・・ん?」
目を閉じ、ミルフィーを心の目で見ていた老婆が、突然目を開ける。
「いや、違う・・・・・お前さんではない・・・では誰なんぢゃ?カルロスの心の奥底に秘められた思いが結い上げた糸の先に繋がっておるのは・・・・?」
両の目をかっと見開き、老婆はそのただならぬ気配に身動き一つしないでいるミルフィーをじっと見つめた。
「・・・・・・・・そうか・・・・お前さんの中にいるもう一人の人物・・・・・・・そうぢゃ、その人物こそがカルロスの錘・・・生が変わってもぬぐえなかったもの・・・・。」
「カルロスの錘?生が変わっても?」
「そうぢゃ。」
ふ〜〜・・と大きく息をつくと老婆は続けた。
「おそらくお前さんもよく知ってるはずちゃ。カルロスの前世を。」
「前世?」
「そうちゃ。なぜあれほどの人物が聖魔の塔にこだわるのか謎ぢゃった。が、それもこれでわかるはずぢゃ。」
「あれほどのって?」
「家柄、身分、能力、どれをとっても申し分のない男なんぢゃ。それがある日突然思い立って聖魔の塔に来たらしいんぢゃ。何かにかきたてられるように、全てを捨ててぢゃぞ。それが何なのか今でもわからないらしいんぢゃ。」
「前世って・・・まさか・・まさかあいつがレイムだなんてこと・・・。」
自分たちと関係がある?それも生まれ変わってまでそれに縛られるほど?・・・ミルフィーが思い当たるといえば、やはり魔導師レイムだった。が、あまりにも性格が違いすぎる。術には長けているとはいえ、控えめなやさしい人だった。ミルフィーが誰よりも信頼し、また頼りにしていた兄のような温かい微笑みをもつ魔導師だった。
(そういえば、なんとなくレイムの笑みに似てたこともあったような・・・い、いや、そんなことあるもんか!たとえ生まれ変わって環境が違っても、レイムがあんな男になるはずないさ!)
ぶんぶん!とミルフィーは頭を振り、その考えを振り払っていた。
そんなミルフィーを見、老婆はにっこりを笑う。
「そうぢゃな・・・・お前さんがもう少し元気になったら、調べてやらんこともない。」
「調べるって、できるのか?」
「誘魂の術がうまくいけば分かる.。こう見えても元高僧ぢゃ。ふぉっふぉっふぉ。」
「誘魂の術?」
「そうぢゃよ、魂を誘う術で、誘魂ぢゃ。これはわしが編み出したとっておきの術でのー、前世を呼び出すことができるんぢゃ。成功率は低いんぢゃが、思いを引きずっておればおるほど、術の成功率は高くなる。」
じっと自分の話に耳を傾けているミルフィーを満足げに見、老婆は続けた。
「ぢゃが、誘魂の鍵としてお前さんを使わなくてはならん。今のお前さんではきついぢゃろうから、もう少し休むんぢゃな。」
「それはいいけど・・」
「いいけど?」
「オレの服はどこにあるんだ?」
「おお、そうぢゃった。汚れておったから洗濯しておいたわい。あとで持ってきておくとしよう。ぢゃから今はお休み。気を楽にして。」
すっとミルフィーの顔面に老婆が手をかざすと、ミルフィーは吸い込まれるように深い眠りに入っていった。
「これまた何か面白いことが起こりそうぢゃ。これぢゃからなかなかこの世とはおさらばできないんぢゃ。」
嬉しそうに微笑むと、ミルフィーにシーツをかけなおし、老婆はそっと部屋を出て行った。



 「う・・・うん・・・・・・」
夢の中、ミルフィーは暗闇の中を一人走っていた。
どこまでも続くその暗闇に恐怖にそまりつつ必死にただ走っていた。
「フィアー?!レーーイムーーー?!」
愛しい妹と魔導師レイムの姿を求めそして、出口を求めて。
「ミルフィー様?!こちらです、ミルフィー様!」
「レイム?!・・こっちって・・どっちだ?レイムー?!」
「こちらですよ。」
ふと気づくと前方に手を差し伸べて微笑むレイムの姿があった。
「レイム!」
その瞬間恐怖も忘れ、ミルフィーはレイムに駆け寄っていく。
「ミルフィー様・・それから、ミルフィア・・様」
差し出されたレイムの手を握ろうとしていたミルフィーは、レイムの言葉ではっとする。自分のすぐ横に気配があった。そう、ミルフィアの。
「フィア!」
立ち止まって、喜びと驚きでミルフィアを見つめるミルフィー。
「レイム・・・」
が、そんなミルフィーに気づく様子もなく、ミルフィアはただじっとレイムを見つめていた。
「ミルフィア」
そしてつい今しがたまでミルフィーを呼んでいたレイムもまたその視線をミルフィアのみに注ぐ。
2人の手がゆっくりと差し出され、その先にお互いの暖かいぬくもりを感じると、レイムはそっとミルフィアを引き寄せ、その胸にやさしくその身を抱く。
「レイム。」
「ミルフィア。」
そのすぐ横でミルフィーは暖かい眼差しで満足げに2人の様子を見つめていた。
が、ふと2人の傍から自分が引き離されていることに気づいて焦り始める。
「な・・なんだ?どうしたんだ?」
身体は全く言うことを聞かない。ただ棒立ちになったまま、ミルフィーは何かの力で後方へと引っぱられていた。
「フィア!レイムー!」
幸せそうに抱き合う2人の姿が加速して小さくなっていく。
「フィアーーーー?!」



「う・・ん・・・レイム・・フィ・・ア・・・」
ミルフィーが休んでいる宿の一室。ベッドの横に座り、夢にうなされているミルフィーの手を暖かく握りしめているカルロスの姿があった。 

 



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