青空に乾杯♪


☆★ <<第46話>> 失態中の大失態? ★☆


 「気がついたか?」
目を開けたミルフィーの視野に真っ先に入ったのは、心配そうなそしてほっとしたような笑顔のカルロス。
「な?・・・オ、オレ?」
がばっと状態を起こし周囲を見る。
そこは宿らしい部屋の一室。窓際のベッドにミルフィーは横たわっていた。カルロスはベッドの横にイスを置いて座っていた。
「・・・っと・・・・」
ミルフィーは考えていた。魔窟へ足を踏み入れたからのことを。
(そうだ・・・オレ、あの瘴気にあてられたんだ・・・・・どす黒い闇の気に。たとえようもないほどの狂おしいほどの邪気と狂気を孕んだ闘気とそして拒絶を・・)
「ん?」
そこまで考えていたミルフィーは、ふとシーツの感触に気づく。それが直接自分の肌に触れていることを。
(な・・・なに〜〜〜〜?!)
それは言葉にならない叫びだった。思わず傍らにいるカルロスを睨む。
「・・・ははは・・・・」
カルロスはそんなミルフィーに少し焦ったような笑いをみせる。
「おい!」
一気にミルフィーの理性はふっとび、ベッドのすぐ横の壁にたてかけてあった剣に手を伸ばそうとした。が、その勢いでスルリとシーツがミルフィーの身体から落ちそうになり、慌ててシーツを掴み、その中で身を固くした。
そう、ミルフィーはその身に何もつけていなかった。
「ま、まさか・・・!」
さあっと一気に顔から血の気が失せていく。
「すまん。責任はとる。オレの一生をかけて。」
「んだと〜?!」
ミルフィーの中で怒りと後悔とそしてミルフィアへの思いがごちゃごちゃになっていた。
(オ、オレは・・・どうすりゃいいんだ・・・フィア・・・・・・・・・)
そして泣き叫びたい思いでカルロスを睨む。
「出ていけっ!二度と顔を見せるな!」
−ボスッ−
カルロスの顔に思いっきり枕を投げつけた。
「おいおい、お嬢ちゃん。」
少しも悪びれず笑い顔をみせるカルロスにミルフィーは完全に頭にきていた。
「聞こえないのか?出てけっていってるだろ?」
「ふっ・・それだけ元気なら、もう大丈夫だな。」
カルロスは自分を警戒して身を固くしているミルフィーの横にぽん!と軽く枕を投げるとゆっくりと部屋を出て行った。
(何が手は出さないから安心しろだ・・・・あ〜〜〜〜も〜〜〜〜!どうすりゃいいんだ?)
ミルフィーは頭を抱え考え込んだ。
(フィアにどういい訳しやいいんだよ?・・いや、言い訳してすむことじゃないって・・・・)
どうしようもなく自分に対して苛立ちを感じていた。瘴気に当てられ、無様に気絶しただけではなくその間にカルロスに抱かれてしまった?それはどうあがいても消し去ることの出来ない失態・・いや、失態と片付けるにはあまりにも深刻なことだった。
(記憶はないけど・・・・やっぱりそういうことなんだ・・よな・・・・・)
ベッドに裸の女がいて、そのすぐ横に男がいる。その状況はどう考えてもそうとしか思えなかった。
(がーーーーー!!!)
頭を抱えてうつぶせになり、いっそのこと狂ってしまいたい、ミルフィーはそう思っていた。


「どうなさったの、戦士様?」
「ん?」
これ以上落ち込みようがないほど落ち込んでいるミルフィーに、幽霊魔導師が声をかけた。
「・・・なんだよ?」
「あら〜・・・冷たいのね、戦士様?」
「冷たいのね、じゃーねーよ!お前今まで何してたんだよ?」
「え?な、何って?」
「オレが気絶してる間だよ!お前オレの代わりに身体を動かして危機を脱出してくれるんじゃなかったのか?」
「あ・・・あら・・・・そんな危険な状態だったの?」
「・・・ったく・・・・・・」
はあーっと大きくため息をつきながらミルフィーはゆっくりと上体を起こす。
「ん〜でもねー、戦士様・・・あそこは魔の気が強くてあたし引きずり込まれそうだったから・・・・お手伝いしたくてもできなかったのよ。ごめんなさい。」
「そうなのか?」
「そう。実体がない分余計にやばいのよ。だから・・・ごめんなさい〜〜。」
両手を合わせて謝る幽霊魔導師に、ミルフィーも仕方ないか、と呟く。
「それはいいとして・・・・ちょっと聞きたいことが・・あるんだけどさ・・・」
「え?何?何なの?」
どうやら許してくれたらしいと判断した幽霊魔導師は、ほっとして笑顔をみせる。
「あ、あのさ・・・・あんたも出会ったときはいたはずだよな。気付いてたか?」
「何を?」
「その・・・迷宮で出会った腕の立つ男。」
「ああ・・・彼ね!」
ぽん!と柏手を打って頷く幽霊。
「あたしすぐ消えちゃったから向こうは気付かなかったみたいだけど、あたしはよ〜く覚えてるわよ。で、彼がどうかしたの?」
「・・・じ、実は・・・・・・こんな場合、女はどう思うんだろうって・・・」
「どんな場合?」
幽霊はミルフィーが何を言いたいのかさっぱり分からず首を傾げて見つめた。
「うう〜〜ん・・・・・・いざ口にするとなると・・・恥ずかしいなんてもんじゃないな・・・・・」
「もう!何なのよ、戦士様っ!?」
ぼそっと小声で呟くミルフィーに幽霊魔導師はいらついたように聞く。
「あ、ああ・・・・・つまり・・・ちょっと・・聞きづらい・・ことなんだけど・・・いいか?」
「構わないわよー、戦士様なら。」
話す必要もない、というより話したくないと言った方が正解だった。が、ミルフィーはただミルフィアの事が気がかりだった。もし、ミルフィアが目覚め、事実に気付いたとき、それが心配で、幽霊といえども女ではある魔導師の意見を求めることにし、ぽつりぽつりと話し始めた。


 「ふ〜〜ん・・・・・」
「どう思う?」
「多分・・・そう・・でしょうねー。でも・・・」
「でも?」
にっこりすると幽霊魔導師はうっとりするように言った。
「あの男なのよねー。うう〜〜ん・・あたしも抱かれたい〜♪」
「・・じゃーないだろ?」
「あ・・・あら・・ごめんなさい。だって、ちらっと見ただけだけど、素敵だったんですもの。」
「『ですもの』、じゃないって!」
「あ、うん、そうよね。妹さんのことなのよねー。う〜〜ん・・・でもそれはやっぱり・・・」
「やっぱり?」
「ショックでしょーねー・・・見も知らない男に・・」
グサッ!とミルフィーの心に鋭い矢が刺さる。
「しかも、自分の全然知らないうちに・・・」
グサッ!と再び刺さる。
「女にとって一番大切なものを・・・」
グササッ!
「あ〜〜ん、でもあの方なら許しちゃう〜〜!」
「お、お前なーーーーーー!」
心に矢が突き刺さり、その痛みでもはや息絶え絶え、地獄の底に落ちた気持ちだったミルフィーはその一言による怒りで復活した。
「まーまーいいじゃないの〜。だってミルフィアさんが気付いたとき、あの方に恋をしないってほうはないわよ。ううん、きっと一目で虜になっちゃうわよ。あのソフトなやさしい声で呼ばれて、あのたくましい腕に抱かれたら・・・あ〜もう想像しただけで震えてきちゃうわ♪」
苦虫を噛み潰したような表情で言うミルフィーなどどこ吹く風。幽霊魔導師は夢見心地で話す。
「あんたじゃないんだからな。そうとは限らないだろ?フィアには好きな人がいるんだし。」
「・・・・あ、でも・・・」
「なんだよ、『でも』って?」
「でも、やっぱり初めての時に覚えがないっていうのは・・・」
そこまで話して幽霊魔導師はのぞき込むようにミルフィーの目をじっと見つめる。
「悲しいわよ〜。女にとって一番大切な思い出なのかもしれないことだから。」
「う”・・・・・・・」
「口利いてくれないかも?」
「う・・・」
「もう兄でも妹でもない!って言われちゃうかも?」
「お、おい・・・・」
「な〜んて・・・きゃはっ♪」
「おい!」
自分がからかわれていつことに気づき、ミルフィーは強い口調で睨む。
「いいじゃないのぉ、過ぎたことはくよくよしてても始まらないわよ。犬に噛まれたと思っておけば?というより黙っていれば分からないかもしれないし、ね♪」
「そ、そんなんでいいのか?」
「お兄ちゃんはいろいろ大変ね。」
くすっと笑う幽霊魔導師。
「どこが面白いんだ?」
面白おかしく相手にされていることにミルフィーの忍の一文字が切れた。
「オレは真剣なんだぞ!・・・真剣にどうしたらいいか・・・って・・・オレは・・どう謝ったら・・・」
勢いよく怒った言葉の最後は聞き取れなかった。幽霊魔導師はうなだれたミルフィーに、少し悪ふざけがすぎたと反省する。
「ごめんなさい、戦士様。そうよね、妹思いの戦士様ですものねー。」
「・・・・・・・」

「そうだ!」
「な、なんだよ?」
しばらく沈黙していた後、急に思いついたように大声を出した幽霊魔導師に驚いて見つめるミルフィー。
「こうなったら荒療治よ!」
「荒療治?」
「そう。もしかしたらミルフィアさんも目覚めるかもしれない。」
「ど、どうやって?」
「うふふ・・・それはね・・・」
「それは?」
さっきまでの落ち込みもどこ吹く風。今問題にしている事を忘れ、ミルフィアが目覚めるかもしれないという言葉に単純にミルフィーは目を輝かして幽霊魔導師の言葉を待った。
「それはね・・」
そんなミルフィーをちらっと見て、一呼吸置いてから幽霊魔導師は続けた。
「もう一度あの人に抱かれてみたら?今度はきちんと意識のあるときに。」
「な、なにーーーーー?!」
全く考えてもいなかったその言葉にミルフィーは目を丸くして驚く。
「お、お前、気は確かか?オレは男だぞ。しかも大切な妹の身体なんだぞ。」
「だからじゃない。」
「どういう意味だよ?」
「つまり・・・戦士様は男なのよ。だから、抱かれるってことは、ミルフィアさんの方が感じるのかもしれない・・それで、もしかしたら・・・その刺激で意識が戻るかも?・・・とと・・・」
怒り暴発、言葉に表すこともできない、という表情のミルフィーに気付き、魔導師は慌てて手を口に充てて黙る。
「し、失礼しました〜〜〜」
ふっ!と魔導師は姿を消した。
「冗〜談じゃないっ・・ったく・・・・。」
考えただけでも吐き気がしてくる。
−ドサッ−
再びベッドに横になるとミルフィーは目をぎゅっと閉じた。
「どうすりゃいいんだよ・・・フィア・・・・・・」

解決方法はない。というより起こってしまったことはどうしようもない。どうあがいても元には戻れない。それは分かっていた。分かっていたが、どうしようもなくミルフィーは困り果てていた。

 



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