カルロスを身近で見上げる格好となったミルフィーは慌てて身体を横にずらそうとする。が、肩をカルロスの右手に阻まれる。
「お嬢ちゃんは十分魅力的だよ。」
(げーーーーーーー!)
幽霊のときとはまた違った悪寒がミルフィーの全身を駆けめぐった。思わず剣を抜こうとしたが、あまりにも近すぎて抜くこともできない。
(じょ〜だんじゃない!)
−ズザッ−
咄嗟にミルフィーはさっとしゃがみ込んでその場から抜け出ると、間をおいて、すらっと剣を抜く。
「おおっと・・これはまた・・」
「悪かったな。そう簡単に思い通りにはいかないぜ。」
「どうやらそのようだな。はははは。・・ん?」
おおらかに笑ったカルロスの顔が、瞬時にして真剣味を帯び、ミルフィーもその表情から察し、周囲に気を配る。
「もう少し楽しく話していたかったんだが・・・・」
剣を抜くとカルロスはミルフィーの背後に迫っていた魔物の集団に向かっていき、ミルフィーは魔物に救われた思いで、彼らとの戦闘に入っていった。
そこは、聖魔の塔の中層部奥。魔物の力も数も半端ではない。
ミルフィーはその奥まったところにあるだろうと思わる魔窟を目指していた。自分の身体とそして、ミルフィアの覚醒の鍵となるであろう魔導師レイムを探すために。
レイムが生きているとしたら、魔窟附近にいるはずと思えた。いなくとも目指す場所はそこだろうからその辺りで会えるかもしれない。確信は全くなかったが、他の考えも思いつかず、ミルフィーは祈りにも似た気持ちと共にそこへ向かっていた。その途中での思ってもみなかったハプニングだった。
(冗談じゃないぞ。なんとかしないと・・。)
次々と襲いかかってくる魔物と剣を交えながら、ミルフィーの頭は敵よりたちの悪いカルロスへの対抗策の捻出で占められていた。
「さすが、オレのお嬢ちゃんだぜ。」
戦闘が終わり、腰の鞘にその剣をしまいながら、カルロスは再びその笑顔をミルフィーに投げかけた。
「だれが、だれのなんだって?」
そんなカルロスをミルフィーはきっと睨む。
「怒った顔もまた魅力的だぜ、お嬢ちゃん。」
「あのなー、カルロス・・」
何を言ってもどうきつく言っても糠に釘状態。カルロスはあくまでどこ吹く風でミルフィーに笑顔をみせていた。
「・・・たく・・・・・・勝手にしろ!」
いつまでも相手にしていても仕方がない。ミルフィーは無視することに決め、先を急ぐことにした。魔窟の入り口がもうそろそろ見つかってもいいころだし、本当の事を話すともっとやばいことになりそうだと判断したからだった。
そんなミルフィーのすぐ後ろをカルロスはやさしく見つめながらついていく。周囲に注意を払い、いつ何事が起こっても対処できるように、と。
そして、ついに魔窟の入り口へと着く。土むき出しの通路にぽっかり開いた真っ黒の穴。尋常ならざる瘴気が漂ってくる。
ミルフィーは、その入り口の手前で思わず身震いする。
「大丈夫か、お嬢ちゃん?」
めざとくそんなミルフィーに気付いたカルロスが気遣って傍に寄る。
「あんたよりましさ。」
カルロスがすぐ横に立つのをさけ、ミルフィーは間を空けて睨む。
「困ったな。もしかして嫌われてしまったかな・・?」
肩をすくめカルロスは苦笑いする。
「大丈夫。こうみえてもオレは気が長いんだぜ。お嬢ちゃんがその気になるまで手は出さないから安心しな。」
「そんなこと信じられるかよ?」
あくまでミルフィーは警戒していた。
「無理強いというのは、オレのポリシーにかかわるんでね。その気になるまでいつまででも待つさ。」
「よく言うぜ。その手で今までに何人女をものにしたんだ?」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいな、お嬢ちゃん。確かに今まで何人かの女性とつきあってはきたが、オレにここまで言わせたのはお嬢ちゃんが初めてなんだぜ。」
「来る者拒まずなんだろ?」
「ふっ・・それはそうだ。女性に恥をかかせてはかわいそうだからな。」
「それもあんたのポリシーってやつなのか?」
「ああ、まーな。」
「・・ったく、とんでもない奴に気に入られたもんだ。」
半ば呆れた顔をカルロスから背けるとミルフィーはぼそっと呟いた。
「心配しなくても今はお嬢ちゃん一筋さ。」
「だれが心配するってんだ?」
カッとなり再びカルロスを睨むミルフィーと再び自分のほうを向いてくれたことに満足し、微笑むカルロス。
「じゃー、少しは妬いてくれてるのかな?だとしたら嬉しいんだが。」
「んなわけないだろ?!」
どう話しても自分のいい方にとってしまうカルロスに、ミルフィーはあきれ返っていた。
そんなミルフィーをしばらく見つめた後、カルロスは呟くように言った。
「ま、いいか・・・。」
「何が?」
「じっくり待つさ。まだ誰の色にも染まったことのないお嬢ちゃんの無垢なその瞳が、オレ色に染まるまで。」
「!」
ウインクをして微笑むカルロスのその言葉は冗談とも思えず、ミルフィーはあっけに取られて言葉を失っていた。
(・・・・そうだ、今はこんな奴相手にしてる場合じゃなかった・・・。)
ふと今自分がここにいる目的を思い出し、ミルフィーは、魔窟の中へと足を踏み入れる。その脳裏には、ミルフィアと魔導師レイムがくっきりと浮かんでいた。
(フィア、レイム・・・・)
急にその表情を変え、緊張した面持ちで足早に魔窟へと入っていくミルフィーの後ろを、カルロスもまたそれまでとは違った表情でついていった。
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