青空に乾杯♪



☆★ <<第3話>> 盗まれた心 ★☆



 『旅立ちの街』・・・・小さなその街の入り口には、そう書かれた看板が立っていた。
「そのまんまというか・・・適当っていうか・・・。」
そう呟き、その看板を軽く指ではじいて横を通るレオンの後、ミルフィーたちもちらっと看板を横目で見ながら通り過ぎ、街へ入っていく。

「で・・・・どうすりゃいいんだ?」
小さな街には違いないが、通りは結構賑やかだった。
「こういうときは、酒場で情報収集って決まってるんじゃないの?」
早くも目に留めたらしく、チキは『BAR』の看板を指さした。
「そうだな。」
とチキに頷き、酒場の方向へ歩いていこうとするレオンに人影がぶつかった。
−ドスン!−
「ぼやぼやしてんじゃねーよっ!」
その人影は捨てぜりふを吐いて一瞬にうちに遠ざかる。
「ん?」
突然ぶつかられたことに怒りを覚えながら、ふとレオンは自分の胸に手を当てる。
「な・・ないっ!ない!」
焦って衣服の中に手をつっこみ必死で何かを探すレオン。
「もしかして何かすられたとか?」
「野郎!どっちに消えやがった?!」
ミルフィーの声など耳に入らない。レオンはその人影が消えた雑踏を睨む。
「くっそーーー!」
闇雲に追いかけようとするレオンの腕をチキが引き留める。
「だめよ、今更見つかりっこないわ。」
それでも駆けだそうとするレオンに、ミルフィーも空いているもう片方の腕を掴む。
「オレ達は今バラバラになるわけにはいかないんだよ。何すられたんだ?」
「何って・・・・」
心配そうなミルフィーと目を合わせ、熱くなっていたレオンの頭が多少冷める。
「・・・・・・そうだな、今更追いかけても見つかる可能性は少ないな・・・・。」
「財布か?」
大きくため息をつき、消えていった方向を見つめているレオンに、ミルフィーはじれったさを感じる。
なにか、いつものレオンではない。
「レオン・・おい!」
「ん?あ、ああ・・・・・・財布はここにあるんだが・・・・」
懐を押さえ、財布を確認しながら、レオンはミルフィーの質問には気もそぞろ的に答え、今すられたものの事を考えていた。
それは、シュロの木の破片で造ったペンダント。レオンにとっては、大切なリーシャンの心の破片。
(確かに今闇雲に探しても見つかるわけはない。では、どうしたら見つける事ができるのか?どうしたら・・・・・・?)
「おい、レオンっ!何ぼ〜っとしてんだよ?」
そんなレオンの前に立つと、ミルフィーは両肩を抱いてのぞき込む。
「ん?い、いや・・・まー、なんだ・・・そう大したもんじゃ・・・」
「レオン?」
「なんだ?」
大粒の黄金色の目を輝かせて、興味津々、チキがミルフィーの横からレオンを見つめる。
「嘘だわ。何か大切なものなんでしょ?そうでなきゃレオンがあんなに焦るなんてことないもの。私達には関係ないけど、レオンにとっては、とっても大切な何か。・・そうじゃなくて?」
「そうなのか?」
チキから再びレオンにその視線を移したミルフィーが心配そうな顔つきでレオンに聞く。
「べ、別にそんなんじゃ・・・」
そんなんじゃない、と続けようと思ったレオンだが、そう言ってしまっては、このままになり、取り戻すことはもう不可能になってしまうことにもなりかねない。それに、一旦こうと思いこんだチキが簡単に引き下がるわけは・・・・ない。彼女の目の輝きがそう語っていた。
「あたしの推察では・・そうねー・・・レオンの大切な人のものとか、その人の変わりとか・・形見とまではいなかくても。」
「形見?」
「あ・・ううん、だから、別にその人が死んだと限ったわけじゃないわよ。」
レオンの表情がそう言ったその瞬間、少しかげりを見せたのを目に留め、チキはあわてて言葉を付け加えた。
「ということは・・第一目標はそれだな。」
「なんでそうなるんだよ?オレ達はこの世界の魔王を倒すんだろ?」
「どこにいるんだ、その魔王ってのは?今のところどうしたらいいかわからないんだから、いいじゃないか、な?」
にたり、と少し意地悪そうな顔をしてミルフィーは、レオンの横に立て、わざとレオンの方は見ず、さりげなく聞いた。
「で、どういういきさつの物なんだ?」
「何が?」
そんなミルフィーにおとぼけをかまそうとレオンは落ち着き払った口調で聞き返す。
「ぶききぶきっ!」
前方の角に酒場を見つけ、シャイがちょうどいいから入ろう、とでも言うように指さした。
「そうだな、ちょうどいいな。」
再びミルフィーはにやっとレオンにその笑みを投げかけると、レオンの腕を掴んで酒場へと向かい、チキもナイス!と言うようにシャイにウインクするとその後につき、酒場へと向かった。


 「ふ〜〜ん・・・なるほど・・・・それでグールに変身したことも納得がいったが・・・」
まるで人ごとのようにたんたんとリーシャンとのことを語ったレオン。が、他の4人には、その態度こそが、レオンにとっては他のこととは比べようもないほど重大なことだと分かってた。
「どのみちまずは手当たり次第に聞いてみるしかないだろ?オレ、あっちを当たってみるわ。」
「じゃー、私マスターに聞いてみるわ。」
結構広く、客も大勢いるその酒場。一同はそれぞれ別れて聞き廻ることにした。



 そして、小一時間後、一同は町の裏手から続く砂漠を歩いていた。
「覚悟してきたものの、ほんとに暑いわねー。でも、地形も自然の摂理も何もかもむちゃくちゃね、ここ。」
「そうだよな、オレ達が来た方は森が広がってたもんな。町を挟んでこっち側は砂漠だなんて、誰が予想する?」
「まるで町がこっちと向こうの世界の境界みたいですよね。」
「そうだな。あー・・もう・・なんかむしゃくしゃする。」
全員おもしろくないといった風合いで足を前に動かしていた。

あちこち聞き回った結果、ペンダントを取っていったのは、砂漠に住む一族の少年らしいということだった。が、それ以上のことは何も聞き出せなかった。町の裏口から真っ直ぐ西へ向かえば砂漠の一族の村があるオアシスに着くかもしれないということと、少年がスリの常習犯だということのみ。

「普通じゃないんだよな、また。」
「普通の方がおかしいんじゃないか?」
つまり、普通の展開は期待できそうもない、その場所も、そして、そこにすむ住人も。ペンダントのこともおそらくすんなりとは解決しないだろう。
ため息をつきながら、呟いたレオンの独り言を受け、ミルフィーもまた呟いた。

なによりもまず、無事にオアシスを見つけなければならない。水はたっぷりと持ってはきた。が、砂漠の行進はいつまで続くかはわからない。
己の力を誇示するかのようにぎらぎらと照りつける太陽と、あざ笑うかのように熱砂を巻き上げる風が彼らを包んでいた。

 


☆★ つ づ く ★☆



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