青空に乾杯♪



☆★ <<第36話>> またしても進路変更? ★☆



 その闇の空間がまるで底なし沼であるかのように、どんどん下へ下へと下りていった。
ようやく底か?と思ったところで男爵は魚を止めた。
「その洞窟を抜けたところが私達、半漁人の国です。」
男爵が指ししめしたところ、黒い岩壁には、妖魚にのってなんとか通れるくらいの穴が2つぽっかり空いていた。
「さてと・・・」
レオンたちが見守る中、男爵は伴の者に何やら指図をしている。
「な、何が始まるんだ?」
レオンが呟くのも無理はなかった。伴の者は、5人でようやく担げるほどの大きな岩を持ってきた。もちろん、ミルフィーたちも何が始まるのかとじっと見つめている。
「それでは、行きますよ。手綱をしっかり持ってください。今から急流に乗りますから。」
「え?急流?」
全員合わせたように回りをきょろきょろと見る。どこにもそれらしき流れはない・・・。
「急流って・・・だいいち今だって水中ってわけでもないんだし・・・」
不思議そうな顔をして呟くレオンに男爵はにっこりする。
「では、言い直して、突風に乗ります。」
「と、突風ねー・・・」
たとえ言い換えてもそれらしき風どころか、微風さえ吹いていない。
「今に分かりますよ。落ちないようにしっかり手綱は持ちました?」
「ああ、握ってるよな?」
全員を見回しレオンが確認する。
「では、参りましょう。」
男爵が目配せすると、5人は勢いをつけて穴の1つにその岩を投げた。
−スポッ!−
なんと丁度穴がふさがる大きさだった。
と同時にものすごい風がレオン達を襲った。
−シュゴーーーーーーーー−
それは、塞がれてもう片方の穴に向かって吹いていた。というより吸い込まれていくと言った方が正しいように思われた。
「わ、わーーーーーー!」
思わず手綱を握る手に力が入る。そのものすごいスピードで、ようやく突風と言った意味がわかった。
−ゴゴゴーーーーーー・・・・−
細い洞窟をその突風に乗ってものすごい勢いで通り抜けていく、そして、その勢いも徐々におさまり、ドーム型の広い空間に出たときには、再び無風状態となっていた。
「ふへー・・・まさかこんなだとは思いもしなかったぜ。」
「つ、疲れちゃったわ。綱が手のひらに食い込んでしまって・・もう真っ赤になってる・・・。」
チキが手綱を放し、手のひらに息をかけている。
「すごかったですね、ホントに。」
「あ、ああ・・まさかこんなだとは思いもしなかった。」
「さて、もうすぐですよ。この洞窟を抜けるとすぐです。」
再び狭くなった洞窟を通り抜け広い空間へと出る。前方には何やらきらきら光る岩が見えた。
「あそこが私の屋敷です。」
「あの光っているのは?」
「ああ、あれは真珠です。壁全体に真珠がちりばめてあるのです。」
「壁全体に?」
「そうです。私の自慢の1つなんですよ。真珠の塔とも呼ばれております。」
「なるほど・・・」
その岩に近づいていくと、なるほど、それは、無数の真珠が埋め込まれている塔のようだった。
その塔の中央にある入り口と思われる穴の中へと入っていく。
「わぁ〜〜〜♪」
チキが思わず声をあげる。その内壁は、真珠を埋め込んで描かれた壁画になっていた。
「絵巻物みたいになってるのね。」
手綱を握っているミルフィーに、壁に近寄るように目配せしてから、チキはその絵物語を目で追っていった。
少しスピードを落としながら、男爵はご機嫌そうにチキに、その絵物語の説明を始める。
「これは、遙か昔から続いている絵物語です。先祖代々言い伝えられてきた話を絵にしたものです。」
「そうなんですか。じゃー、ご先祖様の活躍とか?」
「そうです。武勇伝からその時代の日常生活を表した絵などいろいろです。」
「ふ〜〜ん・・・そうなのね・・・」
一際大粒で、きらきらと輝いている真珠を見つけたチキは、その真珠の粒を見ようと身を乗り出したときだった・・・。
「見〜っけたっ♪」
突然その真珠の粒ににこちゃんマークのような顔が現れたと思ったその次の瞬間、チキは自分の身体が勢いよくその真珠に吸い込まれていくのを感じた。
「きゃああああ!す、吸い込まれる〜〜〜〜・・・・」
「チキっ!」
慌てて手を差し伸べ、チキの腕を掴むミルフィー。が、それも無駄だった。ミルフィーも同じように吸い込まれていく。
そして、そんなミルフィーの足を掴んだレイム、そしてレオン、シャイとその小さな粒の中に吸い込まれていった。
「し、しまったっ!」
先を進んでいた男爵が顔色を変えて近づいたが、時すでの遅く、そこに残っているのは悲しそうに啼く3匹の妖魚のみだった。
「ど、どうしたというのだ?何が?」
チキたちを吸い込んだ大粒の真珠はすでにそこになく、予想しなかった出来事の上、救助方法は勿論、どう対処したらよいのか全く分からず、自責の念と共に男爵はがっくり肩を落として、消えたその1点を見つめていた。



 「きゃあああああ・・・・・・」
「わーーーーーーー・・・・!」
真っ暗な空間を過ぎると、チキを先頭に全員、真っ青な青空の中(?)を下へ下へと落下していた。その落下速度は落ちる様子はなく、刻一刻と速くなっていく。
「ぶ、ぶつかる〜〜〜・・・・・・・」
「もうだめだ〜〜・・・」
地表にぶつかり、全員昇天?・・・こ、こんなことで人生終わりたくない!終わるならせめて魔物との戦闘で・・などといろいろな思いが各人の脳裏を横切る・・・・・が、その期待(?)を裏切り、落下地点は水面だった。
−ザッバーーン!ザッバーーン!−
次々と水中へダイブ。
−ザン!−
「おい、みんな無事か?」
真っ先に水面に顔を出したミルフィーが辺りを見回しながら叫ぶ。
「プハっ!」
レオン、レイムが顔をだす。
「あれ?チキとシャイは?シャイはともかくチキはオレより先に落ちたのに・・・まさか?」
青くなってミルフィーが水中へ潜ろうとした時、チキを抱えたシャイがようやく水面に顔を出す。
「ぶきっ!」
「チキ、大丈夫か!」
「ぶきき、ぶきっ!」
水を飲んだのか、少し苦しげにむせているチキに変わってシャイが返事をする。
「やるじゃないか、シャイ。ナイト、大活躍ってとこだな。」
「ぶきき。」
当然!とでもいいたそうにシャイは、チキを気遣いながら胸を張る。
「ともかく陸地は・・・・どっちだ?」
レオンのその言葉に、全員四方を見渡す。水は塩分を含んでいない、ということは、海ではない。少なくとも大海のど真ん中ということはなさそうだ。
「あ!向こうに岸がみえます!」
レイムの指さす方向、1kmほどはあろうか、確かに岸が見えた。
「よーし、岸まで泳ごう。・・っと、泳げない奴は?」
「ぼくは大丈夫です。」
「オレも。」
「ぶきき!」
チキはまかせておけ!とでも言うように、シャイが自信たっぷりに返事をする。
「みんな大丈夫のようだな。じゃーふやけないうちに、陸にあがろうぜ。」


そして、なんとか岸まで泳ぎ着く。
「ふ〜〜・・・・なんだったんだ、あれ?」
そのまま仰向けになりながら、レオンが呟く。勿論『あれ』とは、自分たちを吸い込んだ大粒の真珠。
「それに、ここはどこなんだ?」
「どこなんでしょうね?」
「だけど、服のまま泳ぐってのは・・・疲れるもんだなー・・・なかなか進まなくてまいったぜ。」
ミルフィーは、いかにも疲れたかのように、どっかと草の上に腰を下ろした。
「気候がよくてよかったですね。寒かったら全員泳ぎ着く前に体温を奪われてよしだったかも。」
「そうだな。暖かいというより暑いくらいだからな。水浴びにはもってこいの気候かも。」
「岸辺で水浴びならいいけど、あそこは深かったわね。」
岸に上がり、ようやく安心したチキはぐしょぬれになった服のすそを絞る。
「そうだな。だけど、深さがなかったら、オレ達おじゃんだぜ?」
「あ・・・そうね。」
もし、浅かったら湖底に激突して軽くて大けが・・・それを想像し、思わずチキはぞっとした。
「着たまま乾かす・・・ってわけにはいかないよな?」
「でも荷物は妖魚に乗せたままよ。」
困惑した顔でチキはミルフィーを見つめる。
「そ、そういえば・・・そうだ!身の回りのもの何一つないんだった・・。」
自分たちだけ吸い込まれた為、荷物はそのままだった。あるといえば、身につけていたぐしょぬれになってしまった衣服と腰に下げていた剣やちょっとしたアイテムのみ。
「ううーーん・・・・・どうしようか・・?」
頭をぼりぼり書きながら、ミルフィーはレオンを見る。
「どうしよって・・・戻れるわけないんだから、仕方ないだろ?」
レオンは、すでに脱いで腰に巻き付けてあるローブを取りながら、思案していた。
「しっかし、鎧を脱いでてよかったと言うべきか・・何なのか・・・あんなの着てちゃここまで泳ぎ着くなんてできなかっただろ?」
「ああ・・まーな、一応良かったのかな?」
「ミルフィー、レオン!向こうに小屋がありますよ。あそこで服を乾かしましょう。」
近くを回ってきたらしいレイムが安心したように声をかける。
「誰もいないようでしたし。」
「ホント?」
小屋と聞き、ほっとしたチキが目を輝かせる。
「じゃー、ひとまずそこで服を乾かして、それからこれからのことを考えましょうよ。」
「そうだな。そうするか。」



チキとミルフィーは小屋の中、そして、レオン、レイム、シャイは外で、それぞれ衣服を乾かしながら時間をつぶしていた。
が、身体はミルフィアのものであり女性だが、心は男性であるミルフィー。チキと場を同じくするわけにはいかない。
かといって、ミルフィーが男性陣と一緒に外で乾くのを待つわけにもいかず、小屋の中はちょうどあった材木でしっかりと半分に区切ってから。


そして、乾いた服を身につけ、気持ちのいい風の吹く野外であーだこーだと相談し始めた時だった・・・。
「やー、そろそろ出発できるかな?」
どこからか全員を飲み込んだ大粒の真珠が出した声が聞こえた。
「だれだ?出てこい!オレ達をどうしようってんだ?」
全員辺りを見渡して、声の主の姿を探すが、どこにもない。
「あ・・ごめんね。ぼく、そこには行けないんだ。」
「行けないって・・・どういうことだ?」
怪訝そうにレオンが聞く。
「あのね、そこはね、ゲームの世界なんだ。ぼくは君たちのオーナーで、きみたちは、ぼくの持ち駒として冒険してもらうってことなんだ。わかる?」
「『わかる?』って・・・?」
子供さがうかがえるその声に悪い予感がする。
「わかんないの?んー・・・とにかく、君たちは冒険を続けてその世界の魔王を倒してくれればいいんだよ。いいだろ?実際にそんな旅を続けていたんだから。どこで冒険しても同じでしょ?」
「同じって・・・オレ達はオレ達の目的ってもんがあるんだぜ。それに、なんで貴様の持ち駒なんかにならなくっちゃなんねーんだ?」
「そうよ、そうよ。あたしたちを元の場所に帰してよ!」
チキもその表情を険しくしてきつく言葉を放つ。
「そうもいかないんだよ。もうゲームは始まっちゃってるんだから。今君たちを帰しちゃったら、ぼくの負けになっちゃうしさ!」
「『負け』って・・・・オレ達と同じ様な奴がいて、そいつらと競うってことか?まさか・・賭けでもしてるんじゃねーだろーな?」
「あはははは!あったりーー!君、案外鋭いんだね。その通りだよ。まー君とぼくとで、どっちの持ち駒が魔王を倒すかって賭けてるんだ。」
「ま、まー君?」
「そう。ぼくの友達であり、ライバルのまー君だよ。だから、頑張ってね。あ!そうそう、君たちがぼくの持ち駒ってことは、誰にも話しちゃだめだよ。卑怯な妨害されるかもしれないから。」
「おい・・勝手に決めるなよ。オレ達は、お前なんかに指図されるいわれはこれっぽっちもないんだぞ?!」
レオンと声の主のやりとりをじっと聞いていたミルフィーが、空を睨んで怒る。
「あははっ!そうかもしれないけど、今更なしなんてだめなんだよ。さっきも言っただろ?君たちのような元気で腕のよさそうな冒険者ってなかなか見つからないんだもん。」
「見つかる、見つからないって問題じゃないだろ?」
「うーーん、じゃー、特別大サービス!魔王を倒したら、何か欲しい物あげるよ。何が欲しい?」
「何が欲しいって・・・オレ達が探してるのは、そこらに転がってるもんじゃないんだぞ。」
「何なの?」
「『何なの』って・・・」
軽く聞き流され、ミルフィーはがくっとずっこける。
「銀龍の涙なの。それがないと呪いを解くための月たんぽぽさんが蘇らないのよ。だから、お願い、あたしたちを元の場所に帰して!今すぐに!」
「元の場所に帰れば、すぐ手にはいるの?」
「そうじゃないけど、妖魚のレースに勝てば、それと思えるものがもらえるの。もし、それが違っていたら、銀龍がいるっている世界に行って、そこで探すの。だから、急いでいるのよ。」
懇願するチキに心を動かされ、何か思案しているのか、返事はしばらくなかった。

「そうだね、じゃー、君たちが魔王を倒したら、その月たんぽぽを蘇らせてあげるよ。それならいいでしょ?」
不安げに返事を待っていたチキの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「え?そ、そんなことができるの?」
「なんかうそっぽいな・・・」
驚きと疑いの眼差しで全員空を仰いでいた。
「どっちにしろ君たちを帰す気はないけど、『お願い』に免じて特別にごほうびをあげることにしたんだからさ、がんばって力をつけて魔王を倒してね!スタートは、小屋の裏から続いてる道をまっすぐ行ったところの街だから、そこでいろいろ必要な物を準備して。」
「そ、そんな・・・」
「おい!黙って聞いてりゃいい気になりゃーがって、このくそがきが!」
もう我慢できない、というようにレオンが大声を出す。
「そんなこと言っていいの?ぼくでなくっちゃだ〜れも君たちを元の世界には戻せないんだよ?」
「う”・・・・・・」
その脅迫に、次の言葉を無くすレオン。
「とにかく、君たちはそうするしかないんだよ。いつもはごほうびなんてあげないんだから。がんばってよ!」
「どうやってその言葉を信じろってんだ?本当にそんな力があるかどうかも怪しいじゃないか?」
「しかたないな、じゃー、こんなところで信用できるかな?」
突然雲の合間から射し込んできた光が、チキを包み込んだ。そして、消え去った後、そこには、元のグラスランナーのチキの姿があった。
「ええっ?!」
「その姿が本来の君だろ?ぼくとしては、君はこの方があってると思うけどな。かわいくて。」
そう言われてもチキは自分の身に起こったことが信じられず、呆然として突っ立っていた。
チキだけではなく、他の全員もあっという間のことで、ただただ驚いてチキの姿を見つめる。
「ぼくの力はわかった?じゃー。期待してるよ!またねっ!」
返事も待たず、その声は二度と聞こえなかった。いくらレオンとミルフィーが悪口を叫んでも。


「・・・仕方ない・・・・気は進まないが、行くしかないか・・・」
「そうだな・・・」
「それしかないでしょうね。」
全員気は進まない、が、それでもそうするしか他に方法はなく、とぼとぼと言われた道を進み始めた。


☆★ つ づ く ★☆

mi0004.jpg (5438 バイト)
箱さんからいただきました!
ありがとうございました。


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