青空に乾杯♪


☆★ <<第35話>> 寄り道?近道?そして・・? ★☆



 なんとか幽霊とのごたごたは無事におさまった後、レオンたちは妖魚の背にまたがっていた。
リーパオに借りた妖魚は3匹。シャイローゼがチキと一緒に乗るんだ!とがんばっていたが、その体重では魚がかわいそうだということで、チキとミルフィー、レイミアスとレオン、そして、シャイローゼが1人という組み合わせになった。


−ザッバーーーン!−
そして、館のある世界からはどう見ても湖にしかみえない不思議な漆黒の空間に飛び込む。
「キッシャーーーーーーーァッ!」
妖魚たちは、生き生きと踊るように空間を泳ぐ。時々嬉しそうに(?)その雄叫びをあげながら。


と、どのくらい進んだのだろう、突然前方から同じように妖魚に乗った集団が近づいてきた。
「お、おい・・・」
レオンは思わず息を飲んで、平行する妖魚に乗っているミルフィーを見る。
前方の妖魚に乗っているのは・・・・どうみても人間ではなく魔族・・半魚人のように全身青黒い鱗で覆われた彼らは、ちょうど妖魚のような鋭い牙が生えており、不気味さを醸し出していた。
「シャーーーッ!」
その半魚人の乗った妖魚が一声叫ぶと、ミルフィーたちの乗った妖魚は停止した。
「おい・・・どうなるんだ?」
「んなことオレが知るかよ?」
「やっぱりやばいんでしょうか?」
「こっちの妖魚が向こうの言うことに従って止まったってことは・・・どうしようもないってわけ?あたしたち?」
「ぶきき・・」
ぼそぼそと小声で話している間に、半魚人は近づいてくる。
「あーー・・うーー・・・が・・ご・・・ごげ・・・?」
凶暴そうな顔を右や左に傾けながら、半魚人はなにやらミルフィーたちに話しかけたい風だった。
「な、何かご用ですか?」
レイミアスが恐るおそる尋ねてみる。
「が・・ご?・・・ぐごご・・・・・あ・・ああ〜〜・・・本日は晴天なり・・・」
「へ?」
何を言ってるんだとばかりその態度と言葉が意味することが全く分からず、ミルフィーたちはじっと見ていた。
「う〜・・あ〜・・・ごほんっ!・・これでいいかな?わたしの言葉がおわかりかな?」
「あ、は、はい。」
思わずレイミアスが半分うわずった声で返事をする。
「ふむふむ・・・」
満足そうににこっとすると(しかし、気持ち悪い笑みだが。)先頭の妖魚に乗った半魚人は、意外にも紳士のように振る舞った。
「わたしは、シーマン男爵と申す。実は、あなたたちの立派な魚を拝見しまして、是非お力添え願いたいと思った次第なのですが。」
「お力添え?」
何なのだろう?と不安も覚えながらチキが小声で聞いた。
「うむ・・・ごほん!」
大きく咳払いをすると男爵は続けた。
「失礼。わたしたち魚人には、声帯というものがないものですから、言葉を使って話をする異種族とのコミュニケーションには、それに替わり得る口内の皮膚組織を振るわせて声を出しているわけです。訓練したとは言え、滅多に使わないものですから、どうもいけません。お聞きづらいでしょう?」
「いえ、そんなことありませんわ。とってもシックで素敵な声ですわ。」
チキがにこっとして答えた。
彼の声は2,3人が同時に話しているように微妙に音階が違った音が同時に出ているような感じがあった。ちょうどビブラートが利いている感じの複合音といったらいいのだろうか、彼自身の紳士的な物言いと相まって品良い響きを作っていた。
「それはなによりです。こんなところでは何でしょう。わたしの屋敷までおいでくださいませんか?」
チキのその答えに満足そうににっこりすると、腕を広げ、自分の後方を示した。
「ありがとうございます。でも、あたしたち急ぎ旅なんです。」
「急ぎ旅?」
「ええ、どうしても必要なものがあって、聖魔の塔に一刻でも早く行かなければならないのです。」
「なるほど・・・しかしご心配無用。わたしたちの世界とここでは時の流れが違っております。向こうで数日過ごしてもこちらでは1分とたちませんよ。」
「そんなことあるのか?」
目を見開いてレオンが叫ぶ。
「はい。」
「嘘じゃねーだろーな?」
「そう思われるのも当然ですが、嘘などついても仕方ないでしょう。ということで、どうでしょう?話の内容だけでもお聞き願えないでしょうか?」
「で、そっちの思惑通りにその話とやらにのってしまうってわけかな?」
男爵からは視線を逸らしたままレオンが耳をほじりながら呟いた。
「はっはっは・・なかなか手厳しいですな。」
「どんなことなんでしょう?話でしたら飛びながらでもお聞きできますが。」
そんなレオンを少したしなめなるように目配せをすると、レイミアスがいつもの静かな口調で言った。
「そうですね、わたしとしては、館でゆっくりとお茶でもしながら、お話を、と思ったのですが、先を急いでいらっしゃるようですので、そうしましょうか。」
従者に道を開けるように目配せし、男爵は、再び進み始めたレオンの乗る魚に自分の魚を平行して泳がせた。
「つまり、こういうことなのです。わたしたちの国では、年に1度、国をあげての妖魚の競争大会というものがありまして、何を隠そう、わたしは毎年2位の座を獲得しているのですが、今年こそ優勝を願っているわけです。しかし、ライバルであるオットー子爵の妖魚には、勝てそうもなく、それに匹敵するような魚を探していたわけです。」
「で、オレ達の魚がそうだってのか?」
「ええ、そうです、特にあなたの乗っているその魚なんですが、体型といい、ツヤといい、その泳ぎ方といい、申し分ないのです。是非お願いしたいと思うのですが・・・・。優勝した暁には、副賞である「宝玉」は、あなたたちに差し上げます。それは、銀龍の涙の結晶とも言われるもので、この世に2つとない宝だと言われております。」
「銀龍の涙?」
レオンのその声と同時に思わず全員男爵を見つめる。
「そうです。どこかの世界の守護龍である銀龍の涙で、銀色に輝くとても美しい宝玉だと聞いております。」
「そ、それって本物か?」
「本物とおっしゃいますと?」
「だから、本当に銀龍の涙なのかどうかってことだよ。」
「さて、どうなのでしょうね?そう言われてはおりますが、真偽のほどは・・。」
「うーーむ・・・」
「決まったな。」
レオンが唸ると同時に、ミルフィーが苦笑いしながら言った。
「どっちにしろ、今の時間とあまり変わらずここへ戻れるんだろ?」
「はい、もし、お望みでしたら、競技終了後、今のこの時間と数分違わず、そして、こことは言わず、聖魔の塔へお送りいたしますよ。」
にっこりを微笑みながら男爵は、自信を持った口調で断言する。
「それが本当に銀龍の涙なら・・・」
小さく呟いたチキの瞳が輝く。
「そうなら、願ったり叶ったりだけどな。」
「ふごっ!」
「まっ、当たって砕けろ!で行ってみるとするか?」
「そうですね。」


そして、一行は、男爵と共に、漆黒の空間を下へ、下へと下りていった。



☆★ つ づ く ★☆



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