青空に乾杯♪


☆★ <<第33話>> 振り出しに戻る? ★☆



 「ホントに夢じゃなかったんだなー・・・というより、夢の中の現実?」
大広間、豪華な食事を前にテーブルに座りながらミルフィーが考え込むように呟く。
「そうですね、不思議な夢でした。」
そんなミルフィーに相づちを打ちながらレイミアスは窓辺のサイドテーブルに置かれた月たんぽぽの花を見つめていた。
それは、外から射す月光を浴びて不思議なそしてやさしい光を放っている。
「・・・・でも、フィアも・・・レイムも・・いないんだよな。」
「え?何か言いました?」
一段と小さな声のミルフィーの呟きは、輝く月たんぽぽに見入っていた為、ほとんど聞き取れず、思わず聞き返すレイミアス。
「あ・・・い、いや・・別に。ただ・・そ、そう、レオンはどうしたのかなー?と思ってさ。ほら、夢の終わり頃、なんだか様子がおかしかったというか・・何かせっぱつまった感じでさ。何があったんだろうなーって思ったんだ。月たんぽぽが置いてあるってことは、レオンも目が覚めてもうここへ来たってことだろ?」
「そうですよね。どこへ行ったんでしょう?食事の準備は整ったというのに。」
−バタン!−
そんな話をしているところに勢いよくドアを開けて、シャイローゼとチキが賑やかに入ってくる。
「だから〜、いい?今度勝手な行動取ったら絶交よ!わかったわね?!」
シャイローゼの鼻先に人差し指を立て、なにやらチキが説教している様子。
「ぶ・・ぶき・・・」
「まったくぅ・・・後先考えずに発作的に行動するなんて、冒険者として失格よ!あ・・あなたは冒険者じゃなかったわね。」
「ぶき〜・・・・・」
身体を丸くしてすっかりチキの勢いに負けているシャイローゼ。もっともいつものことなのだが。
「とにかく、月たんぽぽは手に入ったんだから、これで村に帰れるでしょ?あたしは・・あたしから冒険を取ったらなんにも残らないわ。一つ所に落ち着くなんてできそうもないのよ。草原の覇者、グラスランナーとしての、そしてトレジャーハンターとしての血が騒ぐの!あなただって・・・元の姿に戻れば旅にも困らないでしょ?だから、これでお別れね!」
「ぶ、ぶきっ!」
ぐいっとチキのその手を握り、熱い視線でシャイローゼはチキを見つめる。
「・・・だから〜・・その姿で言われても・・・」
(滑稽なだけで・・)と続けようとして、チキはその言葉を飲み込む。そう、チキの目には一時であれ、豚の姿には見えてなかったのだから。
もっとも最初会ったときは、まさかシャイローゼとは思わなかったので確かに豚に見えた・・が、分かってからは・・・。
「あ・・あたしね・・・あたし、聖魔の塔を制覇するのが夢なの!一生かかってもいいわ!あそこには見たこともない宝が眠ってるの。あたし・・・・」
そのシャイローゼの視線を避けて、少しどもりながら言うチキは、動揺していた。かなり。
チキは恐れていた。元に戻ればきっとまた同じことの繰り返しではないか。
「ぶきっ!」
そんなチキの心を読み、シャイローゼは断言する。誓ってそんなことはない!と。
「・・・・・・・」
「あ!」
しばらく手を取り合ったまま見つめ合っていたが、突然、そこには2人だけでなくレイミアスやミルフィーもいたことに気づいてチキは手を振り解くようにしてシャイローゼの側を離れる。
「これが月たんぽぽなのね?」
そして、窓辺に走り、じっとその光を見つめる。
「なんて清らかな光なんでしょう。」
そう呟いた時だった。シャイローゼが花の入った花瓶を高く掲げると床に思いっきりたたきつけた。
−ガッシャーーン!−
「おい?!」
「あ?!」
「ち、ちょっと〜、何するのよぉ〜?!」
あまりにも突然のことで制止することはできなかった。チキもレイミアスもそしてミルフィーも、呆然として粉々になった花瓶とその破片にところどころ埋もれた月たんぽぽを見ていた。
「ぶきぶきぶき〜!」
「あ!シャイ!」
どたどたどたっ!・・バッターーン!と部屋から勢いよく走り出ていくシャイローゼ。
「・・・あ、あたし・・・月たんぽぽ・・・・」
その瞬間シャイローゼを追いかけようとしたが、なぜだかそうするのは止め、チキは、そっと月たんぽぽを拾い上げる。
「・・・ごめんなさい・・月たんぽぽさん・・・」
ぽとっと涙が一滴チキのつぶらな瞳からこぼれ落ち、月たんぽぽの花びらにあたった。
(・・・シャイ、ごめんなさい・・・あたし、だめなのよ・・。)
心の中でチキはそう呟いていた。
エルフの村は平穏な日々が続く。それは、先祖伝来の放浪癖があり冒険者であるグラスランナーにとっては、一時的ならまだしも、その生活にずっと甘んじていられるようなことはまずない。本能がチキにそう語っていた。
それと、エルフたちも表だっては現さないだろうが、異種族であるに違いないチキへの視線、思い、感情、・・そして、それはひいてはシャイローゼにも向けられ、将来的に考えると2人の子供たちにも・・・・。
どう考えても断念すべきだとチキの頭の中で警鐘が鳴っていた。
「あたし・・・・・」
ぺたん、と月たんぽぽを抱えたままチキはその場に座り込んだ。
そんなチキとシャイローゼに、レイミアスとミルフィーはどうしようもなくそっとその場を離れる。

「月たんぽぽさん・・・・あたし、あたしもエルフだったら・・・・・・・」
しばらくそのままの格好で月たんぽぽを見つめていたチキが、思わず呟く。心の奥底の思いを。
そして、再び涙が一滴花の上にこぼれ落ちたその瞬間だった・・・チキの両腕の中の月たんぽぽの光がぱあっとその輝きを増した。
思わずその眩しさにチキは目を瞑る。
その輝きはゆっくりとチキの全身を包み込む。そして・・・・



「え?」
「ええ〜〜〜っ?!」
輝きが消え失せた時、チキの姿は背の低い全身短い体毛で覆われたグラスランナーではなかった。
「え・・えーと・・・あ、あの・・・」
自分の全身をくまなく見つめるチキ。
すらりと伸びた手と足、そして身体。体毛のないすべすべの肌。
「月たんぽぽさん?」
思わず腕にある月たんぽぽを見る。
「あ!」
そこにあったのは、ついさっきまで光り輝いていた花ではなかった。力無くしおれていまった灰色の花。
「月たんぽぽさん・・・・」
と、同時に思い出す。この月たんぽぽはこのために苦労して手に入れたのではなく、呪いを解くためだったことに!
「まさかこんな願いも叶えられるなんて思ってもみなかったけど・・で、でも、どうしよう?・・・あたし個人の願いなんかに使っちゃって・・・。」
驚きの顔が瞬時にして真っ青に染まる。
「ど、どうしよう?レオンに殺されちゃうかも〜・・・」
月たんぽぽを手にしたとき、いつものレオンではなかった。何か、それに達するまで尋常ならないことがあったと推察できた。
それに、シャイローゼの、そしてエルフ村にかかった呪いは・・・・?
ようやく手に入れほっとしているみんなにどう言い訳したらいいのか・・・・・?
「えっと・・・あ、あの・・・」
しおれた月たんぽぽを手にしたまま、チキは一人おろおろしていた。



ちょうどその頃、夢幻の館の燭台の間では・・・・
「ここにおったのか、レオン?」
部屋に入ってきたリーパオが深刻な面もちで中にいたレオンに言葉をかける。
「そろそろ食事の支度ができる頃じゃが?」
「ああ・・・・。」
まるで耳に入ってないかのようにレオンは力無く答える。
そんなレオンの傍らにリーパオは、静かに歩み寄る。
レオンがその視点の定まらない瞳で見つめているのは、グールを閉じこめた水晶玉。
が、その玉の中心にグールの姿はなかった。本体であるリーシャンが消えたとき、その影の存在であるグールもまた消え失せていた。
「てっきり勢いよく怒鳴り込んでくると思ったんじゃが?」
そんな水晶玉を同じように見つめながら、リーパオが独り言のように呟いた。
「・・・闇雲に感情に流される訳の分からねーガキじゃねーんだ。何がどうなってどれがどうなんだくらい分かってるつもりだぜ・・・オレは・・・。」
静かに答えるレオンの表情は、水晶玉を見つめたまままるっきり無表情だった。
「そうか・・・。」


「ほい。」
しばらく続いた沈黙の後、そんなレオンの目の前に、リーパオは銀の鎖をつけた小さな木の欠片でできたペンダントを差し出す。
「ん?」
何も考えず、レオンは手を差し出し、それを手のひらに乗せる。
そして、まだ思考の定まらないままそれを見る。
「・・・これ・・・?」
瞬間、レオンの脳裏にそれがあのグールの欠片だと、シュロの木の欠片だと思い浮かび、驚きの表情と共にリーパオを見る。
「わしがここへ来た時、グールの姿はなく、水晶玉の中にはそれが残っておった。」
「リーパオ・・・・」
小さく呟くと、レオンはゆっくりとペンダントに視線を戻す。
「リーシャン・・・・」
レオンの脳裏には、消滅する前のリーシャンの姿が鮮やかに蘇っていた。悲しみを含んだ力無い笑顔と、それでも精一杯幸せそうに微笑んだリーシャンの姿が。
思わずぐっとその欠片を握りしめるレオン。
「あまり考え込まんようにの。」
小さくレオンに声を掛けると、リーパオは静かにそこを立ち去った。



「あ〜あ・・・せっかくのご馳走が冷めちゃうぞ。」
中庭をレイミアスと話しながら歩くミルフィーが、両腕を頭の後ろに組ながら文句を言う。
「だいたい、意地を張ってるチキがいけないんだって。両思いなんだから正直になればいいのに。」
「いろいろあるんでしょう、きっと。種族とかなんとか。」
そんなミルフィーにくすっと笑った後、真面目な表情でレイムは答える。
「まーな、個人的にはどうしようもない障害だし、それ以外にもいろいろあるみたいなんだけど、だけど、そこは、ほら、愛があれば・・なんとかって言うだろ?」
「うーーん・・・どうなんでしょうねー。」
経験したことないから分からない、と恥ずかしそうに笑うレイミアス。
「・・・オレもないな。」
ふとミルフィアを思い起こすミルフィー。
「フィアなら分かる?」
思わず心の中で呟いた。が、返事は、当然のごとくない。
「あ〜、腹へった!これ以上我慢できん!もういい加減いいんじゃないか?食べに行こうぜ!」
沈みそうになった自分をごまかすように、ミルフィーは大声を出す。
「そうですね。もういい頃ですよね?」
「だよな?そこの影にいる誰かさんも腹減ったろ?」
−ぎくっ!−
ミルフィーのその言葉に、庭の片隅にあるベンチに座っていたシャイローゼがびくっとする。
「ったく・・・あんたも男なら、もっとはっきりしなよ!なんなら力づくででも?」
「ち、ちょっと、ミルフィー!なんて事言うんですか?」
「あ、坊さんの前で言う言葉じゃなかったっけ?だけど、時には毅然とした態度も必要だぜ。男なら。」
「ぶきっ!」
一大決心した面もちで、シャイローゼは2人の前に歩み寄ってきた。
「ぶきき、ぶきっ!」
「そうそう、そうこなくっちゃ!」
「え?ミルフィー、いつの間にシャイの言葉が分かるようになったんですか?」
驚いたように自分を見たレイミアスに、ミルフィーは思わずため息をついた。
「・・・あのな、普通成り行きで分かるだろ?」
「あ、ああ、そうですね・・はい、そうです。」
「レイム・・・」
どうやら理解したようなレイミアスに苦笑する。
「気が抜けるだろ?とにかく、がんばれ、シャイ!」
ぽん!と事の展開で何気なくシャイローゼと肩を組むようにその手を置いてしまったミルフィーは、次の瞬間シャイローゼのにまっとした表情に、ずざっと身体を後退させる。
「シャイ・・・お前って奴は〜〜〜!」
今の身体は妹であるミルフィアのものであったことを忘れて、ついその行動をとってしまったミルフィーが悪かったのだが、シャイローゼのそれに対する反応が・・・正直すぎたと言おうか・・・・つまり、その・・・・以下自粛(笑

「てめー、ぶっ殺してやる〜!」


中庭はしばしの間、剣を抜いてシャイローゼを追いかけるミルフィーと、それを止めようと追いかけるレイミアスとで賑やかだった。



☆★ つ づ く ★☆



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】