青空に乾杯♪


☆★ <<第32話>> 愛しさと悲しみとそして..... ★☆



 「わあああああ・・・・・」
どす黒い気がレオンを取り巻き、鼻から口からそして皮膚から内部へ侵入しようとしたいた。
「あう・ぐ・・・・・」
その暗闇が精神の中へも入り込もうとしていた。
「リ、リーシャン・・」
渦巻くどす黒い気の中心、レオンはその中心にリーシャンの姿を見いだして手を伸ばして叫ぶ。
どこからどこまでが現実でどこからどこまでが夢の出来事なのか全く分からない。
徐々に気が遠くなっていくレオンの心にリーシャンの悲しげな、そして弱々しい声が聞こえた。
risyan

妖精リーシャン
ナリさんからいただきました!
ありがとうございました。

「あなたは、あたしのことなんかすぐ忘れてしまったわ。シュロの木への誓いは絶対なのに。2人で植えたあの小枝・・・順調に成長すれば・・2人の心が離れなければ立派な大木になってたわ。そして、その大木で造った人形にあたしは同化し人間になるはずだった。あなたの元に行くために。なのに・・・なのに、シュロの木は枯れてしまい・・・行き場のなくなってしまったあたしの想いは、あろうことかその枯れ木に宿ってしまい・・・森で迷って死んでしまった人を糧にして成長し、ついにはグールになってしまった。あたしは罰を受け魔力を剥奪されて仲間たちから追放されたわ。妖精にあってはならないはずの負の心を持ちすぎてしまったのよ。あたしの住む場所はもうここしかないの。だからレオン、あなたも一緒にここにいて。ずっと一緒にここで・・・。」
「リ、リーシャン・・・?」
レオンは愕然としていた。自分の中にいたグール、もしかしてあのグールはリーシャンのその想いが籠もったシュロの木のグール?
「確かに忘れていた。だが・・嫌いというわけじゃ・・・」
「忘れ去られるということがどんなに残酷なことか・・レオン・・・・ほんの時々でもよかったのよ、思い出してさえくれれば・・・そうすればあたし・・・・」
「なまぬるい!そんなんでは引きずり込めぬわー・・」
再びおぞましげな悪霊の声が地の底からにじみ出るように響いた。
−ずずずずず・・・−
レオンの肉体に、精神に入ってくる闇が一段と濃くなってきた。
「ぶほっ・・・」
負の精神の塊、憎悪、疑心、殺意、ありとあらゆる闇の結集。自分の中に入ろうとしているそのあまりにもどろどろした感情にレオンは激しい吐き気を覚える。
「ぐっ・・・・」
全身はすでにすっぽりと闇に覆われていた。
ゆるりゆるりとうごめく悪霊の闇に。
「リーシャン・・・・オレ、多分今でも君のことは好きだよ。・・・忘れてたけど。勝手なこと言ってるけど。」
精神まで闇に染まるその直前、最後に振り絞るように呟いたレオンの声は・・それでもリーシャンの耳には届いていた。
・・・・彼女の心に。
「やめてーーーーーーーーっっっっっっ!」
突如リーシャンが叫んだ。と同時に金色の光が彼女の全身から飛び出、レオンを包み込む。
−ばあああああ!−
「う・・・」
闇に意識も飲み込まれそうだったレオンも思わずその眩しさに手で遮る。

そして、眩しさで堅く閉じてしまった目を再びレオンが開けたとき、自由になった自分と、目の前に冷たくなりかけていたリーシャンの小さな身体があった。
「リーシャン!」
慌てて駆け寄り、そっと手のひらにのせる。
「リーシャン・・待ってろ、今、回復魔法を!」
「待って・・・これでいいの。」
慌てて呪文を唱え始めたレオンを、彼女はかぼそい声で制止した。
「これでいいの、って・・よかーねーよ!」
「いいの、これで。負の心に支配された妖精はもう妖精ではないの。妖精にはもどれないの。」
「戻れなくてもいいじゃないか。人間になればいいじゃないか?人間になってオレと一緒になるんだろ?」
「・・・ありがとう、レオン。あんなことしたのに、嫌わないのね。」
「嫌うもんか・・オレが悪かったんだし・・それにまたオレを助けてくれたじゃないか?」
「レオン・・あなたが悪いんじゃないの。信じて待っていられなかったあたしが悪いの。あたしのそんな悪い想いが木を枯らしてグールにしてしまったの。」
「リーシャン、とにかく今はそんなことより回復魔法を。」
レオンは急ぎ再び呪文を唱え始める。
「だめ・・いいの。一度闇に染まった妖精は・・消滅するしか道はないの。」
「そ、そんなのだめだ!そんな気弱でどうする?治るから!オレの魔法ばつぐんに効くんだぞ!すぐ治るから、気をしっかり持つんだ!」
必死の思いで懇願するように言うレオンに、リーシャンは力無く首を振る。
「これでいいの。ここで永遠に苦しみながら時を過ごすより、レオンとまた会うことができて、レオンに包まれて死ねるんだもん・・。あたし・・・」
「だめだって、リーシャン!約束はどうなるんだ?約束は守るためにあるんだぞ?!」
「・・・ごめん・・な・さ・・・・・・い。」
リーシャンは最後の力を振り絞ってレオンの顔に向けて両腕伸ばす。レオンを求めているかのように。
「リーシャン・・」
その小さな両の手にそっとレオンは顔を近づける。
「ホントに大きくなったのね、レオン・・もう、立派な大人だわ。」
そのレオンの顔のあちこちを力のない手で触りながらリーシャンは独り言のように囁く。
「ここがレオンの額?ふふ・・あたしが寝られそうね。そしてここが目・・ここが鼻・・そして口・・・。」
リーシャンの生気はすでになくなりかけていた。すでに見えなくなってしまった目の変わりに彼女は手でレオンを確認していた。
「忘れないわ、レオンのこと・・あなたの顔・・たとえ、消滅しても。」
その唇の端にそっと自分の唇を近づける。
その途端、彼女の姿は、もやがかき消えるようになくなった。
「リーシャンッ!」
レオンは一瞬にして空っぽになった自分の手のひらを見ていた。
「う、嘘だろ?・・こんなのないぜ・・こんなのって・・・なんにもなしだなんて・・・こんなの・・・」
空になった両手を自分の顔にあてる。
「嘘だろぉ・・・・・?」
涙が溢れていた。どうしようもないやりきれない気持ちがレオンの身体中走り回っていた。
「わざわざ忘れていた事を思い出させやがって・・・・リーシャンを囮に使いやがって・・・・」
顔から離した手をぐっと堅く握りしめる。上を向いたその目からはまだ涙が流れ出ている。
「くっそーーーーーっ!・・・許さんぞーーーー!」
再び前方を向いたレオンは怒りで静かに燃えていた。その瞳に涙はもうない。
「誰が悪いって?そりゃーオレさ。オレがこんなところでちんたらしてたから・・・ったく・・・」
きっと闇を見つめ直すとレオンは感情を殺したような口調で言った。
「悪霊?・・それがなんだってんだ?ここはオレの精神世界なんだ。オレが無くなれ!と言えばなくなるんだ!だよな?リーパオ?」
ふっと自嘲するように唇の端をあげると大きく深呼吸をし、レオンはきっぱりと言い放った。
「てめーら・・ぜ〜んぶロストだーっ!」
その途端、あれほど暗闇全体にうごめいていた悪霊がいとも簡単にふっとかき消えた。
「でもって・・ミルフィーもミルフィアもレイム、チキ、シャイ、みんなオレの横にいる!」
すっとみんなの姿がレオンの横に現れた。
「あ、あれ?」
「え?」
ミルフィーたちがきょとんとしてお互いを見ながら呟く。
「でもって・・・月タンポポがそこにあるっ!」
ふっとレオンが指さしたところに、夢にまで見た月タンポポが現れた。
「ええ〜〜?!」
事の運びが全く訳分からないミルフィーたちは、ただただ唖然とするばかり。
「そして、・・・・」
そっと両手を丸く合わせるとしばらくじっと見入る。
「元気なリーシャンがここに・・・」
そっと手を開く・・・・が、そこに彼女の姿はない。
「くっそーー!なんでだよーー?!リーパオのばっかやろーーーっ!」
「レオン?」
声をかけようにもそんな雰囲気ではない。ミルフィーはレオンの肩にかけようとした手を思わず引っ込めた。
「やいっ!目的は果たしたんだ!さっさと全員の目を覚まさろ!いいか、この期に及んでま〜だちんたらしてるってんならオレにも考えがあるぞっ!」
口調とは反対に、そっと土と一緒に月タンポポを引き抜くと、レオンは空に向かって叫んだ。
「あ、あの〜・・どうしたのでしょう、レオンさん?」
不思議そうに尋ねるミルフィアに、ミルフィーが答えることができるはずはなかった。
勿論レイムたち他の仲間も訳がわからず、きょとんとしていた。



「や〜れ、やれ・・・・ようやく一段落のようじゃが・・・目が覚めてからが面倒のようじゃな・・・。悪霊やあの妖精に関しては、わしが仕掛けたことじゃないんじゃが・・・・」
悲しそうに首を振り、リーパオはそっと目を瞑って蝋燭の傍を離れる。
「・・・それにしても、恐ろしいほどの精神力じゃ。怒りがそうさせたとはいえ、あれほどの力があるとは。・・・はてさて・・人間とは不可思議なもんじゃ。」
そして、全員を目覚めさせるため呪文を唱えようとして、はた!と思いつく。
「やっこさんが、目覚めたら・・・殺されてしまうかもしれんのぉ・・・」
ふぉっふぉっふぉっ、と少し悲しげな余韻を含む小さな笑いをこぼし、リーパオは低く呟き始めた。



☆★ つ づ く ★☆



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