青空に乾杯♪


☆★ <<第30話>> 再びばらばら? ★☆



 いらつきながらも、じっと待つこと数十分・・・周りの空気が暗く、そして重くのしかかってくるように感じられた。
「お?・・・ようやく悪霊の空間を引きつけたか?」
レオンが辺りを見渡しながら呟く。
「そうみたいですね・・。」
少し不安そうな面もちでレイムが小声で相づちを打つ。
チキもシャイも周囲に注意を張り巡らしながら緊張していた。
そこへリーパオの声が低く響いた。
「魔の空間は、光一筋さえない闇の世界じゃ。ライトの魔法も効き目がない。じゃから、頼りはお前さんたち1人1人の生気しかない。心してかかるんじゃぞ。心を一つに保ち、常に横にいる仲間を確認しあいながら進んだ方がいいじゃろう。」
「な?そんなんなのか?」
レオンが心配そうに姿の見えないリーパオに聞く。
「そうじゃ。悪霊に飲み込まれないように気を張っていることじゃ。そうじゃな、闇の世界の召還が完了しない前に訓練しておいた方がよさそうじゃの。仲間の気をしっかり感覚に覚え込ませる必要があるでゃろう。」
「気を感覚に・・か・・・。なんか難しそうだな。」
「普段目に頼ってしまっておるからの〜・・まー、がんばりなされ。ふぉっふぉっふぉ!」
「おい!楽しんでねーか?」
そのリーパオの笑い声に、レオンが空を睨みながら怒鳴る。
「今回はわしの意地もかかっておる。そんな段ではないぞ。」
「・・・・な〜んかごまかされてるっていうか・・・踊らされてるような気もしないでもないが・・・・」
頭をぼりぼりかきながらレオンは呟く。
「やらなくちゃいけないってことだけは、確かだよな・・・。」
そのレオンの視線を受け、レイムが静に頷く。つまらない猜疑心に時間をかけているより目前に迫ってきている状況への対処に徹した方がいい。
「期待しておるからの。がんばってくれ!」
そんなレオンたちにリーパオの少し緊張気味の声が響いた。
「なんかいつもこのパターンだな・・やらなきゃならない展開・・・他に思いつかないのか全く!」
「誰に話してるんですか、レオン?」
リーパオには答えず、ぶつぶつ一人呟いているレオンの顔を、レイムが怪訝そうな表情でのぞき込む。
「え?あ・・いや、べつに・・」
あはははは!と力無く笑うレオン。
「なんでもないさ、ただの独り言だって。」
「そうなんですか。」
「とにかく、お互いの気をしっかり把握しておこうぜ。回りが見えないんじゃそれしか確認しようがないからな。」
「はい。」
「オッケー!」
「ぶきっ!」
そんなことを言っている間も、辺りは薄暗くなってきていた。
精神にのしかかる重さ・・そんな感じのする空気が満ちてきていた。
レオンたちは、緊張しつつ魔の空間の召還の完了を待っていた。



「・・・まっ暗だな・・・・。」
しばらく闇の中で身動きせずに様子をうかがっていた後、レオンがぽつりとこぼした。
「そうですね・・・でも、お互い隣にいるというのは、きちんと感じてますよね?」
「ああ、気配は分かる。それと声も、な。」
「じゃー、心を合わせて進みましょうか?ただここに突っ立っているだけじゃ進まないんでしょう?」
「そうね。でも、離れない方がいいわ。ここは、手でも握って進みましょうか?」
チキが嬉しそうに言う。
「おいおい・・・ガキじゃあるまいし、仲良くお手てつないで散歩か?」
「気配で分かるといっても、いつ何が起こるか分からないわ。慎重すぎるってことはないと思うわ。」
「ぶきっ!」
「まー、そうだな。」
「そうですね、じゃー」
レオンは仕方なく自分の手に当たったレイムの手を軽く握る。
「なんかガキに戻ったような気が・・・」
「そうですねー、そういえば、子供の頃こうやってお互いの手を握って遊んだ・・・そうそう!『花いちもんめ』というのを思い出しました。」
「花いちもんめって?」
「レオンの国ではありませんでした?2組に分かれて相手のグループの1人を指名して、指名された人同士が引っ張り合って自分のグループに入れるっていう遊びですよ。」
「ふ〜〜ん・・・・なんかよく分からんが・・・」
ぽりぽりと空いている右手で髪をかきながらレオンが答えた時だった。
「レオンがほしいぃぃぃ・・・・・」
「は?」
目の前の暗闇からなんとも言えないくらいおぞましい感じの低い声が響いた。
「ぐるるるるるる・・・・」
そして、一瞬赤く光った鋭い目。
「おい!お、お前がおかしなこと言ったからだぞ?!」
ぎょっとしてレオンが横にいるはずのレイムの方を見ながら叫んだ。
「あ・・・・そ、そういえば、ここって思ったことが反映するんでしたね?」
「い、いまさら思い出しても遅いぞ!」
目の前ににゅ〜っと差し出された真っ黒な腕にとまどいながら再びレオンが叫ぶ。
「で、ですけど、まさかすぐ現実化・・あ、いえ現実でもなかったですね・・え、え〜とどういえば?」
「そんなこと考えてんじゃねーよ!」
「そうですよ!レオン!思ったことが反映するんですよ!」
緊張で汗ばんできたレオンの手をぎゅっと握りしめながらレイムが叫ぶ。
「強く思うんですよ!絶対勝つって。」
「おい・・それって結局こいつと引っ張り合えってことじゃないか?」
真っ黒のうえに鋭い爪、そして腕の所々からも角のようなものが突き出ている気持ちの悪い腕を見つつレオンがため息を吐く。
「握るのもいやだぞ・・こんな手・・・」
「レ〜オンがほ〜しい〜・・」
再びおぞましい声が響き、それに共鳴するかのように空気が震える。
「オ、オレたちはお前なんかほしくないぞ!・・ど、どうせなら・・だな・・・そ、そうだ!ミルフィーが欲しい!」
すると、すっとその気味の悪い腕は暗闇に消え、その変わり人間の腕がレオンの目の前に差し出された。
「おい!ホントにこの腕がミルフィーだって保証はあるんだろうな?」
やったー!とばかりにすぐその手を握ろうとしたが、その一歩手前でそのことに気づいたレオンが腕の先を睨みながらきつく問う。
「レ〜オンがほ〜しい〜・・」
「おい、どうする?」
同じセリフを繰り返す相手に、レオンはレイムに小声で相談する。
「ここは相手しなきゃならないんでしょうね。例え本物でないとしても。」
「・・・だな・・・さっきの手を握ると思やいいか・・・」
しぶしぶ右手を差し出すレオン。
−ぐいっ!−
それを待っていたとばかり、その腕はものすごい力でレオンの手を引いた。
「わっわっ!・・・」
「レオンさんっ!勝つって強く思うんですよ!ぼくたちも応援しますから!チキやシャイも!」
「お、おうっ!」
−ぐぐぐっ!−
最初の危ない体勢からなんとか持ち直し、引き合いが始まった。
暗闇の中・・・なかなか勝負は決まりそうもなかった・・・・・・。



「い、痛い・・レオンさん・・腕がちぎれそう・・・」
と、突然ミルフィアの声がした。
「な?ミ、ミルフィア?」
思わず引く力が抜けてしまったその瞬間だった・・・
−ぐいっ!!−
「わ・・わ、わ〜〜〜・・・・」
「あっ!レオン!!」
その勢いで、しっかりと握っていたはずだったレオンとレイムの手も外れ、レオンは、あっという間に暗闇の中へ吸い込まれるように消えていってしまった。
「レオン!」
「ぶきっ!」
3人は一斉にその暗闇に向かって叫ぶ。
「レーオーーーンっ!」
「ど、どうしましょう、レイム?」
「どうしましょうって・・・レオンが消えていってしまった方へ行ってみるしかないでしょう?」
「そ、そうよね・・あたしたちはバラバラにならないように気をつけて・・・」
不安もあったが、ちょうどいい展開とばかりに、チキはレイムに身を寄せた。
「ぶきっ!」
と、シャイがそんなチキをレイムから引き離すように抱き上げる。
「え?ち、ちょっと?」
そして、ダダダダダー!と反対方向に走り始める。
「ぢ、ちょっとシャイ!今はこんなことしてる場合じゃないんだってば?シャイ?」
「ふごっ!」
今の状況がどんなものか、それは十分把握していた。が、シャイローゼにとっては、それ以上にチキとレイムが気になっていた。


・・・再びバラバラになってしまった彼らを待ちうけているものは?
その瞬間、暗闇の中に事の運びに満足げな悪霊たちのその不気味な笑みが浮かんだようだった。


☆★ つ づ く ★☆



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】