青空に乾杯♪


☆★ <<第28話>> 名演技なのか何なのか? ★☆



 「はぁ〜〜〜い♪お呼び〜ぃ?」
目を瞑り意識を集中していると、突然なまめかしい声が耳に飛び込み、それまでの緊張感が一瞬にして吹っ飛びずっこけてしまった一同が目を開けると、円陣を組み座っていたその円の中心に、例の女幽霊魔導師がにこやかな微笑みを見せつつ浮遊していた。
no7

女幽霊魔導師さん
箱さんからいただきました。ありがとうございました♪

「お、お呼びって・・・・」
レオンがあきれ顔で幽霊に向かって呟く。
「全く、緊張感も何もあったもんじゃないわ。」
「ふごっ!」
チキが幽霊を睨みながら言うと、例のごとくシャイがその意見に賛同する。
「あっら〜〜、ごめんなさい〜・・だって久しぶりですもの・・・嬉しくてぇ・・・あ?あら?でも戦士様の姿が見えないわね?」
「実はそれでお呼びしたんですが・・ミルフィーの身体に入っていても、分からなかったのですか?」
心配そうにレイムが聞く。
「う〜〜ん・・それがおかしいのよぉ・・・眠くて眠くて・・・・もうぐっすり眠ってしまってたの。死んでからこんなに眠いなんて感じたの初めてよ。」
「は、はあ・・・・」
「呼ばれたからはっとして出てきたのよ。」
「で、ミルフィーの、つまり実際の身体じゃなくて、夢の中の身体、つまり心になるのかな?えっとー・・精神的肉体のいるところはわかりますか?」
現実の身体は夢幻の館の1室で横たわっているはず。夢の世界の彼の(彼女の)身体の居所を、焦りを押さえながら聞くレイム。
「え?・・・・この近くにいるんじゃないんですの?」
「え?・・ま、まさか、わからない・・・とか?」
焦りが不安に変わり、レイムが悲痛な表情で幽霊に聞く。
「だって・・・いきなり呼ばれて飛び出して来ちゃったんですもの・・・」
「おいおい・・そりゃーないだろ?」
レオンも焦る。
「あなたなら分かると思ったから呼んだんじゃない!」
「そ、そうだったんですか・・・・・」
チキの強い口調に幽霊はしょぼんとする。
「幽霊さんを責めても仕方有りませんよ。寝ていたんだし。」
「でもっ!」
「なんとかならねーのか?あんたミルフィーと波長が合うんだろ?」
怒り収まらずといった感じのチキの肩を軽くぽんぽんとたたくと、レオンは真剣な眼差しで幽霊を見つめた。
「そうよね〜・・・・なんとなく波長の先が切れてしまったと言ったらいいのかしら・・・糸の切れたタコのような感じがするのよ。」
腰の辺りに手を当てながら幽霊は申し訳なさそうに応える。
「それで?そんなにやばい状態になってるの?」
「それが・・」
「今そんな説明してる暇ないんだって。とにかくミルフィーの居所を探ってくれ!」
幽霊に事情を説明しようとしたレイムを退けレオンは幽霊に必死の形相で頼んだ。
「は・・はいっ!」
そんなレオンに幽霊も事の緊急さを感じ、返事をすると共に精神を集中するために目を瞑った。



ひゅぅぅぅぅ・・・・
全員の注意は幽霊魔導師に注がれていた。静けさの中、風の音だけが舞う。
・・・・・・・・・・・・



「分かりました。」
ふと幽霊は瞼を開け、遠い目をしてぽつりと言った。
「ど、どこだ?」
レオンが焦ったように聞く。
「聖魔の塔の中層部・・・」
そこまで答えた幽霊魔導師の表情は強張っていた。
「中層部?」
「そうです・・この世に強い未練を残し・・しかも邪気に捕らわれ荒んだ心の固まりとなった悪鬼とも言える悪霊たちのエリア・・」
ぶるぶるっと全身を振るわせ、幽霊魔導師は恐怖に駆られたようにぎゅっと自分の身体を両腕で抱きしめる。
「悪霊たちの・・・」
その様子に全員ただごとではないことを悟る。
「そ、そこへはどうやって行ける?」
「みなさん精神体である今なら簡単にいけますけど・・・でも・・・」
ぶるっと再び振えると全身を強張らせる。
「それこそ向こうの思うつぼよ。・・悪霊たちに引きずり込まれるわ。・・・吸収されてしまう・・。」
「そ、そうなのか?気をしっかり持って抵抗すれば?」
「彼らの憎悪というのかしら・・とにかく生易しい物じゃないのよ。引きずり込まれたら最後、苦しみながら永遠の時を彷徨い続けなければならなくなるわ。」
「そ、それじゃどうすればいいんですか?それにミルフィーは?ミルフィーの精神体はミルフィアのと混在してるんですよね?」
「ああ・・この夢の世界ではそうらしい。・・・ま、まさかもう悪霊に吸収されちまったとか?」
「縁起でもないこと言わないでください、レオン!」
めずらしくレイムが大声で叫んだ。
「あ・・す、すまん・・だけどだな・・」
つい口にしてしまった思いたくもない言葉にレオン自身も戸惑う。
「・・・私もできるならご案内したくないんですが・・・でもしないわけにはいかないでしょうねー・・」
できるものなら避けたい・・・そう言いたいらしいことがその態度ではっきりと分かる。
「助けに行かないわけにゃいかねーだろ?」
「そうですね。ただ、実体がないだけ吸収もされやすいのですが、その反面、肉体を乗っ取られるとか直接ダメージは受けないですみますので・・・やはり心の強さ次第なんでしょう。」
「そうなのか?この夢から覚めてからそこへ出発した方がいいか、とも思ったんだが?」
「夢幻の館の結界を破れるものはいません。ですから、肉体があの館にあることはとても有利だと思います。でも、このことはリーパオにとっても考えられなかった展開じゃないんでしょうか?夢の中へ侵入者を入れてしまったことになるんですから。」
「そ、そうだよな!あいつは幸福な夢を目的としてるんだぞ。だから・・・今でも見張ってるってことだろ?なんとかできねーのかな?」
幽霊魔導師とレオンのその言葉ではっとし、全員リーパオの気配を探るように辺りを見回した。



−カツ・・カツ・・カツ−
「・・・すまん・・・本人が引き寄せたとは言え、こんなことは初めてじゃ。」
蹄の音をさせてブラックユニコーンの姿のリーパオがゆっくりと近づいてきた。
「危険を感じ、ここからはじき出そうとしたんじゃが・・奴らの力は相当なものでのぉ。しかも、何より夢を見ているあのお嬢ちゃんの気持ちが強くて・・・完璧にあの魔導師を信じ頼り切ってたんじゃ。じゃから、それを壊して夢から破棄することができなかったんじゃ・・・。」
「そんな無責任なことってないだろ?」
レオンが怒りで拳を振るわせて怒鳴る。
「幸せな夢を見させるんじゃなかったのか?」
「・・・・そうなんじゃがのぉ・・・」
悲しそうな視線をレオンに投げかけると、リーパオはどっと地面に倒れた。
「リーパオさん?!」
慌ててレイムとチキが駆け寄る。
「な・・なんだ?」
レオンもそんなリーパオに驚いて棒立ちになったまま見つめる。
「わしの術をはねつけおった・・・恐ろしい力じゃ・・・。」
横たわったままリーパオは弱々しげに言った。
「マークも相当ダメージを受けて、部屋で休んでおる・・・回復まで日数がかかるじゃろう。」
「そ、そんなに強いなんて・・ど、どうすれば?」
真っ青な顔をしたレイムが回復魔法をかけながら呟く。
「回復魔法は効かんよ、レイム・・・身体はどおってことない。精神への衝撃じゃ。」
「そ、そんな・・・・」
「ぶるるるる・・・・」
満身の力を振り絞りリーパオは立ち上がる。が、その足下はふらふらとして頼りなげない。
「大丈夫ですか?」
「ああ・・これくらいで倒れるわしではない。・・・じゃが・・今しばらく待ってくれ。夢を司る夢魔として、夢幻の館の当主として、わしの誇りにかけて事態を好転させる・・・・」
「おお〜!さすがだぜ!」
「・・と思ったんじゃが・・わしも歳なんでのぉ・・・・」
「は?」
リーパオの言葉に感心してほめたレオンがずっこける。
「今少し回復したらこの世界に奴らを引き寄せる。向こうへ行くより、ここの方が有利じゃ。わしもある程度力になれるしの。じゃから頑張ってお嬢ちゃんを奴らの手から解放するんじゃぞ。」
「はー?負けたのにそんなことができるのか?」
今ひとつ・・いや、ほぼ100%信じられないという表情でレオンが叫ぶ。
「じゃから、さっきはお嬢ちゃんの想いが大きな障害となったんじゃ。じゃから今度は事情を知ってるお前さんたちの気持ちと、なんとかお嬢ちゃんにそれを気づかせてくれれば・・」
「そ、そっか!あくまでここは精神世界だもんな!」
リーパオが全部を言わないうちにレオンが手をぽん!とたたいて叫ぶ。
「そうじゃ。」
「なるほど、それならなんとかなるかもしれませんね。」
レイムも頷く。
「しかしだな・・まさか、てめー・・・これも夢を面白くさせる展開なんじゃねーだろーな?」
一応打開策は思いついた・・が、リーパオの顔を見ているうちにレオンはふと思ってしまった言葉を口にした。
「いくら山あり谷ありの方が面白くても、わしもここまではやらんよ。」
不適な笑いを目元に浮かべリーパオはしれっと言う。
「・・・そうなのか?」
「いくらなんでもそこまで言っては失礼ですよ。」
レイムがまだ疑問さめやらずといった感じのレオンをたしなめる。
「あ、あはは・・・悪い悪い。」
頭をかき照れ笑いするレオン。
「それじゃ、他の客人の夢を喰って回復してくるからの。しばらく待っていてくれ。」
「ああ・・わかった。なるべく早くしてくれよ。」
「ぶひひひひん・・・」
軽く嘶くとリーパオはそこから姿を消した。
「でも・・・」
何か考え事をしていうようにチキが呟いた。
「夢の中の出来事なんだから・・・あたしたちの本体を起こしてくれればいいことじゃないの?」
「そ、そうだよな!」
「あ!」
「ふごっ!」
レオンたちもそれを思い出す。
「あ・・でも、ミルフィアは精神を連れ去られてしまったんですから・・・目覚めさせても心は身体に戻らないんじゃないでしょうか?」
「あ!そうか・・・・」
レイムが付け足した言葉で、チキはそれが完全な解決にならないと分かりため息をつく。
リーパオのたくらみだろうとなんだろうと窮地に立たされていることは変わりない。
しかも、たとえそうであり、全員で糾弾したところで、あのリーパオがおいそれと認めるわけがない。
簡単に解決してくれるわけも・・・ない。

「・・・まだ吸収されちゃいねーよな・・ミルフィーも・・ミルフィアも・・」
心配そうに呟いたレオンに、だれも返す言葉が見つからなかった。




☆★ つ づ く ★☆



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