青空に乾杯♪


☆★ <<第25話 >> 幻想・・果たせぬ(?)夢 ★☆



 −カラーン、カラーーン・・・
森が途切れたところにさほど大きくはないが白い壁の教会があった。
そこでは、結婚式が終わったところらしく、数十人の人々に囲まれた新郎新婦が幸せそうに階段のところに立っていた。
そして、2人の後ろ、静かな笑顔で教会から出てきた若い僧侶と老司祭。
その幸せそうな光景に思わず声が出た。
「素敵だわ。」
「ん?・・・ってことは・・ミルフィアか?」
今の今までミルフィーだったのに、と数歩前を歩いていたレオンは思わず振り返る。
「ええ、そうよ。」
にっこり笑った戦士は・・確かにミルフィア。
「なんでこうしょっちゅう入れ替わるんだよ?」
やりにくいったらない!と思いながらレオンは再び教会の前に向ける。
「ん?あれは?」
よく見ると若い僧侶はレイム・・そして、ウエディングドレスの新婦は・・・
「チキ?!」
驚きの余り大声が出てしまった。
最初見たときには、新郎が新婦を抱いていたので感じなかったが、今は並んで立っているためその背格好の不釣り合いさがすごく目立っていた。新婦は子供くらいの身長、そして、新郎は・・・新婦の2倍以上あるかと思えるほどすらりとしたエルフ。結構美男子である。
が、明らかにその新婦は、グラスランナー、チキ。
「あらレオンも来てくださったの?・・それに・・ミルフィー?」
2人に駆け寄りながらにこやかな顔でそういったチキがふと首を傾げる。
「ううん・・そうじゃないわね・・・・・雰囲気が違うわ。」
「あ、ああ・・今はミルフィアっていって、ミルフィーの妹なんだ。これには訳があって・・・」
どう説明しようかと頭をぼりぼり掻いているレオンにチキは微笑んだ。
「いいのよ。だいたい予想はついていたから。」
「そうなのか?」
驚いてチキを見つめるレオン。
「そうよ。グラスランナーは感がするどいのよ。」
「そ、それはいいが・・・どうなってんだ、これは?」
「ふふっ」
幸せそうに軽く微笑むと、チキは新郎に呼びかけた。
「シャイ!レオンとミルフィー、いえ、ミルフィアよ!」
「なにぃ〜?シャイぃ〜?」
チキの声に村人と話していた新郎が顔を上げる。それは、あの豚シャイとはどう逆立ちしても思えない顔立ち、そして、その姿。
「やあ、レオン、・・よく来てくれたね。」
にこやかに握手をしようと手を差し出すシャイに、レオンはスローモーションで手をだす。
「そして・・ミルフィア?」
そっとミルフィアの手を取ると、手の甲に口づけをする。
「ぼくとしては、ドレス姿のあなたを見てみたかったですが・・。」
「シャイ!」
ミルフィアの手を握ったままのシャイをチキはきつく睨む。
「なんだい、チキ、もしかして妬いてる?ぼくが君以外の人に心を移すわけないだろ?」
ミルフィアににこっと笑うとすっと手を離し、チキの前にかがみ込んでその額に軽く口づけをするシャイ。
「な・・・・・」
一体何がどうなって・・・?とその様子を見ながらレオンはパニック状態に陥っていた。
そして、はた!と気づいた。
「そっか・・これって夢だったよな・・だけど、誰の夢だ?」
「あのね・・」
そのレオンのつぶやきが聞こえたのか、チキが背伸びをして耳を傾けるように言った。
「多分3人の夢が一緒になってると思うの。」
「3人のって・・あんたとシャイとレイムのか?」
「そう・・そこにレオンとミルフィーが入ってきたってわけ。」
「ふーーん・・そうなのか・・だけどあれだけシャイに強く当たってたのに・・?」
「ふふふっ、そこは、複雑な乙女心?」
「乙女心ねー・・・まー、分かる気もする。」
レオンはまじまじとシャイの容姿を見てそう感じていた。
(女がほっとかないだろーな。)
「あ!そうそう!丁度いいわ。この際合同結婚式しちゃいましょ!」
「な、なんだそれ?それに式は終わったんじゃないのか?」
「あ!そっか・・じゃー、合同披露宴ということで。」
「なんだ、それは?」
訳がわからん・・とチキの顔を見ていると、そこは夢なのか、いつの間にか衣服が変わっていることに気づく。そう、ローブではなくタキシードを着ていることに。
「おいおい・・冗談よせよ。それに相手がいないだろ?」
たとえ夢の中の冗談にせよ、相手がいなくちゃどうしようもないだろ?と思いながら横を向いたレオンが硬直する。
そこにはウェディングドレスに身を包んだミルフィアが、レオン同様自分の衣装に驚いていた。
「わ、私・・これ・・・?」
ドレスの裾を持ち上げ、その場でくるっと回って上機嫌のミルフィア。
「素敵だわ。」
「おい!チキっ!」
しばらくその笑顔に見とれていたレオンは、思い出したようにチキにきつい口調で投げかけた。
「ミルフィーに変わっちまったらやばいだろ?」
「あら・・そうなの?」
「そうなの?じゃーねーよ!・・とにかくやだね、オレ、こういう冗談は。」
その途端にすっとレオンの服が元のローブに戻る。
「お!さすが夢だ!都合がいいな。」
「もう!せっかくの好意を無駄にして!」
「そういうのをいらぬお節介ってんだよ。第一ミルフィアにはレイムという好きな人がいるんだぞ。」
「レイムって・・・あの?」
チキは教会の入り口にいるレイミアスを振り向く。
「いや違う。魔導師で、昔からの知り合いらしい。ミルフィーはそいつを探してるらしいんだ。」
「ふ〜〜ん・・。」
「レイム・・レイムがいるんですの?」
「い、いや・・・レイムと言っても違うんだ。レイミアスといって一緒に旅をしている僧で、レイムって呼んでんだ。」
「そ・・そうですか。」
純白のウェディングドレスに輝いていたミルフィアの目が暗く沈む。
「ほらみろ!チキのせいだからな!」
レオンがチキになんとかしろと目配せする。
そんなこと言ったって・・・とチキが小さく言い返していると、ミルフィアの背後から低いが優しい響きのある声がした。
「ミルフィア?」
「え?」
その声に振り向いたミルフィアの沈んだ顔が、ゆっくりと頬を染めながら微笑みに変わっていく。
「レイム!」
うれしさで少し震えた声でそう呼ぶと、ミルフィアは裾を翻して一直線にレイムに駆け寄る。
「ミルフィア・・よくここまでご無事で。」
やさしくミルフィアを抱き留める長身の魔導師レイム。
深くかぶった漆黒のフードから、柔らかそうな金髪がはみ出、風でゆれている。
「レイム、よかったわ。あなたが無事で。」
そう言いながら、そっとその腕から離れ、ミルフィアはフードの下の顔を見て驚く。
「レイム!目が・・・?」
深くかぶったフードの下、そこにはミルフィアが愛した優しい緑色の瞳には光がなく、白く濁ったものがあるだけだった。
「ミルフィア・・・」
見せるつもりはなかったのに、とレイムはフードを一層深くかぶり顔を背ける。
「レイム・・ごめんなさい、私のせいね・・。」
そんなレイムの手をどけ、ミルフィアはそっと顔を両手で包むとその目頭に口づけをする。
「ミルフィア、あなたのせいなんかじゃありません、決して。」
レイムもまた両手をミルフィアの顔に這わせる。
そして頬を伝う涙に気づき、そっとそれをぬぐう。



「レオンったら!」
2人をそっとしておこうとチキはぼんやりと2人を眺めているレオンを突っつく。
「あ・・ああ・・・・・」
なんとなく気が抜けたような消失感を感じながら、レオンは教会の前で繰り広げられている村人たち主催(?)の披露宴の中に入っていった。




☆★ つ づ く ★☆



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