青空に乾杯♪


☆★ <<第24話 >> ミルフィー消滅?! ★☆


 「待て〜っ!」
レオンとミルフィーの追いかけっこは続いていた。
「誰が待つか?!待ったら殺されるだろ?・・ったくここまで本気にならなくてもいいだろーに?」


そして・・・走り始めてからどのくらい走り続けていただろうか、疲れ果ててきたレオンはもう逃げる気力もなくなってきていた。
「もうどうでもいいや・・・」
心の中では、まさか本気で殺しはしないだろう、と思いながら。
が、ミルフィーの表情と態度は、本気らしいとも思えることも確かだった。
「も、もうだめだ・・息があがっちまって・・・これ以上は走れん・・・」
はーはーはー、と荒い息をしながらレオンはよろよろと座り込んだ。
「ようやく観念したか?」
そのレオンを待っていたようにミルフィーの声がする。
「いい加減にしろよ!ミルフィー!これだけ追いかけりゃ気がすんだろ?まさか本気だなんてこと・・ないよな?」
とぎれとぎれにそう言うのがレオンには精一杯だった。
「本気に決まってるだろ?オレはこの手の冗談は嫌いなんだ。」
「お、おい・・ミルフィー?」
すぐ横に立ったミルフィーを、レオンは焦りと共に見上げる。
「忠告に従わなかったお前が悪いんだよ。」
「そ、そんなこと言ったって・・あの状況でほかっておけるわけないだろ?それにだ・・」
「それに?」
「別にミルフィアをどうのこうのという気なんてないって。特にお前が心配するような事は。」
「絶対に?」
「う・・・あ、ああ・・・」
自分でも分からないが、断言するつもりが、つい口ごもってしまった。
「・・・・・」
そんなレオンに剣の切っ先を向けぐっと睨むミルフィー。
「おい、そう言や、オレってお前の命の恩人だろ?恩人を殺すのか?」
慌てて思いついた事を言ってみる。
「ふん!そんなの今までの事で、とっくの昔にチャラになってるさ!」
「そ、そんなんありか〜?」
こ、こりゃやばい、マジだぞ・・・とレオンの焦りは一層増す。
「他に言いたいことあるか?」
「あ、ある・・・え、え〜と・・ほら、その、なんだ・・・あ、そうそう・・あれだ、あれ。」
「何だよ?早く言え!」
「だから、ほら・・あれだってば!」
勿論・・・話すことなど頭に思い浮かぶはずはない・・レオンは必死にその場を切り抜けようとしていた。
「ないんだろ?」
勝手に決め込んだミルフィーが剣を高くあげる。
「う、うそだろぉ〜?・・・」
逃げる元気もないレオンは、真っ青になってその鋭い切っ先を見上げていた。


−キン!−
と、突然険しい顔をして睨んでいたミルフィーが、苦々しい顔で剣を鞘に収める。
「ん?」
「・・・ったく・・・本気でやるわけないだろ?いくらなんでも・・・」
そして、小さく呟く。が、レオンに言っているわけでもなさそうに思われた。
「なんだ?」
剣は鞘に収まったとはいえ、油断はできない。レオンは恐るおそる小声で聞いてみた。
「・・・ったく・・・・」
不機嫌そうな顔でレオンに答えるミルフィー。
「フィアに怒られたんだよ。・・・あんたには助けてもらったといおうか・・心の重荷を取り除いてもらったんだから、冗談でもそんなことするな、だとさ。」
「あ・・そ、そうなんだ・・・ミルフィアが。」
表面はミルフィーのままということは、心の中でミルフィアがたしなめてくれたようだ。
ようやくほっとするレオン。
「何したんだ?」
相変わらず不機嫌そうな顔をして、ミルフィーはレオンの横に座るとじっと見つめる。
「何?って・・お前知らないのか?」
「どうも、表面化してないときは、意識が全くないんで何が起こってるのか全然知らないんだ。何かこう特別な時とかじゃないと。フィアが話してくれない限り。」
「ふ〜ん・・・・」



そして、レオンはミルフィーに事情を話した。もっとも腕の中でとかそういうやばそうな事は伏せておいて。
「そっか・・じゃー、ミルフィアは割り切れたというか・・大丈夫なんだな。あ!だけど、これは夢・・・か。・・・この夢から醒めても大丈夫ならいいんだけどなー・・・。」
「・・・・・」
そう呟くミルフィーの悲痛な表情に、レオンは言葉が見つからなかった。
「ふー・・・」
「い、今はミルフィアとは話せないのか?」
「うーーん・・・前は全く感じなかった心は感じるんだけどな・・フィアと話すのも何かこう、感情が高ぶるというのか、そんな時でないとお互いは話せないみたいなんだ。」
「なるほど・・・。」



「レオン・・・・」
しばらく目を瞑り、じっと考えていたミルフィーが、ふいに真剣な声色で呟いた。
その視線はぼんやりと遠くを見つめている。
「な、なんだ?気色悪ぃな・・改まって?」
「どうも意識が普通じゃないんだ。」
「はん?普通じゃないって・・・さっきの行動か?」
「じゃーないよ!」
「じゃーなんなんだよ?」
「はっきりとじゃないんだが・・時々、ふわ〜っと消えていってしまいそうになるんだ。」
「なんだ、それってフィアと入れ替わる時の現象だろ?」
「いや・・違う・・・・・オレの意識が溶けていってしまうような・・ふわふわしたような・・何も考えられない・・いや、考える必要がないような・・不思議な感覚なんだ。じっとしているとその『無』・・・?と言ったらいいかな?その中に溶けていってしまいそうな感じなんだ・・・。」
「なんだそれ?」
下手に視線を合わせるとまたしても不機嫌になってもいけないと、ミルフィーと顔を合わさないようにしていたレオンは、訳が分からずミルフィーを見た。
同じように真正面を向いているミルフィーの横顔が、なぜかとても不安定のように見え、思わずレオンは慌てる。
確かにそこにミルフィーはいるのに、その存在がまるで消えかかっているように思えた。
「お、おい!気をしっかり持てよ!」
「ん・・・・」
「おいおい・・お前らしくもない。さっきまでの勢いはどうしたんだ?」
その存在を確かめるかのように、レオンは慌ててミルフィーの腕をつかむ。
眠りから醒めかかっている状態とは違うように思えた。
「なー、レオン、正直に話してくれ。」
「な、何を?」
ふっとレオンの方に顔を向けたそのミルフィーの表情は、悲しげな真剣さを持っていた。
「フィアのことどう思ってる?」
「ど、どう?って・・な、なんだよ、いきなり?」
「いいから!正直に話してくれ。殺すとか・・物騒なこと言わないから。」
「う・・あ、ああ・・・」
その真剣な眼差しに、レオンはただごとじゃないな、と思いつつ正直に答えた。
「そうだな・・多分、お前と同じ感情だろ?兄貴の心情だ。ま、かわいい妹ってとこだろうな。・・言っちゃーなんだが・・・恋を語る相手にするには幼なすぎるって言うか・・・なんと言うか・・違ってる感じがする。」
「そっか・・なら、いいかな?」
「んだよ?何かあるのか?」
ごろりとそのまま仰向けになると、頭の後ろで組んだ両腕を枕にしてミルフィーは目を閉じた。
「おい!」
そんなミルフィーに焦りを感じたレオンは、慌てて顔をのぞき込む。
「ん・・ああ・・・話が途中だったっけ。」
仰向けになったままだが、一応目を開けたミルフィーに、レオンはほっとする。
「・・たく・・・で、なんだよ、話って?」
ミルフィーは、なぜミルフィアの身体に自分がいるのかを話した。ミルフィアの知らないあの事件のあとのこと。そして、自分の旅の目的を。


「もしも魔導師のレイムに会える前にオレが消えちまったら、あんたにフィアのこと頼みたいんだ。勝手なこと言ってるのはわかってる。だけど、他にいないし、どうやらフィアはあんたを信用してるみたいだしな、」
「オ、オレをか?」
「ああ・・・・」
そして、再びミルフィーは目を閉じる。
「なんだよ、それ?さっきまで殺してやるって言ってただろ?いいのか?どこの馬の骨ともわからない奴にかわいい妹を頼んじまって?確かに今は妹のような感情しかないが、男と女であることには変わりないんだ、いつどうなるか分からんぞ?」
「さっきは単なるジョークだって。それに、フィアの意思ってのもあるだろ?あれで案外強情っていうか、自分の意志を通すとこがあるんだ。そうそう言いなりばかりじゃないさ。だから、そうなったらそうなったらで・・・」
「ジョークには思えなかったぞ。」
レオンはものすごい顔つきで追いかけてきていたミルフィーを思い出していた。
「・・・兄貴としての嫉妬が90%かな?」
「なんだ、それ?」
「とにかくさ・・・」
身体を起こし、ミルフィーは遠くを見ながら呟くように言う。
「レイムも生きているのかどうか分からないんだし・・・フィアの意識がここまではっきりしてきて、多分、今の眠りの中だけのせいじゃないと思うんだ。目が醒めてもきっとフィアの意識ははっきりしてる。表面上はたとえオレだったとしても。おそらく・・・。」
「おい!気弱な事言ってんじゃねーよ!どうしちまったんだ?いつものミルフィーに戻ってくれよ?!レイムに会わすまで・・じゃーねーや!会わせて、それから、自分の身体を見つけるまで何がなんでも頑張るって、どうして言わねーんだよ?ミルフィーらしくない!ミルフィアが出て行けなんて言うわけないだろ?」
「んー・・フィアはそうなんだけどな・・・。」
にこっと力のない笑顔をみせたミルフィーに、レオンは一層慌て、その肩を両手で掴むとぐいっと自分の方を向けた。
「おい!ミルフィー!しっかりしろよ!目的地は知ってるだろ?聖魔の塔なんだぞ?ミルフィアを守ってやらずにどうする?!」
「剣士としての技は、この身体が覚えている。最初は戸惑うと思うが、徐々に慣れていくだろ?なんとかなるさ。あんたや僧のレイムがついていてくれりゃ。」
叱りとばすレオンのきつい視線とその言葉を聞き流すかのように、ミルフィーの視線は目の前のレオンを通り越し、虚空を彷徨っている。
「ミルフィーっ!!」
両手にぐっと力を入れて、その肩を揺するレオン。
「フィアに目覚めて欲しかった・・だけど、できるならレイムに会ってからが良かった・・かな?オレの身勝手だけど。思いもかけず早く目覚めてくれて嬉しい、嬉しいが・・・」
レオンの両手をそっと自分の肩から外すと、ミルフィーはゆっくりと立ち上がった。
「・・・覚悟はとっくの昔にできていたことなんだがな・・・。」
「な、何か手だてはないのか?双子だからいいじゃないか?ずっと一緒でも?」
ミルフィーをじっと見つめつつ、レオンもゆっくりと立ち上がる。
「オレの身体が見つからない限り、そう長くはこうしていられないらしいんだ。幸い、あんたたちという仲間もいることだし。」
「ミルフィー・・・」
沈んだその声にレオンは何も言うことがなかった。
「とにかく、いつオレが消えちまってもいいようにしとかなけりゃいけないことは確かなんだ。頼める権利も義理もないってことは、分かってる。だけど・・頼む!レオン!」
「いやだね。」
真剣な眼差しで自分を見つめて言うミルフィーに、レオンはいとも軽く答えた。
「っだと〜っ?レオン、お前?!」
低姿勢で頼んでいるのに、とミルフィーは怒る。
「そんなに心配なら、石にかじりついてもそこに残ってればいいだろ?そうだな、なんなら、幽霊になってでも一緒にいればいいじゃないか?そんだけ思いがありゃこの世に留まっていられるだろ?」
「レオンっ?!・・・お前って、そんなに薄情な奴だったのか?!」
レオンの胸ぐらを掴んでにらみつけるミルフィー。
ミルフィーの悲痛な声がレオンの耳にこだまする。
が、レオンは素知らぬ顔でミルフィーの視線を避ける。まるでオレには全く関係ないね、とでも言うように。


「あーそうかい・・わかったよ・・・あんたに頼んだオレが間違ってたよ!もういい!金輪際あんたには何も頼まないっ!フィアはオレが守ってやるよ!消えやしない!絶対に!変わりにあんたを殺してその身体を奪ってでも!・・・絶対になっ!」
ぱっと投げ捨てるようにレオンを放すとミルフィーはくるっと向きを変え、すたすたと歩き始める。
そんなミルフィーの後ろ姿を見、レオンはにやっとして言った。
「そうそう、そうでなくっちゃ。それでこそミルフィーってもんだ。やってもみないで諦めるなんざ愚の骨頂さ。」
「なん・・?」
怒りで染まっていたミルフィーが、その言葉にレオンの本心を見、驚いてレオンを振り返る。
「だろ?」
「レオン・・・」
「まー、できる限りしぶとく頑張って居座るんだな・・どうしてもだめになったら・・後は任せな。」
怒りの顔が驚きのそれになり、そして、苦笑いへと変化し、ミルフィーは思わず軽く笑ってウインクしているレオンに駆け寄った。


「おい・・オレはお前と抱擁なぞする気ないからな。」
感情の高ぶりで我を忘れてレオンを抱きしめるところだったミルフィーは、今一歩のところで我に返り、身体をぐっと反らして留まった。
「オレだって!!」

「ぷぷっ・・・ばーっはっはっはっ!」
数秒見つめ合った後、高らかな笑い声が辺りにこだましていた。




☆★ つ づ く ★☆



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