青空に乾杯♪


☆★ <<第23話 それでも生きなくっちゃな>>  ★☆



 (しっかし・・・・ミルフィーがシスコンになる気持ちが分からないでもないな・・・。)
泣き疲れ、それでも安心したのか、いつの間にか自分の腕の中で寝てしまったミルフィアを見ながら、レオンはそう考えていた。
(だけど、オレとしては・・深窓のお嬢様よりも、もっとこう・・少し生意気くらいの元気のある子の方が好みだな・・。お嬢様ってのは扱いが難しくって面倒なんだよな・・。)
そう思ったレオンの脳裏に、ミルフィアではなくミルフィーの顔が浮かぶ。愛想も何もないぶっきらぼうなミルフィーの顔。
ぽんぽんと言い返し、怒りっぽいがいつも元気いっぱいのミルフィー。
(ち、ちょっと待てって・・奴は男だぞ?!)
自分ながら、なぜそこでミルフィーが出る?と焦り首を振るレオン。
「う・・ん・・・」
「おっと・・・起こしちまったかな?」
首を振った動作で身体も揺れたのだろう。その揺れでどうやらミルフィアが起きたようだ。
「あ・・レオンさん?・・・私・・・?」
顔を上げたミルフィアは、すぐ目の前にレオンの顔がありびっくりする。
「きゃっ・・・ご、ごめんなさい。私ったら・・・。」
そして、急いでその腕から逃れる。
「い、いや・・いいんだって。ミルフィーと混同してたんだろ。」
「え?え、ええ・・・私、気が動転してしまって・・・。すみません。私・・・」
思い詰めたような表情でそこまで言うと、ミルフィアはゆっくりと周囲に視線を流した。
そして、その視野に長剣を認めると、とっさに走り寄り、いきなりそれを握ったかと思うと、ミルフィアは同時に剣をその胸元に突き立てようとする。
「あ?!お、おいっ!」
慌てて駆け寄り、レオンは、今まさにその胸を突かんとした長剣を握ったミルフィアの手をぐいっと握り、上に上げさせる。
「何するんだ?」
「放して下さい。私なんか生きてる価値はないんです。生きてちゃいけないんです。」
「馬鹿やろう!」
−バシッ!−
レオンの手がミルフィアの頬を勢いよく殴っていた。
「あ・・・・」
「あ・・悪い・・」
−カキン・・・−
レオンに握りしめられたフィアの右手から剣が落ち、小石にあたって音を立てた。
ミルフィアは、もう片方の自由な手を今レオンに打たれ、少し熱さを感じる頬に当てる。
「悪い・・つい・・・」
申し訳なさそうに謝るレオンに、ミルフィアは力無く首を振る。



「何があったんだ?オレでよかったら話してくれないか?どうこうできるかどうかは分からないが、話せば多少気が楽になることもあるってもんだ。」
少し落ち着いたらしいミルフィアをそこに座らせると、レオンはできる限りやさしく言った。
「え、ええ・・。」
そして、しばらくうつむいて考えていたミルフィアは、ゆっくりと話し始める。
できることなら思い出したくない恐ろしい出来事、が、直視しなければならない事実を。



 「そっか・・・そんな事があったのか・・・・・・それでミルフィーも・・。」
ミルフィーの旅には、何か深い事情があるらしいことは感じていた。
『どうにもならないことだらけさ、世の中なんて。』
レオン自身がグールとなって仲間を殺していたことに気づき、自分の身の振り方を考えていたとき、吐くように呟いたミルフィーの言葉が蘇った。
「オレも・・・同じようなもんさ・・・。それでも死んじゃいけないんだ。生きなくっちゃ・・。逃げてもどうにもならん・・。」
そう呟いたレオンには、それがミルフィアに言ったものなのか、自分自身に再び言い聞かせたのか、分からなかった。
「でも・・・・」
じっとレオンの瞳を見つめるミルフィアの目には、涙がにじんでいた。
「私はどうすれば?」
「そうだなー・・・・・」
「修道院へ入って祈りを捧げるべきなのでしょうか?」
「まー、それも1つの手段かもしれない。が、オレが思うには、自己満足でしかないと思うな。ミルフィーには、そんなの逃げだと言われたしな。」
「フィーがそんなことを?」
「ああ・・。神に逃げても仕方ないとさ。要は、これからの生き方って言うのかな?・・・んー・・・」
レオンはぼりぼりと頭をかいてから付け加えた。
「オレにも分からないんだ。ただそれを繰り返さないことと・・・」
「ことと?」
「自分をしっかり持って、人として正しく生きる・・・ってとこ・・かな?殺しちまった・・あ、いや、死んじまった人たちの分まで。・・・ははは・・・偉そうな事言えないや・・分かってないんだからな。」
「人として正しく・・」
そんなレオンをじっと見つめたまま、噛みしめるように同じ言葉を繰り返すミルフィア。
「思いついたことといやー、自分を必要としてくれる人に出会ったとき、精一杯のことをする・・・・くらいかな?はははっ」
力のない笑いしかだせない自分が悔やまれた。
「必要としてくれる・・・?こんな私でも?」
「そうだ、実際今あんたが死んでみろ、ミルフィーがどんなに悲しむことか。それと、なんて言ったっけ、その魔導師・・・」
「魔導師って・・・レイムのこと?」
「そうだ。ミルフィーは自分のこともあるだろうが、ひょっとするとあんたをそのレイムっていう魔導師に会わせたいんじゃないのか?」
「そう・・かもしれません・・。」
「とにかく今あんたを必要としている人の為に、死ぬなんてことは、考えてもいけないんだって。」
「私・・・生きていていいんでしょうか?」
「死んだら悲しむ人がいるってことだけで、生きている理由は十分だと思うな。」
そして、レオンは自分の事を話した。ミルフィーたちと出会った時のこと。そして、グールになり仲間を殺してしまっていたこと気づいた時のことを。
「・・・・・・・・」


「ミルフィア・・・」
しばしうなだれたまま返事のないミルフィアを心配して、レオンはその肩に手をかけた。

と・・それと同時に・・・
「なんだよ、この手は?」
「おお〜っと・・・・」
咄嗟に手を離し、勢いよくレオンは立ち上がった。
顔を上げたのは、確かにミルフィー。
「まさか・・お前っ?!フィアに手を出したのかっ?!」
ザッと同じく勢いよく立ち上がるミルフィー。その手にはちゃっかり落としたはずの剣が。
−ブン!−
「おわっ?!ち、ちょっと待てよ、ミルフィー・・・ご、誤解だって!」
「ごかいもろっかいもあるもんか!この、くそ魔導師っ!念を押しといただろ?!」
「わ、わかってるって!・・・たんま・・たんまっ!ミルフィーっ!」
−ブン!ザクッ!−
すれすれで避けた短剣が、足下に突き刺さる。
「た、助けてくれ〜・・・ミルフィア〜〜〜!」
「んにお〜?よりによってフィアだとぉ〜?」
ますます頭に血が上ったミルフィーと真っ青になって逃げまどうレオン。


「・・・なんとかしてくれ〜・・ミルフィアぁぁぁぁぁ・・・」
レオンの叫びが森の中を駆けめぐっていた。



☆★ つ づ く ★☆



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