青空に乾杯♪


☆★ <<第20話>> 夢の夢の中 ★☆



 「おおーーーーーい・・・ミルフィーーーーーー、レーーーーイムーーーー!、チキーーー!」
何処までも続く荒野にレオンの声が響いていた。が、返事は全くない。
「くそっ!人っ子一人いやしねぇ・・・・」
レオンは風を避けるのにちょうどいい岩陰を見つけると、どかっと腰を下ろした。
「疲れた・・・。こんなだだっ広いところでどう探せばいいってんだ?あの詐欺野郎!」
リーパオの悪口を吐くと、大きくため息を付いて岩壁にもたれかかる。
「こんな苦労させなくとも、さっさと会わせてくれりゃいいじゃないか・・ったく・・・」

そして、あてもなく歩いた長時間の疲れが、レオンを眠りに誘い込んだ。
夢のまた夢の中へ・・・・。



 「お?!誰かいるぞ!」
夢のそのまた夢の中、ようやく荒野を抜けたレオンは、森を抜け、一面花の絨毯のような野原に出た。
その野原の真ん中付近に1人の少女らしい人影を見つけ、レオンは足を早めた。



近づくにつれ、その横顔が確認できた。
「あ、あれ?ミルフィーだ。」
そう呟くとレオンは、いっそう足を早めた。
(女の子の格好してどうしたんだ、いったい?それともこれがミルフィーの望む夢なのか?)
などと思いながら、急ぐ。
ドレス姿とその仕草に多少違和感を感じたが、女の子ならそうかも?とも思いながら。



「おい、ミルフィー、何やってんだ?こんなとこで?そ、それに・・お前、そ、それって・・・似合わなすぎるぞ。」
それもそのはず、ミルフィーは、花の真ん中に座り、花冠を作っていた。
「え?」
レオンのその声に振り向いたミルフィーの顔つきとその少女らしい声に、レオンは驚く。
「『え?』って・・ミルフィー、お前すっかり女になっちまったのか?」
「あ、あの・・・」
不思議そうな表情をして、ミルフィーはレオンをじっと見る。
「おいおい、いい加減にしろよ。いくら普段のお前を知ってるからって、そんなにじっと見られるとおかしな気分になっちまうだろ?それに、なんだよ、これは?・・・」
思わずどきっとしてしまった自分が少し情けなく思ったレオンは、ぐいっと作りかけの花冠を持つミルフィーの手を握った。
「あの・・もしかして、フィーの、ミルフィーのお友達なの?」
そして、少女のその言葉に驚いて、思わず見つめる。
「ミ、ミルフィーのお友達って・・・は?・・つ、つまり・・君はミルフィーじゃない?」
確かに顔つきもいつものミルフィーより少女らしいと、レオンはまざまざと見つめる。
「ええ、ミルフィーは私の双子の兄なんです。私はミルフィアと言います。」
「あ・・・そ、そうなんだ。ふ、双子の兄ね・・。ご、ごめん。」
人違いだとわかり、すっかりミルフィーだと思いこんでとった自分の行動に恥ずかしくなり、少し赤くなった顔のレオンは慌ててミルフィアの手を離す。
「い、いいえ。」
同じように赤く頬を染めてうつむくミルフィア。
と、そのとき・・・・

「くお〜ら〜っ!フィアに何やってんだっ!」
−グサッ!−
声と同時にレオンとミルフィアの真ん中に長剣が1本突き刺さる。
「ひぇっ!」
驚きながらも、レオンはそれがミルフィーの仕業だと咄嗟に判断する。
「あ、あぶねーじゃねーか?この野蛮人!」
「野蛮人で悪かったな。フィアに近づくお前が悪いんだよ。」
ぐいっと剣を抜いたその人影は、確かにミルフィー。が、それまでのミルフィーよりぐっとたくましさにあふれていた。
「フィーったら、乱暴すぎるわよ。」
「いいんだって。それより、フィア、何かされやしなかったか?」
「ううん、別に。ただフィーの事を聞かれただけよ。」
「そっか・・じゃ、いいか。」
「おいおい・・お前、いきなり剣を投げつけといて、『いいか』はないだろ?」
全く無視されて少し頭にきつつ、レオンはミルフィーに怒鳴る。
「怪我はなかったんだろ?ならいいじゃないか?!」
「おい、ミルフィー、お前なー・・・?」
立ち上がりざま、レオンはミルフィーをにらみつける。
「フィーだめよ、喧嘩はしないで。お友達なんでしょ?」
「お友達というほどでもないけどな。」
「そうだな。友達じゃーないよな。」
「だめーーっ!!」
ミルフィアは、今にも喧嘩しそうに睨み合っている2人の間に割って入る。
「だめよ!私のことで喧嘩なんかしないで。お願い、フィー。それにどうみてもフィーが悪いわ。」
「そ、そうか・・・?ご、ごめん、レオン。オレ、フィアのこととなるとつい頭に血が上っちまって・・。」
つい今し方までの勢いは何処へやら、頭をぽりぽり掻き、人が違ったように照れ笑いしながら、ミルフィーは、レオンに謝った。
「ふん・・。」
その様子を見てぴん!ときレオンは、2人に聞こえないくらいの小声で呟く。
「重度のシスコンだな。」
「ん?何か言ったか?」
「い、いや・・べつに。ただ・・」
「ただ?」
「お前と似ていても、性格は全然違うんだなって思ってさ。」
ミルフィーの不機嫌きわまりない表情に、慌てて思いついた言葉を口にするレオン。
「悪かったな。」
「別に悪いとは・・・」
そう言いながら、次の言葉を探していると、2人の姿が徐々に薄れつつあることに気づき、レオンは慌ててミルフィーの腕を掴む。
「おい!」
「なんだよ?せっかく数年ぶりに兄妹が再会したんだ。2人にしてくれないか?どうせ用はないんだろ?」
「フィー?」
「うん。今行くよ、フィア。」
「待てって!それは、いや、これは夢なんだ!しっかりしてくれ、ミルフィー!オレたちには今やらなくちゃいけないことがあっただろ?」
「るっさいなー!」
ぶん!という音共に、レオンの鼻先に剣が突きつけられる。
「フィアのこと以上にやらなくちゃいけないことなんてあるわけないだろ?」
「・・ったく、ホントにシスコンだな。」
その言葉に頭に来たミルフィーは、剣を投げ捨てレオンにぐいっと近づく。
「シスコンで悪いか?シスコンで?フィアは、たった一人のオレの身内なんだぞ!小さいときから二人ぽっちで肩を寄せ合って・・」
胸ぐらを掴み、フィルフィーはレオンを激しく睨む。
「わ、悪かった、ミルフィー。だけど今は・・。こ、これは・・」
その勢いに押され、レオンは思わず謝る。
「今は・・これは・・なんだってんだ?」
「・・・・」
真剣さと悲しさが入り混ざったミルフィーのその表情に、レオンは、その先が続けれなかった。
ミルフィーとミルフィアに、何かしら普通ではない深刻な事情があるらしいとレオンは感じていた。だからこそ、この夢を見ているのだろうと。
「レオン!?」
「夢・・・なんだ。お前にはわかってることだろ?」
このままにしておいた方が2人は幸せなのかも?とレオンは一瞬思ってしまう。が、次の瞬間、思い直す。それが本当の解決では、そして、幸せではないことを。
そして、その言葉を聞いた瞬間、ミルフィーはぎくっとする。
そう、確かにわかっている・・事実ではないということ・・が、それを否定し、現実だと思いこみたい自分もいる。
「ミルフィー!」
レオンの服を鷲掴みにしていたその手を力無く放し、放心状態で立ちつくすミルフィーをレオンは叱咤する。
「フィー・・・」
弱々しく、悲しげなミルフィアの声に、ミルフィーはゆっくりと彼女の方を向く。
レオンもまたつられるようにミルフィアを見る。
「フィア・・・・」
駆け寄ろうとするミルフィーの目の前で、ミルフィアの姿はちょうどそのとき巻き上がった風で、かき消されるように消え去った。
花びらの舞と共に。
「フィアっ!?」



 「おい!起きろよ!いつまで寝てるんだ?人を起こしといて!」
「ん?な・・なんだ?」
ミルフィーの声に気づき、レオンはがばっと状態を起こす。目の前には、今までみたこともないほど不機嫌そうな顔のミルフィーが立っていた。
「起きろ、と言っても、これも夢なんだろうけどな。」
「?」
「なーーにを寝ぼけてんだ?お前は?!幸せな夢ぶちこわしてくれやがったくせに!目覚めに1発、いや、数発入れてやろうか?」
ぼんやりしているレオンの耳に、とても冗談には聞こえないミルフィーの怒鳴り声が入る。
「ち、ちょっと待てって!」
手を振り上げるミルフィーを制止して、レオンは、しばらく考え込む。
そして、思い出す。夢のそのまた夢の中、つまりミルフィーの夢との接点であった出来事を。
そして、何気なくミルフィアの姿を目で探してしまい、はっとしてレオンはミルフィーを見る。
勿論、ミルフィアの姿はあろうはずがない。

「さ〜て・・やれることから片づけていこっか。」
レオンと視線が合いそうになり、慌てて反対方向を向いて大声で言ったミルフィーの声は、気のせいか少し悲しげに震えていたように感じられた。




☆★ つ づ く ★☆



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