青空に乾杯♪


☆★ <<第18話>> 夢喰らい ★☆


 「ああー・・もう・・・寝れやしねぇ・・・・」
ここもまた夢幻の館の1室。レオンがごろりと寝返りを打ちながらなにやら文句言っている。
「ご馳走の食べ過ぎか・・それともベッドが柔らかすぎるのか・・・」
(だいたいこんなふかふかなベッドになんて寝たことがないもんな〜・・それでかな?)
頭の後ろで手を組み、それを枕にしてぼおっとベッドを覆う薄衣を見る。
「いや・・・そうじゃない。オレの第六感がそうさせてるんだ。・・・何かある・・絶対この館には何か秘密が・・・」
そう思うとレオンはベッドから起き出した。
「だいたい初対面のオレたちを歓待しすぎなんだって・・宿のおやじの友人?たったそれだけでここまでするのも・・・おかしいぞ・・・。」
一人ぶつくさ言いながら廊下に出る。
薄暗い廊下の壁には、燭台が並んでほのかな明かりを放っている。
(まさか・・オレたちは蝋燭の炎に引き寄せられた虫・・・なんてことは・・・)
その燭台の1つに灯る蝋燭の炎を見つめ、ふとそんな考えがレオンの頭をよぎる。
「仮にそうだとして・・・その目的は・・・何なんだ?」
いくら考えても、現状ではその先は考えれなかった。
「下手の考え休むににたり・・だな・・まー、いいか・・・ところでみんなは寝てるのか?」
廊下には人っ子一人気配はない。
「いいなー・・寝付きのいい奴らは。」
ともかく外の空気に触れたいと思ったレオンは、中庭へ向かう。
「確かこっちの方角から中庭への出口があったはすだよな・・。」
広い館である。一応案内はされたものの、ほとんど覚えがなかった。しかも館内の造りはどこも同じようだった。
「ったく・・・温泉宿みたいにこっちが風呂とか庭とか案内をそこらに掲げておけばいいのに。」
一人勝手なことを呟きながら、とにかく足が向いた方へ進んでいった。

魔導師レオン

「ん?この扉・・かな?」
しばらく進むと、といってもどう進んだのかレオンには記憶がないが、とにかく大きな扉の前にでた。
「よっこらせっと・・・・なんだ?鍵でもかかっているのか?」
その扉は、レオンが渾身の力を込めて押してもびくともしない。
「外は危ないから出るなとういうことかな?そんなこと言ってなかったような気がするが・・・」
と・・誰かが近づいてくる気配を感じ、レオンは気配とは反対側の角に身を隠す。
「別に隠れる必要は・・・なかったよな・・・。」
これも冒険者のサガなのだろうか・・・などと思いながら。
近づいてくる小さな明かりが見えた。多分だれかが燭台を持って歩いてくるのだろう。
隠れる必要はないのだから、庭に出る方向を聞くのにちょうどいい、と思ったレオンが明かりを持った人物の方へ歩こうとしたとき、その人物の背後からマクロードの声が聞こえた。
「おっと・・・」
別にまた隠れなくてもいいじゃないか・・と思いつつ、第六感のなせる技なのか、無意識にレオンは再び角の暗闇に身を潜めた。


「どうだ、ラーサ?彼らは?」
「ああ・・マークか・・・・なかなか楽しませてくれとるよ。ふぉっふぉっふぉっ。」
明かりを持った人物は、この館の主、ラサ・リーパオ。そして、後ろから来たのは、レオンたちをここまで連れてきたマクロードだった。
(楽しませて・・?どういうことだ、そりゃ?)
暗闇でふと疑問に思うレオン。
2人はレオンに気づかないまま、開かなかった扉の前に立つ。
−ギギギギギーーーーー−
ゆっくりと開いたその扉からまばゆいばかりの光が漏れてくる。
「あれ?開いた?なんにもしないのに?」
・・・ますますもって怪しいな、と思いながらじっと見ているレオンの目の前で、2人はその部屋へ入っていった。
「おっと・・・」
入ると同時に閉まりかけた扉に、レオンは慌てて飛び込む。
「な・・なんだこれは?」
隠れて付けてきたことも忘れ、レオンは思わず、が、一応小声で叫ぶ。
その部屋は吹き抜けの広い部屋。
真ん中に直径2mほどの円卓があるのみで、他の家具はない。
が、その周囲の壁には、数え切れないほどの蝋燭が灯っていた。
「おや・・これは、これは・・・眠れなかったらしいの?珍しいこともあるもんじゃ、この夢幻館で。」
呆気にとられて立ちつくしているレオンに気づいたリーパオが微笑む。
「おやおや・・・」
マクロードも苦笑いしてレオンを見つめる。
「な・・なんなんだ・・これは?」
単なる蝋燭じゃないことは察していた。が、さっぱり訳はわからなかったレオンは、開き直って聞く。
「見て分からんかの?蝋燭じゃよ。」
「そんなこと言ってんじゃねーよ。何かあるだろ?この蝋燭には?」
笑顔で自分を見つめるリーパオをぎっと睨み、レオンはきつい口調で問う。
「まーまー・・そう怖い顔をしなさんな。」
差し出されたリーパオの手のひらがレオンの目の前を覆った。
その途端・・・眠気がレオンを襲い、ふっとその中に吸い込まれていく感じがした。
が、そのとき・・・・
「うがーーーっ!」
レオンの精神と入れ替わるように、グールが表に出た。
(お!よ、よかったぜ・・・い、いや・・悪かったのか?)
グールの精神に押さえられたのか、それとも眠気が強いのか、ぼんやりとしながらもレオンの意識は保たれていた。
「おおっと・・・」
その場に倒れるように眠り込ませるはずだったのが、意外な展開で目を丸くしてグールの攻撃をよけるリーパオ。
「ふぉっふぉっふぉっ・・なんじゃ、おぬしまでいたのか・・そうかどうりで効きが悪いはずだ。1つの身体に精神が2つではのぉ・・」
「がおっ!」
話を聞くグールではない。リーパオがそう言ってる間も、次の攻撃をしかける。
(いいぞ、グール!やっちまえ!)
心の奥深くでレオンはグールに声援を送っていた。
が、リーパオは、そんなグールの攻撃などものともしない。ひょいひょいと交わしている。
「なかなかすばやいが・・・わしを捕まえるとまではいかんな。じゃが、ちょいとたくさん食べ過ぎたから、食後の運動にはちょうどいいか。」
「な?」
グールの中でレオンはぎょっとする。
(食べ過ぎたって・・・まさかミルフィーたちを?)
そのレオンの焦りを感じ取り、攻撃を続けていたグールも一瞬立ち止まる。
「ふぉっふぉっふぉ・・・・敵ではないと言ったじゃろうが?」
そんなグールの行動からレオンのその考えを見抜いたのか、リーパオが笑いながら答える。
「うそつけ!うそをっ!」
そう言った途端、元に戻っている事にレオンは気づく。またしてもグールと入れ替わったらしい。
「あ?あれ?・・・・」
「ははは・・・勢いでまた心が入れ替わったらしいな。」
マクロードが笑いながら言う。
「そ、そんな事はどうでもいい。これはどういうことか説明してほしいな。それと喰ったって・・・まさか・・?」
「仕方ないのぉ・・・」
リーパオはマクロードと顔を合わすと、苦笑いした。
「人間の姿のままの方がいいと思うんじゃが・・・。」
小声で呟くと、前屈み気味だったリーパオは、すっとその全身を反らす。そして、大きく飛び上がると空中で回転した。
「な・・・なんだってんだ?」
レオンは自分の目を疑った。
床に着地したリーパオは、それまでの初老の男ではなく・・・ブラックユニコーン。
「ま、まさかお前がさっきまでの・・・?」
「そうじゃ。」
ブルルルルと鼻を鳴らし、その長いたてがみを揺らすと、ブラックユニコーンは答えた。その声は確かに先ほどまでのリーパオのもの。
「ってことはぁー・・・・」
「そう。こちらが本来のわしというわけじゃ。わしはブラックユニコーン。暗闇の住人。夢を食するもの。」
「ゆ、夢を食する?夢を食べる・・・って事か?」
「そうじゃ。じゃから、別にお仲間を傷つけるとか食べてしまうとか、そんなことはしておらん。夢がわしの原動力。夢を食べさせてもらう代償として幸福な夢を与えておる。悪く言われる覚えはない。」
「幸福な・・夢?」
「そうじゃ。この上なく幸福感で満たされた夢に誘うんじゃ。いいことじゃろ?」
「そ、そうだな・・それ事態は悪くはないが・・・」
「が?」
なんとなくまだごまかされている気がして、いぶかしげに自分を見つめているレオンに、リーパオは目を細めながら聞いた。
「いや・・・なんとなく・・・・・ただ夢を見させてるだけじゃないような気が・・・・」
どう言い表していいのかレオンは分からなかった。ただ、まだ何か裏がある、とレオンの第六感はささやいていた。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・・なかなか鋭い勘をしておるようじゃ。」
やはり・・・と思いつつ、レオンは警戒しながら、1歩下がる。
「そんなに警戒せずともよいと言っておるじゃろ。わしは・・・幸福を与えておるんじゃよ。」
「幸せな夢を見させて、それを糧にする。それから・・・それからは何もないのか?」
ぺろんと真っ赤な舌を出し、リーパオは目を細めて笑った。
「そうじゃよ。それ以外何もない。・・・永久に幸せな夢を見続けるんじゃ。ここで。」
「永久に?・・・永久にってことは・・・?」
大きく目を見開き、レオンはリーパオの言葉に驚きと恐怖を覚える。
「正確に言えば、その者の寿命が尽きるまで・・つまり一生を幸せに終えることが出きるということじゃ。」
「そ・・そんなの、幸せとは言えねーよ!」
レオンは叫ぶ。
「悲しいことや苦しいこともひっくるめてその人の人生なんだ。思い通りに運ぶことだけが幸せだなんて・・・」
「そうか?人は幸せを求めて生きておるんじゃろ?その思いが全て叶うんじゃ。それこそ幸せじゃないのか?そして、ここならそれが叶うんじゃ。したいこと、なりたいこと、全てが叶うんじゃぞ。勿論そこに至るまでの障害などもある。良き人生のはずじゃ。」
「だ、だが・・それは、本物じゃない。」
「・・・・・」
リーパオは怒りに震えたレオンをしばらく見つめると、大きくその真っ赤な目を開いてゆっくりと言った。
「本物とはどっちだ?・・・現実か?夢か?いや、ホントに今が現実か?」
「・・・と、とにかく、現実が本物で、目が覚めてるときがそうに決まってるだろ?!」
「どちらにせよ・・・」
「なんだ?」
「確かなことは、この蝋燭の数だけの者たちが、幸福にその人生を終えることができるということじゃ。」
「そ、そんなバカな!一生寝たままで死ぬなんて・・・」
レオンは周囲に置かれている蝋燭を見回して、ぞっとする。
「幸せな人生を送っておるのじゃよ。それぞれが。」
ふと気づくと、リーパオは、再び人間の姿に戻っていた。
そのリーパオをレオンは睨む。
「そんなのは、ホントの幸せ・・じゃー・・・ないって、さっきから・・言っ・・・・・て・・・・・・」
なにやら術でもかけたのか、目の前のリーパオの姿が徐々にぼんやりしてくる。そして、最後まで言う前にレオンは深い眠りに落ちていった。



「ふむ・・・引き離したら簡単に眠ったわい。ふぉっふぉっふぉ。」
マクロードを顔を合わせ、にっこりと微笑むリーパオの手には、こぶし大の水晶玉があった。
そして、その中にはレオンの中にいるはずのグールの小さくなった姿があった。
水晶玉の中で胎児のように丸くなって寝ている。

「お前もグールになったとは言え、幸せの方がいいじゃろ?」
テーブルの下から火のついてない蝋燭を1本取り出すと、リーパオはそれをグールの入った水晶玉に近づける。
と、蝋燭の芯にぼうっと火がつく。そして、その炎は徐々に大きくなっていった。


「じゃー私がレオンを部屋まで運ぼう。」
そういうと、マクロードはぐいっとレオンを肩に背負った。
「ああ、頼む。グールは・・このままの方がよいじゃろ。・・気持ちよさそうに寝ておるわ。」
水晶玉の中のグールを見て、満足げに目を細め、リーパオはそれをテーブルの上に置く。
そして、燭台の蝋燭を取り替えると、自室へと戻っていった。




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