青空に乾杯♪


☆★ <<第17話>> チキチキバンバン♪ ★☆



 「じゃー・・シャイ、今日はどうもありがとう。あ・・あの・・また誘ってね。」
「ああ、勿論。君の好きなミモザの花束を持って迎えに来るよ。」
「シャイ・・」
頬を染めてじっと自分を見つめているその少女の額に軽くキスをすると、シャイローゼはやさしく微笑み、そして少女の耳元にささやく。
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
その優しいキスと囁きに頬を染めながら、少女は名残惜しそうに何度もシャイローゼを振り返りながら、家の中に入っていった。
「さてと・・・帰るとするか・・・・」


くるっと向きを変えて歩くシャイローゼの足は、自分の家ではなく無意識に、村外れに向かっていた。
月明かりの下、村はずれの野原にある1件家・・・それは、今はもう住む人もなく荒れていた。
−ギギー・・・・−
少し傾いた戸口を開け、シャイローゼは中に入った。
ガラーンとした部屋には、置いていかれたテーブルとイスが4脚あるのみ。
「ふう・・・・」
どさっとそのイスの1つに腰をかけるとシャイローゼはため息をついた。
「また来てしまったな・・・・。」
ゆっくりと目を閉じたシャイローゼの瞼の裏に1人の快活な女の子の姿が映った。
「チキ・・・今頃何処を走り回ってる?」no4

シャイローゼ・エルフバージョン
箱さんからいただきました!
ありがとうございました。

「シャイ!どこかへお出かけ?」
「ん?なんだ・・チキか。」


少女はグラスランナーという妖精の一族の少女。金髪に金の瞳、金色の産毛に全身を覆われた草原に住む種族。そのすばしっこさは天下一品である。1mほどの身長と人間に例えれば幼くもみえる顔つき。一定の地に留まらない彼らは、それぞれ好き勝手に放浪していた。
チキの両親がここ人間界のエルフの村の外れに家を構えたのも、ほんの気まぐれ。エルフの村外れにあったこの野原が気に入ったから。
その野原に建てられた1件家、その近くを通ったシャイローゼを見つけ、チキは家から飛び出してきた。


「なんだはないでしょ?ねっ!シフォンケーキ焼いてみたの。ティータイムしていかないこと?」
「うーーん・・・・い、いや、またにするよ。」
「どうしてぇ?この前もそう言って寄っていってくれなかったじゃないの?最近・・少し冷たいのね?」
「悪い・・忙しくてね。」
「・・・いいわよ!どうせ女の子とデートで忙しいんでしょ?今日は何人と予定なの?」
思いっきりあっかんべーをすると、チキはくるっと向きを変え家に走り込んでいった。
「あっ!・・・・」
ついそんなチキを引き留めようとするかのように小さく叫んで、シャイローゼは右手を差し出す。
が・・・沈んだような面もちとともにその右手を下ろすと、そこを後にした。
寄って行こうと思ったのに、口から出た言葉はその反対だった。
その原因の1つは・・・悪友や女友達にからかわれたこともあるが・・それだけではないような気もしていた。

「ガキん頃だからよかったんだぞ。ころころ一緒に遊んでさ。だけど・・今じゃオレたちは成長したんだ。いくら歳は同じようにとってたってグラスランナーはずっとあんな感じなんだぜ。オレたちエルフにゃ似合わないって。もっともお前がよければ、オレたちがどうのこうの言う事じゃないんだが・・いや、それよりもお前があの子とくっついてくれた方が都合がいいがな。あはは!」
「お前って・・結構趣味悪かったのな?それともガキの頃からすり込まれちゃったから何とも思わないとか?けど、知らない奴らから見れば、どう見てもロリコンに思われちゃうぜ。」
「あーーん・・シャイったらあんな子相手にするなんてぇー・・あたしたちのどこがあの子に劣ってるっていうの?失礼しちゃうわ。」

「明るくてちょっとおしゃまでいい子だとは思うんだけど・・・みんなの言うことも一理あるんだよな・・・。ぼくとあの子じゃ・・・」
どう見ても似合わない・・・それはシャイローゼだけでなくチキも感じていた。


「わーーーーっ!」
部屋に駆け込むなり、チキはベッドに伏して声を上げて泣いた。
自分がエルフではなくグラスランナーだったことが、その容姿が悲しかった。
「・・・チキ・・・・・」
そんなチキの様子に母親がそっとそばに寄った。
「チキ・・ここを離れて同族のいる草原に行かない?」
「同族のいる?」
真っ赤になった目を瞬きながら、チキは母親の顔をじっと見る。
「ええ・・そう。」
「・・・・・」
チキは黙って母親を見つめ続けていた。
「よく考えておいてね。」
そっとチキの肩に手を置くと、にこっと笑い、母親は部屋を出ていった。
「・・・ここを離れ・・仲間のいるところに・・・仲間・・・グラスランナー族・・・」
そうつぶやいたチキの表情は沈んでいた。



 「チキ!行きますよ!」
出発の日、世話になったエルフ村の人々に挨拶を終え、村を離れるチキの脳裏にそれまでの楽しかった思い出が次々に浮かんでいた。
そして・・できることなら旅立つ前にシャイローゼとゆっくり会いたかった・・・と思っていた。
シャイローゼとは、前日、村のみんなで旅の無事を祈って宴を催してくれた時、軽く別れの挨拶を交わしたのみ。
(・・・結局・・・・)
荷馬車の中、チキはすうっと大きく息を吸い込むと気持ちを整理させた。
(いいわ!あたしはあたし!これからよ!)
元来天真爛漫な性格のチキは、うだうだ振り返るのが大嫌いだった。前向きに考える!それが彼女の考え方。
「シャーーイ!ありがとーー!さよーならーーーー!」
大きな声で叫び、チキは幾分すっきりした気持ちで、遠くなっていくエルフの村を見続けていた。



「ばっよえ〜〜〜んっ!」
迷宮にチキの呪文が響き渡る。
−ぽよよよよ〜〜んんん・・・・−
その場に居合わせた凶暴だった魔物が感動の涙を流して立ちつくす。
「それーーー!」
それまで形勢不利だった冒険者たちの勢いがよくなり、あっという間に片づく。

「うおーーー!」
「チキに乾杯!」
「我らが勝利の女神、チキに!」
わいわい、がやがや・・・
迷宮から村に戻り、酒場でチキを囲んで宴会モード。


そこにはシャイローゼに冷たくされ沈んでいたチキの姿はどこにもなかった。
独特の呪文とグラスランナーとしての特徴をフルに生かした自信にあふれたチキがそこにいた。
次は、何が起こるのか、何が出てくるのかと、胸躍る冒険の数々。
宝箱に仕掛けられた罠を取り除くときの緊張感と興奮そして成功したときの充実感。
独り立ちしたチキは、大いに人生を楽しんでいた。
「さー、今日はどこの迷宮にするの?あたしは、どこでもよくてよ!」



「ほっほっほ・・・元気なお嬢ぢゃのぉ・・・・いかにも草原の走者、グラスランナーらしいわい。」
ラサ・リーパオは顔をほころばせ、蝋燭の炎に映るチキを見ていた。
「明るくて元気で良い子じゃ。ちょっとわがままなところもあるが・・。ははは・・術も腕もなかなかのもんだ。うんうん・・・・。」

気のせいか蝋燭の炎が嬉しそうに大きくその身を躍らせた。



☆★ つ づ く ★☆



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