青空に乾杯♪


☆★ <<第15話>> ハンサムボーイ ★☆


夢幻の館の別室では・・やはり、気が付いて馬車からようやく降りたシャイローゼも眠っていた。
勿論その前にたっぷりと食事を取ってから。
ふかふかの布団にくるまりシャイローゼは、満足げに安らかな寝息をたてて。
そして、レイミアスの時と同じように夢の中へと入っていった。



 「やあ!きみたち!どお?ぼくと一緒にお茶しない?」
ある晴れた昼下がり、森の木にもたれての少し早いお昼寝から目覚めた美貌のエルフ(本人談)シャイローゼは、川辺でぺちゃくちゃおしゃべりをしている3人の女の子を見つけると、即、声をかけた。
no3

シャイローゼ豚さんバージョン
箱さんからいただきました!
ありがとうございました。
 

「え?・・・き、きゃあっ!・・い、いやーーーーーっ!」
シャイローゼを一目見た途端、彼女たちは水くみ桶を持つことも忘れて一目散に駆けだした。
「え?ど、どうなってんの?」
きょとんとするシャイローゼ。

それもそのはず、ここ人間界のエルフの村において、シャイローゼはもてもてのハンサムボーイ。
美形ばかりだと言われるエルフの中でも美形だった。(らしい)
神話の男神を思い起こさせる彫りの深い整った顔、淡い紫水晶色のつぶらな瞳、つんとのびた形のいい耳、時折黄金色に透き通っているようにも見えるさらさらの金髪。加えてそのソフトで女心をくすぐるような声色と・・・・・どうしたら、ああも巧く言えるのかと思えるようなせりふ。

「どうしたんだ、いったい?」
いつもならその一言で必ず成功するのに・・と、シャイローゼは川辺に歩み寄る。
そして・・・・・
「ん?」
のぞき込んだ水面に写っていたのは、1匹の豚。しかも太り気味。
思わず後ろにその豚がいるのかと振り返る。が、誰もいない。
「え?・・えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!?」
途端にシャイローゼはパニック状態に陥る。
そう、水面に写ったのは、まぎれもなくシャイローゼ本人だった。

そして・・・・
その叫びは他人にはこう聞こえる。
「ブキィィィィィィィィィーーーーーーーー!!?」
女の子にかけた言葉も、「ふごっ!ブキキブキ?」だった・・・・。
(でも、それだと何がなんだか理解していただけないので、人語訳で書いていきます<葛葉(笑))

「な・・何がいったいどうなったんだー?」
ひたすら叫ぶシャイローゼ。
そして、はた!ともう一つのことに気づく。
「しかも・・・何も身につけてない??!!!」
慌てて前を隠し、シャイローゼは自宅へと一目散に駆け込んだ。
途中、数人のエルフがびっくりして固まったが・・・・。


「う・・ウソだろ?エルフきっての美貌のぼくが?!」
着替えをクローゼットから出しながらも、手が震えていた。
−ビリリリリ−
「うわっ!」
体型が全く変わってしまったため、どの服も、下着さえも着ることは出来ない。
「そ、そんなー・・どうすりゃいいんだ?」
絶望と悲しみで涙がみるみるうちにあふれ出、シャイローゼの頬を伝わる。
「ピギィーーーー・・・・!」
−コンコンコン−
と、真っ青になってどうしようか途方に暮れている時、ドアをノックする音が聞こえた。
「ぶきっ?!」
シャイローゼは、その音にびくっとする。
「シャイ、いるか?大変だぞ!」
その声は友人のトメセオノ。が、今の自分の状態では、返事をすることもドアを開けることもできない。
息を潜め、その場にじっとうずくまっているシャイローゼ。
「シャイ?いないのか?」
−ガチャリ−
(し、しまったっ!カギをかけていなかった!)
そう思ったときは遅かった。トメセオノは、部屋の片隅にうずくまっているシャイローゼを、めざとく見つけた。
「シ、シャイ!お、お前まで・・・・?!」
「ブ・・ブキィ・・・・」
見つかってしまってはどうしようもない。シャイローゼは仕方なく立ち上がる。
「シ、シャイ・・・だよな?」
信じられないといった表情で、トメセオノはシャイローゼを指さす。
ぶき・・・
・・・・・・・・・・・・・・
2人の間にしばし沈黙が流れた。
そして、しばらくたち、その動揺が落ち着いてから、トメセオノは豚になる一件について話した。


「・・・・・・・・というわけで・・・
そのダークエルフに関わった人たちが次々に豚になっていってるんだ。今、こうして話しているうちにも被害者は増えているかもしれない。しかし・・まさか、お前までなるとは思わなかったよ。だって、お前ここ1週間ばかり隣村に行ってて留守してただろ?確か今朝帰って来たばかりなんだよな?」
「ぶ・・ぶき・・・」
悲しそうにうなだれるシャイローゼ。
「それにもしお前がいれば・・・ダークエルフだといえど、ほっとかなかっただろうからなー?いや、ダークエルフだからこそちょっかいだしたかもな?」
「ふごっ!」
勝手に棚から上等の蜂蜜酒を取り出すと、飲み始めたのと、今の言葉でトメセオノを睨むシャイローゼ。
「違うってのか?違やしないって!だって結構かわいい子だったぜ。ダークエルフなんて初めてだからなー。絶対だよ。以前・・・なんだったかなー・・・そうそう、一時期村はずれに家族で住んでたグラスランナー族の女の子とも結構仲良くやってたじゃないか?まだガキん頃だったってのに・・。お前も珍しがり屋だからな。」
「ブキ。」
そういえば・・かわいかったのなら、たぶんほかっておかなかっただろう、と思い、シャイローゼはついうなだれる。
「今回・・お前がいればよかったかもなー・・・」
遠い目をしてトメセオノは独り言のように呟く。
「でもなんだって、お前が豚に?」
そして、再びまじまじとシャイローゼを見る。
「お前、よく森の松の木にもたれて昼寝してたよな・・・」
はっとひらめいたようにシャイローゼを見るトメセオノ。
「ふごっ?!」
「まさか・・・・その子が死んでたという木じゃないだろうな?」
「ブ、ブキッ?!」
「歌が聞こえなかったか?豚になったって人たちが口々に言ってるらしいんだが?」
「ぶき?」
シャイローゼはしばらく考えてから、はたと思いついた。
確かに覚えがある。寝ていた時・・・微かだが女の子の歌声が聞こえたような気が・・・
そのはっとしたシャイローゼの表情で、トメセオノはそれを悟った。
「不運な奴だなぁ・・よりによって・・・・」
ブ、ブキィ・・・
シャイローゼはがっくりと肩を落とし悲しみに沈む。
「まー、こう言っちゃなんだが、普段の行いが悪いせい・・・だったりして?」
「フゴッ!」
思わず怒るシャイローゼ。
「あ・・悪い悪い・・今こんなこと言うべきじゃないよな・・すまん、すまん!」
トメセオノは手を合わせてシャイローゼに謝る。
「とにかく長老様のところへ行こう。豚になってしまった人と主だった人が集まってる。長老様なら言葉がわかるらしいんだ。」
「ぶき・・・・」
マントで身をくるむとシャイローゼは足取りも重く、トメセオノと共に家を後にした。


そして・・・・村の占星術者であるおばばの決定で、シャイローゼが聖魔の塔にあるというどんな呪いをも解くといわれている『月たんぽぽ』を取ってくることになった。



そして・・・地下都市ラ・セピ・カーナの町はずれ・・・
「チキ?!チキじゃないか?」
「誰あなた?」
聖魔の塔に入ったものの、おかしなところへ飛ばされたシャイローゼは途方にくれていた。
そんなとき、幼なじみのチキと偶然出会えたことにシャイローゼは大喜びした。
「え?ぼくの言葉がわかるの?豚の鳴き声には聞こえないんだね?」
シャイローゼはチキの意外な反応に驚き、そして、喜ぶ。
誰しも自分の言葉を理解してくれない。だから、仕方なく人の街へは近づかないようにしていたのだから。
豚扱いか、豚の化け物扱いされるのがオチだった。
「チキ!ぼくだよ、シャイローゼだよ!覚えてないかい?」
「え?ええーーー?!シャイ?あなたが?」
その言葉が信じられず、何か罠でもあるのかとチキは身構える。
「シャイだってばー!本物の!」
ぐいっとチキの腕を引っ張ったときだった。
「あ!お、おい!女の子が豚の化け物に襲われかけてるぞ!」
「え?」
その声にびくっとするシャイローゼ。
「おい!待て!この豚の化けもんめが!」
「ぶ、ぶきっ!」
条件反射とは悲しいもの・・・それまでがそうだったように、シャイローゼは一目散に駈けだした。チキを抱えるようにして



「ふーーーふーーーふーーー・・こ、ここまで来ればもう大丈夫だよね?」
洞窟の奥、シャイローゼは自分の住まいやとなっている洞穴で座り込んでいた。」
「・・・全く・・・こんなことすると余計化け物扱いされるんじゃないの?」
チキがつん!として言った。
「あたしの仲間だってきっと探しに来るわよ。そしたら・・・知らないから。みんな強いのよ!」
「え?で、で、でも・・ぼ、ぼく・・・・・」
「全く・・臆病なんだから・・。」


つん!として怒っているチキに平謝りしながら、シャイローゼはそれまでのいきさつを話した。


「月たんぽぽねー・・・・聞いたことはあるけど・・・・」
「チキ・・頼むよ、チキ。ぼくが頼れるのは君だけなんだ。だから・・・一緒に探してくれないか?」
「うーーん・・・・」
「チキ・・」
チキは、その真剣な眼差しに打たれる。
「いいわ。でもあたしの仲間も一緒よ。」
「ええーー?ぼく、チキと2人っきりがいいんだけど・・。」
−バッコーーン!−
シャイローゼはテーブルの上に置いてあった空のコップで頭を叩かれる。
「な、何するんだよ?」
「何を言ってもその姿じゃ滑稽にしかみえないわよ。」
明らかにチキは怒っている顔つき。
「チ、チキ・・ご、ごめん・・。昔のことは謝るから・・だから・・・」
「シャイのことだから、元に戻ればまた同じじゃないの?」
「そ、そんなことしないよ。ホ、ホントはね・・ホントは・・いつの間にかチキのこと無視するようになってしまったのは・・・恥ずかしかったからなんだよ。他の子にはぽんぽん言葉がでるのに・・なぜかチキに対しては・・何言おうか迷ってしまって・・・だから、ホントは・・・」
「ストップ!」
シャイローゼの口を押さえ、チキはその続きを止めた。
「今そんなこと聞いても仕方ないわ。・・・でも・・しょうがないわねー。月タンポポかー・・・あの人たちは目的が違うし・・・・」
しばらく目をつむって考えるチキ。そんなチキをシャイローゼは祈るような気持ちで見つめていた。


「いいわ・・・」
チキは大きくため息をつくと、シャイローゼに命令口調に言った。
「そうと決まったら、さっさと出発するわよ。食料なんかはあるんでしょ?ほら、早く支度しなさい。すぐ出発よ!」
「あ、ありがとう、チキ!この恩は一生忘れないよ。」
シャイローゼは、チキの手をぐっと握ってじっと瞳を見つめる。
「あん!もう・・どうもそのカッコじゃ・・・滑稽でしかなくてよ。」
そのシャイローゼの手をさっと振り解くと顎で急ぐよう促す。
「うん!」


そして、チキとシャイローゼの2人の旅が始まった。
勿論行く先々でいろいろは、ある。が、今はチキも一緒であり、少なくとも化け物扱いはされない。
月タンポポまでの道のり、シャイローゼは久しぶりに味わう女の子との旅を満喫していた。
目的地ははっきりとはしなかったが・・その旅が楽しくも思えていた。
幾分・・・チキの自分への待遇が気にはなったが(まるで下僕扱い?)・・それでも怒れて仕方がないという程でもなかった。
何よりチキがいなければ人との会話もできない。当然月タンポポに関しての情報も得ることもできないのだから。



「なんとも気楽な奴だな・・こいつは。面白くていいが・・・はははははっ!」
夢の中で楽しそうにチキの周りを飛び跳ねながら歩いているシャイローゼに、リーパオは苦笑いしながらも・・・その珍道中を楽しんでいた。





☆★ つ づ く ★☆



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】