青空に乾杯♪


☆★ <<第14話>> レイミアス ★☆



 「やーーい!やーーい!みなしごの親無しっ子ーー!」

夢幻の館の1室。豪華な天蓋付きのベッドでレイミアスが安らかな息をたてて眠っている。
そのレイミアスの視野に数人の少年たちの姿が見えてきた。


「あ・・あれ?・・あれは・・・・」
夢の中、レイミアスは考えていた。
「あれは・・・ぼく?・・これは・・夢?」
そう思った途端、レイミアスは、そのからかわれてる少年、幼い頃の自分と融合した。


「やーーい!やーーい!」
子供たちが駆け回る広い野原、そこで数人の少年に1人の少年が囲まれている。
「やーーい!やーーい!」
「ぼ・・ぼく・・・親無しっ子じゃないもん。」
半べそ顔で、その涙を拭きながらその少年は、それでも一応小さな声で反論する。
「じゃー、連れてこいよーー!」
「こいよーー!」
ボス格の少年が意地悪そうに叫ぶと、他の少年も口々に叫ぶ。
「・・・・」
その答えにつまり、少年はきびすを返すと一気に走り始めた。
「やーい!やっぱりいないんだろぉ?」
口々に叫ぶ言葉がその少年を追いかけ、心に突き刺さる。
「う・・・・」
少年はこぼれ落ちる涙を拭くことも忘れ、一気に野をそして森を駆け抜けた。


 「おや、レイム。・・・どうしたね?」
こんもりとした森の中心にある教会。ちょうどドアを開け、外にでた司祭がその少年の姿を見つける。
たたたたた・・・と司祭に駆け寄り大きく開かれた腕にその小さな全身をぶつける。
「司祭様ー・・・・」
「ん?どうしたね?」
涙でくしゃくしゃになった顔をなで、司祭は少年を抱き上げるとにっこりと笑いかける。
「ぼ、ぼく・・・ヒック・・ぼく・・ヒック・・・」
「ん?」
「ぼく、親無しっ子じゃないよね?・・ぼく・・・・?」
「おやおや・・悪ガキどもにからかわれたらしいな。」
「司祭様?」
そっと少年を下ろすとその前にしゃがみ込んで今一度司祭は微笑む。
「そう。親無しっ子なんかじゃない。レイムには、立派なお父さんとお母さんがいるんだよ。」
「じ、じゃー、じゃーどうしてぼくを迎えに来てくれないの?」
司祭は、その涙の滲むその信じきった瞳で自分を見つめる少年が、いつにもましてかわいく、そして不憫に思え、ぐっと抱きしめる。
「大事なお仕事で遠くへ出かけてるんだよ。」
「どうしてぼくを連れていってくれなかったの?」
今まで聞きたくても聞くことができなかった事を、少年は一気に口にした。
「大事なそして、危険なお仕事なんだよ。」
司祭はレイムの瞳をやさしく見つめて続ける。
「お父さんもお母さんもレイムを危険な目に遭わせたくないから、仕方なく私の所に預けていったんだよ。」
「でも・・ぼく・・一緒の方がよかった・・・・」
司祭はそう言って悲しそうにうつむく少年の顔をそっとその大きな手で包み、自分の方を向けさせる。
「おりこうさんにして待っていれば、迎えに来てくれるんだよ。」
「きっと?」
悲しげな瞳がその言葉で輝く。
「そうだよ、きっと。だから、私と一緒に待っていよう。悪口を言ったあの子らもそのうちわかってくれるから。」
「そうなの?」
「そうだよ、レイム。だから、今度あったらお友達になってしまいなさい。」
「お友達に?・・・レイムのこと悪く言ったのに?」
不思議そうな表情で言う少年に、司祭は大きく頷いた。
「そう。今度会ったらレイムの方から声をかけてごらん。1度や2度ではお友達になれないかもしれない。でも、そこでくじけてしまったら何も変わらない。何度も何度もそうしていれば、きっとお友達になれるはずだよ。」
「そうかな?」
「そうだよ、レイム。思いっきり心をぶつけていってごらん。」
「心?」
「そうだ。」
少年は司祭のやさしい光を放つ目をしばらくじっと見つめると、にこっと笑った。
「うん!ぼく、やってみるよ!」
「そうか、そうか。いい子だ。レイムはとってもいい子だ。」
自分を暖かく抱き包む司祭の嬉しそうな顔が徐々に薄れていく。


「司祭様・・・・」
ベッドの中、寝息をたてているレイミアスの目頭から涙が1滴こぼれ落ちた。


 「レーーーイムーーーーっ!」
次にレイミアスの視野に入ってきたのは、馬車に乗り込もうとしている自分と駆け寄ってくる1人の少年。


「はーはーはー・・・全く・・おまえってやつは・・はーはー・・・・」
「どうしたんですか?カリエス?」
「どうしたんですか?じゃねーよ!」
カリエスと呼ばれたその少年は呼吸を整えながら話す。
「おまえ・・なんでオレにだまって神学校へなんか行くんだよ?」
明らかに怒った表情で、レイムを睨む。
「そんなこと言われても、急に欠員ができたからって話が舞い込んで。それに君は隣町へ行ってたでしょう?」
「だからーーー・・早馬か何かで知らせてくれてもいいだろ?今、お袋に聞いてびっくりして飛んできたんだぞ!」
レイムの胸ぐらをつかんで怒る。
「そんなこと言っても・・早馬賃は高いし・・それに、何も今生の別れってわけでもないですし・・・。中等部を卒業する2年後には帰って来れるんですから。」
そんなカリエスににっこりと笑いながら、彼のその手をほどく。
「でもおまえのことだ。高等部へ進んで正式な僧侶になるんだろ?」
「ええ・・そのつもりですけど。」
にっこりと笑うレイムをカリエスは、軽く睨んでその額をこづく。
「おまえなーーー!そんなに薄情な奴だとは思わなかったぜ。」
「だって・・・」
「まーな・・そりゃーまた会えるけどさ・・・。でも、実はオレも近々ここを離れることになってさ・・。」
ぽりぽりと頬を掻きながらカリエスは少し照れそうにする。
「離れるって?」
「ああ・・隣町でな・・ある人から戦士になる修行しないか?って言われたんだ。だから・・オレ・・・お前と相談してから決めようと・・・」
へへへ・・と照れ笑いする。
「わあっ!すごいじゃないですか?戦士になって聖魔の塔を探検するのが君の夢だったでしょう?いいなー、実現するんですね!」
「実現といっても、まだまだ先でどうなるかわからないけどな。」
「あ・・・じゃー・・・・」
急にレイムの表情が沈む。
「そういうこと。2年後の休みにオレがここにいるとは限らないんだな、これが。」
少しふざけた口調で言うカリエス。
「だからー・・・こういう大事なことはきちんと言ってくれなきゃ!」
ぽん!とレイムの肩に手をかけ、カリエスはぐっとレイムを見つめる。
「それはそうですが・・・でも、」
「でも?」
「そんなことぼくは全然知らなかったんですから・・仕方ないじゃないですか?」
「あはは・・そうとも言えるけどな。」
−ヒヒヒン!−
御者が馬を啼かせて出発の合図をする。
「あ・・もう行かないと。」
「そっか・・じゃ、手紙書けよ。オレも・・・苦手だけど書くわ。それと、おまえの休みには何がなんでも帰ってくるよ。」
「あ・・うん。そうですね。」2

レイム(推定年齢12〜14)
箱さんからいただきました!
ありがとうございました。
 

レイミアス、12才・・・それは、パラステライ大聖堂付属神学校の中等部へ編入の時。
それが、幼い頃、泣きながら殴り合いの大喧嘩の末、大の親友となったカリエスと直接会った最後だった。
それから・・・カリエスとの連絡は、ほぼ2年間は続いたものの、レイミアスが中等部卒業し、休暇で故郷へ帰っても、ついにカリエスはその姿を見せず、その後、未だもって連絡は途絶えたままだった。


「カリエス・・・今頃どこでどうしてるんだろう?・・・・・」



 そして・・・再び暗闇に包まれた後は・・・神学校を卒業し、故郷へ向かう馬車の中の自分だった。
レイミアスは、ゴトゴトゴトと大きく揺れる馬車の音を心地よく聞きながら乗っていた。


そして、その終着駅・・・なつかしい故郷。
「変わってないや・・・ここは、いつだって同じだ。」
−ピピピピピ・・チュンチュンチュン・・・・−
レイミアスは森の小道を教会へと歩いていた。
「やあ・・元気だったかい?」
小鳥や小動物がそんなレイミアスを迎えてくれた。

そして・・・・
−ギギーーー・・・−
「お帰りーーー!レイム!!」
ぱちぱちぱち!と拍手が沸く。
教会の中には村人と司祭と、そして・・・最前列には、にこやかに笑うカリエスが立っていた。

「カリエス!司祭様!そして・・村のみなさん!」
実は、馬車の停留所に誰もいなかったことに、レイミアスは少し気落ちしていた。
それが、こういうことだったのだ、と改めてレイミアスは嬉しさをかみしめていた。
「お帰り!レイム神父!」
「あ・・た、ただいま。どうもありがとうございます。」
神父と呼ばれ、頬をほんのり赤く染めたレイミアスは、深々とお辞儀をする。
「なんだ、なんだ、レイム。他人行儀な!」
明るく笑うカリエスに抱えられるようにして、中へ入るレイミアスの目頭は、熱くなっていた。
「だって・・だって・・ぼく・・・・」
「ああ。わかった、わかった。相変わらず泣き虫なんだなおまえって。もっともその方がおまえらしいけどさ。」
「あはははは!」
カリエスの、村人のそして、なつかしい司祭の笑顔とその明るい笑い声の中、レイミアスは幸福をかみしめていた。
今日からずっと村にいられる。みんなと一緒に暮らしていける。大好きなこの村で。


「司祭様・・カリエス・・そして、みんな・・・」
レイミアスは、その平和をかみしめていた、心の底から。



「ふむ・・・なるほど・・・・」
ラサ・リーパオの部屋・・・暗闇の中、磨かれた黒檀のテーブルの上にある燭台に蝋燭が1つ灯り、その火に照らし出されたリーパオは、レイミアスの夢の余韻を少しの間楽しんでからゆっくりと瞳を開けた。そして、満足げに、嬉しげに唇の両端を上げる。
「なかなかに純な精神(こころ)だ・・・・。いいものだ・・・。」



 ・・・漆黒の闇の中にその姿を浮かび上がらせている夢幻の館・・・。
その館を取り巻く気が嬉しそうに揺らめき、それがガラス面のようだった湖面に小さな波紋を作り、静寂の中、波紋は音もなくゆっくりと広がっていった。



☆★ つ づ く ★☆



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