「み、右から来るぞ!・・・今度は左!!」
「さて、降りますよ。」 ミルフィーたちの不安をよそに、馬車は館の正面にある空き地へと降下していった。 「さてと・・・シャイローゼさんはどうやって降ろしましょうか?」 全員馬車から降りたのだが、ただ1人、シャイローゼは、しっかと馬車に掴まったまま硬直していた。 いくら呼んでも、顔を叩いても気がつきそうもない。しっかと握ったその手は・・・開きそうもない。 「しかたないですね、このまま厩の方へ行くとしましょう。そのうち目が覚めるでしょう。館の人にはそう言っておきますから。」 冷たいような気がしたが、どうあっても目を開きそうもないシャイローゼに、マクロードのその提案を受け入れることにした。 「十分じゃない?」 と、真っ先に賛成したのは・・言うまでもなくチキだった。 −ギギギギギーーーーーー・・・− その大きな扉は、すぐ前まで行くと、まるで待っていたかのようにゆっくりと開いた。 「・・・・」 恐るおそる中を覗く。 「ははは!心配いりませんよ。」 マクロードが笑って中へ入るように促す。 それでもなんとなく不安を感じ、きょろきょろと周りを見ながら、中へと入る。 「うわーーー・・・・」 そこはホールになっていた。1歩足を入れた途端、それまで真っ暗だったそのホールに明かりが灯った。 天井には水晶細工の巨大なシャンデリア。壁はぴかぴかに磨かれた大理石。そして、その壁には銀製の蝋燭立てがならび、1つずつ順に明かりが灯っていく。 「綺麗だな・・。」 思わずミルフィーが声をだした。 「綺麗って・・ミルフィー・・普通怪しいと思うんじゃないか?」 レオンが呆れた顔で言う。 「でも綺麗は綺麗だって。」 確かに火をつけてもいないのに、蝋燭に火がついていくのは、十分怪しい。が、それよりもその照明の美しさに目を奪われていた。 「確かに、なかなか素敵な演出ですよね。」 レイミアスがそんなミルフィーに相づちをうつ。 「だろ?・・だけど怪しさも十分だな。」 そして、マクロードに視線を移す。 「どういう友人なんだ?」 「ははは。」 にっこりと笑い、マクロードは、正面の奥から近づいてくる人影を指した。 「彼がこの夢幻の館の主、ラサ・リーパオです。」 「無限?って・・中は無限に広がっているのか?」 ちらっとその人影を見て、ミルフィーは再びマクロードを見る。 「いえ・・無限じゃなくて、夢の幻と書いた夢幻です。もっとも無限と言えるような広さはありますが。」 再び明るく笑うと、マクロードはそこまで来ていた初老の男に歩み寄った。 「久しぶりだ、ラーサ。」 「ああ、そうだな。マーク、この薄情もん!」 友人だというのはまんざらウソでもないらしく、2人はしっかと抱き合って再会を喜んでいた。 そして、いつの間にか出てきていた数十人の召使いに囲まれ、彼らはそれぞれ用意された客室へ、そして、旅の汚れと疲れを癒すようにと、浴室へと案内されていった。 そして、見たことのないような豪華なディナーでもてなされた後、夜遅くそれぞれの部屋へと別れた。 「久しぶりに楽しめそうだ。」 「なかなか生きのいい者達だろ?」 ラサ・リーパオの私室。 マクロードと彼は、なにやら意味深な笑みを浮かばせながらワイングラスを傾けていた。 |