青空に乾杯♪


☆★ <<第13話>> 夢幻の館 ★☆



 「み、右から来るぞ!・・・今度は左!!」
馬車の中ならまだしも、御者台に乗っているミルフィーの目には、どうしても妖魚の追撃が入る。
どうしても大声で叫んでしまう。マクロードに任せておけば大丈夫だと思っていても。
「まるで闘牛みたいだ。牛じゃないから・・闘魚か・・・・」

「結構しつこいですねー。いつもならもう振り切っている頃なんですが・・・よほどレオンさんがおいしいと判断したんでしょうか?」
落ち着いた調子でマクロードはそんなミルフィーを見る。
「おいしいって・・・・げろでわかるのか?」
意外そうな表情で言うミルフィーにマクロードはにっこりする。
「多分。」
「ふ〜〜ん・・・・」
「それはともかく、一旦ここから出ますよ。」
「え?ここからって?この真っ暗なとこから?・・・そうするとあいつも着いてくるのか?」
前方から突進してくる妖魚を見つめながら、ミルフィーが言う。
「大丈夫です。彼らはこの空間でしか生きられませんから。」
「じゃーもっと早くここから出ればよかったってことか?」
馬車の中からレオンが叫ぶ。
「出ると言うより・・他の空間に入ると言った方が適切でしょう。このワープ空間は入るとき目的地を定めて入るのです。そうすることにより、最短距離でそこに着くことができるんです。ですから途中で引き返すとか出るとかはできないのですよ。ただ1カ所、今から立ち寄る館を除いて。」
「館?」
「ええ、そうです。幽玄界にある、館です。」
「幽玄界?」
「そうですよ。」
不思議そうに質問するミルフィーに、マクロードはにっこりと笑うと、手綱を引いた。
−ヒヒヒーーーン!−
「予定では、一気に目的地まで飛ぶつもりだったのですが、黒王も銀王も疲れたようなので、そこで一晩身体を休めてから出発ということにしましょう。」
「屋敷って誰の?」
「私の古くからの友人です。ただちょっと心配な事もありますが。」
「心配なこと?」
ミルフィーのその質問には答えず、マクロードは大きくかけ声をかけた。
「はーっ!」
−ヒヒヒーン!−
その声で、2頭は急上昇を始める。
妖魚もまだしつこく後を追ってくる。
「さて、出ますよ。」
−ザン!−
「え?・・・ええーーーっ?!」
馬車はちょうど湖水の中から飛び出たような状態だった。
「ど、どうなってるんだ?」
ミルフィーだけでなく全員そう思いながら眼下の湖を見下ろす。
と、ザッバーーン!と妖魚が空中へ躍り出た。
「わっ!しつっこい奴!」
あとほんのわずかで馬車に届きそうだった・・・・
が、そのとき妖魚の身体はもやとなって消滅した。
「あ、あれ?」
「奴らには、ここの空気は合わないんですよ。」
マクロードがにっこりと笑った。


空中高く舞い上がった馬車のすぐ目の前、湖のすぐ畔に、巨大な館があった。
薄暗い空間に漆黒の館、そして、所々に灯る淡い光。
そして、周りを取り囲む怪しげな空気。
「おい・・・・・ホントに大丈夫なのか?」
その異様さに、思わずミルフィーはマクロードを凝視した。
全員・・・近づいてくるその屋敷から目を離せなかった。

yasiki
夢幻の館
KOHさんからいただいた写真を加工したものです。
ありがとうございました。


 「さて、降りますよ。」
ミルフィーたちの不安をよそに、馬車は館の正面にある空き地へと降下していった。


 「さてと・・・シャイローゼさんはどうやって降ろしましょうか?」
全員馬車から降りたのだが、ただ1人、シャイローゼは、しっかと馬車に掴まったまま硬直していた。
いくら呼んでも、顔を叩いても気がつきそうもない。しっかと握ったその手は・・・開きそうもない。
「しかたないですね、このまま厩の方へ行くとしましょう。そのうち目が覚めるでしょう。館の人にはそう言っておきますから。」
冷たいような気がしたが、どうあっても目を開きそうもないシャイローゼに、マクロードのその提案を受け入れることにした。
「十分じゃない?」
と、真っ先に賛成したのは・・言うまでもなくチキだった。


−ギギギギギーーーーーー・・・−
その大きな扉は、すぐ前まで行くと、まるで待っていたかのようにゆっくりと開いた。
「・・・・」
恐るおそる中を覗く。
「ははは!心配いりませんよ。」
マクロードが笑って中へ入るように促す。
それでもなんとなく不安を感じ、きょろきょろと周りを見ながら、中へと入る。
「うわーーー・・・・」
そこはホールになっていた。1歩足を入れた途端、それまで真っ暗だったそのホールに明かりが灯った。
天井には水晶細工の巨大なシャンデリア。壁はぴかぴかに磨かれた大理石。そして、その壁には銀製の蝋燭立てがならび、1つずつ順に明かりが灯っていく。
「綺麗だな・・。」
思わずミルフィーが声をだした。
「綺麗って・・ミルフィー・・普通怪しいと思うんじゃないか?」
レオンが呆れた顔で言う。
「でも綺麗は綺麗だって。」
確かに火をつけてもいないのに、蝋燭に火がついていくのは、十分怪しい。が、それよりもその照明の美しさに目を奪われていた。
「確かに、なかなか素敵な演出ですよね。」
レイミアスがそんなミルフィーに相づちをうつ。
「だろ?・・だけど怪しさも十分だな。」
そして、マクロードに視線を移す。
「どういう友人なんだ?」
「ははは。」
にっこりと笑い、マクロードは、正面の奥から近づいてくる人影を指した。
「彼がこの夢幻の館の主、ラサ・リーパオです。」
「無限?って・・中は無限に広がっているのか?」
ちらっとその人影を見て、ミルフィーは再びマクロードを見る。
「いえ・・無限じゃなくて、夢の幻と書いた夢幻です。もっとも無限と言えるような広さはありますが。」
再び明るく笑うと、マクロードはそこまで来ていた初老の男に歩み寄った。
「久しぶりだ、ラーサ。」
「ああ、そうだな。マーク、この薄情もん!」
友人だというのはまんざらウソでもないらしく、2人はしっかと抱き合って再会を喜んでいた。


そして、いつの間にか出てきていた数十人の召使いに囲まれ、彼らはそれぞれ用意された客室へ、そして、旅の汚れと疲れを癒すようにと、浴室へと案内されていった。
そして、見たことのないような豪華なディナーでもてなされた後、夜遅くそれぞれの部屋へと別れた。


「久しぶりに楽しめそうだ。」
「なかなか生きのいい者達だろ?」

ラサ・リーパオの私室。
マクロードと彼は、なにやら意味深な笑みを浮かばせながらワイングラスを傾けていた。



☆★ つ づ く ★☆



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