青空に乾杯♪


☆★ <<第11話>> 乙女の血 ★☆



 翌朝、あまり眠れなかったミルフィーは、昼近くになってから、あくびをしながら階下へと下りてきた。
「あ!ミルフィー!朗報ですよ!」
食堂に入ってきたミルフィーを見るなり、レイミアスが嬉しそうに言った。
「ん?」
寝ぼけまなこで、レイミアスを見るミルフィー。
「おいおい、大丈夫か?結界のおかげでゆっくり眠れたんじゃなかったのか?」
レオンがそんなミルフィーを笑う。
「まったく・・・そんな顔で人の前にでるなんて、自覚が足りなくてよ。もっとも・・・あなたはレディーではなかったわね。」
ちらっとミルフィーを見たチキの視線は、明らかに蔑視していた。
「ぶひ!ぶひ!」
「なによ、シャイ、あたしと意見を異にしようというの?」
そんなチキをたしなめるように鳴いたシャイローゼをきっと睨むチキ。
「いいよ、別に。ホントのことだって。」
ミルフィーはそんな2人に照れ笑いする。
「いいんじゃねーか?別に恋人の前とかじゃなきゃ?オレたちなら気にしないしな。」
「でも、一応ミルフィーって・・・」
ミルフィーのきつい視線を感じ、チキは、言いかけた言葉を飲み込む。
「一応、なんだ?」
「ううん・・べ、別に・・なんでもないわ。ただ、だらしなさすぎるってこと。」
「眠いときはしかたないですよ。」
ミルフィーの肩を持つかのようなレイミアスの言葉に、チキは一瞬、ミルフィーを睨む。
が、ミルフィー以外は、誰もそれには気づかない。

「で、朗報ってのは?」
ミルフィーは、焦りを隠すかのように、話を元に戻す。
「あ、そうなんですよ。朗報なんです。月タンポポの咲いてる場所が分かったんですよ!」
「ほ、ホントか?」
まさかこんなに早く分かるとは、誰も思いもしなかったことだった。
ミルフィーはガタッとレイミアスの横のイスを引くとそこに座り、レイミアスを見る。
「ホントです。ここのご主人のマクロードさんがご存じだったんですよ。」
どうやら明け方近くにようやく眠れたミルフィーが、眠っている間に、みんなは、いろいろと話していたらしい。
「そんな都合良く・・・」
信じていいかどうか、少し心配になったミルフィーは、小声でレイミアスに言う。
「そうも感じますが、とにかく他に情報もないんですし・・。」
他のみんなもそうだ、と言うように目配せする。
「そうだな・・。そうだよな。」
「ええ。」
「で、どこにあるんだ?どのくらいかかる?」
「歩いていくとすると1ヶ月ほどかかるらしいんですよ。」
「1ヶ月も?!」
普通、1ヶ月で目的地へ着くのなら、彼ら冒険者にとっては、近いと思うべきである。が、ミルフィーは、また野宿でその長い時を過ごすのかと思い、ぞっとする。
「歩いて行くしかないのか?馬とか・・何か?」

−コトンー
宿の女将、サワが遅れてきたミルフィーの食事をテーブルに置く。
「はい、どうぞ。」
「あ、どうもすみません。」
「今の話なんですが、主人と相談しまして、もし、よろしければ主人がそこまで送って行ってもいいと言ってますが。」
「え?送ってくださるんですか?」
「送ってくれるって?」
「ぶひ?」
全員が目を輝かせて、サワに注目する。
「ええ。ただし、条件があります。」
サワはなにやら理由のありそうな笑みをみせる。
「条件?」
再び、全員そろって声をだす。
「はい。」
「な、なんなのでしょう?ぼくたちでできることなら。」
レイミアスが、おずおずと訊ねてみる。
「ええ・・・・」
一瞬、とまどいを見せ彼女だが、大きく呼吸をすると口を開いた。
「血をいただきたいのです。いえ、ほんのコップ2,3杯でよろしいのです。」
「血〜?!」
その言葉で、今は普通の人間に見えるが、その実妖怪だったことを思い出す。

−ガタッ、ガタタン!−
それぞれ自分の武器を手に、立ち上がる。
「待ってください。別に危害を加えようとは思ってません。それに、それが本当の目的なら寝ているときにいつでもできたはずです。」
サワは慌てて両手でミルフィーたちを落ち着かせようと、制止する。
「だが、『血』とは、穏やかじゃないじゃねーか?」
確かに殺気はない。
レオンは杖を横に置いて、ぐっと睨む。
「つまりそれは・・・」

「私が説明しよう。」
ちょうどそのとき、食堂に入ってきたマクロードが、静かに言った。
「妻は・・最近少し老けてきたのを気にしてたのです。私たちは不老不死ですが、それでも少しずつ老けてはいるのです。で、若返るために、血をいただきたいと、こう妻は申すのです。その見返りに私が月タンポポの咲くところにお送りします。」
「若返るんですの?」
「そうなんです。」
『若返る』という言葉に目を輝かせて、チキが叫んだ。
「うらやましいですわ。」
「ほほほ」
少し恥ずかしそうにサワは笑う。
「で、だいたいそういうときって、乙女か子供の純粋な血と決まってるって聞いたことがあるんですが・・・本当なの?」
心配そうな表情で、チキは小声で言った。
「ええ、そうなんです。」
「本当か?それって人間に限るのか?1人で2,3杯も取られたら・・・死んでしまわないか?妖精の血とかは?」
少し青ざめたような表情で、ミルフィーは、サワをじっと見る。
「残念ながら、人間の血でなければ効力がないのです。ないというより、毒になってしまうんです。」
「う〜〜ん・・・・」
ぼりぼりと頭をかいて、レオンは残念そうに口を開く。
「申し出はありがたいんだが、子供はいないし、乙女と言っても・・多分、こいつが女だと思ってると思うが・・・」
レオンは、そう言いながら、レイミアスの頭にぽん!と手を置いて苦笑いする。
「確かに、女にも見えるが・・一応男なんだぜ、これでも。」
「あら。」
意外そうな表情で、サワが言う。
「だから・・・願ってもないいい話なんだが・・・どうしようもない。場所の情報だけでもありがたいと思って、それはあきらめるしかないんだ。」
「え?」
マクロードとサワは、ちらっとミルフィーに視線を向ける。
「ん?」
その2人の視線をたどって、レオンもまたミルフィーを見る。
「・・・おいおい、あんたたち、人間の血が欲しさに目がおかしくなっていやしないか?こいつのどこが女だってんだ?」
わはははは!と一笑するレオン。
「レオン・・あの・・・」
そんなレオンの肩をつんつん!と突っつくレイミアス。
「なんだよ・・・」
レオンはその意味が分からず、きょとんとしてレイミアスを見る。
「やっぱり気づいてなかったんですね、レオン。」
「まったく・・」
チキが軽く眉にしわを寄せてレオンを見る。
「ブキ!」
シャイローゼの視線もそんなレオンを非難しているように感じられた。

「え?・・・・ええ〜っ?!・・ま、まさか・・そんなばかな?」
これ以上の驚きはない、という表情で、ミルフィーを指さして叫ぶレオン。
「人を指で指しちゃいけないって教わらなかったか?」
ミルフィーは、レオンの横を通りざま、彼の指をぴん!とはじく。
「悪かったな。女で。」
「・・あ・・・え?・・・そ・・・その・・」
レオンは、続ける言葉を失い、口をぱくぱくさせる。
「ふん!」

ふいっとレオンから顔を背け、サワへ歩み寄る。
「オレは、幽霊の世界に長居はしたくないんだ。死なないんなら、取ってもいい。」
ミルフィーは上着の袖をまくると腕をあらわにした。
その腕は、確かに男にしては、細い。
鎧をしっかり着込んだ服でわからなかったようだ、顔は前髪でほとんど見えないし、とレオンは、その腕を見て呟く。
が、戦士として鍛えてあるその身体は、確かにレイミアスよりがっしりしていることは確かだ。
それに、口は悪いし、そんなこんなで完全に男と思いこんでしまったらしい、とレオンは苦笑いしながら一人納得する。

「できるなら、あまり痛くない方法で頼む・・・。」
「いいんですの?嬉しいわ。あなたのような健康的な方の血がいただけるなんて思ってもみませんでしたわ。ね、あなた。」
サワは目を輝かせて喜ぶ。
「ああ。黒王も銀王も喜ぶだろう。」
「黒王?銀王?」
「そうだ。黒王と銀王というのは私の馬なんだ。妻に1杯、そして、馬たちに1杯ずつというわけなんだ。」
「ということは・・?」
「そうだ。」
ミルフィーに、にこりと笑って答える主人。
「闇馬車を引く彼らもまた魔に属するもの。妖獣、魔獣というべきかな?」
「魔獣・・ですか・・」
血を滴らせていななく馬を連想し、思わずぞっとするミルフィー。
「大丈夫。おとなしいし、私には、とても忠実です。」
ミルフィーの不安を悟ったのか、マクロードは笑いながら付け足した。
「は・・はあ・・・」

血をとるのだから、食事をしっかり取って、と言われたミルフィーは、いつもより多めのミルクとパンと干し肉そして、フルーツを食べると、にこやかなサワに手を引かれて食堂を出ていった。
もっとも、血を採られることを考えると、なかなか食は進まなかったが。




☆★ つ づ く ★☆



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