青空に乾杯♪


☆★ <<第10話>> 幽霊と妖怪の違い ★☆



 「どうしたんだ、ミルフィー?」
レオンを先頭に慌ててその家に駆け込むと、そこには大の字になって倒れているミルフィーを囲むようにして、家人と思われる親子3人が立っていた。
なぜミルフィーが倒れたのか、予想とは違うにこやかな親子に、レオンは怪訝そうな表情を見せる。
「お連れさんでしょうか?」
母親がにっこりとほほえみながらレオンに聞いた。
「ああ・・そうだが・・・」
「すみません、ちょうどこうしてたものですから。」
そういって母親は自分の頭部に手をかけるとぐいっと上に引き抜いた。
もちろん切れてはいない。長く延びた首で繋がっている。
「わあっ!」
それを見たとたん、さすがのレオンも思わず声を上げてしまう。
それならミルフィーが倒れたのも理解できる。
「そうっか・・そうなのよね。聞いたことがあるわ。確か・・・ろ・・えっとぉ〜」
そのレオンの蔭からひょいと首を出したチキが、母親の顔にじっと見入りながら考える。
「そうだ!そうよ!ろくろ首とかだったわ。東方の国のオリジナルゴーストよ!」
目を輝かせて叫んだチキに母親はにっこりとして、頭部を元に戻した。
「ゴーストというのは、正確じゃないんですけどね。妖怪が正しいわ。」
「よ、妖怪?」
訳が分からずレオンが聞く。
「そう。でも、そうねー・・このあたり、つまり、この世界へ繋がってる聖魔の塔がある地域では、そういう表現はないわね。物の怪とも言われるから、このあたりの言い方で言えば、魔物、魔族ということになるかしら?多少ニュアンスが違う感じもするけど。」
「ということは?」
レオンが父親と少年に視線を移す。
「うん!そうだよ。ぼくも妖怪だよ。ただし、おかあさんのようじゃなくて、ぼくは、こうなんだ。」
ぺろんと少年がその手で顔をなでると、そこには目と眉のない、のっぺりとした鼻と真っ赤な口の顔があった。
「ぶ、ぶひぃ!」
それに驚き声を上げたのは、シャイローゼだった。
レイミアスとチキは、驚きで声も出なかったという方が正しい。
「この人が入ってきたとき、女房は首を伸ばして手に持ってたし、息子はこの状態だった。そして、私は・・」
そう言いながら父親は、ひょいとその頭部を持ち上げた。
母親と違うのは、それは、身体とは完全に離れていた。ざっくりと切断されたような切り口からは、血こそ滴り落ちてはいないものの、赤黒い血の痕のついたどす黒い肉は・・なんとも言えず気持ちが悪い。
「・・・・・・」
当然、ここに至って一同絶句・・・。
なんという宿屋だろう。
ここには、泊まれそうもないな、と一同目配せしていると、ふっと気づいたミルフィーが上体を起こした。
「あ、おい、大丈夫か?」
ミィルフィーを気使いながら、慌ててレオンは、親子の姿がミルフィーの視界に入らないよう、自分の身体で遮る。
「ん?」
が、ミルフィーはめざとくそれを認める。
「な〜んだ・・・幽霊じゃーないのか?」
安堵したような表情で立ち上がる。
「てっきり幽霊の類だと思いこんで・・・またかっこわるいことしちまった。」
ばつの悪そうな顔つきで苦笑いする。
「聞いてたんですか?」
心配そうにレイミアスが聞く。
「ぼんやりとだけどな。」
もう大丈夫だ、とレイミアスに親指を立てて合図する。
「どうして幽霊はだめで、この人たちはいいのよ?あたしには、その違いがさっぱりわからなくてよ?」
チキがくすっと笑った。
「う・・・ま、まー、これには、いろいろと・・・な。」
あはははは、と弱々しい声で笑うミルフィー。
「うーーん・・少なくとも幽霊のようなぞっとする霊気は感じないから、かな?」
「それにしては、さっきの悲鳴はどういうことなのかしら?」
「そ、それは・・思いこみってやつだって。あはは・・」
すっかり押され気味のミルフィー。
「で、どうされます?お泊まりになりますか?ここでしたら、結界のため幽霊は入ってこれませんが。」
母親は、長くのばした頭部を元に戻して、にっこり笑う。
「結界?」
ミルフィーの瞳が輝く。
「ええ、そうですよ。私も幽霊はあまり好きではないんですのよ。」
にこっと笑う。
「時と場所もわきまえずに、いきなり現れますもの。」
そして、少し迷惑顔で言う。
「ミルフィーみたいに怖いってことじゃありませんのね?」
チキがちらっとミルフィーを見て母親に笑顔をみせる。最初は驚いたチキだが、今は首を伸ばしてないから、ごく当たり前の人間に見える。
「ええ、そうですよ。同じこの世界の住人なんですもの。時には、嫌いなタイプの方もみえますけどね。」
「なるほどね。」
「結界とはありがたいな。勿論泊まるよ。」
「ミルフィーは、この世界からの出口が見つかるまでずっとここでお世話になってた方がいいんじゃなくて?ね、レイム?」
「ミルフィーのためにはそうかもしれませんけど、でも、旅には戦士としてのミルフィーの力は必要ですよ。」
レイミアスは、軽くたしなめるようにチキを見る。
「ぶひ!」
ふごっと鼻をならし、レイミアスの意見に賛成するシャイローゼ。
「・・・・」
直接攻撃しかきかない魔物がいたことを思いだし、チキは、視線を外に向け、小声で呟く。
「私の『ばよえ〜〜ん』が使えば、物質攻撃しか効かない魔物も大丈夫なのに。残念だわ。」
「もう使えないのか?」
あれ以来グールに変身はしないものの、少し心配になったレオンがチキに聞く。
「そうなの。あれは、感動させる呪文。その原動力は、精神力だけでなく、術者のそれまでに受けた感動をパワーに置き換えたものなの。だから、しばらくは・・・」
「パワー不足ってか?」
「まーそんな感じね。でも、大丈夫。あなたの中に眠ってるグールは、もう凶暴にはならないはずよ。」
レオンの心配を見透かしチキは付け加える。
「そんなに長く効くのか?」
「本来の呪文はそんなに効力はないの。でも、あたしが改良に改良を加えたから大丈夫よ。」
「ふ〜〜ん。」
「ふごっ!ふごっ!」
さすが、チキ!とでも言うようにシャイローゼが勢いよく鼻を鳴らして拍手する。
「もう!うるさいわよ、シャイ!あなたにそうされると下品でいけないわ。」
「ぶきぃ・・・・・・・」


 そして、ともかくその夜は、そこに泊まることにした。
妖怪一家はこの上なく親切で、隅々まで行き届いた世話をしてくれた。
そして、この世界に来て初めて霊気を感じない時をすごせ、ミルフィーは久々にリラックスできた。
が・・・・・・


昼のない世界とはいえ、一応時間のあるこの世界。
1日は月の出ている時間帯とそうでない時間帯によって分けられていた。
人間界で言う昼間が月が出ている時間。そして、闇夜の間が夜といった具合。


これは、フリー画像を加工したものです


そして、その闇夜。なま暖かい風と共に幽霊はその活動を活発化する。
基本的には、両方とも夜なのだから、月が出ていても活動はできる。が、幽霊にもそれなりのパターンを持っていた。
一日のけじめ・・生者であったときの習性のなせる技とも思われた。
とにかく、一部の幽霊、または特別の場合を除いて、闇夜時間に幽霊は行動を開始する。
その時間、ミルフィーたちも夜として眠るのだが、その霊気で眠れないミルフィーは、レイミアスに無理矢理呪文で寝かしてもらっていた。だから、当然、寝た気がしない。

久しぶりの快眠。自分の意志で自然に眠りに入ることができる。
宿の一部屋、上機嫌でベッドに入ろうとしていたミルフィーは、ふと窓を見る。
そこには、ひしめくようにして部屋の中の様子をうかがっている幽霊たちの顔、顔、顔・・・・があった。
当然、それは一気にミルフィーを心身共に硬直させる。
「う!・・・・」
それでも、霊気までは中に進入してこない。
ミルフィーは、恐怖感と戦いながら、反対方向を向き、手探りで窓に近づくと、勢いよくカーテンを閉めた。
「はー・・はー・・はー・・・・」
(全くとんでもない世界へ迷い込んだものだ!月タンポポよりも出口を探すべきか・・?が、どっちにしろ、その両方とも何も情報はない。オレは・・果たして、正気を保っていられるだろうか?)
ミルフィーは、がばっと布団をひっかぶると、眠気の覚めてしまった目を無理矢理ぎゅっと閉じた。



☆★ つ づ く ★☆



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