青空に乾杯♪


☆★ <<第8話>> 亡者の世界? ★☆


 「うわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
翌朝、迷路のような洞窟を探索しているうちに、案の定、突如足下に広がった空間に落ちていくレイミアス。
「な・・なんだ?突然足下の地面が?」
驚いている間もなく、それは急激に広がり、あっという間にレイミアスだけでなく、次々と呑み込んでいく。
「わぁぁ・・・・」
「きゃあっ・・」
「ぶきぃ〜・・」
「あ?な、なんだ・・オレんとこで終わりなのか?」
その広がりが丁度自分の足下の前で止まり、1人だけはぐれてしまってもと、焦りながらレオンはその穴に飛び込んだ。
「いくぜっ!」
−ヒューーーーー・・・−
真っ暗な空間をただひたすら真下に向かって落ち続ける。
「底はまだなのか?」
そう呟いたレオンの耳にミルフィーの声が飛び込む。
「何処まで落ちていくんだよ、レオン?」
「何処までってオレにだって分からないって。」
「ここは底なんだ。オレの足は地面を踏んでいるって自分に言い聞かせてください!みんなと一緒にいるって!確信を持つように!」
続けてレイミアスの声が飛ぶ。
周りは真っ暗で姿は見えない。が、幻聴とも思えず、レオンは目を瞑りとにかく自分に言い聞かせた。
「オレは地面に立っている。みんなと一緒に・・・オレは・・」
すると不思議に地面に立っているような気がし、レオンはそっと目を開けた。
「ようやく来たな、レオン。お前だけいつまでも落ち続けててさ、どこかへ行ってしまうんじゃないかと思って心配してたんだぞ。」
ミルフィーの姿が目に写る。そして、他のみんなも。
「いったい何がどうなってんだ?」
不思議そうに呟いたレオンにチキが答えた。
この移動空間は、落ち続けていると思っている限り、永久に落ち続けることになる。どこかの空間に出たければ、そう思いこませるしかないらしいということだった。
それはシャイローゼの経験から得た知識だった。
「ということは、出たい空間をイメージすればそこへ出れる・・とか?」
「それも考え得るんだけど、今まで成功したことがないらしいの。」
一瞬、期待に満ちたレオンの瞳が再びかげる。
「やっぱそうか・・で、ここはどういうところなんだ?」
「さあ?」
そこは今までのところとは違い、鬱蒼と茂る森の中。あまり大きくない湖の畔。
−バサバサバサッ!−
「きゃあっ!」
チキが驚いてレイミアスにしがみつく。
−ほう・・ほう・・−
「大丈夫ですよ、フクロウですよ。」
洞窟では、確か時間的には午前中のはずだった。が、ここの空間は真夜中らしい。
湖の上には満天の星空と弓のように細い月が輝いている。
「満月じゃーないようだな。」
月を見ると、もうそれが条件反射のように考えてしまうミルフィーだった。
「そうですけど、でも、満月でももう大丈夫なんでしょう?」
レイミアスがにこっとレオンを見る。
「オ、オレは意識なかったから、どうなのか・・はははっ」
頭をぽりぽり掻いて照れ笑いするレオン。
「多分大丈夫だと思うけど、でもまた元に戻っても私の魔法でなんとかしてさしあげますわ。」
「それはどうも。」
「でも、ここって、どうも雰囲気が・・」
胸を張ってレオンに答えた時と反対に、不安げな表情のチキ。
「さっきから背中がぞくぞくして・・・」
「そう言えば、オレもなんか落ち着かないんだが。」
辺りを見回しながらミルフィーも呟く。
「でしょうね。この辺り一帯、霊がうごめいていますよ。」
「お・・おい・・ホントか?オレそういうの苦手なんだって!冗談じゃないぜ!」
落ち着いた表情でさらっと言ったレイミアスを驚きの表情で見るミルフィー。
「冗談じゃないですよ。ほら湖の上なんて数人も・・」
そう言うレイミアスの指先の湖面を見ると、たしかにぼやぁっと青白い靄が・・。
「ぎゃあああ!」
その途端、そこへしゃがみ込んで頭を抱えて震えるミルフィー。
「お・・おい・・もしかして・・お前?」
レオンがミルフィーの肩に手をかけながら笑いを堪えるように言う。
「ダ、ダメなんだって・・オレ、こういうの・・。」
「おいおい・・冗談だろ?聖魔の塔を探索するような戦士が?」
「魔物類はどおってことないんだよ。だけど、霊とか幽霊とかは・・」
「アンデッドと変わりないと思うんだがな。」
「う・・うるさい!ゆ、幽霊はこの世に未練を残しているから恐いんだって。引きずり込まれるぞ。」
「はははははっ!まさかあんたの口からそんなセリフがでるとは思わなかったな。何かそれらしき経験でもあったってのか?」
「大丈夫です。たとえ悪霊であってもぼくが浄化します!」
「おお!そうだった。オレたちには心強い僧侶様がいたんだった。」
自信たっぷりに言い切るレイミアスに嬉しそうに言うレオン。
「と言うわけだ、ミルフィー、大丈夫だって。」
「そ・・そっか?」
ようやくミルフィーは落ち着いたのか、隣に同じようにしゃがみ込み軽く肩を叩くレオンの顔を見る。
「くすくすくす・・案外情けないのね、ミルフィー?」
「チキ!」
横でミルフィーを笑ったチキに珍しくきつい口調でレイミアスが言った。
「誰でも苦手な物はあるんだよ。そんなこと言ったらぼくなんて苦手な物ばかりで・・・」
「ご、ごめんなさい・・。」
「いや、いいよ。ホントのこと・・・・」
立ち上がり、レイミアスとチキ方に視線を移してそう言いかけたミルフィーは、再びがたがたと震え始めた。
顔からは血の気が失せ、全身が硬直していた。
2人の真後ろには、長い髪、青白い顔の白装束を纏った女の幽霊が立っていた。
「レイム、早く浄化を!」
ミルフィーを気遣いながらレオンが叫ぶ。
「は、はい!」
慌てて向きを変え、レイミアスが浄化魔法を唱えようとした時、その幽霊は、大粒の涙をこぼした。
「お待ち下さい、僧侶様。・・・」
そのか細く響く幽霊独特の声色は、ミルフィーに決定的衝撃を与え、ばたっと真後ろに倒れた。
「お、おい!ミルフィー?!」
レオンは慌ててミルフィーを庇うようにして、その前に座り幽霊を睨む。
「待てとはどういうことでしょう?」
「あなた方からは、太陽の匂いがします。」
「それが?」
「その匂いに引かれてやってまいりました。ここは昼のない世界なのです。実は、私、ここでこれ以上彷徨い続けるのも、飽いてきてまして、できれば、今一度生者に生き返るか、あるいは、太陽の元で天に召されたいと思っているのですが。」
およよよよ・・と泣くその幽霊にレイミアスは、当然の如く同情する。
「夜だけの世界?」
「はい、そうです。ですからここには、ここで亡くなった者達以外の様々な霊が集まってきております。」
「まさか亡者の世界なんてことは・・・」
ふと頭に浮かんだことを口にして、思わず自分自身もぞっとするレオン。
「そうかもしれません。そうでないかもしれません。」
そこに座った幽霊はその青白い長い指を地面につき、話を続ける。
「この世界の最高峰に『月たんぽぽ』という月光を放って光り輝く花があると言われています。」
「ぶきっ?!」
「月たんぽぽ?!」
シャイローゼとチキが同時に叫ぶ。
「そ、それは本当なの?」
「本当かどうかは分かりませんが、この世界では、なんでもかなえてくれる花と言い伝えられています。その光を浴びることにより、私たちは救われます。でも、霊体のままでは浴びられないのです。私たちの身体は光も通してしまいますので。」
「ではどうやって?」
「ですから、光を浴びるときは、どなたか波長の合う方の身体をお借りして、ということになります。」
「そ、それってつまり、憑依?」
ぎょっとしてレオンが叫ぶ。
「別に身体を乗っ取るというわけではありません。」
「わかりました。で、その月たんぽぽはどこにあるんですか?ぼくたちも探してるんです。」
真剣な眼差しで聞くレイミアスに、幽霊は嬉しそうにゆっくりとうなずく。
「それはよかったこと。はっきりとは知りませんが、言い伝えによると東の大陸とか。」
「東の大陸ですか。」
「私はこれでも生前、ある程度名の知られた魔導師でした。きっとお役に立てると思います。」
「ってことは、ずうっと誰かに憑依してるのか?」
不安げにレオンが聞く。
「いいえ、身体をお借りするときはその時だけで結構です。行く道、いろいろあると思います。そして、波長の合う方と私はずっと通じています。ですから、私の力が必要なときは、すぐあなた方の元に行けます。」
幽霊はそう言ってにっこりと笑った。
「そこに寝てみえる戦士様など、とてもいいみたいです。」
「ミ、ミルフィーが?」
全員ぎょっとしてまだ気づいていないミルフィーを見る。
「では、そういうことでお願いします。」
返事も待たず、幽霊はすうっとその姿をミルフィーの身体に重ねるようにしてその中に入り、そして再び出るとにっこり笑いながら消えていった。
「おい、気絶してるのにまた気絶するってあるのか?」
心配になったレオンがミルフィーの顔を覗き込んで呟いた。
泡を吹いてるぞ。」


紫檀さんが描いてくださいました。
ありがとうございました!!



☆★ つ づ く ★☆



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