青空に乾杯♪


☆★ <<第7話>> ダークエルフの呪い ★☆


 「本当に魔物の住処はこっちにあるのか?」
湿原地帯の空洞は、細長い洞窟に繋がっていた。だれも魔物が怖くて入らないと言う洞窟。
「どうなんだろうなぁ・・・だけど他に道はなかったぜ。」
心配そうな顔でレオンもぼそっと呟いた。
「そうですよね。」
レイミアスも自信なさげにうなずく。

 そのうちその洞窟は、大人1人がなんとか通れるくらいの広さしかなくなってきた。
長身のレオンは前に屈んだ状態で進まなくてはならなかった。
そして、レオンがその姿勢に嫌気がさし、いい加減に戻ろうぜ、と口にしようとしたとき、狭い洞窟から広い空間へと出た。

 「ど、どこかに魔物が?」
あちこち周りに注意を張り巡らすレオン。
「どうかな?気配はなんにもないようだが・・」
ミルフィーもそう呟きながら警戒心は解いていない。
広くなっただけで相変わらず何もなく、周りは岩壁と水苔だけ。
と、曲がり角から突然彼らの目の前に立った者がいた。
一瞬攻撃態勢を取るが、それが物乞いの涙目でじっと見つめている豚だと分かると、一応の警戒を解く。
完全に安心したわけではないが。
「何もんだ、あんた?」
「ぶきぃぃぃぃ〜〜〜!」
ミルフィーの問いに大粒の涙をぽろぽろとこぼす人間大の豚。
「まさか、オークってこともないよな。同じように2本足で立ってはいるがオークは・・もっとこう・・人間に近い顔立ちだもんな・・・」
ミルフィーのその言葉を聞き、豚は、ぽろっと一段と大きな涙を流す。
「ぶきぃ〜〜・・・」
「オークより本物の豚っぽいもんなー。」
思わずレオンも苦笑いする。
「知恵のついた豚でしょうか?」
その涙に誘われ、レイミアスは思わず手をさしのべる。
「ブキィっ!」
「あっ?!」
その途端その豚はレイミアスの手を鷲掴みにし、ものすごい勢いで引っ張っていった。
「あ!お、おい!」
「この野郎!人が哀れんでおとなしくしていりゃ〜・・・!」
ミルフィーもレオンも慌ててその後を追いかけた。


「み、見失ったか?」
小一時間ほどその豚を追って狭い洞窟を走り続けた2人は息を切らして壁にもたれかかっていた。
「太り気味の豚にしちゃ〜、足が速い。」
「レイムを引っ張ってるのにな。」
息を整えながらも辺りを調べる。
「どこへ消えたんだ?」
角を曲がった途端その姿は消えていた。が、どう考えてもまかれたとは思えない。常に視野の中にその姿を入れていたのだから。
こういうときの常識。2人は注意深く周りの壁を調べることにした。

−ガタン!−
どこにも仕掛けらしきものはない、とミルフィーが半ば諦めながらその身をもたれさせた壁がいきなりくるっと回った。
「な、なんだ?こんなとこに仕掛けが?」
周りの壁と全く違わない精巧さでそれはできていた。慌ててミルフィーの後を追ったレオンもそれには感心する。
「あの豚の指じゃできないぞ、こんなの。」
「わからないんじゃないか?前はやせて結構器用なのかもしれないぞ?」
「はははっ!」
と笑い、再び真剣な表情にもどるとその通路を進んだ。
「おい、あれ!」
「ああ。」
その通路の先には、その豚の住処と思われる岩造りの家があった。岩壁を掘って住まいやとした、と言った方が正解かもしれないが。
そっと家の壁に身をよせて窓から中を調べる。
「ん?」
そして、思いもかけなかった光景に驚きで目を丸くするミルフィーとレオン。
「な・・どうなってんだこりゃ?」
「あっ!ミルフィー!レオン!」
レオンの声に窓から外を見たレイミアスが2人の姿を認めて叫ぶ。
「なにがどうなってこうなってんだ?」
拍子抜けした表情で2人は家の中へ入る。
中にはチキとレイミアス、そして、チキに指図されて召使いの如く小走りで動き回っている豚がいた。
「ぶきっ!」
そして、頭を掻きながら2人に照れ笑いする豚。

チキ

「こういうことなんですよ。」
そんな2人にレイミアスが説明を始めた。
「ぼくも今聞いた所なんですが・・こちらは名前をシャイローゼと言って・・」
「な・なにぃ?言うにことかいてシャイローゼだと?ずいぶんしゃれた名前だな!はははははっ!」
レオンは大声をだして笑い始める。
「豚には似合わねーって!はははははっ!」
「ぶ、ぶきぃ・・・」
「これには訳があるんです、レオンさん!」
悲しげに1粒涙をこぼした豚、シャイローゼの肩をもつようにレイミアスは、珍しくきつい口調で言った。

彼、シャイローゼは、実は豚ではなく、なんとエルフの少年だった。
そして、チキとは幼なじみ。偶然チキを見つけて、嬉しさのあまり引っ張ってきてしまったということだった。

「そこを街の人が勘違いしたということらしいんですよ。」
ちらっとシャイローゼを見て、レイミアスは小声で続けた。
「事の起こりはねぇ・・」
2人にイスを勧めると、後はチキが続けた。

シャイローゼの村は、ある時急におかしな病が流行りだした。
それは、ぼろぼろになりながらも村へたどり着いた1人のダークエルフの呪いと思われた。
そのダークエルフは、自分の恋人を捜してシャイローゼの村へ魔界からはるばるやってきた少女だった。
が、その長旅で疲れ切り、心身共にぼろぼろになってたどり着いたダークエルフに村人は冷たかった。
同じエルフとはいえ、ダークエルフとなるとまるっきり違う。彼らは妖精族としての誇りを捨て魔界へ落ちた者達。シャイローゼたちが光の属性とすれば、ダークエルフは真反対の闇の属性。忌み嫌っても受け入れるはずは、絶対になかった。
そうして、村人の冷たい視線と態度に落胆したダークエルフは、村はずれの丘で1人寂しく息を引き取る。
が、死者となっても村人は冷たかった。
一応、土中には埋めた。が、まるでぼろ雑巾を放り込むように投げ入れた。
そして、翌日から、埋葬にかかわったエルフから奇病にかかっていった。
それは、突然発病する。ダークエルフが口ずさんでいた恋歌が聞こえてくる共に。
その歌は、きっと迎えに来ると言って去っていった恋人を思う、切ない恋心の歌だった。

「ふ〜ん・・かわいそうに・・。で、その呪いの病気が豚になるってか?」
自業自得だ、と言わんばかりにレオンがシャイローゼに言った。
「だって、仕方ないのよ!エルフとダークエルフは相容れないんですもの!」
「グラスランナーはよくてもか?」
「だって・・闇と光じゃ・・」
「まー、まー、レオンもチキも。今更そんなこと言っても仕方ないでしょう。」
2人の間に割って入り、レイミアスは続ける。
「とにかく、元の姿に戻るのに、『月たんぽぽ』が必要らしいんです。」
「月たんぽぽ?」
「そうです。この塔、あるいは塔から繋がってるどこかの空間に咲くと言われてるそうです。月の力を秘めた邪を払う花だそうですよ。」
「ふ〜ん・・邪を払う花か・・」
そこまでいいかけたレオンは、急にはっとした表情で立ち上がると、ぐいっとレイミアスに顔を近づける。
「ひ、ひょっとしたら、その花でオレのグール化も?」
「そ、そうかもしれませんね!」
「おお〜!」
「やったな!」
黙って話を聞いていたミルフィーの表情も明るくなった。
「で、見当はついてるのか、その場所は?」
そのミルフィーの期待に溢れた表情に、チキは悲しげに首を振った。
「ふう・・じゃー、事態に進展はないってか・・」
目の輝きも徐々に薄れ、レオンは再び座り込む。
「ぶ・・ぶきぃ・・・・」
悲しげにうなだれるシャイローゼ。
「聖魔の塔で瀕死のエルフをダークエルフが助けて、看病している内にお互い恋に落ちてしまったらしいのよ。でも、ダークエルフを故郷へ連れていくわけにはいかない。それで、邪を払うというその月たんぽぽをなんとか手に入れて迎えに来ると言って彼女の元を去ったという事らしいの。」
チキが目を潤ませて話す。
「で、なかなか迎えに来ないエルフを探してやってきたってわけか。悲しいな。」
遠くを見るような目でミルフィーが呟いた。
「おいおい!ガラにもなくどうしたんだ?」
レオンがからかうように言う。
「悪いか?」
「悪いね。お前にゃ合わねーよ。」
「悪かったな!」
ぶすっと苦虫を潰したような表情で、ミルフィーはレオンから視線をそむけた。
「それはいいとしてだ・・・街を騒がしてる凶悪な魔物って聞いたんだが、ホントにこいつか?」
とてもそんな強そうにも見えないシャイローゼ。
「うーーん、それはやっぱり噂に尾鰭がついたってやつらしいわ。」
チキがくすっと笑って答えた。
「確かに退治しに来た人たちが帰らないというのは、本当よ。でもそれは、魔物に倒されたんじゃなく、この入り組んだ洞窟でまいたせいでしょ。で、ここにはワープポイントがあるそうなのよ。」
「ワープポイント?」
3人とも立ち上がって同時に叫ぶ。
「そう。空間の裂け目・・異次元空間との接点と言った方がいいかしら?シャイローゼがここへ来たのもそれらのうちの1つからなんですって。」
「じ、じゃー塔内部に戻れるかも?」
「それが・・その裂け目は、出現場所も時も一定じゃないようなのよ、ね、シャイ。」
「ぶきっ!」
大きくチキにうなずくシャイローゼ。
「しかもそれがどこと繋がってるのか分からないらしいし・・・・移動するというより、吸い込まれる、あるいは落ちるといった感じなんですって。」
「じゃー帰って来なかった勇者たちとやらは、裂け目に落ちたか吸い込まれたかで、どこかへ行っちまったってことだな。」
「そう。歩いてて突然落ちたりもするらしいのよ。それを避けるために走るんですって。」
「なるほど。あのスピードは常日頃の鍛錬の賜物ってわけだ。」
ミルフィーはシャイローゼの走りの早かったのを思いだし、苦笑いする。
「だけど、行かないことには、何も始まらないんでしょう?」
レイミアスが真剣な眼差しで言う。
「私が街外れに出たのは、それなの。確かかどうか知らなかったけど、空間の裂け目があるらしいって街の長老に聞いたものだから。」
「で、調べに来て豚と出会ったってわけか。」
チキとシャイローゼを交互に見るミルフィー。
「なんかおかしな進展になってきてるが・・出口が分からないんだから、まずは、月たんぽぽ探しかな?」
「どっちに繋がるか分かりませんが、今いる空間から出れるのならそうするべきでしょう。」
自分の村は心配であることは確か。が、レイミアスは目の前の困っている人を無視することもできなかった。それにどっちの目が出るかは分からない。月たんぽぽを探そうと思っていても出たところは塔、あるいは塔の外かもしれない。また、外に出ようとしても偶然月たんぽぽの咲いている空間かもしれない。
「けど・・・どっちとも関係ない空間に出てしまうかもしれないんだぞ。」
大きくため息をして、レオンが不安をこぼす。
「どの目がでるにしろ・・」
がたっと席を立ち、大きく深呼吸をするとミルフィーは自分自身に言い聞かせるように言う。
「ここにその両方の要素共ない限り、留まってる理由はないんだ。行けるところへ行ってみるべきだ。」
「まー・・・そうだな。」
「あの・・その前に・・ぼく、お腹が減ってるんですが・・」
「あ、あたしも!」
申し訳なさそうに小声で言うレイミアスにチキが元気良く付け加えた。
「お・・お前らはぁ〜・・」
呆れ顔で2人を睨み付けるミルフィーにレオン。が、そんな2人のお腹の虫も合唱した。
−ぐきゅるるる・・・・−
「ぶっ!まいったな。あははははっ!」
ミルフィーは、恥ずかしさで少し赤く染まった顔で大笑いする。
「そういや、結構走り回ったもんな。それに食べかけだったし。」
シャイローゼが食事の支度をしているところだったこともあり、ともかく、腹ごしらえをし、一晩ここで過ごしてから異空間との接点を探すことにした。
「ほら、協力してあげるんだから、じゃんじゃん持ってきてよ、ごちそう!」
チキに急かされ、シャイローゼは忙しく動き回った。

パーティーはまたしても予定してなかったおかしな仲間と目的が1つ増えていた。
明日は一体何が起こるのか・・・。



☆★ つ づ く ★☆



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