青空に乾杯♪


☆★ <<第6話>> 地下都市 ★☆


 チキが街への移動呪文を唱え終わると、ふわっと身体が持ち上がるよな感覚を覚えた後、景色は、街の広場らしきところに変わっていた。
 「ここがこの世界の街?」
「そう、この異空間で初めて造られた街で、『ラ・セピ・カーナ』つまり、憩いの泉って言う意味の名前よ。」
「ラ・セピ・カーナ、憩いの泉か。」
広場の中央にある噴水を見ながら、ミルフィーは呟いた。
水なしでは、どんな生物も生きてはいけない。この街が最初に造られたのなら、これ以上ぴったりの名前はないだろう。
「宿へ案内するわ。こっちよ。お風呂に入ってさっぱりしたいでしょ?」
レイミアスの手をとり、チキはさっさと歩き始める。
「ええ・・すみません。」
「そうそう、お前ら汗くさくてたまらんからな。」
「悪かったな!」
ふん!と少し怒ったような顔でレオンを見るとミルフィーはさっさとチキとレイミアスの後を追う。
「おいおい、そんなに怒ることか?」
その意外と思えるミルフィーの反応に、少し呆れたような顔をして、レオンは3人の後を追った。


「あ〜、久しぶりにさっぱりしたな〜。」
「そうだな、ずっと迷宮で駆け回っていたからな。」
宿1階にある食堂兼酒場のテーブルの1つに3人は食事をとるため集っていた。
「そういや、チキは?」
「チキ・・・・?さあ、どこ行ったんだろ?部屋に別れるときまではいただろ?」
3人ともチキの姿を探して部屋を見渡す。が、そこにチキの姿はない。
「まだお風呂でしょうか?」
「長風呂だな〜。」
レイミアスの言葉を受けてため息混じりにレオンが言った。
「女性ですから、当たり前でしょう。」
「まだガキだろ?」
「グラスランナーはぼくたち人間の子供くらいで身体の成長は止まるんですよ。ですから、一概に子供だとは判断できないんです。それにぼくはチキは子供じゃないと思いますよ。」
「・・にしても遅すぎるって。」
2人の会話を黙って聞いていたミルフィーがぶすっとした顔で言う。
「・・あ・・・・」
そのミルフィーの視線と合ったレイミアスは、一瞬はっとしたように、そして、真っ赤な顔で下を向く。そして、そして、ほとんど聞き取れないような声で言った。
「・・す・・すみません・・・」
その声が聞こえたのか聞こえなかったのかは分からない。が、一層気分を壊したような顔でミルフィーはそっぽを向いた。
「ん?なんだ?何がすみませんなんだ?」
4人掛けの円形のテーブル。右隣のミルフィーに聞こえれば、当然左隣のレオンの耳にも入る。わけが分からずそう聞いたレオンに、レイミアスは何でもないというように首を横に振った。
「なんだ?またミルフィーのいじめが原因か?」
「オ、オレがいつレイムを・・・」
まさかそこで謝られるとは思わなかった為、少し気が動転したミルフィーの口から出た言葉は「・・いじめたってんだ?」と、続くはずだった。が、その時丁度宿に飛び込んできた男の大声で、ミルフィーの声をかき消された。
と同時に3人の、また食堂にいた人々の注意もその声に向いた。

「たいへんだ!街はずれの原っぱでグラスランナーの女の子が、例の魔物にさらわれたぞ!」
「何?それは本当か?」
「オ、オレは小一時間前、その子がここに入ってったのを見たんだ。連れがいると思って伝えにきたんだ!」
「知らせに来てくれたのはありがたいが、あんたはさらわれかけてる女の子を見ても助けようとも思わなかったのか?」
息を切らせて宿の主人に話すその男の横にずいっと割って入ると、ミルフィーは睨んだ。
「な・・なんだよ・・あんた?」
「オレ?おれは、チキ、つまりその女の子の連れだ。」
「へ、へん!じゃー、言うが女の子1人で街外れに行かせるってのもどうかと思うんだがな?」
「つまり何か?その魔物ってやらは、その原っぱによく出現するのか?」
「しょっちゅうじゃーないが、ちょくちょくだな。1週間くらい前からだっけ?確か。」
「ぼくたちは、その魔物のことも、そしてチキがそこへ行ったことも知らなかったんですよ。」
レイミアスが申し訳なさそうに2人の間に入る。
「なんだ、あんたもお仲間かい?・・・じゃ〜、仕方ないとしてだ・・」
レイミアスからミルフィーへ視線を移すと、その男は言い切る。
「あんな化けモン相手に誰が向かって行くっていうんだ?え?もう何人もの勇者・・と言っても自称だろうが・・戦士や魔導師が奴を退治に行ってるんだ。が、退治どころか今までだれ1人として帰って来やしねーのさ。」
ふん!と鼻をならすと男は続けた。
「親切に知らせに来たってのによ〜。」
「す、すみません。事情を知らなかったものですから。どうもわざわざありがとうございました。」
にらみ合いを始めたミルフィーと男の間に立って2人を止めるレイミアス。
「ふん!」
男は再び鼻をならすとぎろっとレイミアスを睨み、外へ出ていった。
「ふ〜・・」
なんとか喧嘩になるのを防ぐことができ、ほっとするレイミアスをじろっとミルフィーは睨む。
「人の頭ごなしに礼なんか言ってくれて!」
「で、でもそうしなかったら、ミルフィーは・・」
弁解をしようとするレイミアスを無視し、ミルフィーは宿の主人の方を向く。
「で、その化けモンとやらはどんな奴なんだ?それと原っぱってのはどっちだ?」
「お、お客さん・・まさか・・行かれるとおっしゃるんでは?」
主人は蒼白な顔で言った。
「チキはほんの少し前知り合っただけだが、仲間にはちがいないんだ。助けに行くに決まってるだろ?」
「そ、それはそうでしょうが・・・・」

そして、3人は宿の主人に知っているだけの情報をもらうと、早速その魔物の住処へと向かった。
仲間ではあるし、それにミルフィーは気絶していていまいち納得がいかないという感じもあったが、レイミアスの説明とチキの自己申告によると命の恩人らしいのである。
ここで知らぬ顔をしていたのでは、人ではない。

原っぱと言っても地下。そこは湿原地帯を連想させる少し広めの空間だった。
3人は、チキをさらったというその魔物の住処を探して空洞の奥へと歩を進めた。




☆★ つ づ く ★☆



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】