青空に乾杯♪


☆★ <<第5話>> 新たなる仲間 ★☆



 「はー、はー・・ぜぃぜぃ・・・・も、もうダメ・・これ以上は走れないぞ・・。はーはー・・」
どのくらい駆け回っていただろう。日も完全に落ち、辺りは満天の星空になっていた。
「はー、はー・・ミ、ミルフィー・・よくそんな鎧をつけてこれだけ・・走れ・・ます・・ねぇ。」
「まーな。ガキの頃、疾風のフィーってあだ名つけられたのは伊達じゃないってことさ。」
「ふ〜〜ん、疾風のフィーですか・・。」
「地面の冷たさがこんなに気持ちがいいなんて思わなかったな。」
「そうですね。気持ちいいです。」
荒い息の2人は、しばらく大地に大の字になって心地よいその冷たさを満喫していた。
「・・でも、どこかに川か湖でもないでしょうか?汗でべとべとです。」
「そうだな・・。だけどあれだけ走り回っても見なかったからなー。」
「ですね・・。」
「雨でも降ってくれりゃいいけどな。」
「そうですね、その手もありましたね。でも、こんないい天気ではそれも望めそうもないですね。」
「ああ・・星降る夜ってやつかな?手を延ばせば届きそうだ。」
ミルフィーは、仰向きになったまま両手を空に向けて差し出してみる。
「月もあんなにでかくて・・・いくら満月と言えどもこんなに近く見えるなんて初めてだな。これも異次元空間だからか?」
「そうですね、ホントに大きくて立派な月ですね・・・」
「・・・・ん?」
「月?!」
自分たちが言った『月』と言う言葉にレオンのことが脳裏に浮かび、2には同時にそう叫ぶとがばっと飛び起きた。
「しかも・・満月・・・・」
今一度同時に言った2人の背後には、何かよからぬ気配が・・。
「レイム・・」
「ミルフィー・・」
そして、ごくん、と唾を飲み込み、2人は恐るおそる振り返った。
「ぐるるるる・・・!」
「うわーーっ!で、出た〜〜〜っ!!」
そこには、やはりと言おうか、2人の予想通り、グール化したレオンが立っていた。

「ミ、ミルフィーったら、なにもこんなこと望まなくても・・・」
息を切らせて走りながらレイミアスはミルフィーに叫ぶ。
「いくらなんでもこんなこと願っちゃいないよ!」
なんといっても少し前まで全力で走っていたのだ。いくら落ち着いたといっても再び走るのは、結構きつかった。
しかも、グールと化したレオンは、疲れを知らぬごとく勢いだ。
「ひ、ひょっとして、これってオレのガキん頃の願望は果たされたんで、お次のレオンのってことか?」
「か・・かも知れませんね。潜在意識下のグールの願いが出たのかも?」
「レイムの法力で、なんとかならないのか?」
「あ・・そうでした。あまりにも突然で忘れてました。浄化はできませんが、眠らせましょう。」
「お!そうだ、そうだ!オレも忘れてた。じゃー、2手に別れよう。オレが奴を引きつけておくからスリープの魔法で眠らせてくれ。」
「はい。」
「じゃーな。」
そう言うと、ミルフィーは立ち止まり、すぐそこまで迫ってきているグールを振り返る。
そして、剣を手にしようと腰に手を当て、なかったことに気づいて焦る。
「し・・しまった!剣はたき火の側に置いてきたんだった!」
「ガーっ!」
「わわっ!ち、ちょい、たんま!」
なんとかその攻撃を交わして、レイミアスと逆方向に走り始める。
「ぐるるるる!」
「は、早く〜!」
もう体力は尽きかけていた。あまり長く走れない。
ミルフィーは思わずレイミアスに叫んでいた。
(今唱えますから!)
そんな2人を見ながら、レイミアスは呪文の詠唱に入っていた。
「・・・・スリープ!」
「や・・やったか?」
息も絶え絶えに、ミルフィーはレオンを振り返る。
が、後ろには、元気一杯のグールが!
「でーーー・・レイム、何もこんなときに失敗しなくっても〜?」
「す、すみませ〜ん、慌てていて集中力が足らなかったみたいです。」
「謝る暇があったら術をかけてくれ〜〜・・・」
今にも倒れそうな姿勢でなんとか逃げ続けるミルフィー。
「え・・え〜と・・」
焦りながら呪文を唱えるレイミアス。
「・・スリープ!」
が、またしても失敗した。グールはぴんぴん、元気一杯に走っている。
「あ・・あれ?また?」
ミルフィーに怒鳴られる、と思いながらグールの前を走っているはずのミルフィーを見る。
「えええ〜〜〜っ?」
最悪だった。術は、失敗したのではなく、ミルフィーにかかっていた。
ばたっ!と倒れるミルフィー。
そして、満足そうにそんなミルフィーを爪で引き裂こうと、高く手を振りかざすグール。
「ああーーっ!ミルフィーっ!」
慌てて呪文を唱えることも忘れ、レイミアスはミルフィーを庇おうと疾走する。
「ばっよえ〜〜〜〜ん!」
目の前で今にもグールに切り裂かれようとしているミルフィーの元へ、自分の身を挺して庇おうと疾走するレイミアスの耳に聞き慣れない言葉が飛び込んだ。
「ん?」
その途端、グールから凶暴さが抜け、硬直状態となる。
「い、今だ!・・ミルフィーっ!」
いつ攻撃されるかもわからない。なぜグールの攻撃が止んだのかは分からなかったが、とにかくミルフィーの元へ駆けつけた。
「ミルフィーっ!ミルフィーっ!」
レイミアスは攻撃してくる様子はないがじっと自分たちを見つめているグールを警戒しながら、必死でミルフィーを揺する。
−とんとん!−
「ぎょっ?!」
必死のあまり、その一瞬グールのことを忘れ、ミルフィーに集中してしまっていたレイミアスは、肩を叩かれて振り返って見るなり真っ青になった。
あのグールがすぐ後ろにいたのだ。
「あ・・・」
もうだめだ!と思った次の瞬間、様子がおかしいことに気づく。
よく見ると、さきほどまでの殺気は全くなく、なんとも言えない親しみを込めた目つきで笑っている。(もし、それが笑顔と言えるのなら)
そして、オレにまかせてみろ!とでもいうようにレイミアスの肩をぽんぽぽん!と叩き、ミルフィーを覗き込む。
そして、いきなりその人差し指のするどい爪で、ちょん!とミルフィーの頬をつついた。
「痛っ!」
その途端、がばっと起きあがるミルフィー。
ぎょっとしてグールの顔を見るレイミアスとミルフィーに、得意満面のグール。
いかにも、オレだから起こせたんだぞ、と言いたげに。
「な・・な・・なんなんだ・・・どうなってるんだ?これ?」
訳がわからず、頬から血が滲み出ているのも気づかず、ただただ驚くミルフィー。
「ぼ、ぼくも訳が分からないんですが・・・」
レイミアスも唖然としている。
「くすくすくす・・」
背まで伸びた草の影から誰かの笑い声が聞こえてきた。
「だ、誰だ?」
身を強張らせて警戒するミルフィー。
「あ!その声は!」
レイミアスには聞き覚えがあった。それは、さっきの聞いたことのない呪文と同じ声だった。
「彼はね、感動してるのよ、あなたたちに。」
草をかき分け、ゆっくりと近づいてきたのは、身長1mほどの子供にみえた。
ただし、人間ではないことを物語るつんととがった長い耳。袖からでた腕には金色の体毛。そして、黄金色の短い髪と上品な輝きをみせる金色の目。
「・・あなたは、人間ではありませんね。もしかして、草原に住むという妖精、グラスランナー族の方ですか?」
敵ではないと判断したレイミアスが、ほっとして言う。
「グラスランナーだって?話には聞いたことあるけど、逢うのは初めてだ、オレ。」
−パッコーーン!−
しげしげと見るミルフィーを、そのグラスランナーは、持っていた棍棒で思いっきり殴った。
「いってぇ〜〜・・何すんだよ?」
「もうっ!レディーをあまりじろじろ見るものじゃなくってよ!」
「レディ〜?!」
叩かれ、こぶのできた頭をなでつつ思わず聞き返すミルフィーを無視し、そのグラスランナーは、レイミアスの前に立ちお辞儀をした。
「初めまして。あたしグラスランナーのチキと申します。先ほどはあたしたち草原の走者、グラスランナー族顔負けの追いかけっこをご披露くださり、ありがとうございました。もう感動しましたわ。人間の方があんなに見事な走りをみせてくださるとは思ってもみなかったものですから。それにとっても楽しそうで。」
「は・・はあ・・・」
きょとんとするレイミアス。
「そこのグールは、あたしの術にかかったの。見事な走りを見せていただいたお礼ですわ。それに、彼はもうあなたたちを襲うことはないはずです。」
「術?さっきのはやっぱり魔法なんですか?」
「ええ、そうよ。マドウ国という国にしかない魔法ですの。旅の術師から教わったんですの。」
「そ、そうなんですか・・。」
「そうなの。感動させる術で、普通はその時だけなんですけど、偶然あなたがその方を庇うのを見てそれに感動してしまったのでしょうね。でなければ、こんなに長く効果はありませんもの。」
ミルフィーの横にちょこんと座ったままじっとしているグールを見ながら、チキは微笑んだ。
「か、感動・・ですか?」
レイミアスは、感動させておいてその隙に攻撃なんてなんて卑怯な術なんだろう?とも思ったが、口には出せなかった。
「ええ。その確率はすっごく低いと聞いてますから、まさに奇蹟ですわね。」
「もしかしたら、普段とは逆に今こいつの意識下に押し込められてるレオンがそうさせたかもな。」
安全と聞かされても完全には信用できないでいるミルフィーが恐るおそるグールを見ながら呟いた。
「なんですの、その意識下とかレオンとか?」
「実は・・」
レイミアスは、レオンのグール化のこととそれまでのことをチキに話した。

「そうですの。でも、残念ながらここはミルフィーさんの精神世界ではありませんわ。でも、人間界でもありませんわね。」
「そ、そうなのか?」
てっきりそうだと思いこんでかけっこまでした自分が恥ずかしくなり、真っ赤になるミルフィー。
「もっとも、聖魔の迷宮内の異次元空間であることは間違いないわ。」
「そ、それで元の所へは出れるのでしょうか?」
「どこかに迷宮への入り口があるって聞いたことがありますから、多分そうなんでしょうけど、でもどこにあるのかはさっぱり。」
レイミアスは、悲しげに首を振るチキにがっくりと肩を落とす。
「この世界は、人間界と同じように街もあるわ。結構ここへ飛ばされて住み着いてしまった人って多いの。あたしもその1人なんですけど。」
「出口・・といおうか、元の迷宮への入り口が見つからなければ、必然的にそうなりますね。」
「そうだな。」
ため息をつき、ミルフィーに話しかけるレイミアス。
そんなレイミアスの両手を取り、チキは彼の瞳を熱く見つめて言った。
「あたしも出たいの。一緒に出口を探す旅をしません?」
「勿論、いいですよ。ね、ミルフィー?」
「ああ、勿論。多分、レオン、いや、グールもいいだろ。」
ミルフィーはちらっとグールを見て答える。
「ぅぐ。」
「ほら、返事した。」
−あははははっ!−
−おほほほほっ!−
「でも、一応レオンさんが元に戻ってから、一番近くの街へご案内することにしますね。」

 こうして仲間がまた1人増え、いや、ひょっとしたら、2人増えたと言えるかもしれないが、この空間での先輩であるグラスランナーのチキを得、元の迷宮には少し・・ほんの少しだが、・・近くなったかもしれない、とミルフィーとレイミアスは思っていた。何よりも訳が分からずにいた状況から脱することが出来、それまでよりずっと精神的に楽になっていた。

 そこは、大草原の空間。季節もなく常に暖かい日差しを送る太陽とコバルトブルーの空、のんびりと流れる雲。
彷徨い人は、水を求めて地下へ潜り、その結果地下に街ができていった。
しかもその街へは特定の場所からしか行けなかった。それは、戦士が力にものを言わせ掘り進んで街を造ったのはなく、術者によるものだったという証拠だった。

最初チキが案内した街への道は、なんでもないような草むらから。
地上から見たのではわからないが、それは、五亡星を表す5つの草むらの中心にある6つめの草むらから入る。
その草むらの中心に立ち、チキは呪文を唱えた。
その街の創始者はグラスランナーとエルフ。ミルフィーたちには全く分からない妖精の言葉が静かに流れた。



☆★ つ づ く ★☆



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