青空に乾杯♪


☆★ <<第4話>> ひょっとして? ★☆



 「それで神学校は出てても見習い僧のカッコなのか。」
「はい・・赴任地で新しい僧衣をいただくことになってますので。」
「災難の一言で片づけるには、きつすぎるな。」
「・・・」

3人は、あてどもなく歩いた草原で、疲れを癒すため大木の下で火を囲み休憩していた。
日も西に沈みかけ、どうやらここで野宿となりそうだった。
どこまでも続く草原。歩いても歩いても旅人はおろか、小動物さえいない。

「なー、オレ思ったんだが・・。」
レオンが持っていた干し肉を火であぶりながら呟く。
「何を?」
「つまりだな。オレたちは世界のどこかに飛ばされたんじゃーなく、どこか異次元空間にじゃないかと。」
はっとした顔つきでレオンを見るミルフィーとレイミアス。
「それって、つまり、ここは迷宮の一角かもしれないということか?」
「そう!そうですよ!きっと!迷宮の中はいくつかの異次元空間があるって聞いたことがあります。だから、聖魔の迷宮の広さは限りがないって。」
目を輝かせてレイミアスが立ち上がる。
「だけど、どっちにしろ同じことさ。元の空間への出口っていうか、出方は分からないんだからな。」
そんなレイミアスをちらっと見、レオンは半ば諦めた表情でつぶやく。
「あ・・・・」
それは短絡的に喜んだレイミアスを一気に沈ませた。
そして、静かに腰を下ろすとため息をつく。
「そういえば・・・」
ごろんと仰向けになったミルフィーが青空を見上げ呟く。
「ガキの頃、こんな広い草原を走り回るのが夢だったっけ・・。どこまでも続く真っ青な空の下を・・。」
「なんだそりゃ?空ってのは何処までも続いてるのに決まってんだろ?」
バカにしたような顔で自分を見るレオンにふっと笑いかけ、ミルフィーは話を続ける。
「オレの村は、山間の深い谷にあってな・・。どこから見上げても空はちっこいんだ。山々や木々に囲まれてて。そんな所でオレたちガキは、坂道と木々の間を縫うようにしてかけっこしてたんだ。一番見晴らしの良い峠に出たって空は周りの高い山に囲まれ小さなもんだった。だから、一度でいい、旅人から聞いた広い草原ってとこを走り回ってみたいと思ったもんさ。太陽の光を全身に浴びて青空の下を。」
「ふ〜〜ん・・・」
レオンは気のない返事をしながら肉をほおばる。
「あ・・も、もしかして?」
レイミアスがはっとした顔でミルフィーを見る。
「なんだ?」
「あ・・あの・・もしかしたら、なんですけど。怒りません?」
「なんだ?オレの気に障るようなことなのか?・・そうそう怒ってばかりいないってオレも。」
「そうですか?でも・・」
「いいから言ってみろ!」
もじもじしてなかなか言い出さないレイミアスに、しびれをきらしてつい強い口調で言うミルフィー。
「くっくっく・・そんなんだからレイムが言い出せないんだって。」
レオンがそんな2人を見て笑う。
「そ、そうか?どうもいかんな、強く言ってるつもりじゃないんだが。」
レオンに指摘され、頭をぼりぼり掻いてミルフィーは苦笑いする。
「悪い、レイム。怒らないから話してみてくれ。」
「は・・はい。実は・・さっきの話を聞いていて、ふと思ったんです。ここってひょっとしたらミルフィーの精神世界じゃないか?って。」
「オ、オレの精神世界?」
「そうです。あの光が射したその一瞬に迷宮がそれを読みとり、ぼくたちを飛ばした。だからこそ聖魔の迷宮は訪れる人によっていろいろな空間を体験するのではないかって。」
「そういえば、様々な異次元空間があるって聞いたな。人に聞いて、そこに行きたいと思っても行き着かないとも。」
一瞬ぎょっとしたものの、そういえば思い当たることがあり、ミルフィーは考え込む。
「ガキの頃、思い描いてた場所だといえば、そうとも思えるし。違うと言えば違うとも思える。」
「で、脱出方法は?」
いかにも期待はしてないという表情でレイミアスに言うレオン。
「あ・・わ、わかりません。」
「や〜れやれ・・じゃー、結局いっしょじゃねーか。」
レオンは大げさに肩をすくめてみせる。
「す、すみません。」
「別にお前が謝る必要は、ないよ。」
「いや、いっしょじゃないかもしれん。」
「なに?」
ミルフィーのその言葉に目を見張る2人。
「何か分かったのか?」
身を乗り出し、ミルフィーの次の言葉を待つレオンとレイミアス。
「うん・・まー、自信はないんだが。」
少し赤い顔をして、ぽりぽりと頭をかき、ミルフィーは言おうかやめようか一瞬迷う。
「だが、なんだ?」
「笑わないか?」
「笑わないって。早く言えよ。」
じれったくなったレオンは、きつい口調でミルフィーに言う。
「んー・・つまりだ・・こういうことさ。ここがもし本当にオレの精神世界としたら、つまりこれって、オレのガキの頃の欲求というわけだろ。」
「は、はい。もしかしたらですが、そして、それが大人となった今でも意識下にあると思われるんです。」
いきなりミルフィーの視線と合い、びくっとしながら答えるレイミアス。
「どこかで聞いたか、何かの本で読んだことがあるんだ。そういうものへの対抗手段ってのは、満足感だってな。」
「満足感か・・・なかなかいい線いってるかもな?」
「ぼくもそう思います。欲求が満たされれば、ひょっとして・・?」
明るい表情が2人の顔に現れた。
「でー・・・その欲求てのが、こういったところで思いっきりかけっこってことだから・・・・」
2人にいっしょに走ろうと目配せするミルフィー。
「ええー?オ、オレも走るのか?・・おいおい、魔術の研究に没頭し続けていたか弱い魔導師に過激な運動させるなよ?お前のペースについていけると思うか?」
見るからに体力的に差があると焦るレオン。
「ぼく、かけっこなら得意です。よく神学校の広い中庭を友達とかけっこして怒られたもんです。」
「レイムがか?」
「はい。僧侶って結構体力を必要とするんです。教会にいればいいってもんじゃないですから。」
「ああ、そうか。田舎じゃ遠く離れた家の急病人とか遭難者の救助とかあるもんな。そういえば、オレの村の司祭様も結構マッスル系だった。普段は頼んでもしてくれないくせに、災害があったときなんか、邪魔になった大木など手刀で破壊しちまうもんな。険しい山道もひょいひょいってな感じで進んで行くしな。」
納得するように首を振るミルフィー。
「そうですよ。」
レイミアスはにこにこと笑顔でミルフィーを見つめる。
「よ〜〜し、一丁やるか?」
「はい!じゃー、鬼ごっこにしましょう!ぼく、鬼になりますから、ミルフィーは逃げて下さい。」
「お?いいのか、そんなこと言って。」
「大丈夫です。」
「じゃー、修業にもなるから、オレは鎧をつけたまま走るよ。」
「おいおい・・お前ら・・置かれた状況がわかってんのか?」
苦笑いして子供のように走り始めた2人を見るレオン。
「そう言えば・・2人ともまだガキの歳だったか?」
長く伸びた前髪で顔ははっきりとは見えないが、戦士として鍛えられた身体つきではあるが、少し線が細いように感じられるミルフィーは、どうみてもレイミアスより少し上くらいの歳だろうと思えた。


他に手段も思いつかず、何でも試してみるしかないことは分かっていたが、その光景は苦笑するのに十分値していた。
ガチャガチャと鎧のこすれる音をさせて汗まみれになって走る戦士に、やはり汗まみれでそれを追う少年僧。
これはこれで面白いのかもな?と思いながら、レオンは大木にその身をもたれさせ、暗闇が濃くなってきつつある夕日の下を走り回る2人の姿を笑顔で追っていた。


☆★ つ づ く ★☆



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