青空に乾杯♪


☆★ <<第3話>> この道は何処へ? ★☆



 「おい・・2人ともいいかげんにしろよ!」
魔物との戦闘の最中、ミルフィーの怒ったような声が迷宮の薄暗い通路に響く。
「で・・でも、ぼ、ぼく・・・」
ミルフィーの背後、影に隠れるように小さくなっているレイミアスが、蚊の泣くような声で言う。
「ったく・・・後ろで回復魔法かけてりゃいいってもんじゃないだろ?」
−キン!ガキン!−
わらわらと襲ってくるスケルトンと剣を交えながら再びミルフィーが叫ぶ。
「ふぁいあーーーーっ!」
「おおーっと・・・・」
レオンの放った火球がミルフィーをかすめ飛んでスケルトンに当たる。
「援護のつもりなんだよな、これで・・・。」
その火球に包まれ、黒こげとなり塵と化しつつある自分がつい今し方まで剣を交えていたスケルトンを横目で見ながらミルフィーは呟く。
その戦う相手は、早くも別のスケルトン兵士となっている。
「避けなかったら、オレが黒こげだったぞ・・・。」
ちらっと後方に控えているレオンを見る。
「もっとオレから離れてる敵に投げろ、この、ノーコン魔導師!」
いへへへ・・・と照れ笑いするレオン。
「・・たく・・・オレはお前達の盾じゃないんだぞ!」
ミルフィーはまったくもって面白くなかった。
戦闘は戦士の宿命であり、先頭にたって進むことも別にどうということはなかった。が、それはいいとしても、実際、ミルフィー1人で戦ってるようなものだった。
レオンもレイミアスも、ミルフィーの後方の安全地帯に逃れていた。
レオンはそこからの魔法での援護、そして、レイミアスは震えながらひたすらミルフィーに回復魔法をかけていた。


「ふ〜〜〜・・・ようやく片づいた・・・。」
どさっと腰を下ろすミルフィー。
「お疲れさまです。」
そんなミルフィーにレイミアスはそっと水筒を差し出す。
「・・・お疲れさまじゃないだろ?・・・ったく!」
その水筒をひったくるようにしてレイミアスの手から取り、いかにも不機嫌そうに一気にカラカラになったその喉に水を流し込む。
「す、すみません・・・ぼ、ぼく、恐くて・・・」
レイミアスは、そんな、ミルフィーに消え入りそうな声で謝る。
「・・ノーコン魔導師なんて聞いたこともないし・・。」
「す、すまん・・・。」
レオンも頭を掻きながら照れ笑いする。
「しかも魔法自体は結構強力だ、ときたもんだ・・・。ったく・・・とんだパーティー組んじまったな。」


 そして、なんだかんだと言いながらもなんとかレイミアスの目的である水晶の天使のある祠までたどり着く。
「や・・やっと着いたんですね・・ぼ、ぼく・・・」
レイミアスはその祠を見つけると同時に喜んで駆け寄る。
「あ!おい、待てって!」
レオンが制止しようと慌てて手を延ばす。が、レイミアスの行動の方が一瞬早く、レオンの手は空を掴む。
「わ・・わあ!!」
レイミアスが祠の扉を開けるその直前、ひとりでに開いた扉の中から、眩い光が飛び出し、その光はレイミアスだけでなくミルフィーたちをも包み込む。
「わあーーーー!」
そのあまりにもの眩しさに、その光を遮ようと手をかざす3人。
と、次の瞬間3人の姿はそこから消えていた。

「ん?・・こ、ここはどこだ?」
眩しさが止み、周りを見て、3人は驚く。
周囲は、360度地平線まで続く草原と雲一つない真っ青な空、やさしく照らす太陽。
「と、飛ばされたのか?」
ミルフィーが目の前の景色が信じられないという顔つきで小声で言う。
「どうやらそうらしいな。」
やはり周りを見渡しながら、レオンが同意する。
「じ、じゃー・・水晶の天使は・・魔を払う法力は?」
真っ青になったレイミアスが2人を見て叫ぶ。
「せ・・せっかく目の前まで行ったのに・・」
絶望感からがくっと膝をつく。
「ぼ・・ぼくは・・慌ててなんてことを・・・」
罠があるのが定石、それを確認もせず、しかもレオンの止める声も耳に入っていたのに、つい1人先走ってしまったことを頭をかかえてレイミアスは悔やむ。

「また行けばいいじゃないか、レイミアス。」
しばらく声をかけるのをひかえていたミルフィーがレイミアスの肩に手をかけ、落ち着かせるように言う。
「ミルフィー・・・」
「すんでしまったことを悔やんでもどうしようもないさ。それより、先に進もう!もう一度迷宮へ行こう!」
「は・・はい!」
ミルフィーの笑顔に元気づけられ、レイミアスはすっと立ち上がる。
「だけど、どっちへ行けばいいのかわかるのか?」
勢いづいた2人の出鼻を挫くようにレオンがぽつんと言った。
「・・・・」
そういえば、目の前の景色には見覚えがない。方向が、いや、ここがどこなのかさえも分からない事実に気づく。
「ど・・どうしましょう・・こんなことをしてる間にもぼくの村は・・・」
再び絶望感に沈みレイミアスは、今にも泣き出しそうな顔つきでミルフィーを見る。
「ぼくの村って?」

そして、レイミアスはなぜ水晶の天使を手に入れる為に迷宮へ行ったのかミルフィーたちに話し始めた。
彼は、この春神学校を卒業し、故郷の教会へ赴任するはずだった。
が、喜び勇んで帰るはずだった村は、ちょうど彼が着く1週間前、アンデッド、ワイトの集団の襲撃を受けていた。
そして、その旅の途中、彼の夢枕に村の教会の司祭が立ち、ほとんどの村人がワイト化してしまった事と、水晶の天使のことを告げる。
普通の浄化では、ワイト化した村人は消滅してしまう。が、聖魔の迷宮ならそうでない浄化魔法も得ることができるはずだ、と。


「司祭様は、被害が他の村に及ばないように、ご自分の全生命力をかけて村の周りに結界を張り、そして、ぼくのところにみえたんです。」
うなだれて話すレイミアス。
「どうしてもいるんです、水晶の天使が!それも1秒でも早く!」
「気持ちは分かるが・・・」
どうしようもない・・・。ミルフィーもレオンも言葉が見つからなかった。
「とにかく・・村か街、あるいは、誰か旅人にでも出会えれば、ここがどこか分かるんだが・・。」
空を見上げ、ミルフィーは自分自身に言い聞かせるように、独り言のように呟いた。
(焦っても始まらない・・。)
心の底からとは決して言えないが、勇気づけるようにレイミアスに笑みを投げかけると、ともかく歩き始める。

真っ青な空の下、どこまでも続いているかのような草原を3人はひたすら歩いていた。



☆★ つ づ く ★☆



【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】