[パラレル番外編5]

☆★ 銀騎士参上(7) ★☆
-- 帰省 --


 

 「金騎士様と銀騎士様が?」
「そうだってよ?」
「うそだろ〜?ほ、本当にこんな田舎にいらしてるのか?」

「え?」
闇龍との戦いの報告しようと黄金龍の元へ向かっていたミルフィーとカルロスは、田舎の街道ですれ違った男の話に驚いて振り返る。

「間違いないって。ご領主様がそうおっしゃってらしたんだし、それに、ほら、オレ達じゃ見えないけど、金龍が眠っていると言われる世界の中心・・聖地だったっけ?その入口ってこの地方のどこかにあるって言い伝えあったよな?」
「そ、そっか・・・それでこんな田舎に。」
「ああ、すごいよな?龍騎士様なんて滅多に姿を現されないのに、この目で見られるんだぜ?しかも創世龍の騎士様だってんだからな?」
「そうだよな。こんなこと一生に一回あるかないかだよな?」
「一生どころか百年・・い、いや、何百年に一回の奇蹟かもしれないじゃないか?」
「あ、ああ・・そうだよな?」
「ご領主様のお屋敷にいらしてるのかな?」
「みたいだぜ?門の前は一目お姿を見ようと、もう黒山の人だかりらしい。」
「オ、オレも行ってみてこようっと。」
「おい、仕事は?」
「それどころじゃないだろ?一生の自慢になるぜ?」
「そそうだな・・じゃ、おれもちょっと・・・・」
興奮して大声で話す2人の会話は丸聞こえ。
当然、ミルフィーとカルロスは不思議そうな顔をしてお互いを見つめる。
「どういうこと?私たち以外にもいるの?」
「まさか。」
「じゃ、人違いかあるいは・・?」
あるいは偽物。闇龍が倒された今、世界中で話題になっている龍騎士、そして金銀の騎士。その恩恵にあずかろうと名をかたり甘い汁を吸おうという魂胆?
そう思ったミルフィーとカルロスは、ともかくその辺り一帯を治めている領主の屋敷へと向かった。

−わいわい、がやがや・・・−
「おい、押すなよ!」
「んなこと言ったって・・・」
門をそして塀をぐるっと囲むようにして、人々はそこに黒山となっていた。
あるものは塀にまでよじ登り、そして、あるものは肩車や馬車などを持ってきてその上に乗ったりしている。

「すごいわね。」
「ああ・・・・・」
その群衆の中をカルロスとミルフィーはゆっくりと歩く。
−ツンツン!−
「ん?」
服の端を袖を引っ張られ、カルロスが横を見下ろすと12、3才くらいと思われる少年がにこにこと立っていた。
「なーに、坊や?」
少年の前に腰を下ろしてミルフィーが笑顔で聞く。
「旅人さん、特等席があるよ?」
「特等席?」
「うん!」
にっこりと笑っておいでおいでをする少年の後を、2人は苦笑いしながらついていった。

少年は2人をぐるっとその周りをロープで張った荷馬車へと案内した。固定してある荷馬車の上には台が積んである。
「塀の向こうはお屋敷の庭なんだよ。時々騎士様のお姿もみられるんだ。」
「そうなの?」
得意そうに少年は、汚れた手で鼻の下をこすり、もう片方の手をミルフィーに差し出す。
「200G!」
「おいおい、少し足下を見過ぎじゃないか?」
「いいんだよ。旅人さんたちがいやだってんなら、他の人を捜してくるから。」
悪びれもせず言い返す少年にカルロスは笑いながら銀貨をだす。その荷馬車の後ろに少年の弟や妹だと思われる小さな子どもたちが数人いたためである。

「わあっ!」
「こんなところで見ていても、いつ姿を現すのかわからないんじゃ、仕方ないんじゃない?」とミルフィーが呟くと同時くらいに人々の歓声があがった。
少年が言ったとおり、塀に仕切られた庭の奥にある屋敷の3階のバルコニーに剣士姿の男女が見えた。
「あれが・・そう?」
確かに男は銀色に輝く甲冑を、そして女は黄金色に輝く甲冑を身につけていた。
「らしいが・・お前の方が美人だ。」
「そういう問題じゃないでしょ?」
一方、本物であるミルフィーとカルロスの甲冑はというと・・・普段はどちらかというとみすぼらしくみえる・・とまでいかなくとも、ごく普通にその辺りで売っているようなものにしか見えない。カルロスはその精神を高めることにより、そして、ミルフィーは陽の光を鎧へ吸収することにより、本来の輝きが出るのだが、そんなことは誰も知らないし、知る由もない。


−ズズズ・・・−
「え?」
そんなとき、突如として黒雲が周囲一帯を覆い始めた。
「ほう・・・・」
その黒雲を見上げ、カルロスはにやっと笑う。
「まだ完全に消滅というわけでもなかったらしいな。」
「そうね。でもあの程度じゃ、お返しに来たというより、おまけが残ってたっていう感じね?」
「そんなところだろうな。」
余裕で話す2人と異なり、黒山のようにいた人々は異様な黒雲に慌て始める。

「待てっ!皆の衆・・慌てるんじゃないっ!女子供が怪我をするぞ!」
長老格の老人が声をあげる。闇雲に走り始めてはけが人も出る。
「恐れる必要はない!金騎士様と銀騎士様がいらっしゃるんだ!」
「おおー!そ、そうだった!」
その声で人々はほっとして屋敷を見つめる。
当然屋敷内でも突如広がった黒雲に不安と恐怖を感じ、領主もそして使用人や領主に使えている騎士たちも、彼らがそうだと思いこんでいる金騎士と銀騎士の元へと駆け寄る。

「どうするつもりかしら?」
「ああ、そうだな・・・しかし・・・・この気は・・なかなかのものだぞ?」
「そうよね?その辺の魔物くらいならほかっておくけど・・・。」
果たして屋敷内にいる金騎士と銀騎士は、十分対抗できるだけの腕があるのか?と心配になる。
闇龍の残像・・・消滅しえなかった精神体というべきだろうか、黒雲から感じるその気は、戦った闇龍本体ほどではないにしろ、かなりの威圧感を持っていた。


−ぐぎゃあああああ!!!!−
不意に一箇所に集まりはじめた黒雲は、闇龍の形を形成すると辺りに響く咆吼を放つ。どす黒い憎悪と悪意を周囲に放ち、闇龍はぐいっと屋敷の方角を睨む。
「まずいな・・・。」
「大丈夫だよ、旅人さん。心配いらないよ。」
少年がにこっと笑う。
「龍騎士様がいらっしゃるんだから。あんなのちょいちょいっとやっつけちゃうって。」
「そ、そうか?」
ふ〜っと少年はカルロスを少しバカにしたように見つめる。
「旅人さんだって一応剣士なんだろ?」
鎧を見、そして腰にある剣を指さす。
「あ、ああ・・・そうだが。」
「そんな気弱なことでどうすんのさ?」
少年の言葉に、くすくすと小さく笑いをこぼしたミルフィーをカルロスは苦笑いで見る。
「笑うことないだろ?」
「だって・・・カルロスのどこが気弱なのかって思ったら・・・・ぷくくっ・・。」
「・・・ミルフィー・・・」


−グガ〜〜〜〜〜!!−
「おいでなすったぞ?」
「わーーーー・・・・」
闇龍の一際大きい咆吼と、その憎悪が自分のいる方向へ向けられているのが分かり、少年は思わず馬車の下へ逃げ込む。
「おいおい、坊主、さっきまでの勢いはどうしたんだ?」
「だ、だって・・・・」
「『だって』か・・そうだな・・・平気の方がおかしいか・・・。」
「な、なんだよ?旅人さんだってさっき・・・・」
馬車の下へ身をかくしたまま、少年がカルロスに反論しようとしたとき、大きく開いた龍の口からどす暗黒の光・・いや、光とはいえないが、それに匹敵するような魔の瘴気が飛び出た。
「カルロス!」
「わかってる!今はオレに任せておけ!」
明らかに闇龍は2人にその狙いを定めていた。何も知らない人間は姿形で判断するが、さすがというか闇龍はそうではなかったらしい。
憎悪を放った鋭い瞳は、ミルフィーとカルロスに向けられていた。

−ゴアッ−
「わーっ!」
屋敷の中から頼りの龍騎士の出てくる気配はまったくない。しかも逃げる間などあろうはずがない。
人々は恐ろしさで力無くその場に座り込む。

−シューッ・・・・・−
「え?」
魔の瘴気はまっすぐミルフィーとカルロスに向かってきていた。が、人々はまさか2人に向かっているとは思ってはいない。
ただ我が身に降りかかってきた不幸に恐怖していたのだが、その瘴気にのみこまれる、そう思った次の瞬間・・それが遮られたことを知る。
思わず龍騎士が屋敷から駆けつけ助けてくれたのか?と瘴気が向かってきた方向を見た人々の目に写ったのは、銀の剣を高くかざし、それで闇の瘴気を2方向に切り裂いているカルロスの姿だった。
切り裂かれた瘴気は少し先で自然消滅していく。

「た、旅人・・さん・・・・?」
恐る恐る馬車の下から出、少年もカルロスを見上げて驚く。どうみても本物の銀騎士だった。
「よー、坊主。少しはオレの株が上がったかな?」
「あ・・・・・・」
目の前の出来事が信じられず、少年は、そして、周囲にいた人々は驚いて馬車の上のカルロスを見上げていた。

「お?終わったのか?なんだ・・意外と早く瘴気が切れたんだな?」
ふっととぎれた瘴気にカルロスは笑いながらミルフィーを見る。
「大したことはなさそうだが・・・一応闇龍だ。普通の剣では無理だろうな。」
「そうね、たとえおまけでも、一応あの闇龍の片鱗だから。」
ふっとミルフィーは笑うと精神を統一し始める。

−キーーーーン!−
「え?」
「あ・・・・あ、あ・・・・・」
人々の目の前、ぐっとカルロスが闇龍を睨み、その動きを警戒する中、太陽がゆっくりとその焦点を1カ所にミルフィーの元に集中していく。周囲は陰りはじめ、薄闇へと変わるにつれ、ミルフィーの甲冑と剣が光り輝いていく。
そして、ミルフィーの甲冑に呼応するように、カルロスの甲冑もまた輝き始めた。銀色の光を放って。

「た・・・旅人・・さん・・・たちが・・・ほ、本物・・・」
少年の瞳はこれ以上大きく開かないというほど見開かれていた。
そして、人々が呆然と見守る中、ミルフィーの風術に乗り、2人は闇龍に向かっていく。


−ぐぎゃおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・−
そして、数分後、闇龍を倒し、すたっと地面に下りた2人の前に領主が恭しく進み出る。
「こ、この度は・・まことにもって・・・・」
領主の後ろには、バルコニーに姿をみせた男女が縛られていた。
「・・オ、オレたちは嘘をついたんじゃない・・・こ、こいつらが勝手に思いこんじまっただけなんだ・・・。そ、そりゃー、面白がって銀と金の鎧は着てみたけど、こ、恐くなって売ろうとしてたとこだったんだ・・そしたら、そこの店屋の親父が勝手に・・・・」
震えながら消えそうな声で地面に頭をつけたまま男は許しを請う。
「嘘をついたのでなければ、いいだろ?」
「は?・・し、しかし・・かりにも龍騎士様のお名を語った・・」
「語ってはいないと言ってるんだ。」
カルロスの言葉に、領主は慌てて彼らの縄を解き、2人はその場にひれ伏す。
「で、では・・改めて我が屋敷へご滞在くださいますか?」
恐る恐る申し出た領主にカルロスは笑う。
「いや、どうやらそんな余裕はなさそうだ。」
「は?・・・と申されますと?」
カルロスは領主の言葉を無視し、空を見上げていた横のミルフィーに視線を移す。
「金龍のお呼びか?」
「そうらしいわ。」
戦闘が終わってもミルフィーの鎧は陽の光をそのまま放ち続け、ミルフィーは空をじっと見上げている。それを見てカルロスはそう判断していた。
「そうか。」
領主の方を今一度向き、カルロスは彼に言う。
「悪いな、そういうわけだ。」
「で、ですが・・・・」
ならば、金龍と会ってから屋敷へと言おうとした領主の目の前で、ミルフィーの鎧はますます輝きを増していた。

−ばあああああ・・・・・−
手をかざしていても我慢しきないほどの輝きに、人々が目を閉じた次の瞬間、ミルフィーとカルロスの姿はそこから消えていた。
「龍騎士様・・・・・・」
2人の消えたその空間を、人々はしばらくの間じっと見つめ続けていた。


「ただいまっ!おばーさんっ!」
「おおーー!嬢ちゃんじゃないか!元気だったようぢゃの〜?」
「うん!元気よ!おばーさんもね!」
「うん!うん!」
金龍に会ったあと、ミルフィーとカルロスは、自分たちの世界へ(正確にはミルフィーの世界)帰ってきた。そして、やはり一番に顔を出すところといえば、老婆の家なのである。
「なんだ・・・お前さんも一緒ぢゃったのか?」
玄関先で抱き合って無事な再会を喜んだ老婆は、そのミルフィーのすぐ後ろにカルロスの姿を見つけ、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「おいおい、おばば、それはないだろぉ?」
「ふん・・・結局見つけたのか・・・というより・・・・」
ちらっとミルフィーを見て老婆はにたっと笑う。
「曾孫はいつ抱かせてもらえるんぢゃ?」
「ひ、曾孫って・・・お、おばーさん・・・・」
ぼっとミルフィーの顔が一気に赤くそまる。
「おばばも歳だからな。早いほうがいいか?ご要望ならその気でもっと励むことにしようか?」
「カ、カルロスっ!」
−パコン!−
「痛っ!」
ミルフィーはますます真っ赤になってにやけながら言ったカルロスを睨み、そして、老婆の杖がカルロスの頭に命中していた。
「歳は余分ぢゃ、歳は!!ばばはまだまだ若いんぢゃ!」
「・・・憎まれっ子世にはばかるってやつか?」
「なんか言ったかの?」
小声で横を向いて言ったカルロスだが、老婆が聞き逃すわけはない。
「い、いや・・・・いつまでも元気でいいな、と言ったのさ。」
老婆の睨みにカルロスはごまかし笑いを作る。
「まー、なんにしろ無事でよかった。」
カルロスのことは横におき、老婆はにこっとミルフィーに笑いかけて付け加えた。
「お入り。ちょうどよかった。おいしいお茶を手に入れたんぢゃ。」

その嬉しそうな老婆の顔を見て、ミルフィーはようやく帰ってきたのだと実感していた。

−パタン−
丘の上の老婆の家。どこまでも広がる真っ青な空の下、老婆の家の中からいつまでも明るい笑い声が聞こえていた。


 
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*この話は、『金の涙銀の雫』本編とも関係なく、パラレル金銀ワールドでのお話です・・たぶん(笑*


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青空#149