☆★ その124 一世と二世・W講演? ★☆
-- おかしなおかしな光景? --


 

 「カルロス、娘が二人増えてよ?」
「なんだ、それ?」
レイミアスの書状に目を通したあと、ミルフィーは微笑みながらカルロスに差し出す。
「な・・そんなバカな!・・オレには隠し子などいないぞ?」
「え?」
「は・・?ち、違うのか?」
意外な反応に、ミルフィーは驚いてまだ書状を受け取っていないカルロスを見つめる。
「カルロス・・・・身に覚えあるの?」
たら〜〜〜〜・・・・・・カルロスの全身を冷や汗が流れた。
「い、いや・・・それは・・だな・・・・・」
ミルフィーのきつくなった視線にどきっとしたが、ここは開き直ることにした。
「お前だって知ってるだろ?お前と出会う前のオレのことくらい。」
「あっ・・・・・。」
そういう具合に開き直ったのね、とミルフィーはくすっと笑う。
「そうね。お盛んでしたものね。」
「ミ、ミルフィー・・・・・」
「いいから、読んでみて。」
くすくすと笑いをこぼしながら、ミルフィーは今一度書状を差し出す。
「あ、ああ・・・・・」
どうやらその事ではなかったらしい、と一応安堵しながら、カルロスは書状に目を通す。
「・・・・これってあの山間の村の兄妹のことか?」
「そうらしいわね。」
二人は複雑は思いで見つめ合っていた。
「彼は彼で苦しんでいたみたいね。」
「ああ・・・・・。今更言っても後悔しても仕方ない事だが・・・」
「そうね。でも・・・少なくとも私は彼の苦しみと比べたら・・・幸せね。・・確かにいろいろあったけど。」
「そうだな・・・・。」
「で、あなたは別にいいわよね?」
「何がだ?」
「だから、その子たちもここで一緒に暮らす事。」
「ああ、それはもちろん構わないさ。」


「お母様、お父様、ただいまっ!ごめんなさい、心配かけて。」
「ただいま戻りました。あの・・すみません、今度のことはぼくが・・・」
「ああ、無事ならそれでいい。が、今度からはきちんと断ってからにするんだな。」
「え?あ、あの・・・行ってもいいんですか?」
「そうだな・・・無茶はしないと約束するのなら別に行ってもかまわんぞ。ただし、母様を心配させないように行き先と、長くなるような時は、時々連絡を寄こす事。それさえ守ってくれればいい。」
「は、はい。」
「オレたちの子供に冒険は止せとは、言えないだろ?」
フィーにそう言いながら、カルロスはレイミアスと苦笑いを交わしていた。

「あなたが・・・ミル?」
レイミアスの後ろに隠れるようにして立っていた少女を見つけ、ミルフィーがやさしく声をかける。
「あ、はい・・・オ、オレ・・・い、いや・・・え、え〜と・・・私、ミルと言います。父が・・あの・・・謝っても謝りきれないことを・・・・」
緊張しているミルの傍にすっと寄ると、ミルフィーはそっと抱きしめた。
「いいのよ。それよりも私の方こそ、あなたやお父様を苦しませてしまって。」
「あ・・・い、いえ・・そんな・・・・そんな・・・・・・」
ミルフィーの優しさに触れ、ミルは両親が死んでからずっと我慢していた涙の堰がきれる。
「オ、オレ・・・・オレ、父さんの代わりに詫びようと・・・許してくれるようにって・・・・」
「ええ、ええ、・・分かってるわ。あなたやお父さんの気持ちはよ〜く分かってるわ。だから、もう気にしないで・・いいわね?」
「うん・・・う・・ん・・・・」
わーっとミルはミルフィーの胸の中で泣き始めていた。
「お姉ちゃん・・・」
「ハンナ・・」
近づいてきた妹のハンナと共に、ミルフィーはしっかりと抱きしめる。
2人は遠い昔の母親の温かいさを思い出しながら、ミルフィーに抱かれていた。


「で、ハンナももうすっかりいいの?」
「そうですね、あまり急激では無理があるかもしれませんが、普通に暮らすくらいでしたらなんともないですし、少しずつ外で遊ぶようにしていけばすぐ他の子供と同じように飛び回れるようになりますよ。」
「そう・・よかった。」


庭に続くバルコニーのある広々としたサンルーム。
カルロスとミルフィーは、会うとすぐ仲良くなったハンナとイシルそしてルードをやさしく見つめていた。

「ハンナはお母さん似みたいだけど、でも、ミルは本当にそっくりね。まるで昔の私を見ているみたいだわ。」
「そうだな。・・・言葉遣いまで一緒だしな。」
「そうね・・・。」
他人から見ると自分もあんな風だったのか、とミルフィーは思わず顔を赤くしてカルロスと笑っていた。


そして・・・・もう一つそれに加えて昔とそっくりな光景が見られるようになった。
それは・・・・


「ミル、君、冒険好きなんだろ?」
ルードにすすめられてハンナがすっかり夢中になった絵本を二人の横で読みあげていたミルの横に、すっとフィーが座って声をかける。
「そうだな・・・好きといえば好き・・かな?」
「じゃー、今度ぼくと一緒に行かない?」
「一緒に?・・・なんで?」
「なんでって・・・そんなの決まってるだろ?」
「何が?」
「君の傍にいたいから・・・ぼくは君を守る騎・・・」
−ガタン!−
フィーが全部そのセリフを言わないうちに、ミルは勢い良く立ち上がる。
「そう言う言葉はその辺のお嬢様に言ってやりな。あんたに言われりゃ喜ぶぜ?」
「ミル・・・?」
「言っておくが、オレはあんたの手助けなんていらないからな。ハンナはここで見てもらうが・・・それは確かに世話になるが・・だけど、オレは、違う。こうみえても一端の冒険家としてやってこれてたんだ。それに、冒険は自由気ままが一番!それがオレのポリシーだ。あんたとつるむ気はない。」
「つるむって・・ミル・・ぼくがどれほど君の事を・・・」
「だから〜〜・・・」
頭をぼりぼりとかくとミルは、フィーを睨み付ける。
「それがうざいんだって!まだ若いんだぞ?なんであんたに決める必要があるんだ?」
「それは・・・君がぼくの運命の恋・・・。」
シュッと剣がフィーの目の前に突きつけられる。
「それ以上甘ったるい言葉を言ってみな・・・その喉元かっきってやるぜ?」
「ミル・・・」
「オレはなー・・・おしゃべりな男は大っ嫌いなんだよっ!」
「じゃ、言葉を控えるから・・・傍にいていいだろ?」
「う・・・・」
そう言われると文句が言えなかった。ミルは仕方なく剣をさやに収めると腰掛け、そのままハンナとルードの相手をしばらくの間していた。が、傍でじっと熱く見つめているフィーの微笑みに、いつしか心臓が大きく鼓動してきているのを感じ、たまらなくなって立ち上がる。
「どうしたんだ、ミル?」
「オレ、旅の支度してくる。」
「じゃーぼくも。どこへ行く?やっぱり聖魔の塔?」
「あんたはここにいりゃいいだろ?」
「どうして?君が行くのに、なぜぼくが残らなけりゃいけないんだ?」
「なぜって・・・」
「それに、ぼくは君と一緒に行きたいんだ。ああ、分かってる、冒険の邪魔はしない。君が手助けはいらないっていうんなら、傍で見てるだけにするから。大丈夫、危険なときはきちんと守ってあげる。だから、君はいつも通り探索を続ければいいんだ。ぼくの事など気にしないで。」
「き、気にしないでって・・・それじゃストーカーだろ?」
「そうだな、・・・ストーカーか・・・それはあまり良くないな・・・。ぼくもストーカーって言われるより仲間の方がいいし。」
「だから、誰ともつるまないって言っただろ?」
「この間のような事があるかもしれないよ?聖魔の塔は危険が一杯だ。」
「あ、あれは・・ちょっと油断を・・・」
「普通の戦士でも数人で行くんだ。君の腕は認めるが、仲間はいた方がいい。」
「だから、いらないって言ってるだろ?」
「もしものことが起きたら、ハンナちゃんが悲しむよ?」
「あ・・・・・・」
「だから、ぼくと一緒に行こう。大丈夫、君がその気になるまでは、あくまで普通の仲間として接するよ。」
「何だよ、その『その気になるまで』って?」
「だから・・・ぼくを好きになってくれるまでっていうことさ。」
「好・・・・・」
真っ赤になったミルは勢い良く立ち上がる。
「大丈夫、約束は必ず守るから。それまで決して手は出さない。」
「あ、あのな〜〜・・・・・」
「なに?」
口では負けそうだ、と判断したミルは、それ以上赤くなりそうもないほど赤い顔をして大きくため息を付いた後、部屋から足早に出ていく。
「ち、ちょっと待てくれよ、・・・ミル・・・ねー、ミルっ!」
そのミルの後を、フィーは慌てておいかけて行った。


「まだまだツメが甘いな・・・。」
「あれじゃからかい方が中途半端よ。ぜんぜん足らないわ。」
「ん?」
「え?」
同じ部屋のソファーでくつろいでいたミルフィーとカルロスは、お互いに相手が無意識に呟いた言葉を耳にして、思わず目を合わせる。
「ミルフィー、お前・・・ひょっとして意識してからかってたのか?」
「あ・・・・そ、そんなこと・・・」
「そうか・・・そうだったんだ・・・オレがどんな思いでいたのか知ってるか?・・いや、知っててそうしてたんだろう?」
「え?・・・だから、あのね、カルロス・・・」
「『あのね』も『そのね』もない!」
「カ、カルロス・・・?だから、・・あの・・そ、そう!そうよ!・・つまり、意識してからかってたつもりは本当にないのよ。つい口に出てしまうっていうか・・・だから・・・・」
少し前まで穏やかな笑顔で横に座って子供たちを見ていたカルロスが、いかにも不機嫌そうな表情をしてミルフィーの前で仁王立ちしていた。
「あ、あの・・・カルロス?」
「・・・・・・・・・」
カルロスが返事をしない。そんなことは初めてだった。
(ふ、普通の怒り方じゃないということよね・・・。)
「あ・・そうそう・・・イシルと奥神殿へ一緒に行くって約束してたのよ。・・・ごめんなさい、カルロス。また後で。」
「ミルフィー?!」
慌ててなんとかそれらしい口実を作ってその場を逃げたミルフィーの後ろ姿を、カルロスはしばらく睨んでいた。


「・・・カルロスとミルフィー、一世同士と二世同士ですか・・・・」
庭から入り、偶然2組のその様子を目にしてしまったレイミアスとフィアがあきれた表情でバルコニーに立っていた。


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