☆★ その123 ミルフィー瓜二つ! ★☆
-- キートとティナの娘 --


 

 「ミ、ミルフィー?」
少し落ち着いて立ち上がったミルの顔を一目見るなり叫んだレイミアスを、3人は見つめる。
「やっぱり似てる?」
フィアが少し不安そうな表情でレイミアスに聞く。
「あ、・・え、ええ・・・・出会った頃のミルフィーに、あまりにも似ているので・・・。」
「出会った頃って・・・もしかして、あんた、昔ミルなんとかっていう人と一緒にここを探検してた?」
「ミルなんとか・・ですか。そうですね、ミルフィーとはここで出会って、一緒に探検しましたが。」
「じゃー・・・」
その先の言葉を飲み込んで、じっとレイミアスを見つめるミルに、レイミアスはふと気づいたことを口にしてみる。
「もしかして、キートとティナという名に聞き覚えはありませんか?」
その言葉にミルははっとする。そして、表情を固くした。ぎゅっと握りしめた両の拳が小さく震えていた。
「ミル?」
フィーとフィアが不思議そうにミルとレイミアスを交互に見つめる。


村まで戻り、4人は宿の少し広めの部屋でテーブルを囲んでいた。
「キートとティナは、オレの父さんと母さんなんだ。」
ずっと押し黙っていたミルがようやく口を開いた。
「え?で、ですが、確か二人は兄妹だったと・・。」
レイミアスがその言葉に驚いて聞く。
「あ・・・うん・・兄妹として暮らしてはいたけど、血は繋がっていない。オレの母さんの、つまりティナの両親が、孤児だったキートを引き取ったらしいんだ。・・あそこへ引っ越してくる前に。」
「なるほど、だから村の人たちも本当の兄妹だと思っていたんですね。」
「うん。」
「で?ご両親は今?」
「・・・母さんも父さんも・・2年前に死んだ。」
「ミル・・・」
「息を引き取る前に、父さん・・・オレに話してくれたんだ。」
ミルはレイミアスの顔をじっと見つめて言った。
「本当は父さんはもっと前に死んだはずなんだって。他人の身体を取って生き続けていたんだって・・・」
「えっ?」
フィーとフィアはその言葉に驚き、そして、レイミアスは悲しそうに微笑んだ。
「山羊飼いの子供であるオレが・・それも女なのにこうも剣が好きなのは、たぶん借りた身体に流れる血がそうさせているんだろうって、その事を話してくれた時、父さん言ってた。その時初めて、オレは、剣を習いたいって言ったとき、普段大人しくてやさしい父さんが、顔を真っ赤にして怒鳴って反対した理由が分かったんだ。」
「それで、なぜ聖魔の塔へ?」
やさしく微笑むレイミアスをちらっと見て、ミルは続けた。
「妹がいるんだ。だけど・・・身体が弱くて・・・父さんと母さんが死んだショックもあってずっと伏せっているんだ。オレ、八瘤草がほしいんだ。どんな難病も治すという八つのこぶをつけた聖魔の塔のにしか生えていないという八瘤草が。」
「なるほど、八瘤草ですか・・・でもあれは呪いの草です。引き抜いた者は呪われて死にます。」
「それでもいいんだ。妹が元気になるなら。」
「それで、妹さんは今どこに?」
「隣のおばさんの所に預けてある。」
「そうですか。」
「父さんの遺言なんだ。オレとそっくりなミルなんとかっていう剣士と会ったら・・、話してみてその人が間違いなかったら、謝って欲しいって。今更謝ってもどうしようもないけど。・・・父さん、妹が病気がちだったのを自分の責任だと思ってたみたいなんだ。そのミルなんとかって言う人の妹が病気がちだったとかで・・・・。オレにミルって名付けたのも、どこかで引き合うようにと思ってつけたらしいんだ。あと、感謝と罪悪感・・・からかな?」
力弱く笑ったミルの両手を、テーブルに置かれていたその震えていたその両手をレイミアスはそっと自分の手で包み込む。
「そんなことは感じなくていいんですよ。あなたの責任ではないのですから。それに、あなたのお父さんにしても、本当にお母さんの事が心配だった。何よりも誰よりも大切で一人残していくことができなかった。そして、その心を・・・ミルフィーはよく知っていた。・・・だから、そのまま立ち去ったのです。」
「オレ、父さんにそっくりなんだ。気持ち悪いくらいそっくりで、大きくなるにつれて一段と似てきて・・父さん、オレを、オレの顔を見るのを避けるようにしてた。その理由がその時分かったんだ。・・・オレは父さんの罪の証なんだ。」
「ミル!」
ガタン!と立ち上がるとレイミアスは、彼女の手を握る自分の手に力を入れ、そして、きつい視線でミルを見た。
「いいえ!それは違います!あなたはお父さんがお母さんをどんなに愛しているかという証です。間違っても罪の証なんてことはありえません!」
「だけど・・・・・」
「・・・そのミルなんとかという人に会ってみますか?その人も同じ事を言うはずですよ。ミルフィーと言って、ここにいるフィーとフィアのお母さんなんですが。」
「お母さん?」
「そうです。藍の神殿の巫女でもあり、とてもやさしく、すばらしい女性です。」
「でも、オレの探してる人は巫女じゃなくて剣士なんだけど?」
「昔は剣士でしたよ。今でも剣の腕は確かですが、何事かない限り神殿で静かに暮らしておりますよ。」
「オ、オレ・・・いいのか?会いに行って・・・・・・父さんのことは?」
「誰も責めません。あなたはお父さんを誇りに思っていいのですよ。」
「オ、オレ・・・・」
「妹さんも一緒にどうですか?」
「え?」
「治るかどうか分かりませんが、私に一度診させていただけませんか?」
「そうよ!それがいいわ!。」
じっと話を聞いていたフィアが目を輝かせて言った。
「レイムは奇蹟の法力を持った神官なのよ。」
「奇蹟の法力?」
「あ、いえ、そんな大げさなものではないのですが・・・・痛っ!」
「どうかしたのか?」
事情はよく分かってはいたが、いつまでもミルの手を握っているレイミアスに、フィアは笑顔でミルに接しながら、レイミアスの脇腹付近をつねっていた。
「あ、いえ・・なんでも。」
そっとミルの手を離しながら、レイミアスは作り笑いをしてごまかした。
「とにかくまず妹さんに会いに行きましょうか。ミルフィーには書状を出しておきますので、藍の神殿へはそれからでもいいかと。」
「そうね。きっとお母様だってそうしなさいって言うわ。勿論私も着いていくわ。」
「え?フィア・・・あなたとフィーはいったん帰った方がいいのでは?」
「レイム?!」
その言葉に、フィーとフィア、二人は同時に立ち上がってレイミアスを睨んでいた。
昔のミルフィーのような感覚を覚え、軽く口にした言葉なのだが、、その睨みでミルが少女だったことを思いだし、レイミアスは顔を赤くして照れる。
「そ、そうでしたね・・・で、では、全員でということにしましょうか?」
「当たり前よ!」
「当たり前だろ?!」
「え?」
二人のその勢いに、ミルはきょとんとして見つめていた。


「ミル?」
「なに、フィア?」
その夜、フィーとレイミアス、そしてフィアとミルが同室で宿を取っていた。それぞれのベッドに横たわりながら話をし始めていた。
「どうして男の子みたいな口をきくの?」
「昔っからなんだ。オレんち貧乏でさ、街の裕福な家に仕事もらいにいくのに、この方がいいんだ。男なら子供でもそれなりの力仕事をさせてもらえるんだ。だけど、オレ、小さいときは本当に男だと思ってたんだ。・・・母さんが、男の子が欲しかったらしくて・・いつの間にかこうなってた。」
「ふ〜〜ん・・・」
「剣を習ったのも、山羊を追ってるより金になるからなんだ。魔物退治でもできるようになれば、金になるからな。」
「やっぱり妹さんの治療代?」
「まーな・・・・。」
「そんなに悪いの?」
「さー・・・どうかな?すぐ熱を出すんだ。オレなんか今まで病気一つしたことないんだけどな。」
「そう・・・。」
「・・・妹は、オレにすっごくなついてるんだ。滅多に外へ出られないもんだから、オレの話を目を輝かせて聞いてくれて・・・。」
「そうなの・・・私にも妹はいるわ。」
「そうなんだ?」
「ええ。イシルって言うの。」
「イシルか・・オレの妹は、ハンナ、6つになったところだ。」
「イシルはもうじき9歳になるけど・・弟のルードは6歳よ。」
「弟もいるのか?」
「ええ。4人兄弟なの。」
「ふ〜〜ん。」
「私とフィーは15。ミル、あなたは?」
「オレ、14。」
「いいわね?ちょうどいいんじゃない?」
「何が?」
「何がって・・・レイムの法力で治ったら一番いいんだけど、もしまだ治療が必要だったとしても、そして、旅をしても構わないようだったら、藍の里へ来ない?一緒に暮らしましょ。私たちきっと仲のいい家族になれるわ。」
「フィア・・・」
がばっと起きあがって目を輝かせて言うフィアに、ミルも上体を起こして彼女を見つめる。
「いいのか?オレはともかく・・・ハンナにとってはありがたい話だけど・・でも・・父さんのしたことを考えると・・・・」
「事情はいまいち飲み込めない所があるけど・・でも、いいに決まってるわ。」
「だけど、あんたの母さんがなんと言うか・・」
「あら、お母様ならいいと言うに決まってるわ。・・ううん、絶対そうしなさいって言うわ!」
「仲いいんだな、あんたたち親子・・・」
「勿論!お母様とお父様はいつまでたってもアツアツだし。」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。たぶんあなたのお父様とお母様と同じくらい。」
「・・・そうかな?」
「そうよ、きっと。」
「う〜〜ん・・・・確かに仲は良かったな。」
「でしょ?・・・だから私もそうなりたいの。」
「あのレイムっていう人?」
「ええ、そう。」
「ふ〜〜ん・・・オレはどっちかというと・・・」
神官や僧より剣士の方が・・・とそこまで考えた彼女の頭の中に突然フィーの顔が浮かび、焦ったミルは慌てたように横になってがばっと布団をかぶる。
「どうしたの?どっちかというと・・何?」
「あ、い、いや、何でもない・・・も、もう寝ようぜ。明日早いんだろ?」
「そうね・・・寝た方がいいわよね?」
そして、フィアも横になる。
(な、なんであんな奴の顔が?!)
すぐ眠りに入ったフィアと正反対に、ミルはなかなか寝付かれそうもなかった。


「レイム?・・・起きてる?」
同じようにベッドで横になっていたフィーが隣のベッドのレイミアスに聞く。
「なんですか、フィー?」
「フィアを泣かせるなよ。」
「え?」
「泣かせたら承知しないからな!」
「え?」
レイミアスのはっきりしない返事に、フィーはがばっと起きあがる。
「んとーーに、鈍いな、あんた!」
「な、何がです?」
は〜〜・・・と大きくため息をついてから、起きあがったレイミアスをフィーは睨む。
「彼女、母さんにそっくりなんだろ?出会った頃の・・・・その・・・つまり、レイムが好きになった頃の?」
「あ・・・・」
「フィアも似てるとは言われるけど、髪と目の色は父さん似だから。」
ミルフィーそのもののようなミルに不安を覚え、今更気移りするんじゃないぞ、とフィーの瞳は真剣だった。
「すみません・・気が付かなくて。でも、私は外見でフィアが好きになったんじゃありません。・・・ミルフィーに似ているからなどではなく・・・彼女が彼女だから、彼女の真っ直ぐな心に私は・・・・あ・・・」
自分に一言一言と言うように話したレイミアスは、ふと自分が何を言ってるのか気づいて真っ赤になる。
「・・・レイムは父さんと違うから言いにくいかもしれないけど、・・・」
「は?」
「できたらフィアに言葉で言ってやってほしい。・・不安だと思うんだ。分かっていても・・・たぶん・・・」
レイミアスはにっこり笑うと断言した。
「分かりました。いえ、その事は分かりすぎるくらい分かってます。」
「分かりすぎるくらい?」
「ええ、昔言わなかったから、カルロスに取られてしまったのかもしれないと、つくづく後で思いましたから。」
「・・・は?」
「あ・・あはははは・・・む、昔の事ですよ、昔の。今は・・・そう、今は・・フィアだけです。私は心からフィアを愛してます。」
少し・・ほんの少し気にはなったが、一応安堵すると、フィーは再び身体を横たえた。
(確かに昔のミルフィーにそっくりで、ミルフィーの子供だと言ってもいいくらいに・・・でも、大丈夫、ただそれだけ。・・・それに、ミルフィーはミルフィーしかいない。フィアの母親である彼女しか・・・え?・・・・)
そこまで考えていたレイミアスはふと気づく。
(ということは・・・ミルフィーは私の母親になる?・・・・で、カルロスは・・・・・)
今更ながらレイミアスは、その事実に焦りを覚えていた。フィアを妻にするのはいいとして・・・。
(い、いいですよね、今まで通りで・・・。)
レイミアスはミルフィーとカルロスのその件に関してだけは割り切って無視することにしようと、決心した。


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