☆★ その122 秘めたる才能?カルロス二世 ★☆
-- ・・・二人の子ども、フィーとフィアが早くも15歳。 --


 

 そして、その数日後、緋の神殿へ行くと、その帰り、二人は自分たちの予定通り聖魔の塔へ立ち寄った。

−ギギギギギーーーー−
大扉を開けると中からひんやりした瘴気を含む冷気が二人に忍び寄ってくる。
「・・・・あまりいい気持ちのところじゃなさそうね?」
「当たり前だろ?腕のある戦士でも後込みするっていう所なんだぞ?だけど、入り口付近はそう大した魔物もいないっていうし、徐々に慣れていけばいいんじゃないかな?」
「そうね。なんといってもフィーがいるし。」
「元藍の巫女のフィアがいるし。」
ふふふっと笑って二人は扉の中へ足を踏み入れた。

フィーはそれまでにも魔物退治などしたことがあったが、フィアにとっては初めての経験だった。が・・・・心配はいらなかった。最初こそ魔物のその気味の悪い咆吼やアンデッドなどの外見に顔をしかめたが、術は確かなものなのである。

「あまり奥まで行かない方がいいな、まだ。」
「私だったら平気よ。」
「だけど、入り口から結構奥へ入ってきてるぞ?」
そんな事を話しながら曲がり角を曲がった二人の目に、まだ少年だと思われる戦士が一人、多数の魔物に取り囲まれているのが目に入った。
「フィアっ!」
「ええっ!」
咄嗟にフィーは剣を抜いて援護するためかけつけ、フィアは呪文を唱える。
「いっくぞ〜〜!」
「清らかな風よ・・・我が友よ、その御手我に貸し与えたまえ、・・・その清き御手にてここに集いし魔性のものを祓え・・・・風精円舞!」

剣を交える音と風の音、そして魔物の断末魔がひとしきり辺りに響く。
そして・・・・

「大丈夫、君?」
「あ・・う、うん・・ありがとう。」
「怪我は?」
「あ・・大丈夫だ。ちょっとかすったくらいで・・」
「じゃー、手当しておかないと。」
「大丈夫だよ、このくらい。」
ごそごそと荷袋から薬草を取り出そうとしていたフィーに、その少年戦士はぶっきらぼうに答える。
「ホント?」
「これくらいで手当してどうすんだ?」
「ならいいんだけど。・・・君・・・?」
そう答えながら乱れた前髪を手でかきあげたその戦士と視線を合わせたフィーは、驚いて見つめる。そして、その戦士も驚いたようにフィアを見つめる。
「な、なんだ・・・・オレ達ひょっとして親戚か何かか?」
戦士は大声で言った。
それもそのはず、フィアとその戦士はあまりにも似ていた。というより、戦士は若い頃のミルフィーにうりふたつだった。フィーはミルフィーの面影はあるというものの、どちからというとカルロス似だった。そして、フィアはその反対で、どこそこカルロスにも似ているが、全体的には、髪と目の色を覗けばミルフィー似だと言えた。が、その戦士は髪もそして目の色もミルフィーと同じだった。
「身内はいないって聞いてるわ。」
フィアも不思議そうに戦士を見つめながら言う。

「・・・君・・ひょっとして女の子?」
「はー?」
「ええ〜〜?」
突然のフィーの言葉に、その戦士もそしてフィアも同時に叫んだ。
「ば・・・バカ言え!オレのどこが女だってんだよ?」
「いや・・・間違いない。・・君は女の子だよ。」
ずいっと1歩剣士に近づき、フィーはじっと見入る。
「あ、あんた、目、見えないのか?その茶色の目は飾りか?」
「いや・・・よく見えるよ。だからこそ、君が少女だってわかるんだ。」
「ち、ちょっと・・・・・・」
明らかに戦士は焦っていた。背は、あまり違わなかった。おそらく年も同じくらいなのだろうと思えたが・・フィーのその有無を言わさない雰囲気に、すっかり押されていた。
「どうやらぼくは君に一目惚れらしい。」
「は?」
「君の・・・心・・かな?まるで君と目が合った瞬間、君の中に吸い込まれていくような感じがした。心と心が引き合う・・・たぶんそうじゃないかなと思う。そして、それが惚れたってことなんだろう。」
「惚れたって・・・・なんだよ、それ?だいいちオレは女じゃ・・」
「女の子だよ、君は。・・・誰よりも・・そう、ぼくにとっては誰よりも女の子らしさを持ってる。そしてそれを隠さなくちゃならない悲しみを持ってる子だ。」
「な、なんだよ、同情ならごめんだぜ?」
「同情じゃない、愛情さ。」
「は〜〜〜〜ぁ?」
「フィ、フィー?」
戦士もそしてフィアもあきれ返っていた。
「お父様そっくりだわ・・・。」
どちらかというと控えめで純情なフィーは、それまでそんな気配は全くなかった。フィアの方が結構盛んにレイミアスにアタックしていたというか・・・が、それは単にそうさせる少女がいなかっただけだったのかも、とフィアは感じながら見つめていた。


それもそうであると言えた。カルロスの血を引いているということ。それはその素質は十分だという事実。そして、それまでは受け継いだのであろうミルフィーの純なところが表面に出ていたとしても、幼い頃から毎日のように、カルロスとミルフィーのやりとりを見てきている。日々のその擦り込み学習は、効果絶大なんてものではないはずである。

子供の前だからといって控えようとするミルフィーに、情操教育だと言って断固それを許さなかったカルロス。
「両親の仲のいいのは子供たちにとって何より恵まれた環境なんだぞ?それに見慣れれば別にどうってこともない。これが普通だと思うさ。実際普通なんだしな。」
「それはあなたの場合でしょ?」と言おうとしたミルフィーの言葉を遮ってカルロスは続けた。
「お前がオレを嫌いだと言うのなら諦めるが・・・・」
「そんな・・カルロス・・・・」
その言葉に弱いミルフィーにそれ以上の抵抗ができるわけなかった。
そして、子供たちはそんなアツアツの両親を見て育ってきている。両親とは、そして恋人とはそういうものなのだ、という観念が確立されていた。しかも、そのアツアツさは未だに衰えていない。二人のその関係は一種の憧れともなっているフィーとフィアにとって、それはいつの間にかまだ見ぬ自分の恋人に対する基準になっていた。

そして、そんな成長過程の中で、どこでどう接し、どういう風にムードを作っていくのか、そして絶妙なるそのタイミングとその場に適したムードでいかに相手を自分のペースに引きずり込んで思い通りに落とすか・・・、それは、まさに当たり前のごとく自然に備わったとしか考えられなかった。
そして、それは一目で恋に落ちたミルとの出会いで、フィーの自我の中で見事なまでに開花した。


「ち、ちょっと・・・・・お、おい、そこのあんた、見てないで止めてく・・・!?」
そして、ミルフィーとの出会いの時のカルロスよりフィーの方が若い分、行動が早かった。いや、濃厚な両親のパターンを見て育ったせいだったのかもしれない。
−ビッターーン!−
「な、なにすんだよっ!いきなりっ!」
雰囲気に押され、戸惑っているうちに口づけをされてしまったその戦士は、平手と共に、怒鳴る。
「どうしてくれんだよ、オレのファーストキス?!」
赤くなった頬を片手で軽く押さえながら微笑んだフィーに、今の言葉は紛れもなく自分が少女であると認めた言葉だったことに気付き、戦士ははっとする。
「あ・・・・」
慌てて口を押さえた戦士に、フィーはやさしく声をかける。
「一生かけて返してあげるよ。」
「あのなー・・・どう返すってんだよ?済んじまったもんはもう元には戻せないんだぞ?」
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして戦士は怒鳴る。
「だから、こうして・・・」
「ちょ・・・・」
彼女に覆い被さるように今一度近づくフィーに、戦士は焦りまくる。
「いいかげんにしろよっ!・・こ、この色ぼけっ!」
「色ぼけしてるつもりはないけど・・・でも、目の前にいるのが君だからそうなってしまったのかもしれない。・・・君があまりにも素敵だから。」
「・・・は〜〜・・・・・・」
あくまで余裕綽々で微笑み続けるフィーに、彼女はため息をつくと、ずずず・・・と壁によりかかったまま、その場に座り込んだ。
「なんなんだよ、一体?」
そして、目の前に座り込んだフィーを上目遣いで見る。
「だから、君に一目惚れだって言っただろ?」
「だから、なんでオレなんだよ?!」
「さー、なんでかな?・・・なんでだか分からない。それが恋ってものじゃないかな?」
カルロスはそこまで話さなかったはずなのだが、フィーはそっくりな言葉を発していた。
「あ、あの子は?」
少女が指さしたフィアをちらっと見るとフィーはにっこりと笑う。
「フィアはぼくの双子の妹だ。」
「あ・・そ、そう・・・」
「君、名前は?」
そう聞かれてもじっと警戒しながら見つめる少女に、フィーはふっと笑う。
「ごめん。名前を聞くときは自分から名乗らないとね。ぼくはフィーというんだ。」
「・・・・ミルだよ。」
しばらく間があった後で、彼女はぶっきらぼうに答えた。
「ミル?」
「そうだよ、それがどうかしたのか?」
驚いたような顔をしたフィーに、彼女は聞く。
「ぼくの母さんの名前がミルフィーって言うんだ。」
「ミ、ミルフィー・・・・・?」
「どうかした?」
その名前を聞き、今度は彼女の方が驚きの表情になる。しかも幾分青ざめて。
「どうしたんだ?」
やさしさの中に心の底から心配している表情で見つめるフィーに、戦士であるその少女は、思いがけないことを小さな声で言った。
「もしかしたら、オレの探してる人は、あんたの母さんかもしれない・・。」
「は?」


「フィア・・」
「え?」
そんな二人を少し離れたところから見ていたフィアの肩に誰かの手がそっと置かれ、彼女は振り向く。
「レイムっ!」
「フィア・・・」
やさしく微笑むレイミアスがそこに立っていた。
「あ・・で、でもどうしてここへ?」
「いつもなら真っ直ぐ帰るはずのフィーがこっち方面へ向かったって聞いて心配になったミルフィーに頼まれたんですよ。今回はフィアも一緒なんだし。でも、彼女は今、イシルの傍を離れるわけにはいかないですから。」
「レイム・・・」
もしかして探しに来てくれた、追いかけてきてくれたのか、と顔を見た瞬間喜びで微笑んだフィアの表情が、その言葉で沈む。
(やっぱり、レイムはお母様・・・・)
「ごめん、フィア。もっと早く気付いていれば・・・いや、勇気を出せば良かったんだ。」
「え?」
なぜここでレイミアスが謝るのか、とフィアは不思議そうな表情でレイミアスを見つめる。
「フィアがここへ来ているのかもしれない、と・・そう思ったら心配でいてもたってもいられなかった。」
「レイム?」
「恐かったんだ。母親であるミルフィーとあまり違わない私などでは・・・本当に私などでいいのか・・・・と。」
「レイム?」
何を言おうとしているのかフィアには分かりはじめていた。沈んだ顔が少しずつ明るさを取り戻してきていた。
「でも、今回のことでよく分かった。ミルフィーからもしかしたらここへ行ったのかもしれない、と聞いたとき、・・・心配で目の前が真っ暗になってしまった。・・・それで初めて気付いた、自分の本当の気持ちに・・いや、そうじゃない・・今までそれに気付かないようにしていたことに、・・気付いていない振りをしていた自分に。」
「レイム・・・」
ようやく微笑んだフィアに、レイムは少し照れた笑みをみせる。
「迎えに行くと言ったら、カルロスに思いっきり睨まれたよ。」
「レイム・・・・もしかして、お父様に謝った?『すみません。』って?」
フィアは夢で見たレイミアスを思い出しながらこわごわ聞いてみる。
「そうするしか他にないでしょう。あなたを悲しませてしまった事と、そして、カルロスにとっては何よりも代え難い愛しい娘を奪ってしまう事へのお詫びは・・・。」
「レイム・・・」
ようやく夢の意味がわかりフィアは安堵を覚えていた。
「いいのよ、レイム。・・・お父様にはお母様がいるわ。」
微笑むフィアの瞳から一筋こぼれ落ちた涙をそっと指で拭き、レイミアスはフィアの頬をそっと包む。
「フィア・・・・まだ間に合うのなら、・・私でいいのなら・・・」
「・・・勿論よ、レイム。・・・だって、ずっと待ってたのよ、・・小さな頃から・・・私・・・あなただけを・・・。」
「フィア・・・。」


そして、ここにめでたくカップルが2組・・・・い、いや・・・出会ったばかりの少女、ミルは、そう素直に認めそうもないが・・・ともかく、ひとまずは落ち着く気配を見せていた。

「どこがだよっ?!ええっ?!」
おおっと・・・ミルの罵声が・・・・・・/^^;


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