☆★ その121 蛙の子は蛙? ★☆
-- どどど〜〜んと時は飛び・・・(爆)・・・二人の子ども、フィーとフィアが早くも15歳。 --


 

 「ずるいわっ、お母様っ!」
「え?」
突然部屋に飛び込んでくると同時、涙をためて自分を責めるフィアにミルフィーは驚いて見つめる。
「ずるいって・・・・フィア・・?」
「だって、だって・・・・」
「だって・・どうしたの?」
いつもの優しげな微笑みに、フィアの高ぶった感情は少し落ち着いたかにみえた。が、今回はそれでは収まらなかった。
「だって・・・お母様にはお父様が・・・あんなに、あんなに愛し合ってるお父様がいるのに、レイムまで・・レイムまで独り占めしてるんですものっ!」
「え?」
「お母様なんて嫌いよっ!」
「フィ、フィア?」

「どうした?」
呆然と部屋から走り出ていくフィアの後ろ姿を見つめるミルフィーに、すれ違いに部屋に入ってきたカルロスが近寄る。
「何があったんだ?」
「さ、さー・・・?・・・私もさっぱり・・・・」
急にどうしたのかとミルフィーも分からなかった。レイミアスが来たのは3ヶ月前。フィーの元に手紙が来たというわけでもないし、ましてや、ミルフィーとレイミアスの間に何かあったわけでもない。


「フィア?どうしたんだ、母さんが心配してたけど?」
神殿の奥庭で、一人ぽつんと湖畔に座り込んでいたフィアに、フィーが近づく。
「フィー・・・・・」
振り返ったフィアの瞳は赤くなっていた。
「レイムのこと?」
フィアがそんなになるまで泣くのはそれしか考えられなかった。
そっとフィアの横に座ると、フィーは微笑む。
「フィアらしくないな、母さんにあたるなんて。」
「だって・・・・」
「『だって』・・どうしたの?ぼくに話してごらん。」
「フィー・・・」
しばらくフィーと視線を交わしていたフィアは、少し落ち着くと視線を下げて話し始めた。
「・・・夢を見たの。・・」
「夢?」
「そう・・・レイムの。」
「・・・。」
「レイムがね・・・レイムが・・・・『すみません。』って・・・・心の底からすまなさそうな表情で・・・・『すみません。』って、言ったの。・・それだけ言って消えてしまったの。・・私・・・・」
「フィア・・」
おそらくそれは遠見の力が見させたもの。それでなければここまでフィアも動揺しないはずだった。単なる普通の夢かそうでないか、それは見る本人にしか分からないが、それは確かに区別できるものらしかった。巫女の座は1年前妹のイシルに譲っていた。が、ミルフィーもなのだが、ほんのときおり見ることがある。
涙をためて言ったフィアに、フィーはどう言おうか困り、しばらくじっと見つめていた。フィアのレイムアスを想う気持ちは確かなものであることはフィーにはよく分かっていた。

「フィア・・」
「なーに?」
「冒険しよっか?」
「え?」
しばらく一緒になって湖面を見つめていたフィーが突然言った。
「母さんと父さんが出会った聖魔の塔なんかいいんじゃないか?」
「・・・」
なぜそうなるのか、というような表情でじっと見つめるフィアにフィーは笑顔を送る。
「・・・・よく母さんが言ってるだろ?予想もできないハプニングと、どきどきわくわくするスリル感。それから・・・思いもかけない出会い。・・・別れもあるけど、それも光り輝く宝石のような宝物になる、って。」
「え、ええ、それはそうだけど。でも、なぜ聖魔の塔・・・・・・」
そこまで言いかけるとフィアはくすっと笑った。
「腕試ししてみたいのね、フィー?この辺りではもうフィーにかなう人っていないから。」
ばれたか、と頭をかきながら、フィーは軽く笑う。
「だけど父さんや母さんにはまだまだだけどな。・・父さんたちが別格だろ?」
「そうよね・・・。」
フィアもフィーの笑みに笑って返す。
「ここもいいところだとは思うけど、ちょっと物足りないというか・・・」

「そうよね。・・・・そうよね?!」
しばらく考えていたフィアは目を輝かせて言う。
「まだ若いんですもの、いいわよね?」
「そうだよ。そんなに早く一人の男に決めることもないって。母さんだって父さんと出会ってもなかなか一緒にはならなかったんだから。」
「そうよね。・・・・いいわよね・・・・・知らないところへ行くのも。どきどきわくわくの冒険も。」
「危険もあるけど、ぼくとフィアの術があればいいんじゃないかな?ううん、フィアを危ない目にあわせるような事はしないよ!」
「フィー・・・・でも、・・」
「でも?」
「やっぱり反対されるかしら?」
「・・そうだな・・・父さんも母さんもどっちかというと心配性だし。」
顔を見合わせて二人は同時に言った。
「自分のことは棚に上げておいてね。」
「自分のことは棚に上げておいてさ。」
−ぶっ・・・あははははっ!−
「じゃー、この際だから、手紙でも書いてそっと出て行ってしまおうか?」
「ちょっとフィー、それって家出になるんじゃないの?」
「家出・・・だけど、行き先書いておくんだから違うって。」
「ええ〜〜?!そんなの一緒よぉ・・・でも・・・話せば、行かせてはくれないわよね?」
「そりゃそうだよ。普通の所じゃないんだから。」
「じゃー、ちょっと旅行に行ってきます、というのは?」
「行き先聞かれるだろ?」
「うーーん・・・」
二人はしばらく首を傾げて考えていた。

「フィー・・今度緋の神殿へ行くのはいつ?」
急にはっとしたように行ったフィアのその言葉に、フィーの目が輝く。
「そっか。もう巫女じゃないんだから、フィアも一緒に行くって言っても、いけないとは言わないよな?」
「ええ。」
「もう子どもじゃないんだし。」
「そうよね?」
「じゃー、次の予定を少し早めて帰りにそっと寄ってみようか?」
「ええ!そうしましょ!私、お母様とお父様の出会った所みたいわ。」
胸で手を合わせて目を輝かせるフィアに、フィーは苦笑いをする。
「聖魔の塔なんだぞ。そんなロマンチックなところじゃないぞ?」
「でも、いいの。好きな人との出会いは、出会った場所も含めて一生の宝物でしょ?」
「うーーん・・・以前聞いた話によると・・そんなものじゃなかったような気もするけど・・・。」
聖魔の塔の通路でミルフィーと出会った、とカルロスは二人に聞かれたとき話していた。

「オレの一目惚れだったんだ。母様は・・・・・全くの知らん顔でな・・・それから結構長く冒険を共にしたが、これがまた手強くて・・散々振り回されたんだぞ。一時は諦めるべきなのかと思ったくらいだ。」
笑いながら話してくれた時のカルロスの言葉を二人は思いだしていた。

「でも、結局は結ばれたのよね。・・・・私にもそんな人現れるかしら?」
「ぼくにもそんな風に思える子が、いつか見つかるのかな?」
しばし二人は、見慣れたが、幼な心にもあこがれの目で見た、そして今でも変わらないミルフィーとカルロスのほのぼのシーンに自分自身を充ててみる。

(いつか、ぼくにも父さんが母さんに出会った時みたいな時が訪れるんだろうか・・・)
(・・・レイムだったらどんなにいいかしれないけど・・・・でも、やっぱりこれだけ歳が離れてるのって・・・だめなのかしら?・・・私、・・・・・)
実は、巫女の座を下りてから、フィアには結構求婚者が現れていた。その誰もが国王、あるいは貴族の子息だった。勿論ミルフィーとカルロスが身分などという事は言うはずはないが、藍の巫女であったその事実がそうさせていた。巫女が嫁ぐわけでもないのに俗世に戻るなんてことは人々の知る限りでは初めてだったのである。それを耳にし、我こそはと名のある人物は競うようにして訪れてきていた。
が、フィアの胸をときめかしてくれる人物は一人もいなかった。
それもそのはず、ミルフィーとカルロスを見て育ったのである。甘いムードで言い寄られても、真摯な眼差しで求婚されても、今一つ何か足らないような・・・ツメが甘いような気がして、全く相手にならない感じを受けていた。これがレイミアスなら、とは思ったが。

カルロスの絶妙なタイミングで囁く言葉とそっと添えられる手。その中に誘い込み引き離さないムード作り。いつもその手でミルフィーのささやかな抵抗は無に帰していた。熱く滾ったそしてやさしい視線で捕らえて離さない強引さ。それはすっぽりとミルフィーを包み込む愛のベール。それを見てきているフィアには誰もまだまだと思われた。

「それはね、その誰もが・・残念なことに、フィアではなく藍の巫女として見ているからなんでしょう・・・・。そして、あなたもその中の誰にも恋していないから。」
何人目かの求婚者を断った後、「お母様って・・・いいわね。」とつい口に出てしまった後、そのことを話したフィアに、頬を染めながら答えたミルフィーは、やはり、とても幸せそうだった。
「でも、いつかあなたにも現れるわ。あなたでなくてはならないっていう人が。飾らないあなたを理解し、あなただけを心から愛してくれ、そしてあなたが心から愛せる人が。」
「でも・・・・・」
「でも、な〜に?」
レイムはどう思ってくれてるのかしら?・・・思わず口に出そうになったその言葉をフィアは飲み込んでいた。

フィーとフィアはそれぞれ自分の事に思いを飛ばし、しばらく湖畔に座ったまま、ぼんやりと景色を眺めていた。


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