☆★ その119 異世界のハネムーン?・13/おまけ ★☆
-- #118、ダッカートの神殿で2人が無事再会を果たした頃 **勇者と天女と神官と** --


 

 「司祭長様、カラドコムからのご使者が、勇者殿にお目通り願いたいと・・・。」
「またか・・・・」
そこは砂漠の民、ダッカートの神殿。魔王を倒した救世の勇者が滞在していたその時、世界各国から次々と勇者を国に招きたいとの使者が訪れていた。
普段は、参拝する者も少なく静かだったそこは、いまだかつて無かったほどのにぎわいを見せていた。
「勇者殿はようやく休息を得られておるのだ。書状があるのならそれを、伝言があるのならお聞きしておくがよい。ただし、面会はまかりならぬ。せっかくくつろがれておられるものを邪魔してはならぬ。」
「はい、わかりました、司祭長様。」

そして、その僧が部屋から出ていくとすぐにまた他の僧が入ってくる。
「司祭長様、羅紗国からのご使者が、勇者殿に是非にお目かかりたいと参っておりますが・・・。」
「書状か伝言を置いていかれるよう申しておけ。勇者殿の休息を邪魔してはならぬ。」
「はい。」

そして、その僧が部屋から出ていくとすぐにまた次の僧が入ってくる。
「司祭長様、シューダンからのご使者が、勇者殿に・・・。」
「ああ、分かった。書状だけおいていくように伝えよ。」
「は?ですが・・・。」
「いいのだ。勇者殿は面会謝絶だ。」
「は、はい。それではそのように・・・」

そして、その僧が部屋から出ていき、その日は静かだったが、翌日、再び朝からその調子が続く・・・そして、それは毎日のように繰り返された。

「司祭長様、神殿の外にテントを張り、順番を待っているご使者が集団で抗議を・・・。」
「ああ〜・・・」
その神殿の最高司祭である初老の司祭長は、我慢できなくなっていた。
「勇者殿は今天女殿とラブラブじゃ。邪魔してはならぬ!」
「は?」
「あ・・・い、いや・・・と、とにかくじゃ、せっかくご夫婦ゆっくりしておられるのだ。邪魔してはならぬ。よいか?神殿の入り口に受付を設け、係の僧にそのように申し渡しておけ。いちいち私にまで伺いをたてる必要はない。」
「は、はい。わかりました。」

「ふ〜〜・・・・」
僧が部屋から出ていくと、最高司祭は、大きくため息をついていた。
「・・・・思わず口から出てしまった・・・まだまだ修業が足らぬらしい。・・しかし、あの二人を、勇者殿をみておると、つい・・・・・。」
しばし、最高司祭の思考は、ほのぼのとしたシーンの回想で占められる。
「い、いや・・・いかん・・・曲がりなりにも私は神官・・しかもこの神殿の最高職を担っておるのだぞ・・・そ、そのようは俗世的なことは・・・。」
と自分を叱りつつ、ふと思いつく。
「が、なぜ神官はだめなのだ?他の国では神官も妻を娶っておるところもある。・・・それにここで奉っておる神々は、自然の神であり精霊。彼らは男と女が引き合うことは自然の摂理だと思っているはず。・・・・己の伴侶も・・一人の女性も幸せにできずして、何が民全体の幸せを願えるというのだろう?」
もっともな疑問とも思えた。精霊たちは愛を好む。その半身である伴侶を求めるのは自然の摂理であり当然の事。彼らの意に背くこととは思えなかった。
「・・・まー、今更ともいえるが・・・・」
ふっと笑いをこぼし、最高司祭は再びカルロスとミルフィーの姿を思い浮かべる。
「我が身はそのような事とは縁はないだろうが・・・規則の改革でも手掛けてみるとするか。これもまた良い機会ということであろう。」
そんなことを考えながら、部屋を出て、神殿の奥に位置する聖殿へと続いている渡り廊下を歩いていた最高司祭は、庭のベンチで寄り添って座っている2人の姿を見つけ、無意識に立ち止まる。
「しかし・・・・天女とは、それほどまでによいものなのだろうか?」

少し(?)あきれ返るほど、その勇者は天女を愛していた。片時も離さず天女を傍に置き、そっと抱きしめてやさしく見つめている。そして、勇者の笑みに返す天女の微笑みも、ともすると心を奪われそうになる感じを受けるほど。それは、勇者を心から信頼し慕っているのが手に取るようにわかるような、やさしく暖かく愛情溢れた微笑みだった。

「二人を見ていると分かる気もするが・・・。・・・いかん、いかん・・聖なる池で禊ぎでも・・・・」
が、頭を振って煩悩を消そうとした最高司祭はそれができる状態ではなかったことに気付く。
「禊ぎをしたくとも、池の水は・・・・膝あたりまでしかなかったな・・・・。各国の使者や彼らの姿を一目見ようとこの地を訪れる人々によって経済的には潤っても・・水まではそうもいかん・・・。」
再び2人を、ミルフィーを見つめた最高司祭の頭にふっと一つの考えが浮かんだ。
「そうだ。天女殿に水を!・・・極度の水不足だが、天女殿なら水を呼ぶこともできるのではないか?雨を降らすことが!・・・我ら神官でも名のある術者でもできなかったが、神殿に咲いた聖なる輝きを放つ花の中からでてきたあの天女殿なら・・。」
最高司祭はその思いつきに目を輝かせ、聖なる天女を、ミルフィーを見つめていた。


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