☆★ その115 異世界のハネムーン?(9) ★☆
-- **カルロス、受難再び・・** --


 「これ、カルロス!いつまで抱きしめたままでおるつもりなのだ?」
「は?」
「時間はあまりないと言うたであろう?」
ミルフィーをしっかりと抱きしめ、熱い口づけをしていたカルロスの頭に突如黄金龍の声が響き、それに驚いて弾かれたように唇を彼女から離す。
「48時間と申したのは、魂を肉体に戻すまでの時間なのだぞ?」
「そ、そうだったのか?」
てっきり闇の恐怖から救い出す時間とばかりカルロスは思っていた。
「彼女の魂はとっくに闇の恐怖から解放されておる。今は一刻も早く肉体に戻さねばならぬ。彼女が愛しいのは分かるが・・・。」
「も、申し訳ない・・・・」
カルロスは照れながらミルフィーの身体を抱きしめていた腕から力を抜く。
「カルロス?」
黄金龍の声は全く聞こえないミルフィーが不思議そうにカルロスを見つめる。
「あ、いや・・なんでもない。」
「カルロス?!」
すうっと薄らいでいくカルロスの姿に、ミルフィーの顔色が変わる。
「大丈夫だ、ミルフィー。オレたちはすぐ会える。いや、オレはいつもお前の傍にいる。だから・・・少し、ほんの少しだけ待っていろ。いいな?」
微笑みで頷くミルフィーに笑みを返しながらカルロスの姿はそこから消えた。


「カルロス!」
ミルフィーの魂から出ると、ミリアが涙を溜めて横に立っていた。
「見つかったのね、大丈夫だったのね、ミルフィーは?」
「ああ。」
2人の目の前の球は、それまでの暗く沈んだ鈍い光ではなく、暖かさとやさしさを含んだ明るい色を放って輝いていた。

「では、肉体に魂を戻そうぞ。」
太陽の剣の光の中に再び黄金龍の姿が浮かび上がると同時にミルフィーの魂の球体は光に吸い込まれ、龍の姿も消える。

そして、数分の沈黙後、再び黄金龍の姿がそこに浮かび上がった。
「カルロスよ。」
「はい。」
「我が身体の一部である花、黄金の龍華のつぼみの中に彼女を包み込み、その世界へと送った。そして、魂がその肉体になじむまで、今より7日7晩、彼女はその中で眠り続ける。」
「ありがとうございます。」
カルロスは深々と頭を垂れる。
「故に、カルロスよ。」
「はっ。」
「急ぐがよい。」
「は?」
「7日7晩・・それは長いようで短い。」
「・・・それが何か?」
「つまり・・・球体の中で彼女を抱きしめていたお主が不意に消えたため、彼女の魂はお主を、魂の半身を渇望しておる。己を包んでくれる者を探し求めておる。」
「は、はあ・・・」
意味が分からないカルロスは生返事をする。
「分からぬか?・・・」
「はあ・・・」
「つまりだ・・・彼女は目覚めると同時に、自分の半身を求める。いや、肉欲ではなく、心の、魂の相手を求めるという意味なのだが・・・。」
「なるほど。それでしたら、分かります。」
「うむ。で・・・だ・・・。そうではあるのだが、それは意識下でのこと。つい先ほどの事は彼女の記憶にはない。」
「そうなのですか?」
「そうだ。それで・・・・・・」
「それで?」
言いにくそうに言葉を切った黄金龍に、カルロスは怪訝そうな表情で聞いた。
「うむ・・それでだ・・・彼女は・・半身を求めるあまり、・・つまり・・・」
「つまり?」
「・・・目覚めた時、初めて目にした男にその心を奪われる。」
「は?」
カルロスは耳を疑った。大きくその目を見開き呆然としてしまっていた。
「故に急ぐのだ、カルロス。彼女の目に他の男が写らぬうちに。」
「ち、ちょっと待て!それはないんじゃないか?」
焦りでカルロスは相手が神龍であることも忘れ、抗議する。
「どれほどの思いで、オレが彼女を見つけだしたか・・・」
「分かっておる。分かっておるが・・・忌まわしい出来事の記憶を消し去った結果なのだ。あまりにもその傷の根が深かった為、こうなってしまったのだ。お主に対しては申し訳なく思ってはおるが、あのままあの記憶を残すのはあまりにも痛ましかった。例えお主の愛でその傷は塞がろうとも・・・傷跡は残る。ふと思いだし身震いすることもあるであろうと、同じ女として、我は取り除くことにした。」
「というと今までの記憶がない?」
「いや、完全に無くしたのは魔王とのことのみだ。それ以前の記憶は時間と共に蘇る。お主と共に過ごすことによって。」
「ということは・・他の男を最初に見れば、それもないままということなのか?」
「そういうことになるかもしれぬ。」
「『しれぬ』って、そんな無責任な・・。」
カルロスは真っ青になっていた。
「それと今一つ。」
まだ何かあるのか?とカルロスは動揺しつつ黄金龍を見つめる。
「もう一つの彼女の肉体は、再生した時のまま。つまりは、彼女は若かりし時の肉体を持って目覚めることになる。」
「若い時のまま?」
「そうだ。肉体年齢は今より十ほど・・いや、九つほどか?・・・まー、それはどちらでもよい。さして変わりはない。ともかく、今お主が知っている彼女より若返っておるが・・・それでも見間違うこともあるまい。」
「もちろん!」
カルロスは断言する。その時よりも早くミルフィーとは出会っている。見間違うわけはない。
「では、急ぐがよい、カルロス。無事再会することを祈っておるぞ。」
「わかった・・・。」
どこか正直に礼を言える気分じゃないとも思ったが、一応今一度黄金龍に深々と頭を下げると、カルロスはミリアに視線を飛ばす。
「ミリア!頼む!」
「ええ、カルロス!」
黄金龍に別れとお礼の挨拶もそこそこに、カルロスは慌ててミリアの背に乗ってそこを飛び立つ。
部屋の中であるにも構わず巨大な飛龍となったミリアの身体で、居城はバラバラに崩れる。
−バサッ−
大空高く飛び上がり、大きく羽ばたくミリアに乗ってカルロスはそこを飛び立っていった。


「龍華よ・・・」
「銀龍・・・あなた・・・」
「やきもちか?」
「え?」
「あのようなことをあの男に言いおって。」
「あ、あら・・・・」
「彼女が、己の魂をその胸に抱いたあの男から離れることは、もはやないであろうに。例え何があろうとも、幾たび生を替えようと、2人はもはや離れることはないはずだ。」
「・・・・再会したときの喜びがひとしおですわ。」
「あの男をますます彼女に夢中にさせるつもりか?」
「いいでしょ?それに彼女なら分かってるはずですわ。」
「しかし、それは最終的な結論であって、初めて目にする男に心を惹かれるというのは本当ではないのか?」
「ええ、それは、そうですけど・・・でも、彼女ならそうするべき人が誰なのか、分かるはずですわ。自分の心が求めている人の影が誰なのか。」
「わしがお前の心を感じるようにか?」
「ええ、私があなたの心を感じるように。」
「・・・・そうだな。・・・あの二人なら大丈夫であろう。・・が・・・ハプニングと言うこともある。そのつもりがなくとも、何かの拍子に目を開けた時、そこに他の男がいないとも限らぬ。」
「それはそれでまたドラマですわ。」
「ドラマか・・・それもそうだが・・・最終的にあの男に辿り着くとしても、彼女の心は遠回りすることになる。あの男にとってはこの上なき苦しみとなる。」
「それも人生ですわ。」
「それも人生か・・・・女は恐いな。」
「何かおっしゃいまして?」
「あ、いや・・・何も。」

COSMOSさんからいただいた神龍のイラストにほんの少し手を入れて色づけしたものです。
銀龍と金龍、龍の形になりきれないまま生を受けた金龍は、花の形をしています。
ありがとうございました。m(_ _)m


「ミリア・・・頼む、急いでくれ!ミルフィーを見つけるんだ・・・この世界のどこかにいるミルフィーを・・・ミルフィーを包み込んでいる黄金の花のつぼみを!」
神龍の会話など聞こえるはずもなく、カルロスは必死でミリアを急かす。
「二十歳そこそこに戻って、最初に目にする男に惚れるだと?・・・そ、そんなおいしい話があっていいはずないだろ?・・いや、あってもいいが、それはオレ限定でないといけないに決まってるんだ。・・・だから、ミルフィーが見る最初の男は絶対オレでなくてはならないんだ!今更・・今更、他の男に渡せられるか!渡してなるものか!」
カルロスはこれ以上ないと言うほどの焦りの中、祈りながらミリアの背から地上を見つめていた。必死の形相で、目を皿のようにして黄金のつぼみを捜していた。
「ミルフィーは・・・ミルフィーはオレのものだ。オレの大切な妻なんだ!!」


世界は広い。果たして開花する日までに見つけることができるのだろうか?
そして、カルロスは一番乗りできるのだろうか?

・・・ひとえに、カルロスの健闘を祈って止まない。・・・ファイトだ、カルロス!!

 


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