☆★ その113 異世界のハネムーン?(7) ★☆
-- **黄金龍の助力** --


 「ミルフィー・・・オレは・・・・・オレはどうしたらいいんだ・・ミルフィー・・・」
「カルロス・・・・」
その黒い影の前に座り込み、悲嘆にくれるカルロスを、ミリアは言葉もなく見つめていた。

−ザッ!−
「何するのよ、カルロス?!」
不意に黄金の剣を握りしめ、己の命を絶とうとしたカルロスの手を、ミリアは咄嗟に握って止める。
「止めないでくれ、ミリア。オレは・・・オレはミルフィーのいないこの世になど未練はない・・・・オレは・・」
「バカッ!」
バシッ!とミリアの平手がカルロスの頬を打っていた。
「そんなことをしてミルフィーが喜ぶと思う?何のためにミルフィーは・・・ミルフィーは・・・・」
最後の彼女の言葉から、それがカルロスの命を救う為だと分かった。
「軽蔑するならしてくれ・・オレは、彼女を守れなかったんだ。守ると言ったのに、何があっても守ると・・オレは・・・・・」
「カルロス・・・・」
カルロスのその気持ちは痛いほど分かっていた。が、そうさせるわけにもいかない。ここで同じように悲しみに流されていては、とミリアは歯を食いしばって、カルロスの手から剣を奪う。
「ミリア!」
姿は少女だが、本来は火龍。カルロスの握力に引けは取らない。
「ダメ!渡さないわ!」
涙目で懇願するかのように見つめるカルロスをミリアは心を鬼にして冷たく睨む。


「え?・・・何?」
「ん?」
ミリアが手にした太陽の剣が淡い光を放ち始めていた。
「どういうこと・・・?」
それはゆっくりとミリアの手から放れ、空に浮かんだ。
そしてミルフィーの残した影の上に留まると、光を増す。
−ほわ〜・・・−
「え?」
その床に焼き付いた影のような跡から球体が浮かび上がった。
「カルロス、そしてミリアよ。」
剣が放つ光の中から声が、そして、少しずつ龍の姿が浮かび出てきた。
「我は創世の神龍。銀龍とかの地を創造した金龍。」
やさしく、そして威厳のある女性の声がカルロスとミリアの頭に響いていた。
「我は彼女に心を救われた。再び相まみえることがないだろうと思っていたあの人に、銀龍の心とこうして我が心を通わすことができるようになったのは、彼女のおかげ。そして、今少しで破滅するところだった我が世界を救ってくれたのも
彼女。窮地にあるその彼女を救えずして、何が神龍であろう。」
「黄金龍・・・・」
「カルロスよ、今一度彼女を、愛しい女をその腕に抱きたければ、その球の中を旅するがよい。」
「この・・・球の中を?」
剣の下に浮かぶ直径10cmほどの球を2人はじっと見つめる。
「それはミルフィーの魂。」
「ミルフィーの?」
驚いて再び黄金龍を見つめる。
「確かにその身は汚され完全ではなくとも闇に染まった。だが、魂までは染まってはおらぬ。我が陽の光を受けたミルフィー。その彼女にあの程度では、それはありえない。だが、彼女の心の傷は深い。カルロスよ、お主はこの中でミルフィーを、彼女の心を探し救い出すのだ。闇が心にまで染み込まぬうちに。」
「心を?」
「そうだ。未だ闇の恐怖に囚われている心を見つけだし、お前の愛で癒してやるがよい。そして・・・」
「そして?」
そこで言葉を切り、しばらく黙っていた黄金龍に、カルロスが小さく聞く。
「カルロスよ、お主は、彼女が一度我が世界で死んだ事は知っていよう?」
「はい、水龍の守護騎士、ジャミンから聞き及んでおります。」
カルロスとミリアは膝をつき、じっと黄金龍を見つめていた。
「その時我はまだ眠りの中だった。だが、我が子、水龍のたっての願いで、彼女の肉体を蘇らせた。・・・風龍によって切り裂かれたその身体を。」
「切り裂かれた?」
「そうだ。原型留まらぬほどにな。」
「そ、そんな・・・・」
「時は急を要していた。短時間で肉体を再生し、魂を呼び戻さねばならなかった。故に、我は1つの賭けをした。」
「賭け?」
「そうだ。バラバラになった肉体を合わせつつ、その中から肉片を1つ取ってそこから再生するという2通りの方法を取った。そして・・・魂を戻すのにより早く十分な状態となった肉体を使った。」
「・・・ということは?」
「そうだ。我が元には今一つの肉体がある。彼女の身体が。」
「で、では・・・」
カルロスの顔が希望で輝く。
「そうだ。カルロスよ、その球の中に入り、彼女を見つけるのだ。彼女の心を、魂の真髄を。」
「魂の真髄・・。」
その言葉を噛みしめるようにカルロスは繰り返した。
「今は闇の恐怖とその身に起こった忌まわしい出来事とで固く閉ざしておる。その心を見つけお前の愛で目覚めさせてやるがよい。さすれば、あとは肉体に戻すのみ。」
「分かりました。必ず・・必ずミルフィーを、彼女の心を取り戻してみせます!」
「うむ。よくぞ申した、カルロス。それでこそ彼女の愛した男ぞ。」
黄金龍のその言葉に、カルロスは自信に溢れた視線を返す。
「では、剣を置き、そして鎧を外せ。そは魂の球。武器は持ち込めぬ。」
「はい。」
剣をその腰から抜いて床に置き、カルロスは手早く鎧をはずす。
「火龍族の少女、ミリアよ。」
「は、はい。」
「彼女の心であるその球体の中は凍えておる。少しでも暖かくなるように、そなたの邪を払う火で温めよ。」
「え?・・で、でも燃えません?」
ぎくっとしてミリアは黄金龍と球を見比べる。
「その心配はない。その球は我が龍玉の殻で造りしもの。例え火龍の火であろうとも負けるような事はない。内部まで火が届くことはない。」
「は、はい。」
龍玉の殻と聞き、ミリアはほっとして球を見つめる。
「さて、準備はよいか、カルロス?」
「はい、私はいつでも。」
「うむ・・・無事見つけてくるのだぞ、彼女を。急がねばその心の傷故、魂をも闇に落ちる。猶予は・・48時間程であろう。」
「承知した。」
黄金龍の全身から光が放たれ、その光はカルロスを飲み込むと、彼の身体を覆い、そのまま小さく縮むと、すっと球の中に入っていった。

「カルロス・・・ミルフィー・・・・」
黄金龍もその姿を消した後、ミリアはその身を本来の火龍、全身に火を帯びた身体に、ちょうど全身でその球体を包み込むくらいの大きさになる。
カルロスとミルフィーが無事出会えるように、そして、無事戻って来るようにと祈りを込め、ミリアは前足と後ろ足でしっかり抱き、くるっとその全身でミルフィーの魂を包み込んだ。

 


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