☆★ リュシェロドラ冒険記(12)・おまけ ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#62? f^_^;*
-- わがまま姫君 --


 

 「ねー・・・レイム、どうしてもダメなの?・・ねえ?」
「どうしても、とおっしゃられても・・・」
そこはゴーガナスの奥宮、王女ミルフィアの宮。
澄んだ水を湛える湖水とその回りに植えられた樹木。人工で造られた小さなな湖水風景が見えるバルコニーのある一室。

少し潤んだ瞳で、なにやら頼み込んでいるミルフィアと、困惑しっぱなしの魔導師レイムがいた。

紫檀さんがお絵描き掲示板に描いてくださったフィアと魔導師のレイムです。
ありがとうございました。 m(__)m


「だって・・もうフィーと3ヶ月も会ってないのよ?・・・時々顔を出してくれるって言ったのに・・フィーったら一度も来てくれないんですもの。・・・手紙だって・・一方的に私が出してるだけで・・・・3通に1通・・ううん・・・5通に1通?・・時には10通くらい書いてようやくお返事が来ることもあるのよ?」
「は、はー・・それは分かっておりますが・・・。」
「それに、それによ・・・ようやく来たそのお返事だって、『オレは元気だ。毎日楽しく冒険してる。』なんですもの。それって・・・それって、あんまりじゃないこと?」

ミルフィアは、レイムが書きすぎだと思うほど頻繁に書いていた。しかも、まるで日記のように事細かに書く。それにいちいちきちんと返事をしていたのではたまらない。ぼんやり・・いや、そこまではいかなくとも、のんびりした生活ならまだしも、ミルフィーは、冒険家業を生業としている。毎日が命を賭けての魔物との戦いが付録つきの生活である。時には魔物退治など依頼を受けて旅に出ることもあったが、ほとんどは魔物の住処である聖魔の塔での探索を主としている。塔の近くのトムート村へ戻ったとき、ミルフィアからの手紙があれば、それを読んでほっとはしても、返事を書くことはまた別物だった。それに、ミルフィーはそういった細かいことは面倒らしく苦手らしかった。
それでも、無視し続ければどうなるかは分かっている。しぶしぶだが、3通か5通目くらいには返事を書いていた。簡単にだが。
が、さすがに10通くらい書いてようやく1通、などのような時は、異世界へ飛ばされていて、返事だけでなく読むことも無理だったのである。そして、その事はしばらくそういった生活をしていたミルフィアには容易に想像できたことでもあった。

(だから・・・ご心配なのは、私としても十分分かってはいるのですが・・・・)
これで何度目かのおねだりだろう、天井を見上げレイムは大きくため息をついていた。

「ねー、レイムったら、聞いていらっしゃるの?」
「あ、は、はい、もちろんです。」
少しきつい口調で言ったミルフィアの顔に視線を戻すと、そこには、恨めしそうな表情があった。それ以上断れば、泣きだしそうな表情をその中にレイムには読みとっていた。

「ですが・・・あのような危険なところにミルフィア様を連れていったりしたら、私がミルフィー様から怒られます。」
「レイム?!」
きっと睨んだミルフィアの目は、レイムがまたしても自分を呼ぶのに『様』をつけたことに対する避難の目。
「あ・・・、し、失礼・・。」
「なぜあやまるの?」
「なぜって・・・・あ、あの・・ですから・・・」
「もう!レイムったら、昔っからそうなのよ!」
「な、なにがです?」
「なにがって・・・だってそうじゃない?昔っから・・・昔っから、フィーの言うことばかり聞いて、あたしの言うことなんて・・。」
「いえ、そのような事は決して・・・・ですが、あのような場所にミルフィアさ・・あ、いえ・・ミルフィアをお連れしては、私がミルフィー様から怒られて・・」
「ほら!フィーの言いつけだけをしっかり守ってるってことじゃないの?私のお願いなんて、レイムは聞いてくださらないんだわ。」
「あ!ミルフィアさ・・・」
くるっと向きを変えて走りっていくミルフィアをレイムは呼び止めようとして、また自分の失敗に気づき、言葉を飲み込む。
「・・・・ミルフィアっ!」
そして、慌てて追いかけていく。



「なんだ?今日はフィアじゃなくてレイムからか?」
「あ・・ああ。」
トムート村、老婆の家。そこには依頼を達成し、久しぶりに帰ってきていたミルフィーらがいた。
ぽりぽりと頭をかきながら手紙を読んでいるミルフィーにレオンが笑いながら話しかけていた。
そのレオンに、ミルフィーは顎でテーブルに乗せてある手紙の束を指す。
今ミルフィーが読んでいるのは魔導師のレイムからだが、ミルフィアからのそれは、それでまた別に来ていたのである。
「あれからどのくらい経った?・・3ヶ月とちょっとか?」
「ああ。」
「まーなー・・・それまでがそれまでだったから、フィアの気持ちも分からんでもないが・・・」
「そりゃ、オレだってフィアの気持ちは分かるさ。だけど、いちいち細かくあったこと書けと言われてもなー・・それって冒険記か自伝でも書くようなもんだろ?そんな面倒なことできないっこないって。」
「いや、そこまで行かなくても、日記でいいんじゃないか?」
「オレの日記っていやー、ほとんど冒険だろ?似たようなもんじゃないか?」
レオンの言葉に、ミルフィーは少し口を尖らせて文句を言う。
「ははは・・・まーな。」
「でも、きっと寂しいんですよ。」
奥から飲み物を持って来たレイミアスが、ミルフィアに同情するように言った。
「だから、それは分かってるけど・・・。レイムがいるだろ?一人じゃないんだし、叔父王も2人の仲は認めてくれてるんだから。」
「それとミルフィーとのこととは別なんですよ、きっと。」
「たぶん、あれじゃないか?」
「あれ?」
「ああ。」
顎に手をあて、考えながら答えたレオンの言葉を、2人は待つ。
「だからさ、ミルフィアも一時期冒険家として生活してたし、リュシェロドラでもそうだろ?」
「まーな。」
「で、お前がこれだけ冒険が好きなんだ。一度味を占めたら忘れられないってやつも入ってるんじゃないか?なんつっても双子だからな。性格も似てるようだし。」
「・・・う〜〜〜ん・・・・かといって、フィアには危険なことはさせたくないんだ。」
「それは分かるが・・・いいじゃないか、お前に会いに来るくらい?」
「う〜〜ん・・・・」
「何か問題があるのか?」
「だからさ・・・レオン、今言っただろ?」
「オレが?」
「そ。つまり、顔だけじゃなくってさ、確かに性格もそっくりなんだよ。」
コクコクとレオンとレイミアスは、改めて言ったミルフィーの言葉に頷く。
「でー・・・オレがフィアに弱いってこと、レオンもレイムも知ってるだろ?」
再び、コクコクと2人は頷く。
「だからさー・・・会ったら最後、一緒に来たいって・・・・」
はっとレオンとレイミアスはそのことに思い当たる。
そして、その場面を想像する。容易に押し切られてしまうミルフィーと魔導師レイムの図。
「そりゃ、オレとレオン達がついてりゃ、危険な目になんか合わせやしない・・・しないけど・・・」
いつ何がどう起こるか分からないのが聖魔の塔。
2人は、またしてもコクコクとミルフィーの言葉に頷く。

「レイムと一緒なんだからさ〜・・・・なんで落ち着いてくれないのかな〜?」
魔導師レイムからの手紙とミルフィアからの数通の手紙を両手に持ったまま、ミルフィーは天井を見上げる。
「つまり・・・刺激が欲しいってとこだな。」
「それと、やっぱり恋人と、双子の兄であるミルフィーとでは違うんですよ、きっと。」

「どうしよ?」
「どうしよったって・・・」


−バターーンッ!−
「フィー!!」
「え?フィ、フィア?」
不意にドアが開いたと同時にミルフィーの首に巻き付いた人影は、まぎれもなくミルフィア。
「き、来ちゃったのか?フィア・・・・?」
「だって、フィーったら、ちっともお返事くれないんですもの。」
戸口には、苦笑いをし、頭をかいた魔導師のレイムが申し訳なさそうに立っていた。
「叔父王は?・・きちんと許可はもらったのか?」
「大丈夫よ。だって、向こうが夜のうちだけよ。」
「は?」
「だからね、叔父王に心配かけずに、フィーと冒険できる方法を思いついたの。」
「は?」
ふふっっと軽く笑い、ミルフィアは得意そうに続けた。
「日帰り冒険家するの。ゴーガナスとはちょうど12時間時差があるでしょ?」
「あ、ああ。」
「毎夜とは言わないわ。時々でいいの。私もフィーと冒険したいの。だから・・ね・・・?」
「だから・・って・・・・フィ、フィア・・・?ち、ちょっとレイム・・なんとか言ってやってく・・・」
が、その助け船を求めた魔導師のレイムは、ミルフィアをここへ連れてきたことで、すでに白旗をあげたことを意味していると思いつき、ミルフィーは、言葉を途中で切った。


「さてと・・今回の探検は、少し荷物多めだな?」
「そうですね。フィア用の簡易テントとか折り畳みのイスとか・・。」
「キャンプに行くってんじゃないんだぞ?」

そうそうにおねだりの結果をはじき出して準備を始めたレオンとレイミアスの背中に、ミルフィーの困惑しきった声が響いていた。
今までは手紙だったからこそまだ断れた。が・・・面と向かっておねだりされては・・・魔物には抜群に強いミルフィーも、ミルフィアには・・・弱弱である。特に彼女のおねだりモードには。

「嬉しいわ、ありがとう♪レオン、レイム♪」
・・・・もちろん、レオンもレイミアスもその例外ではない。
2人のその行動と言葉で、それが何を意味するかわかったミルフィアは、ミルフィーに言うより先に2人に礼を言った。喜びで顔を輝かせた最高の笑顔で。

「ちぇっ・・・なんだよ、自分たちばっかりいい顔しやがって・・・・。」
自分に向けられるはずのミルフィアのその笑顔と感謝の言葉・・・それをひょいと横取りしたレオンとレイミアスを、ミルフィーは思わず恨めしげに睨み付けていた。

 


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