☆★ リュシェロドラ冒険記(13)・おまけ2 ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#63? f^_^;*
-- ミルフィアとレイム --


 
紫檀さんが描いて下さったミルフィアです。
ありがとうございました!

「ねー・・フィー・・・あたしね・・あたし・・」
「ん?なんだい、フィア?」

そこは、聖魔の塔内にあった転移のトラップにかかって飛ばされた街。幸いにも全員一緒に飛ばされ、そして、そこの景色が気に入ったミルフィアの為、ミルフィーたちは山間の小さな街でしばらくそこでゆっくりすることにしていた。
異世界なのか、あるいは、同じ世界だが、ミルフィーたちの知らないところなのかは、判断できなかった。
が、帰ろうと思えば、ミリアを呼んですぐ転移ができることもあり、平和なその街で彼らは久しぶりにのんびりと休息をとっていた。

「あ、あのね・・・あの・・」
言いにくそうに口ごもるミルフィアの手をとり、ミルフィーはにっこりを微笑んで、彼女を落ち着かせる。
「あたし・・・・」
「レイムのこと?」
言おうかどうしようか迷っていたミルフィアは、ミルフィーのその言葉にはっとして見上げる。
「フィー・・・」
「レイムはやさしすぎる?」
「フィー・・・」
軽く頭を横に振ってミルフィアはミルフィーと視線を合わせたまま話し始める。
「笑わない?」
「誰がフィアのことを笑うっていうんだ?」
ふふっと軽く微笑み、迷いを振り切ってミルフィアは続けた。
「レイムは・・やさしいの・・ううん、それはいいの。でも・・・昔と少しも変わらないわ。まるで・・・昔の通り・・・あたし、思ったの。ひょっとしてあたしが想いを押しつけてるだけなんじゃないかって・・。」
「押しつけてる?フィアが?」
こくん、と首を縦に振り、ミルフィアはミルフィーから視線を外す。
「あたしが好きなようにレイムはあたしのことを好きなんじゃないかもしれないって。」
「フィア、そんなことは・・・」
「ううん。・・・だって、恋人らしいことなんて何一つ・・、いつまでたっても主人と守り役でしかないみたいなの。・・・あたしを好きだって言ったのだって、あたしがレイムを好きって言ったから・・・レイムは断れないだけじゃないのかって・・。」
ミルフィアの肩をそっと抱き寄せてミルフィーは口調に力を込めて言う。
「そんなことはないよ。レイムはそれだけの理由で、言うとおりになんてならないよ。主従関係だとしても、心は自由なんだから。」
「フィー・・」
「大丈夫。レイムは本当にフィアの事が好きだよ。心配ないよ。フィアの考えすぎだよ。」
「そう・・かしら?」
まだ不安そうなミルフィアに、ミルフィーは絶対だと笑顔で答えた。


そんな事があった翌日、事件は起こった。

「ミルフィア・・・・」
「え?」
その夜、宿から出て夜風に一人吹かれていたミルフィアに誰かが声をかける。
夜空一杯に輝く星を見つめていたミルフィアは、その声に振り返り、小さく呟く。
「・・・あ、あな・・た・・?」
それは、ゴーガナスの城で一時ミルフィアの身辺警護の任についていた男だった。そして、主従関係を無視し、無礼にも王女であるミルフィアに言い寄ってきた男。
「覚えていてくれたのか・・・」
名前こそ呼ばれなかったが、覚えているようなミルフィアの態度に、男はにこっと笑い、手を差し伸べながらゆっくりとミルフィアに歩み寄る。

「おい!ミルフィー、あいつは?!」
ちょうどその時、レオンと共にやはり宿から出てきたミルフィーが、その場面を見つけて青くなる。
「あいつ・・・」
カッとなり、ミルフィアのところへ駆け寄ろうとしたその時、ミルフィーのその背後から風のように追い越していった影があった。

「何者です、あなたは?ミルフィアに何の用なのです?」
「レイム・・・・」
カルロスがミルフィアに触れられる位置まで行くその直前に、その影は、彼女の肩を抱き、ぐっと引き寄せていた。
そう、その影とは誰あろう、魔導師レイム、ミルフィアの恋人であり婚約者。
どうしようかと困惑していたミルフィアはほっとして小さくレイムの名を呼び、それと同時に、離れたところでやはりその様子を目にしていたミルフィーもほっとして同時にレイムの名前を呟いていた。

紫檀さんが描いてくださった怒れるレイム。
ありがとうございました。m(__)m


「貴公は?」
「その前にご自分の名を名乗るのがスジというものではありませんか?」
「あ・・レイム、私、話さなかったかしら?リュシェロドラへ行く前、短期間だったけれど、私の身辺警護の任についていた騎士がいたって・・・」
「なるほど・・・あなたがその騎士ですか・・・しかし、その任はとっくの昔に解かれ、あなたは国を出たはずです。そのあなたが今頃何の用があってここへ?」
覚えていると笑顔でミルフィアに答えてから、レイムは再び鋭い視線を男に向けた。
「あ、いや・・・ここへ来たのは偶然だが・・」
そして、誰あろう、その男は、読者様にはすでにおわかりの(笑)・・あのカルロスである。
やはり聖魔の塔から偶然飛ばされ、そしてまたまた偶然、ここでミルフィアの姿を見つけ、神の引き合わせなのだろうと、いつもの調子で思いこみ、周囲の事も忘れて声をかけてしまったカルロスであった。そう、しかも任はとっくの昔に解かれ、主従関係は消滅している。遠慮することは何一つないのである。
「・・・・・」
双子の兄であるミルフィーしか近寄らせないはずだったミルフィアが、魔導師らしい男の腕に大人しくおさまっているその様子がカルロスには腑に落ちず、思わず無言で二人を見ていた。
「私はレイム。ミルフィアの婚約者です。彼女に用がおありでしたら、私が承ります。」
「は?」
寝耳に水、カルロスにとってレイムの言葉はまさにそれだった。
「こ・・ん・・約・・者?・・貴公が?」
「レイム?!」
そして、いつも落ち着き払い、どちらかというと幼いときからの守り役の延長といった感じのレイムが、明らかに不愉快そうに、そして、警戒色強くカルロスを睨みつけていることにミルフィアは嬉しさを感じて見上げる。
いつも穏やかに微笑んでいるその顔は、きりっと引き締まり、彼女の肩を掴んでいる手にはぐっと力が込められている。いつも控えめに自分を抑えているレイムが、確固とした威を示してそこにいた。
「なるほど・・・婚約者か・・・・ならば・・・」
ふっと笑い、即断したカルロスは、片方の手袋を外してレイムの足下に投げつけた。
「一人の女に男が二人・・・これしかないだろう?」
「あ、あいつ・・・なんて身勝手なっ!」
−ぐいっ!−
慌ててその場へ飛び出そうとしたミルフィーをレオンが引き留める。
「なんだよ、レオン?」
「いいから・・・こうなったら他人がしゃしゃり出る事じゃないだろ?」
「誰が他人なんだよ?フィアのことだぞ?!」
「まー、いいから、ちょっと頭を冷やせ!」
「レオン?!」
実のところミルフィーは気が気ではなかった。
ミルフィアからレイムのことを相談されたときは、大丈夫だとは言ったものの、彼女の懸念も全く感じないわけではなかったからである。端から見ても、2人の間柄は、恋人同士と言うより、王女と守り役、主従関係のままにみえた。
そして、仮にそれが事実だったとしたら・・・カルロスの真剣な気持ちの前に身を引いてしまうかもしれない、そう思ったのである。レイムがお人好しであるということ、そしてカルロスの真剣な気持ちは、嫌と言うほどミルフィーも分かっている。
心配にならないという方が不思議なのである。何よりもミルフィアが恋しているのはレイムなのだということも、ミルフィーには良くわかっている。
「頭を冷やせって・・・レオンだってカルロスの剣の腕は知ってるだろ?」
「ああ。」
「なら離せよ!」
ぐっとミルフィーの腕を掴んだレオンのその手を振りほどこうとした時だった。

−ビュオ〜〜〜!!!−
「ん?」
それは一瞬の事。ミルフィーが一瞬レオンの顔を見たその瞬間だった。
不意に強く吹いた風の音がし、ミルフィーもレオンも咄嗟にミルフィアら3人の方を見た。

−ヒューーーーーーー・・・・・−
「・・・・・・・・」
ミルフィーとレオンは目を丸くしてそれを見ていた。
それは・・・・剣を抜こうとしたカルロスが一瞬にして空高く吹き飛ばされた光景だった。

レイム!?」

紫檀さんが描いてくださいました。
ありがとうございました。m(__)m


「大丈夫です。隣の山まで飛ばしただけです。着地の時多少は怪我をするかもしれませんが、命に別状はないでしょう。」
「で、でも・・」
「でも?・・・ミルフィアは私よりあの男の方を心配するんですか?」
「あ、い、いえ・・・そういうわけじゃ・・・」
きつい視線で見たレイムにミルフィアは思わずどきっとする。
「婚約者だと私が名乗っているのに、その上、あなたの気持ちも確認せずに、一方的に私に決闘を申し込むような野蛮な・・不躾な輩なんですよ?」
「野蛮・・・そ、そうね・・・・」
いつだったかゴーガナスの温室にいたとき、不意に迫られたことをミルフィアはその事を思い出していた。
「ミルフィア?!」
「は、はい?」
うつむいてその時の事を思い出していたミルフィアははっとしてレイムを見上げる。
「いいですか、これだけは覚えておいてください。私はあなたに害をなそうとする者は、たとえどのような人物でも容赦しません。・・・そして・・・」
「そして?」
そっとミルフィアの頬に手を滑らしながらレイムは付け加えた。
「私からあなたを奪おうとするものは・・・何人たりとも・・例え1歩といえど、あなたに近づけさせるようなことはしません。」
そう言ったレイムの表情は、少し前までの険しさはどこにもなく、いつもの穏やかでやさしい微笑みを湛えた表情に戻っていた。
「レイム!」
「ミルフィア。」
ぐっとミルフィアを抱きしめ、レイムは付け加えた。
「私は二度とあのような思いはしたくありません。・・二度と・・あなたの傍から離れるようなことはしません。」


「まー、なんだな・・・あいつが出てきてくれたおかげで、レイムもはっきりと認識したってとこか?」
「そうなる・・・だろうな。」
遠くでレオンとミルフィーが頷き合っていた。
「・・・さてと・・邪魔者は消えんとな・・・」
「あ、ああ・・・。」

「ほら・・いつまで見てんだよ?」
「ととっ・・・そんなに勢い良くひっぱらなくてもいいだろ、レオン?転ぶところだったじゃないか?」
「お前がぐずぐずしてるからいけないんだって!」
「何がいけないんだよ?!」
「いいから!2人だけにしてやれって!」
今にもミルフィアのところに駆け寄っていくか、あるいは、いつまでも見続けていそうなミルフィーの腕を、レオンはぐいぐい引っ張って、その場を離れていった。


翌日、ミルフィアの提案でミリアを呼び、ミルフィアとレイムはゴーガナスへ帰り、そして、ミルフィーたちはトムート村へ帰った。



そして、数週間後・・・・
「おばば!フィアからの手紙は?」
塔から戻り、老婆の家の玄関を開けるやいなや、ミルフィーが叫ぶ。
「ほ?・・・・来てないぞい?」
「嘘だろ、おばば?からかうなよな?1週間も空けてたんだぞ?」
「嘘など言っておらんわい。」
あの時以来、ミルフィーを悩ましていたミルフィアからの手紙は、もはや以前のように来ることはなかった。もちろん、夜の間の冒険にも来るようなことはなかった。


「オ、オレ、一度ゴーガナスに帰る。レオン、ミリア呼んでくれないか?」
真剣な表情でレオンに頼むミルフィー。そして、そんなミルフィーを面白そうに、呆れたように見つめるレオンと老婆。
「これからは気楽に目一杯冒険を楽しむんだろ?」
「だけど・・・」
いい加減にシスコンは卒業するんだな、と言っているようなレオンの顔に、ミルフィーはぶすっとする。
「わかってるって!オレだって何もフィアの幸せを邪魔しようと思ってんじゃないんだぞ?!ただ・・・」
「ミルフィー、次の仕事が入りましたよ。今回は異世界での捜し物ですからね。ちょっと長期間になるでしょうね?」
ひょい!とそんなところに顔をだしたレイミアスが叫ぶように言う。
「異世界で?」
「そこへ行く為のトラップがある場所は分かってますから、すぐ出発しましょう。依頼主も急いでいるようですから。」
「わーったよ。行けばいいんだろ?行けば?」

お絵描き掲示板で描きました。


「おお〜〜〜!!絶景〜〜!!!!」
トラップを介して出た世界。そこで、最初に目に写ったその景色に、ミルフィーは驚嘆の声を上げていた。
「わ〜〜〜、すばらしい眺めですねー。」
そう相づちをうちながら、レイミアスはレオンと顔を見合わせて微笑む。
(やっぱりミルフィーには見ず知らずのところの冒険が一番ですね?)
(これで、しばらくはミルフィアのことも忘れてるだろ?)

「なに、もたもたしてんだよ?行くぞ!!」
「お、おう!」
早くも急な斜面を駆け下り始めていたミルフィーの後を、彼らは慌てて追いかけた。

 
*** The End *** 


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