☆★ リュシェロドラ冒険記(10) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#60 f^_^;*
-- 再会 --


 

 「おお〜〜・・絶景かな〜〜〜〜」
「ホント、素敵な景色ね。」
ミルフィーたちは、眼下に広がるリュシェロドラを見つつ、快適な空の旅は続いた。

−シュ〜〜・・・・パサッパサッパサッ−
見た目はおおざっぱそうに見えた龍人。が、目的地に着くと、なんとも細かい気配りで、ミルフィーたちの乗った駕篭に衝撃がないようにと、ゆっくりと柔らかく地上へ降ろしてくれた。

「ありがとう、ガーシー。」
「いや、妹を助けてくれたお礼だ。気にするな。」
−バサッバサッバサッ!−

龍人達が遠くへ飛び去っていくのを見送った後、ミルフィーたちは、いかにも癒しの社(やしろ)らしい雰囲気、神聖な気が中からにじみ出ているように感じる真っ白な建物の中へと入っていった。

死んだと思ってたレイム、魔導師のレイムに会える?ミルフィーもミルフィアも、期待と不安とそして興奮状態。その鼓動が聞こえるほどの高鳴りをみせる心臓を押さえるように、一歩一歩歩いていた。話すことも忘れて。

−ギギギーーーー・・・−
正面の扉を開けて中へと入る。そこはちょうど教会のような造りになっていた。左右に並んだ長イスと机、中央に明けられた通路の先には、祭壇らしきものがある。
ドーム型のその内部は、祭壇の真上に位置する天窓、そして、両側の窓のステンドグラスからの淡い光を受け、やさしい光を全体に帯びていた。
祭壇の前には、厳かに立つ龍神の彫像があった。

「・・だ、だれもいないのかな?」
「そう・・ね。・・・・・・」
正面の入口以外、他にドアも見あたらない。しーーんとした静けさに包まれたそこに人の気配はなかった。
「・・フィア・・・」
つい今し方まで期待で輝いていたミルフィアの瞳が曇っていた。
「ほ、他の社へ行ってみよう。」
「そ、そうですよね。そうしましょう。」
「ああ、そうしようぜ。近くにある転移の祠ですぐ行けるんだったよな?」
ミルフィーの言葉に弾かれたように、レイミアスとレオンが言葉を続けた。

が、その転移の祠は、転移するにはするが、どこへ飛ぶのかわからないというものらしかった。
壁もなく、黄金の円柱に囲まれそこには、床の中央に魔法陣が描かれてある。転移先を決めるようなスイッチらしき物も何もなかった。
が、ともかく、祠の近くに癒しの社があるということは助かった。そこから数日かかるのと、目と鼻の先にあるのとでは雲泥の差である。

1度目は砂漠のどまん中。2度目は岩場、3度目は、最初のところ、そして、4度目に、吹雪のまっただ中へ出た。

−びゅ〜〜〜〜!!−
「さぶっ!」
出た瞬間全員身を縮ませて震えていた。
1歩先も見えないこんなところでは、近くにあったとしても社まではいけない、と思っていたとき、不意にほわっと周囲が温かくなり、そして、その猛威を意気揚々と鼓舞するかのように吹雪いていた吹雪がやんだ。
「あ・・あれ?」
「どうなってんだ?」
「吹雪が酷すぎるので、あまり長くは効いていないと思うんですけど。」
遠慮がちにいったレイミアスの言葉に、全員彼に注目する。
「あ・・あはは・・・みんなで見ないでくださいよ。ごめんなさい、ぼくの力ではこれが精一杯で。」
「レイム・・お前、こんなこともできるのか?」
「あ・・・そ、そうですね、これも聖龍の法力の一部らしいです。」
「らしいって・・」
「できると思わなかったんですよ。でも、あの吹雪では到底社まで行けそうもなかったから・・もしも吹雪を止められるのならって・・・」
「レイム、ありがとう♪」
「あ、い、いえ、天候まで変えられるとは思わなかったんですけど・・でも、やってみる価値はあると思って・・・。よかった、できて。」
「話は後にして、社まで急ごうぜ。あまり効き目は長続きしないんだろ?」
「あ・・はい。」


転移の祠の真後ろに癒しの社はあった。

−ギギギギギーーー・・−
「おい、どうしたんだ、ミルフィー?早く入れよ。術の効き目がきれて吹雪いてきたぞ?」
正面の戸をあけ、1歩入ったところで立ち止まったミルフィーの背中を押した。
「おいっ!」
入口まで来ている。再び吹雪いてきても全員くっつくようにしているのだから、迷子になることはないが、それでも、中に入った方が安全ではある。
が、入口に立ちふさがった感じで突っ立っているミルフィーは、動こうともしない。
「どうしたの、フィー?」
レオンの後ろについていたミルフィアが、レオンと変わってミルフィーの後ろから中をのぞき込み、そのミルフィアもそこで硬直してしまう。2人の視線は、まっすぐ部屋の奥へと注がれていた。
「・・・フィー?・・・・その・・声・・は・・・・・」
そして、ミルフィアの声に敏感に反応し、部屋の奥で祈りをあげていたらしいフードを頭からすっぽり被った僧侶らしい人物が、小さく呟きながら、ゆっくりとミルフィーたちの方を振り返った。

「あ・・・・・・」
少しずつ見えてくるその横顔には、確かに見覚えがあった。
面長の顔立ち、切れ長で涼しげなそして優しげな緑の瞳。金髪。それは、年月のせいで多少違っているとはいえ、確かに魔導師レイムのもの。
小さく呟くとミルフィアは、ミルフィーの影から飛び出していた。
「レイム!」
「ま、まさか・・・まさか・・ミル・・フィア・・さ・ま?・・・ど、どうしてここへ?」
そして、そのレイムにとっても、年月せいで大人びてはいるが、入口に立っているのは、確かに見知った顔。片時も忘れもしない主人の面影を持つそれ。
「レイム・・やっぱり・・やっぱりレイムだったんだ。」
「ミルフィー・・様?・・・お、お身体を・・・・?」
ゆっくりと近寄ってきたミルフィーにレイムは驚きの表情を隠せなかった。
「レイム!見つかったの、フィーの身体。それから、あたしも・・・」
「ミルフィア様。」
ミルフィーから涙を流して喜んでいるミルフィアへと視線を移しながら、レイムはあまりにも唐突なそして、予期しなかったこの再会に、我が目を疑って呆然としていた。
「信じられないのも無理ないよな。だけど、夢でも幻でもないんだ。」
すっと差し出したミルフィーの手を、レイムは恐る恐る自分の手を差し伸べて・・にぎった。
「ミルフィー様。」
「レイム。」
そして、その上に、ミルフィアが自分の手をそっと重ねる。
「ミルフィア様。」
その2人の手の温かさに、ようやくレイムは、目の前の奇跡が現実のものだと確信した。
「オレだって、死んだと思ったレイムにこうして会えるなんて思いもしなかった。いや・・生きてると思ってた。絶対生きてると。」
「ミルフィー様。」

すん!・・・後ろで感動の再会を見つめるレオンとレイミアスも、もらい泣きしていた。


「それにしても、たくましくなられて・・・ミルフィー様も・・ミルフィア様も・・あ・・し、失礼しました。」
感動の再会も落ち着き、全員机を挟んで向かい合ってイスに座り、レイムの炒れてくれたお茶を飲んでいた。
「ふふっ♪いいのよ、フィーが弱かったあたしの身体を鍛えてくれて、強くしてくれたの。あたしもね、結構剣が使えるのよ。」
「え?ミルフィア・・様が・・ですか?」
「そうよ。見てこの力こぶ!」
「フィア!」
腕まくりをしてふん!と力を入れてみせたミルフィアをミルフィーがたしなめる。
「あら、だって鍛えてくれたから、こうしてフィーの身体も戻ったし、レイムにだって会えたんですもの。自慢したって悪くないと思うわ。」
「だけど、女の子が・・」
たとえそうすることが必要不可欠だったこととはいえ、少女の身体なのに、鍛えすぎてしまったとミルフィーは後ろめたさも感じていた。
「ううん。あたしは、フィーが鍛えてくれたこの身体がとっても自慢なの。」
「そうです。十分自慢に値するものですよ。」
「だ、だけど・・・・」
「フィーったら・・まだ気にしてるの?」
「あ・・・ああ・・。」
「それにね・・・」
くすくすっと何か思い出し笑いしたように笑いを零しながらミルフィアは付け加える。
「単なるお飾りのお姫様だと思って言い寄ってくる男の人を追い払うのには、もってこいなのよ。」
「もってこい、だなんて、フィア・・・言葉が悪いぞ?」
「あらっ!フィーったら自分の事は棚に上げて、あたしにばかりお姫様を押しつけるなんてずるいわ!」
「フィアは女の子なんだぞ?」
「男の子ならいいっていうの?そんなのずるいわ!差別よ!」
「さ、差別って・・フィア・・・・」
「ははははは・・・相変わらずミルフィア様には弱いようですね。」
「あ・・・ははは・・・・・」
照れ笑いするミルフィー。そして、全員が明るく笑っていた。


そして、お互いそれまでの経緯を報告しあい、今後の事を話し始める。
「だからさ、フィアはレイムとゴーガナスへ帰って、オレたちは引き続きここでソルジェムの探索を・・」
「ダメよ!フィー!」
「ダメって・・フィア。だから前から言ってるだろ?危険なんだぞ。何が起こるかわからないんだ。」
「ダメよ、乗りかかった船っていうでしょ?」
「フィア!」
「それに、何でも力任せに解決しようとするフィーじゃだめよ。ジッポの時だってガーシーの時だってそうだったでしょ?」
「う・・・・・」
「そうですね、ミルフィア様の言葉も一理ありますね。」
「レイムまで・・・」
「未知という不安にかられて取った行動が、お互いを深い誤解の中へと落としてしまったといえば、そうなのですから。」
「それはそうだとしても・・・・」
できればミルフィアは安全なところへ戻したい、それがミルフィーの本心だった。
が・・・・
「ソルジェムは、彼ら龍人にとっても伝説的なものなのです。」
「龍人にとっても?」
「そうです。」
話題を変え、レイムは続ける。
「そのティアさんのお兄さんを生き返らせるという新たなる目的ができたことですし、私も今まで続けてきた捜索を中途半端のまま帰りたくはありません。それに、一部にですが、龍人たちにもドワーフたちにも私の顔は知られています。歓迎とまでいかなくとも、出会った瞬間、即敵対行為に出るということはなくなるでしょう。」
「ね、フィー、いいでしょ?今までどおりフィーが守ってくれて、そして、これからはレイムもいるんですもの。」
「そ、そうだな・・・・」
自分の意見を押し切る材料がなくなってしまっていた。

「しかし、聖龍の法力とは、すばらしいですね、レイミアスさん。」
「あ・・い、いえ、ぼくは・・・」
「なにが『いえ、ぼくは』だよ?お前は控えめすぎるんだよ!」
コツン!とレオンがレイミアスの頭を小突く。
「ですが、おそらくその控えめさがあったことで、法力を得ることができたのでしょう。」
「そ、そうなんでしょうか・・・」
レイミアスは、レイムに褒められすっかり照れてしまっていた。
「その法力は使えるかもしれません。」
「え?」
やさしい微笑みから、真剣な表情へ移ったレイムのその瞳に、レイミアスはどきっとする。
「この龍人の地には、地上ではなく、天空にもまたその住居エリアがあると聞きます。」
「天空?」
「そうです。」
照れて赤くなっていたレイミアスの表情も真剣なものに戻っていた。
「そこには天空城があり、その昔、龍人として地に下りた種族より神に近い種族が住んでいるとも聞いております。」
「神・・・」
「ですから、彼らならひょっとしたらソルジェムのことを何か知っているかもしれないのです。ですが・・天空城へ行くため、親しくなった有翼種の王族に頼んではみたのですが、常に悪天候に守られているそこへは、たとえ空を飛べたとしても、辿り着くことはできないと言われました。」
「それとレイム・・あ、いや、レイミアスの法力とどう関係があるんだ?」
「だから、さきほど転移の祠からこちらに来るまで術で吹雪を押さえていたとおっしゃいましたよね?」
「あっ!」
「たとえ、天空城に住む龍人の意思による作られた悪天候だとしても、聖龍の法力なら対抗しうるのではないかと思ったのですが。」
「そうだな、ひょっとしたら上手くいくかもな。ミリアは・・まだ当分飛龍への変身はできないらしいが、ガーシーに頼めばなんとかしてくれるんじゃないかな?」
「そうよね、ガーシーに頼めばきっと協力してくれるわ!」
レオンの言葉を受けて、ミルフィアが嬉しそうに微笑んだ。
まるっきりの暗闇での手探り状態だったのが、一気に明るくなった気がした。


が・・・龍人の地は、そのガーシーの妹、ホーシーの城急襲・・ミルフィーたちも目のあたりにしたその惨状をきっかけに、不穏な空気が流れ始めていた。



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