☆★ リュシェロドラ冒険記(9) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#59 f^_^;*
-- 天然テンプテーション(魅惑の術)? --


 

 −ギギーーーーー・・・−
「ん?」
ミルフィーたちが必至になってたった一人助かりそうだった龍人を看病していた時、不意に玄関の扉が開き、全員の視線はそこへ集中した。
「で、でけぇ〜〜〜・・・・」
扉が開ききり、背に陽の光を受けてそこに立っていたのは、巨大な緑龍。
咄嗟にミルフィーは剣を手にし、レオンは杖を構えて看病していた龍を庇うようにして立ちはだかる。
「ホーシー・・・・」
傷つき倒れている龍、ミルフィーたちが看病していた龍と彼らを一目見ると、緑龍の赤い瞳が一層激しく燃え上がった。低く唸るような声で小さく呟いたかと思った次の瞬間、大きく開けられたその口から炎が踊り出てくる。
−ごあっ!−
勢いよく燃えさかる巨大なそれは、確かにミルフィーたちを狙っていた。
が、その炎がミルフィーとレオンを飲み込む直前、倒れている小山のような龍の影からジャンプするようにミリアが飛び出、あっという間にまるで吸い込むようにそれを飲み込む。
「な?」
それにはさすがの緑龍も驚いて目を丸くする。小さな身体の人間、その人間の中でも一際小柄と思えるミリアが一瞬にして、しかも、炎を飲み込んだのである。驚かない方が不思議というものでもあった。
−ガチャ!−
炎が効かないと判断した龍は、次の瞬間、腰ベルトに手をかけ、大剣を抜く。
「ミリア!」
そして、瞬時にその行動に対応し、ミルフィーがミリアの前へ出る。
大きさではとてもではないが叶いそうもない。が、同じように剣を抜いて対峙するミルフィーの気迫は決して負けてはいない。


−!−
お互いじっと相手の目を睨んで攻撃の瞬間を待っていた。そして、機は満ちた!と攻撃をしかけようとしたその真ん中に小さな影が躍り出た。
「うおっ・・・」
「ん?」
慌ててその行動にブレーキをかける緑龍とミルフィー。
そして、2人の間に両手を大きく広げて立っている人物を見て驚く。
「ミルフィア!」
咄嗟に自分の方へ引き寄せようとするミルフィーに、下がらないと言う意思表示をその背中で表し、ミルフィアはじっと巨大な龍人の瞳を見つめる。そして、攻撃してこないと悟ると、彼女は両手を顔の前で合わせる。祈るように、そして懇願するように。
「あたしたち敵じゃないわ。ホントよ。信じて!」
「ミルフィア!」
そんな事を言って通じる相手じゃないとミルフィーは彼女を呼ぶ声に乗せて叫ぶ。
「ううん。フィー。ここで敵と決めつけちゃいけないわ。ジッポだってそうだったでしょ?」
が、ドワーフと龍人とでは違いすぎる。甘いことを言ってたのでは瞬時にして殺されてしまう。
自分に背中を見せたまま、じっと龍人を見つめているミルフィアをできれば引き寄せたかったが、そうはさせてくれそうもない気配が、そこにはあった。
強情なところは兄妹似たもの同士なのである。こうと思うと絶対引かない。

「どう信じろというのだ・・・この状況で?」
しばらくじっとミルフィアを見つめていたその緑龍は、部屋一杯に響く声で言った。
「確かにそうだけど。でも、あたしたちが来たときには、もうみんな倒れてて・・・急いでまだ息があった人たちを診たんだけど・・・・」
ミルフィアはちらっと倒れている龍人を振り返った。
「この人以外はみんな・・・・」
悲しそうに目を伏せるミルフィアを緑龍はじっと見つめていた。
「あたしたちの回復魔法じゃ効かなかったの・・だから・・・助けることができなかったの・・・だから・・この人だけでもって・・あたしたち必至で・・・・」
くるっと再び緑龍を見上げたミルフィアの瞳には涙がたまっていた。
「あたしたち襲おうと思って来たんじゃないわ。お願い、分かって!」

−ズズ・・ン・・−
じっとそんなミルフィアを見つめていた緑龍は、不意に大きく右足を上げると勢いよく床に下ろした。
−パラパラ・・・ガララララ・・・−
戦闘のためか、所々天井や壁、柱などが崩れかかっていた。それらが、その振動で剥がれ落ち始める。
「あっ!」
「いかん!」
その瓦礫が倒れている龍人の上に崩れかかってきていた。思わずミルフィーもレオンもそして、ミルフィーとミリアも、身動きの出来ないその怪我人をかばおうと駆け寄る。
「あ・・・そ、そっか・・・レイムがいたっけ。」
あはは、とミルフィーは苦笑いする。
そう、魔法体系が違うという理由で、ミルフィーたちの回復魔法は効かなかったが、防御魔法は効くはずなのである。
そこは瞬時にして見えない保護シールドによって守られていた。



「だから〜、いくらあたし達が敵か敵じゃないか判断するためだって言っても、妹さんを傷つけるつもりだったの?しかも、彼女は瀕死の重傷を負っていたのよ?」
「い、いや・・そっちのチビのかけた防御魔法の方が早かったが、わしも、妹の上に落ちる直前シールドを張るつもりだったんだ。それに、後から回復魔法をかけるつもりでもあったんだが・・・。」
「つもりだったかもしれないけど、実の妹にそんなことしようとするなんて・・・」
「あ、い、いや・・すまん・・ホントに・・・。」

1時間後、城の惨劇がなかった部分、その1室で、彼らは同じテーブルを囲んでいた。
そして、イスに座った緑龍の目の前、自分の腰に手を充て厳しい顔で意見しているミルフィアの姿があった。
「フィア・・・もういいじゃないか・・なんともなかったんだし。」
「よくないわっ!ホーシーさんの身にもなってみて。心から信頼していたお兄さまがそんなことするなんて!」
「い、いや、だからさ、フィア?」
「あら、じゃー、フィーもさっきのような場合、あたしの上に柱を倒すっていうの?」
「あ、いや・・これとそれとは・・・」
「これとそれとは・・・・なーに?」
「だ、だから・・フィア・・・あ、あの・・・」
「がっはっはっはっは!」
ミルフィアの怒りの前でどう答えようかとうろたえるミルフィーに、緑龍は大笑いした。
「あ、いや、悪い。ホントに悪かった。反省しておる故、許してくださらぬか?」
そして、笑ったことにより、その怒りに燃えた瞳が再び自分に向けられ、緑龍は頭を低くして謝る。
「まったく、そなたの言う通りだ、ミルフィア。ホーシーが気づいたら心から謝るから、それで許してはくれまいか?」
「もう二度としないと誓います?」
「誓う。二度とあのような事はしない。」
「ならいいわ。」
にこっと笑ったミルフィアの笑顔に、ようやく緑龍は、そして、ミルフィーもほっとした。


崩れ落ちてくる壁や柱の前、ミルフィー達が倒れていた龍人をかばったことで、敵ではないと判断した緑龍。
(敵ではないと)分かったと言った時、投げかけられた心からの笑顔、親愛を込めたそのミルフィアの笑顔に緑龍は一層核心を持った。と共に、ミルフィアに惹かれた・・・のかもしれなかった。
ともかく、緑龍は倒れていた龍人に回復魔法をかけ、城の奥へと彼女を運びつつ、ミルフィーたちを案内したのである。
そして、共にテーブルにつき、ともかく落ち着いて話し合うためお茶をという展開になったのだが・・・一つ聞いてもいいでしょうか?から始まったミルフィアの質問は・・・徐々に熱を帯び、きつくなってきていたのである。

倒れていた龍人の名前はホーシー。この城の主。そして、緑龍の名は、ガーシー。こことは数十キロ離れたところに城を持ち、ホーシーは湖水地帯を、そしてガーシーは平地、つまり森林地帯を治めている王族だった。
ただ、兄妹ではあるのだが、ホーシーの身体は土色である。それは、瀕死の重体だったからでもなく、本来の鱗の色だとミルフィーたちは説明を受けた。


−ガチャガチャガチャ−
ミルフィーたちがいる部屋の外では、大勢の龍人やドワーフが走り回っている音がしていた。ガーシーに仕える家来や召使いたちだった。
「ここは、私の部下と召使いに任せるとして、癒しの社へお連れしましょう。」
「え?いいんですか?」
「ホーシーもそうしてくれと言っておるし。」
傍らのベッドでにっこり微笑むホーシーにガーシーは笑みを返しながら言った。
「でも、また同じ奴らが攻撃をしてきたら?」
連れていってくれるのはいいが、もし、同じ惨劇がおきたら、と心配そうに言うレオン。そして、全員の表情にその不安が浮かんでいた。
「あ、あたしも嬉しいのですけど・・でも・・・・」
「大丈夫だ、私の部下は屈強な戦士ばかりだからな。」
がっはっは!とガーシーは高らかに笑う。
争いが嫌いでもあり、また、こういった争いなど今までになかったこともあって、ホーシーの城には、一応戦士は配備されてはいたが、言わば、お飾り・・とまで言っては失礼だし、一応訓練された戦士なのだが、屈強な、とまではいってなかったらしかった。
「ともかく癒しの社へお連れしよう。そこにいなかったら、その近くにある転移ゲートに向かうがいい。それぞれの大陸の社の近くに同じような転移ゲートがある。あちこち飛んでみるがいい。」
「ありがとうございます。」
「私は、そのまま部下を引き連れ、この事を他の兄弟に連絡しようと思っておる。」
「連絡って・・・もし・・・」
その中にここを襲った張本人が・・と言いかけ、ミルフィアはその言葉を飲み込んだ。その心配もあるが、誤解の場合もある。確証がない限り、それは言ってはならないことなのである。
「行動を起こさねば何も始まらないし、解決もしない。それに、他の兄弟たちのことも心配だからな。警備の強化も必要だろう。直接行って話せば、より様々な情報も入る。」
「ガーシー・・」
心配そうに見つめたミルフィアに、ガーシーはにっこりと微笑んで力強く言い切る。
「大丈夫だ。私は強い!」
その瞳には、兄弟を信じている光が宿っていた。
ミルフィアは一瞬でも疑ってしまったことを恥じつつ、こくんと頷きながら笑顔を返していた。


念のため、自分から残ると言ってくれたミリアを城に残し、ミルフィーたちは、太いロープを要所要所にくくりつけ、駕篭のようにした船に乗ってそこを後にした。
勿論、そのロープの先は龍人たちの肩に繋がっていた。ロープの先に作られた輪を肩にしっかりとかけ、彼らは勢いよく空を切って青空を飛んでいた。



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