☆★ リュシェロドラ冒険記(8) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#58 f^_^;*
-- 龍人の城 --


 

 「おっ!あれ・・ひょっとしたらあれが龍人の城?」
ジッポに聞いた道を進んだ彼らは、ほぼ半日の道のりの末、湖水地帯に出た。
緑しげる森に囲まれたそこは、いくつかの湖が集まっているところだった。
そしてその湖水地帯のほぼ中央に、巨大な城が建っていた。
そこまでは湖の岸から岸へとかけられたアーチ型の橋を渡っていくようになっている。

「じゃ、行こうぜ!」
「ち、ちょっと待ってください、ミルフィー?」
「なんだ?」
城まで10ほどある橋の一つ。一番手前の石橋を渡ろうとしたミルフィーをレイミアスが止めた。
「忘れちゃったんですか?湖には・・?」
「わ〜ってるって、ンなこと。湖の中には人喰い魚だか、サメだかがいるんだろ?そいつらがジャンプしてきて橋を渡る奴を食べるってんだろ?」
ポン!レイミアスの肩を軽くたたき、ミルフィーは笑った。
「そんなの出てきたら、三枚おろしにしてやりゃーいいだけだろ?」
「いいだけって・・・ミルフィー?いつどっちから襲ってくるのかわからないんですよ?」
「いつもの魔物と同じように考えればいいだろ?魔物がいつどこから襲うって予告してくるか?」
「あ・・そ、それはそうですど・・・」
「こらだけのメンバーで人喰い魚くらい軽い・・・・」
そう言いかけたミルフィーは、ミルフィアと目があってびくっとする。
「あ!だ、大丈夫よ、私なら。だって戦闘の訓練の時だって、攻撃を避けることは申し分ないって・・身体が覚えてるっておばーさんも言ってたから。」
「だ、だけど・・・・・」
「それにどこから何が来てもフィーがいれば安心よね?」
「う・・・・」
信じて止まない絶対的信頼の輝き・・その瞳でミルフィアに見つめられ、ミルフィーがダメだと言えるわけはなかった。
ここは一旦様子を見る為、ミルフィアとミリア、そしてレイミアスを残してレオンと2人で見てこようと思ったミルフィーは、それが言い出せなくなった。
「それに、たとえ少しの間だとしても別れない方がいいと思うの。いつ何が起こるか分からないんですもの。」
「フィア・・」
「ね?フィー?」
「決まり!決まり!さっさと渡っちまおーぜ、ミルフィー?!」
胸の前で手を合わせてじっと自分を見つめているミルフィアと視線をあわせているミルフィーの肩を叩いてレオンが笑った。
「ホントにミルフィーったら、ミルフィアのこととなると心配性になるんだから?」
くすくすと笑いながらミリアが言った。
「いいわ。どんな人喰い魚が出るのか試してあげる。」
「試す?」
ミルフィーとレオンが同時に声に出し、ミルフィアとレイミアスは、聞きたそうな表情でミリアを見つめた。
「ふふっ♪彼らは何者かが橋を渡る気配を感じると襲ってくるんでしょ?だから、何かが通る気配があればいいんじゃない?」
そう言われてもミリアが何をするつもりなのか分からずミルフィーたち4人はお互いの顔を見合った。
「だから、こうするの♪」
−ぼん!−
「お?!」
ミルフィーとレオンが同時に声をあげていた。
その方法とは、橋の上に火炎を放つことだった。本来火龍であるミリアにとっては簡単なことである。人の頭サイズの火球が橋の上を飛ぶ。
−ザンッ・・・・バッシャンッ!−
「なっ?!」
が、次の瞬間、彼らは短く叫んでいた。それは、橋の中央付近で、不意に水中から躍り出た3mほどの魚がその火球を一飲みにして再び水中へと姿を消したのである。
「さ、サメ・・か?」
「み、みたいですね・・・・」
「ちょっとあのサイズじゃ、即三枚下ろしというわけには・・いかないみたいだな?」
「その前に口の中ですよ。」
「で、でも・・今のは火炎の球だったんですもの・・・ひょっとしてお腹の中から火傷して死んでしまうってことは?」
ミルフィアの言葉に、全員呆れたように彼女を見つめる。
「あ・・そんな都合よくはいかないかしら?やっぱり?・・・え?」
照れ笑いするミルフィアと呆れ顔の4人は、水中から無きかが浮いてきたことに気づいて、その場から湖面をみた。
「おい・・・・」
ぷっかりと浮かんできたのは、何あろう、先ほど瞬き一つしないほどのスピードで橋の上へ躍り出て火球を飲み込んで水中へと姿を消した人喰い魚である。
「ミ、ミルフィアが言ったように、死んだんでしょうか?」
「腹を見せて浮かんできたってことは・・・多分そうじゃないかと思う。」
不安そうに呟いたレイミアスにレオンが答える。
「火龍であるあたしが直接放った火炎なのよ。ちっとやちょっとの水くらいじゃ消えっこないわ!」
「さすがミリアだなー。」
「ふふっ♪」
感心しているミルフィーに得意げに笑みを返し、ミリアは、じゃ、さっそく、とでもいうように、続けて火炎を放つ。
−ばん!バボン!・・バシャッ!・・バッチャン!−
何度それを繰り返しただろう。そのうち火炎を放っても何も出てこなくなった。
「だけど、これでその危険性がゼロになったわけじゃないよな?」
「まー・・そうだな。」
静かになった橋の上を見つつ呟いたミルフィーに、レオンも同意する。
「それにまだ1つ目の橋だけですし。」
「ああ。で、炎を見てていいこと考えたんだけど?」
「なんだ?」
「つまり・・・・」
目的地は遙か向こうでも、一応目に見えていた。そして、そこまでの道を阻む者はまだまだ得体がしれないということで、ミルフィーが出した案は、こうだった。
まず、レオンが1発城の正面に向かって火炎を放つ。そして、その火炎と城をイメージし、そこへミリアの力で転移するというものだった。
「ナイス!」
「それでしたら安全ですね?」
「ああ。」
「あたしならいつでもオッケーよ♪」
にこっと笑ったミリアで決定した。

−バボン!・・シューーーー!−
橋から橋と渡っていく為にはぐるっと回り道しなければならなかった。が、その方法なら一直線でもある。城の真正面にその火球が届くと同時に、火龍の姿に戻ったミリアに抱かれ、全員すんなりとそこへ着地した。


「で、でけ〜〜・・・・・・」
そして、ミルフィーたちは、目の前の巨城を驚きと共に見上げていた。
ジッポの話から巨人というほどの大きさではないにしろ、その身長は2m〜2m半くらいだと判断していた。が、今目の前にそそり立つ城は、そして、正面にある扉はそれ以上を想像させるような大きさだった。
「えっと、確か横にホビット(使用人)用の潜り戸があるって言ってたわよね?」
ミルフィーとレオンそしてレイミアスが城を見上げてため息をついている間に、ミルフィアはジッポに聞いた小さな戸口を探す。
「あ!あったわ!潜り戸よ!」
大扉から少し離れた壁にそれはあった。
「ちょうどあたしの身長くらいね。」
「ええ、私たちなら中腰か這えば大丈夫よ。」
ミリアの身長ほどの戸口は、やはりホビット用だからか、と彼らは納得する。
「しかし、入ったらいきなりそこに龍人が立っていたなんてことも・・ありうるよな?」
「ああ、そうだな。」
「ここは慎重の上に慎重を重ねた方がいいんじゃないでしょうか?」
「だよな?」
「でも・・・」
ミルフィー、レオン、レイミアスの3人が真剣な表情でそう相談していると、ミルフィアが口を挟んだ。
「でも、私たちはジッポさんから妹さんへの手紙を預かって来ているのよ。堂々と入ればいいんじゃないかしら?」
「だけど、ここでは人間は敵視されてるんだぞ?」
「だからこそよ♪」
ミルフィアはにっこりと微笑んだ。
「だからこそこちらに敵意はないんだってこと示さなくっちゃ。警戒心を持って接すれば向こうだって警戒するわ。こちらが心を開いて接すれば向こうだって・・。」
「こっちも向こうも全然知らないのに、そんなに簡単にいくと思ってるのか、フィア?」
世間知らずだから仕方ないか、と思いながらミルフィーがミルフィアをたしなめるように優しく言う。
「でも、フィー・・手紙もあるんだし。これを見せれば。」
−コンコン!−
「あっ!おぃっ!」
またしてもミルフィアのフェイント勝ちだった。まさか言うと同時に行動に移すとは、全員思ってもいなかった。
が・・・中から何も返事はない。
「おかしいわね、留守なのかしら?」
もう一度戸口をノックしようとしたミルフィアの手をミルフィーが止める。
「ちょっと待つんだ、フィア。」
「あら、なーぜ?」
ここは様子見にそっと忍び込んだ方がいいと言おうとしてミルフィーはミルフィアの無垢な表情に思わず口ごもった。そんな礼を失することをするなんて・・と言われかねない。
「な、なぜって・・・・」
答えに詰まり、ミルフィーはレオンを見る。こういうとき、そっと忍び込むのが冒険者としてはごく当たり前の行動だった。が、礼儀正しい育ちのミルフィアには通じそうもない。
「仕方ないな、それじゃ、どうせなら正面から堂々といこうじゃないか?」
「はあ?」
なぜそうなる?と、助け船をだしてくれるかと思って期待したレオンのその提案に驚きを隠せないミルフィー。
「オレたちは何も悪いことをしているんじゃない。な、そうだろ?ミルフィア?」
「ええ、そうよ。」
にっこりとミルフィアはレオンの笑みに応える。
「よし、じゃ、行くとするか?」
大扉に向かって歩き始めたレオンをミルフィーは慌てて止める。
「何考えてんだ、レオン?敵かもしれないんだぞ?」
「じゃ、あんたは彼女の前でこそこそ泥棒のような事ができるってのか?」
「う・・い、いや・・・・・」
ミルフィアが同行するということにこんな展開は思いつきもしなかった。が・・・現実問題として彼らの上にかかってきていた。
「大丈夫ですよ、きっと。」
「レ、レイム・・お前まで・・・・」
にこっと笑いながら背後から声をかけたレイミアスを、ミルフィーは振り返る。
「わ、わかった・・みんながそう言うんなら。」

そして、大扉の前に立ち、大きく深呼吸をしてからミルフィーはノックした。
−コツコツ!−

が・・返事はない。2度3度とノックをしても一向に応答する気配はない。
「仕方ないな・・・入るぞ?」
その静寂さにミルフィーは何か良くない感じを受けていた。
全員を見渡し無言の了承を得ると、ミルフィーは力を込めて扉を押す。
「う?・・あ、開かない?」
「引くんじゃないの、フィー?」
(う”・・・・)
カッコ悪ぃ・・・・と思いつつ、ミルフィーは、今度は力を込めて扉を引いた。3mはあるかと思われる大扉を。ちょうど頭の上にあるドアノブを力一杯。
−ギギギギギ・・・・−
なんとか通れるくらい開くと5人は早速中へと足を踏み入れる。勿論周囲に注意を払いながら。
「な、なんだこれは・・・?」
彼らの目に飛び込んできたのは、何者かに襲われたばかりのようは光景だった。
「ひ、ひどい・・・・」
思わず目をおおったミルフィアをミルフィーはぎゅっと抱きしめていた。
扉を開けたところにあった広いホール。そこには、所狭しと死体が折り重なっていた。
「まだ温かいですよ。手当すれば助かる人もいるかもしれません!」
咄嗟に死体の幾体かに駆け寄ったレイミアスが叫んだ。
初めて目にした龍人、そして、温かく接してくれたホビット、ジッポの仲間たち。
まさか、彼らとの邂逅がこのような場面になるとは誰一人として予想していなかった。



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