☆★ リュシェロドラ冒険記(5) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#55 ミルフィー兄のお話ですf^_^;*
-- カルチャーショック、カルロス --


 
 

「フィーーーーーっ!」
「フィア?!」
蛇のモンスターのドクロの中で寝ていたミルフィーは、不意にミルフィアの叫び声を耳にしてがばっと体を起こす。
慌てて周囲を見渡す。が、勿論そこにミルフィアがいるはずはない。
「っと・・・つまり・・・・・」
朝日が射し込み始めたドクロの中で、ミルフィーはそのまま考え込み、そして、国へ置いてきたミルフィアの身に危険が迫っている?との結論に達したミルフィーの顔色は一気に青ざめる。
慌てて立ち上がりドクロから出ていくミルフィーの気配でレオンも目を覚ます。
「どうしたんだ?」
その気配でレイミアスとミリアも目を開ける。
「オレ、帰る!」
「帰るって・・・おい!?」
スタスタと来た方向へ歩き始めたミルフィーの肩をレオンはぐいっとつかんで自分の方を向かせる。
「なんだよ、どうしたんだ?いったい?帰るったってそう簡単に帰れるわけないだろ?」
叫ぶように聞くレオンの肩越しに、ミリアの姿を見つけたミルフィーは、はっとして、レオンなど無視してミリアの元へ駆け寄った。
「ミリア・・転移できるよな?炎のあるところなら・・知ってる場所なら?」
「え、ええ・・・・それはできるけど・・・・?」
真っ青のままではあるが、ミルフィーの瞳が一瞬輝く。
「頼む。国へ戻りたいんだ。フィアが・・フィアの身に何か起こってるんだ。」
「ミルフィアが?」
レオンもレイミアスも、慌ててミルフィーとミリアの元へ駆け寄る。
「頼む、ミリア!早いほうがいい。今すぐにでも!」
一体どうしたのかと聞くレオンやレイミアスの言葉など、ミルフィーの耳には全く入ってないようだった。ミリアの両肩をぐっと抱き、必至の思いでミルフィーは懇願していた。

「ちょっと、落ち着けって!そりゃ王宮の内部は覚えているから転移はできるが・・・もう少し詳しく話せ!」
ぐいっとレオンはミルフィーをミリアから自分へ向かせる。ミルフィーのその焦った様子から、夢か何かで寝ぼけているとは言い難かった。


遠く離れたゴーガナス、ミルフィーの故郷の王宮。時間差によりその時は午後2時にあたる。そのゴーガナス時間での前日・・・・・。

「姫様・・、姫様付きの新しい身辺警護の騎士が参っておりますが。」
「あ、はい。」
ゴーガナス王宮の東宮、ミルフィアはティナと姉妹のようにそこで暮らしていた。2人に仕える女官らも王妃自らが選んだというだけあって、申し分のない人物ばかり。静かで幸せな毎日を、2人はミルフィーやキート、レオンやレイミアスのことなど、あれこれ話し合いながら過ごしていた。

東宮にある謁見室へと足を運んだミルフィアとティナの前に、深々と頭を垂れ、主人となるべく人物を待っていた騎士の姿があった。
「姫様、こちらがこの度御前試合で優勝し、新しく身辺警護の任を陛下から賜り、姫様付きとなりました、カルロス=アシューバル殿でございます。」
「カルロス=アシューバル?」
「はっ。姫君の身辺警護の任、この身をかけて遂行する所存でございますれば、姫君におかれましては、いかようなときもお心安らかに。」
ゆっくりと顔をあげたその騎士は、間違いなくミルフィーが一番警戒していた男、カルロスだった。
カルロスとは老婆の家で2度目に目覚めた時会ってはいたのだが、ミルフィアの記憶からは完全に消えていたらしい。
だが、カルロスは同一人物だと思って追ってきたのである。ようやく探し当てたと満足げな笑みを浮かべていた。

そして、その翌日の午後、つまりミルフィーがミルフィアの叫びを聞く少し前。

「姫・・・いや、お嬢ちゃん・・」
「え?」
一人宮の中庭で咲き誇っている花を見ていたミルフィアに、一つの影が近寄っていた。
「まさか、こんなところにいるとは思わなかったが・・・・王女様か・・ただの冒険者ではないとは思ったが・・」
カルロスはミルフィアに近づくと同時に彼女の頬へ手をすべらせる。
「綺麗だ・・お嬢ちゃん・・・・」
「きゃああっ!」
ドン!とカルロスを押しのけ、ミルフィアは後ずさる。
「お嬢ちゃん、それはないだろ?」
王女姿のミルフィアに心を奪われてぼおっとなっていたカルロスは、その反応に驚きながらも、即復活。今度はそっとミルフィアの手を取る。
「お嬢ちゃん・・・」
(いやーーーー!・・フィーーーーーっ!)
それまでの半幽閉的な生活と過酷すぎた経験はミルフィアを極度の人見知りにしてしまっていた。それも幾分落ち着いたのだが、カルロスの積極的なその行動はミルフィアにとって恐怖でしかなかったようである。恐怖におののき彼女はその場で真っ青になって震える。
「ど、どうしたんだ、お嬢ちゃん?」
今までならこんな反応はなかった、とカルロスは焦りを覚え、ミルフィアの手を握ったまま立ちつくす。それまでの『寄るな、触るな、出てけ、オレは男だ、バカ野郎っ!』ときつい視線と共にののしられる反応とはまるっきり違っていた。
「お、お嬢ちゃん?」
もしかしたら、顔がそっくりなだけの全くの別人?とふと思ったカルロスは、自分の頬の横に剣先が光っているのに気づく。
「フィアの手を離せ!このどすけべ野郎!」
「フィーっ!」
青ざめすっかり硬直していたミルフィアは、カルロスの背後にミルフィーを見つけると、カルロスの手をふりほどいてミルフィーに駆け寄る。
「もう大丈夫だよ、フィア。」
「フィー・・フィー・・・」
抱きついてきたミルフィアを左腕で包み、やさしく声をかけてから、ミルフィーは剣をつきつけたままカルロスを睨む。
「恐ろしいほどの嗅覚だな、あんた。」
ここなら見つかるはずないだろうと思っていた自分の考えが浅はかだったとミルフィーは後悔していた。
が、普通なら見つかるはずはなかったことも確かだと思えた。それ以上にカルロスの嗅覚が鋭かった?
「どうやって潜り込んだ?」
「あ・・・?」
カルロスはミルフィアのその態度にも、そして、彼女そっくりなその男にも驚き、呆然としていた。

「ふ、双子か?」
しばらくたってから、ようやくカルロスが呟く。2人の顔つきは多少男女の差があるが、よく似ている。髪型を同じにすれば同一人物にさえ見える。ただし、その体格は、確かに男と女である。
「カルロスは・・剣術大会で優勝して、私の身辺警護にと陛下が・・・。」
「なるほどな・・・・」
ミルフィーにしがみついたまま震える声で答えたミルフィアの言葉で、ミルフィーは全てを納得する。
「あんたの腕ならそれも可能だよな?」
「オ、オレを知ってるのか?」
双子の兄など会った覚えはないカルロスは不思議そうに聞く。
「知ってるも何も・・・あんたがトムート村でくどいてた剣士はオレなんだよ!」
「は?・・い、いや・・・そんなことあるはずはない・・・彼女は確かに少女・・・」
「ああ、そうさ。事情があってな、妹の身体にオレが入ってたんだよ!」
「ち、ちょっとまて・・・よく分からないんだが・・・つまり・・・」
ミルフィアの身体に?とカルロスは目配せして問い、ミルフィーは睨んだまま頷く。
−グアーーーーーーーン!−
(・・彼女は男だったというのか?・・ほ、ホントに?・・・お、オレは・・・男をくどいてたのか?)
100tハンマーよりさらに巨大なさらに激しいショックを脳天に感じ、カルロスは全身から一気に力が抜ける。
女殺しのプライドは無惨にも、そして見事に砕け散った。
「言っただろ?オレは男だって!」
木っ端みじんに砕かれた自尊心の中、カルロスは確かにそうだ、と認識していた。
明るく勢いのいいオーラを放っていた凄腕の少女剣士。彼女のそのオーラは確かに目の前の兄のものと同じだった。その横で震えている少女とは雰囲気が違う。どうみても異なっている。
「分かってんだろうな?身辺警護の騎士として王宮にあがったのなら、フィアとは主従関係だ。その主に手をだそうとしたんだからな・・・この場で叩っ切られても文句は言えないよな?」
チャッ!と剣を持ち直し、ミルフィーは一段と険しくカルロスを睨む。
「う・・・・・・・」
頭からゴーガナスの姫が少女剣士と同一人物だと思いこんでやってきたカルロスはミルフィーの言葉に口ごもる。騎士が主に手をだす、しかも身辺警護の任についているその主にである・・・騎士の誇りにかけてもあってはならない事である。が、カルロスは同一人物だとばかり思いこんでトムート村での態度で接してしまった。一応2人きりの場所を見計らったのだが・・・その行動でさえ本来なら騎士としてあるまじき行動である。

ショックの連続で、カルロスは青ざめ愕然として棒立ちする。
「それとも己の非を詫びて己の手で責任を取るか?」
「あ・・ダメ!ダメよ、フィー・・」
ミルフィーの言葉に、ミルフィアが慌てる。
「フィア?」
「ごめんなさい・・もう大丈夫だから・・・少し驚いてしまっただけで・・・」
「フィア。」
「フィー・・お願い、剣をひいて。」
「・・・・フィアがそういうなら・・・・・」
じっと自分を見上げているミルフィアの顔とカルロスの顔を見てから、ミルフィーはしぶしぶ剣を鞘に戻す。
「さっさと任を辞して国を出るんだな。」
吐き捨てるように言うと、ミルフィーはミルフィアの肩を抱いて中庭を後にした。


「ねー、フィー・・私もフィーと一緒に行ってはだめ?」
「フィア・・だけど・・・・」
「剣なら、少しだけなんだけどおばーさんに教えてもらったわ。お料理も少し覚えたし・・・私・・・私・・」
ミルフィアの部屋で、ミルフィーは困っていた。

「連れていく自信がないのならオレも行こう。」
「は?」
「え?」
「あ、あんた!」
戸口にあったカルロスの姿に2人は驚く。
「どういうつもりなんだ、それ?だいたいあんたは・・」
「身辺警護の任はたった今辞してきた。」
「は?」
「オレは元通り一介の冒険家だ。ただ、その前に暇乞いの挨拶というやつでな・・・ここへ来ることを許可された。」
「は〜?」
(な、なんつー変わり身が早いっていうか・・・立ち直りが早いっていうか・・・)
呆れ返ってミルフィーはカルロスを見ていた。そのカルロスの表情に、落ち込んだ様子はない。トムート村での自信に満ちたあのカルロスだった。
「だから、フィアについて龍人の地へ行くっていうのか?」
「ほう、今回の冒険はそこなのか?」
「そこなのかって・・・どういうつもりで付いてくるなんて言ったんだ?」
睨むミルフィーに、カルロスは余裕の笑みで答える。
「そうだな・・確かに、事実を知った時はショックだった。が、・・・奥底に彼女がいたからこそ惹かれたんだ・・と思い直したんだ。」
「なんだよ、それ?オレを口説いてたその口が乾かないうちに、フィアを口説こうってのか?」
「はは・・・つまりはそれもあんたじゃなく、そこのお嬢ちゃんだったと言うことさ。」
「おいっ!」
つかつかっとカルロスに近づくとミルフィーはぐいっと睨みなおす。
「こじつけはよせ!フィアの何を知ってるんだ?何を知ってて惹かれたなんて言えるんだよ?」
「確かに表面的にはあんたが出ていたかもしれん。だが、奥底に彼女がいたから惹かれたと考えたらどうだ?」
カルロスはミルフィーの睨みを軽く笑って言う。
「妹思いもいいが、何事も度が過ぎるというのはよくないな。」
「なんだよ、それ?」
「わからないか?」
「だから何がだよ?」
「シスコンも度が過ぎるとお嬢ちゃんの自由を奪うことになる。」
「なんだと?」
「お嬢ちゃんのことはオレに任せて、恋人でも探したら・・」
−ビッターーーン!−
「は?」
「フィア?」
カルロスが最後まで言わないうちに、そしてミルフィーが文句を言うより早く、カルロスの頬はミルフィアの右手によって勢い良く叩かれていた。
「フィーを侮辱するのは許しませんっ!」
「っと・・・・」
「フィーの事、なにも知らないくせに・・わ、私のためにフィーがどんなに苦労して・・どんなに苦しい思いをしてきたか・・・」
「フィア・・・」
涙声で怒鳴ったミルフィアの勢いはすごかった。その涙に濡れた瞳には、カルロスに対しての嫌悪感さえ浮かんでいた。
その勢いには、ミルフィーでさえも驚いていた。
「何も知らないくせに勝手な事言わないで!」
「お、お嬢ちゃん?」
ミルフィアの怒りにカルロスの余裕は吹っ飛んだ。
「出てって!・・そして、二度と私たちの前に現れないで!」
「し、しかし・・・・」
「出ておいきなさいっ!」

ぎゅっと両の拳を震えるほど握りしめ、きっと睨んだミルフィアの毅然とした、そして激しい怒りを伴った態度はカルロスを完全に圧していた。


「フィアのためによかれと思って叔父王に頼んだんだけどな・・・・」
迎えに来たミリアとレオンを前に、ミルフィーは説明していた。
「はは・・・強情なところはホントにそっくりだな、ミルフィー?」
「う・・・・・」
事実は事実。いつもならぽんぽん言い返すミルフィーもそれができない。
かといえお嬢様のミルフィアを見ず知らずの土地の冒険へ連れていくことは、やはり躊躇われた。
−カチャ−
「フィ、フィア?」
「どうかしら?フィーと同じような服に着替えたの。剣も持ったわ。私の留守中はティナがうまくやってくれるって言ってくれたから大丈夫よ。」
一般的に冒険者の服とよばれている服装に着替えたミルフィアは、ふふっと笑う。その瞳には確かに固い決心の光が宿っている。
「ミルフィアは公式の場には出たことがないから大丈夫。私が身代わりをしててもばれないわ。私は・・冒険などできそうもないし、ゆったりとした落ち着いたここの生活気に入ってるの。それに、時々帰って来ればいいし。」
一緒に部屋へ入ってきたティナが微笑みながら言う。
「時々ったって・・・」
「ね、大丈夫よね、こんなかわいらしいお譲さんでも一緒に冒険してるんですもの。」
「え?」
レオンの横に座っていたミリアを見つけるとミルフィアはにこっと笑って彼女の傍に寄った。
「私、ミルフィアっていうの。よろしくね。あなたは?」
「あ・・・あたし、ミリア。」
「そう。ね、ミリア、私たちとってもいいお友達になれると思わない?」
手を取り合った2人の間には、答えはもう出ているように見えた。
強力な味方を付けたミルフィアを思い直させる人物はもはやどこにもいそうになかった。
「それに、フィーがついていてくれるんですもの・・世界一強くて頼りになるフィーが。だから、大丈夫よ。絶対!」
「決まったな?」
ミルフィアの最後の言葉に、レオンが苦笑いをミルフィーに向ける。そう言われてダメだとミルフィーに言えるはずはなかった。全幅の信頼の瞳で見つめるミルフィアにそう言われては。


『無理だと判断したら即王城へ返す』という条件をミルフィアに承諾させ、ミルフィーはしぶしぶ彼女の同行を受け入れた。
もっともカルロスを含め他の男の魔手から守るのは、近くにおいておくのが一番いいとも思えた。が、一度見知らぬ土地を冒険すると言うことがどんなものか経験すれば無理だったということがわかるだろう、とそう思っていたことも確かだった。自分が納得すれば諦めるだろう、ミルフィーはそれに賭けることにした。



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