☆★ リュシェロドラ冒険記(4) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#54 ミルフィー兄のお話ですf^_^;*
-- 龍人の国・初モンスターと遭遇 --


 

 「う・・ん・・」
「チビ、大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。」
目覚めたミリアは、レオンの腕の中から飛び出ると、バボン!と人型へ、少女の姿へと変身した。
「でも・・・しんどかった・・・・。」
「ははは、よく頑張ってくれたもんな。」
「そうだな、ここへ無事来られたのは、ミリアのおかげだ。」
「え?そう?そう思ってくれるの?」
「勿論!」
「わ〜♪うれしいっ!」
ミルフィーに誉められ、ミリアは両手を合わせてくふふっと笑って喜んだ。
「でも、本当に火龍なんですよね。」
どこから見ても少女にしか見えないミリアに、レイミアスが感嘆して言う。
「ふふっ♪なかなかの変身でしょ?」
ミリアはスカートの裾をひるがえして誇らしげにくるっと回る。
「そうですね。」
「あんまり誉めると後が大変だぞ?」
「まっ!レオン・パパったら失礼ね!」
「ははは・・・じゃ、ミリアももう大丈夫そうだから海岸沿いに回ってみるとするか。」
「そうですね。」




「わ〜・・・・・広そう・・・ここがそうなのね。龍人の国なのね。」
ひとしきり笑った後、その海岸をぐるっと回ったところで、その対面に広がっていた景色にミリアが感嘆の声を上げる。
「ああ・・・たぶんとしか言えないがな。」
目を輝かせて自分を見上げたミリアに、レオンは静かに頷く。
なんとか不時着したそこは、入り江に浮かぶ小島にすぎなかった。彼らが休息をとった反対側から見える対岸には広い大陸が広がっている。
「天空の城・・か?初めて見るな。」
「ああ。」
空に浮かぶ地、細長い三角形の塔のようなもの。そして遠くには雪か氷で覆われているような山らしきもの。その少し手前に円形のものは・・・。
「なんだろうな・・・大きさからいくと山みたいだが・・あの円形は不自然だよな?」
「そうですよね。自然のものとは考えられません。」
しばらくそれぞれ感想を言い合っていた。
「いよいよなのね。わくわくするわ。」
「それはいいが、敵か味方かまるっきり分からないんだ。甘く見ない方がいいぞ。」
「分かってるわ、パパ。」
初めて目にする龍人の地。ミリアにそう言ったレオンも、そしてミルフィーもレイミアスも明らかに興奮していた。
そして当分ミリアは飛龍に変身できそうもないということで、彼らは海岸に打ち上げられている木ぎれを合わせてイカダを作って渡ることにした。


「どうする?」
対岸へ着き、辺りの探索に移って少し奥へと入ったところで、道らしきものを見つける。
「う〜〜ん・・・どうしましょうか?道に沿って行けば間違いないんでしょうけど、でも、もしここが龍人の国だとしたら・・・」
「だよな、見つかったらやばいかもな?」
「そうだな。味方なのかどうか分からない・・というより、オレ達人間をどう思っているかさえも分からないからな。用心するに越したことはないだろ。」
少しずつ夜が迫ってきていた。ミルフィーたちは、少し道を外すようにしながら、道なりに進んでいった。
「宿なんて贅沢な事は言わないから、納屋か小屋でもあるといいんだけどな。」
「そうだな。少し肌寒いからな、できるなら野宿でない方が・・・。」
冒険の一番の天敵はなんといっても、自分たちの健康である。体調が悪くては戦闘どころか探索もままならない。しかも、知らない土地では、医師がどこにいるかもわからない。病は最も難解な敵だった。
周囲は海岸からずっと松林が続いていた。見渡す限り家らしきものは見あたらない。
「しかたないな・・・やっぱり野宿・・かな?」
「そうですね。なるべくくっついて火の傍に寄って眠れば、このくらいの気温なら大丈夫でしょう。」
「あ!火ならあたしに任せておいて♪」
「おお!そうだった。オレ達には心強い女神様がついていたんだった。」
「あら・・・誉めすぎはよくないって言ったのはだ〜れ?」
「あはははは。」
ミリア一人が加わったことにより、それまでなかった明るさがそこにあった。

そして、ミルフィーたちが集めた松の枝にミリアが火を吹き付ける。
−バチバチバチ・・・・−
夕闇に包まれながら、先の不安より、今のこの楽しさを味わうかのように、保存食をほおばりながら、今後のことをあれこれ予想しながら談笑していた。

−アオーーーン・・・・−
夜の闇の中、遠くで獣の遠吠えがした。
「犬か?・・・いや、野生だろうから狼ってとこか?」
その遠吠えに耳を傾けながらレオンが呟く。
「まー、そう判断する方が正しいだろうな。」
「こっちまで襲ってくるでしょうか?」
「火があるから大丈夫なんじゃないのか?普通野生動物ってのは、火を怖がるだろ?」
「そうだな、その普通が通じればのことだが。」
ミルフィーの言葉を受け、レオンが少し笑いながら言った言葉で、ここが龍人の地で、果たして彼らの常識がどこまで通じるかどうか分からなかったことを思い出す。
−シャーーーー−
「え?」
何か不思議な音が聞こえ、ミリアが空を見上げ、それに気づいたレオンが聞く。
「何か見えるのか?」
「あ・・う、ううん・・・何も見えない・・・・あっ!レオンパパ、あれっ!」
星しかなかった空に不思議な模様が浮かんでいた。それは確かに近づいてきていた。
「げ・・・蛇の骨の魔物?」
近づいてきて形が露わになったそれを見て、レオンがいかにも気持ち悪そうに呟く。
−シャーーーーー−
確かに蛇の骨の魔物だと言ってよかった。蛇の頭蓋骨とそれに続く長い背骨。両の空洞の中に赤い輝きを光らせ、大きく口を開いたそれは、確かに蛇の威嚇であった。
「来るぞ!」
明らかに敵意むき出しのそれに、4人とも早くも戦闘態勢をとっていた。
−シャー!−
近くまで来たそれはおそろしく巨大なものだった。頭蓋骨だけで2mほどはある。
その巨大な口に飲み込まれないよう、そして、大きく、鋭い毒牙に身を裂かれないよう、彼らは前後左右にその攻撃を避けながら反撃の機会を狙う。
「こ、これもアンデッドというんでしょうか?」
レイミアスがその攻撃の中レオンに呟く。
「骨だからなー・・そうなんだろ?昇華魔法効かないか?」
「アンデッドなら効くとは思いますが・・こう攻撃されていては呪文を唱える暇がありませんよ。」
「それもそうだな。」
2人はミルフィーと目配せしていつもの(?)体勢を取る。それは、ミルフィーを前衛とするいつもの攻撃パターン。
ギン!ガキン!と剣でその牙を受け、攻撃を跳ね返しているミルフィーの背後、レオンとレイミアスは呑気に、ではなく、真剣な表情でその敵を観察していた。
何しろはじめての魔物であった。そして、ここは今までの常識は通用しないかもしれない。いつにも増して慎重さが必要だと思われた。
「火は効くかな?」
「さー、どうなんでしょう?」
「おい・・いいかげんにしろよ、いつまでオレ一人にやらせておくつもりだ?」
何回目かの蛇の攻撃を跳ね返すと同時に、大きく後ろにジャンプして、レオンの横に着地したミルフィーが、少しきつい視線で睨む。
「ああ、悪い。ちょっと相談してたものでな。」
「相談って・・・・」
呆れ返った表情のミルフィーに、頭をかきながらレオンは火炎の術を小さくとなえ、その手に出来上がった直径2mほどの火球を向かってくる蛇に投げつける。
−ボン!−
−シャーーーーー!−
「お?・・・な、なんかよけい怒らせちまったみたいだぞ?」
真っ白な骨が真っ黒にはなった。が、蛇は変わらず元気まんたん・・というより、明らかに怒ったようである。
「・・・その心静寂と安らぎを取り戻し・・・その魂、慈悲深き神の手に帰さん。」
−ほわ〜〜〜−
目に見えない温かいものが蛇を囲む。が・・・・
−キシャーーー!−
「だ、だめです、彼には、目覚めさせる心がないみたいです。」
攻撃することが意志・・つまりその蛇の魔物の存在価値らしかった。
「結局オレかよ?」
まだ全快とは言えなかった。ここ数ヶ月のインスタント修行(いや、決して手抜きはしてないというより、中身は見ている方が心配になるくらいの濃縮修行ではあったが)で、ミルフィアの身体にいたころの動きはできるようになったものの、そこには確かにまだ差があった。
1秒未満の伝達の遅さ・・たったそれだけといえばそうなのだが、時には大きな違いになる。が、あとは実践あるのみでもあった。
「サポート頼むな。」
「おお、任せておけ!」
「任せてください!」
やばそうになったときの相手の注意の引きつけ役と、回復役を快く承知して微笑むレオンとレイミアスに、ミルフィーは笑顔を返すと、再び魔物に向かっていく。
−ギーーン!−
その蛇の攻撃を上手く交わして入れた攻撃がクリティカルヒット!
−ドスン−
頭蓋骨から下の部分は、そこから切り離され地面に落ちる。
「やった!レオン、火は効いてるぜ?さっきよりもろくなってる!」
「ホントか?」
「ああ!」
首から下を切り落とされ、狂ったように激しく攻撃してくる蛇の牙をよけつつ、ミルフィーはレオンに叫ぶ。
「そうと分かったら・・・・いっくぜーーー!」
−バン!ボボン!・・・キン!ガチッ!−
レオンの火炎とミルフィーの攻撃が絶妙なタイミングを見計らって続けざまにヒットする。
−ズズン・・−
数十分後、蛇の頭蓋骨は、地に落ちていた。
「大丈夫ですか、ミルフィー?」
「ああ・・・心配だった最後のもどかしさも今のでなくなったみたいだ。もうすっかり元の感覚と同じだ。」
ぎゅっと両手を握りしめ、ミルフィーは嬉しそうな顔でレイミアスに答えていた。
「ミルフィー、カッコよかったわ。」
「そ、そっか?さんきゅ。」
「カッコよかったわ、は、いいが・・・・どこ行ってたんだ、ミリア?」
戦闘が始まるとすぐミリアの姿がどこともなく消えていたことを思いだし、レオンは
追求する。仲間としてこの地を冒険するのであれば、一人だけ甘くみているわけにはいかない。ミリアは単なる少女ではなく、火龍、立派に戦闘に参加できるはずである。
「あら・・・人間界・・といっても、ここは龍人の里だけど・・・つまり、サラマンダーの世界以外での戦闘には、自分に直接降りかかってくる場合以外は、私の意志だけじゃ攻撃できないのよ。レオンパパ、忘れちゃったの?」
「へ?・・・そ、そうだったけか?」
「だから〜塔での時のようにレオン・パパが攻撃手段としてサラマンダーのあたしを召喚してくれなくっちゃだめなのよ。」
「そ・・そうだったな・・・そういえば・・・・」
それまでの塔での戦いを思い出し、レオンは頭をかいてミリアにきつい言葉で言ったことを恥じる。
「そうなのか?オレはてっきり攻撃自由だと思ってたんだけど。」
意外な事実にミルフィーは、そしてレイミアスもじっとミリアを見つめる。
「そうなのよ。いろいろ規則がうるさくって。」
「もし、直接攻撃したらどうなるんだ?」
「うーーん・・・国へ強制召喚される?それから・・・罰を与えられるわね。」
「王族でもか?」
「王族だからよ。つまり・・・他の世界にあまり干渉するなってことでしょ?なんでも、昔すっごく暴れん坊がいてあちこちの世界で散々悪さして・・それでそんな規則ができたらしいわよ。」
「ほ〜・・そこまでは知らなかったな。」
「あたしも。つい最近知ったところ。」
「そ、そうなんだ。」
「そう。で、あまり悪さしたものだから、その世界での勇者というのかしら、とにかくサラマンダー全体が悪者扱いされちゃって・・・霊力のある異世界人が滅ぼしにやってきたりして・・・大変だった時代があったんだって。」
「そうか。それの教訓ってわけか。」
「そうらしいわ。だから、ごめんなさい。」
ぺこりと頭を下げ、戦闘に加わらなかったことを謝るミリアに、3人は顔を見合って笑いをこぼす。
「いや、ミリアのせいじゃないよ。悪いのはこいつだ。」
ミルフィーはレオンを指さしながらミリアに微笑む。
「オ、オレ?」
「そうだろ?理由は知らなかったとはいえ、その事を事を忘れていたなんて・・それでも育ての親か?」
「お・・・い、いや・・・ははははは。」
笑いながら軽く注意を促したミルフィーに、レオンは頭をかいて照れ笑いを返していた。

「しかし・・・これじゃおちおち寝てもいられないな。」
「そうだよな。こいつ1匹とは限らないし。」
−オオーーーーン・・・−
遠吠えに耳を傾けながら3人は腕組みをして思案に暮れる。
「ねー、ちょっといいかもしれなくてよ?」
「へ?」
ミリアを見ると、彼女は蛇の頭蓋骨の目の部分から顔を出していた。
「ホントに骨しかなかったのね、このモンスター。」
3人はおいでおいでをしているミリアに近づいていく。
「ちょっとせまいけどなんとか寝られそうよ。狼や他のモンスターだって、まさかあたしたちがこんな中にいるとは思わないでしょうし、入口付近に火を焚いておけば完璧なんじゃない?」
ミリアの言葉に、3人は目を輝かせて賛同した。

そして、多少狭かったがなんとか3人頭蓋骨の内部に入り、横にはなれないが、骨の壁(?)にもたれかかるようにして身体を休める。
火炎の攻撃を受けたあとのせいか、骨がほかほかして中はとても暖かく、彼らは多少寝心地の悪さを感じながらも、いつしか眠りに入っていった。



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